2021.11.30
・インバータ回路におけるスイッチングデバイスは、trrが小さいものを選定することが重要。
・スイッチングデバイスのtrrが大きいとスイッチング損失が増加する。
・スイッチングデバイスがMOSFETの場合は、内部ダイオードのtrr特性をよく確認する。
インバータ回路における逆回復時間trrの影響
インバータ回路においてスイッチングデバイスの逆回復時間trr(Reverse recovery time)特性は損失において大きな影響があります。ここでは、ROHM Solution SimulatorのPower Device Solution Circuitを使用してシミュレーションを行い、インバータ回路におけるtrrの影響を考察します。
シミュレーションに使用するインバータ回路
前回示したPower Device Solution Circuit一覧にあるインバータ回路、「B-6. 3-Phase 3-Wire Inverter Vo=200V Po=5kW」を例に使用します(図1)。このインバータ回路のスイッチングデバイス(黄色ボックス)を変更してシミュレーションを行って、trrの影響を確認します。
図1:Power Device Solution Circuitインバータ回路B-6. 3-Phase 3-Wire Inverter Vo=200V Po=5kW
インバータ回路におけるtrr特性の重要性
図2に、図1のインバータ回路におけるスイッチング時の電流経路を示します。
インバータ回路では、供給する電力を調整するため、PWMやPFMなどの制御でHigh sideとLow sideのデバイスを交互にON/OFFさせます。図2の①~⑤はその動作を示しており、これが繰り返されます。
着目点は④から⑤への動作で、High sideがOFFからONになるタイミングでLow sideの内部ダイオードにリカバリ電流が流れるため、High sideからLow sideへ赤色で示した貫通電流が流れます。
図2:スイッチング時の電流経路
このリカバリ電流は、発生した還流側デバイス(Low side)自身の損失に対する影響は小さいですが、図3に示すようにスイッチング側デバイス(High side)に対しては、VDS変化の前に通常のスイッチング電流に上乗せされる形でリカバリ電流が流れるため、非常に大きなTurn ON損失になってしまいます。したがって、インバータ回路におけるスイッチングデバイスは、trrが小さいものを選定することが重要となります。
図3:スイッチング側デバイス(High side)のTurn ON波形例およびtrrの大小とスイッチング損失の関係
trr特性の違いによるスイッチング損失の比較
図4は、図1のインバータ回路のスイッチングデバイスに、一般的なスイッチング用途スーパージャンクションMOSFETであるR6047KNZ4を使用した場合と、特に内蔵ダイオードのtrrが高速であることを特徴とするPrestoMOS™ のR6050JNZ4に変更した場合(図1の黄色ボックス)の、スイッチング損失とスイッチング波形のシミュレーション結果です。
図4:trr特性の異なるスイッチングデバイスのスイッチング損失および波形の比較(シミュレーション)
シミュレーション波形が示す通り、trr特性の違いによりTurn ON損失に顕著な差が出ており、内部ダイオードのtrr特性が高速のR6050JNZ4の方が、R6047KNZ4に比べてTurn ON損失を約1/5に低減できることがわかります。ちなみに、R6047KNZ4の内部ダイオードのtrrは700ns(Typ.)で、R6050JNZ4は120ns(Typ.)と1/5以下です。
また、インバータ回路動作全体を通してスイッチングデバイス(MOSFET)の損失を分析すると、図5に示すように、trrによる損失が大きく影響することがわかります。
図5:一般のスイッチングMOSFETと高速trr MOSFETの損失分析
この結果からも、インバータ回路ではスイッチングデバイスの内部ダイオードのtrrが高速のものを選定することが重要と言えます。
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