14回にわたった「AC/DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計」は、今回で最後になります。
この記事は、近年、AC/DC電源に対する効率要求が厳しくなっていることに端を発しています。AC/DCコンバータの効率を向上させるアプローチの1つとして、既存の主流であるダイオード整流方式を効率向上が望める同期整流方式にする方法があります。しかしながら、AC/DCコンバータの同期整流化にはいくつかの課題があります。中電力までのAC/DCコンバータの多くはPWMフライバック方式で、条件によって連続モード動作になります。これを、単純に同期整流方式にすると、連続モード動作時に正常な制御ができなくなり、一次側スイッチ素子と二次側整流素子の同時オンが発生し、その貫通電流によって素子が破壊する可能性があります。このため、同時オン防止回路を追加する、連続モード動作にならない擬似共振方式を採用する、または不連続モード動作のみで使用するなどの手立てが必要でした。
これらの課題に対して、ダイオード整流式AC/DCコンバータを同期整流化するために開発された二次側同期整流コントローラICのBM1R001xxFシリーズが開発されており、ここでは、このICを使ってダイオード整流のAC/DCコンバータを同期整流化する設計例を示しました。
以下に各記事のキーポイントをまとめました。記事へのリンクも貼ってありますので、併せてご利用ください。
<AC/DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計>
- AC/DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーはじめにー
キーポイント
・AC/DCコンバータの効率改善は、各国の規制などが厳しく、必須のアクションになっている。
・フライバックAC/DCコンバータの二次側同期整流化には、貫通状態の回避など課題がある。
・二次側同期整流化のためのコントローラICが開発されている。
- 設計手順
キーポイント
・設計手順は大まかに以下となる。
1. 同期整流回路部の設計:同期整流用MOSFETの選定、制御ICの選択、周辺部品の選定
2. シャントレギュレータ回路部の設計
3. トラブルシューティング
4. 特性評価 - 設計に使うIC
キーポイント
・BM1R001xxFシリーズは強制OFF時間の違う5機種で構成されている。
・パッケージはSOP8で、小型でシンプル。
・シャントレギュレータは低消費電流で高精度で、制御回路電流の低減により待機時電力の削減が可能。
・同期整流コントローラは不連続~臨界~連続モードのすべてに対応し、PWM方式のコンバータにも適用可能。
- 電源仕様と置き換え回路
キーポイント
・この設計例では、ダイオード整流のAC/DCコンバータを同期整流に置き換える。
・同期整流化には、ローサイドタイプとハイサイドタイプがある。
・外付け部品は若干増えるが、効率改善、特に待機時の高効率化はAC/DCコンバータの課題なので、同期整流化は有用である。
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
キーポイント
・この設計例では、ダイオード整流のAC/DCコンバータを同期整流に置き換える。
・同期整流化設計のはじめに、出力整流ダイオードを置き換えるMOSFETを選定する。
・代替部品の仕様決定のために、既存回路での電流、電圧、波形などを確認する。
- 同期整流回路部:電源ICの選択
キーポイント
・既存回路の動作や諸条件を確認して、設計に使う電源ICを決定。
・一次側と二次側のMOSFET同時ON動作による破壊を防止する最大ON時間を設定する。
・強制OFF時間を算出し、該当するBM1R001xxFシリーズを選択する。
・BM1R001xxFシリーズは強制OFF時間バリエーションとして5機種が用意されている。
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
キーポイント
・BM1R00147Fは、DRAIN端子の電圧によって二次側MOSFET M2のゲートを制御する。
・DRAIN端子の検出レベルは数mVと低く、MOSFET M2のスイッチング時のわずかなサージ電圧を誤検出してしまう。
・対策として、DRAIN端子にサージを吸収するための抵抗とダイオードを付加する。
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
キーポイント
・BM1R00147FのMAX_TON端子にはノイズ低減のためにコンデンサと抵抗を直列に接続する。
・このコンデンサと抵抗は、MAX_TON端子の位相補償も兼ねているため必ず接続する必要がある。
・BM1R00147FのVCC端子への給電は、Low Side Typeの場合、二次側VOUTから簡単にできる。
・High Side Typeの場合は、補助電源回路を追加、トランス二次側に補助巻線を設けるなど、別途電源を用意する必要がある。
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
キーポイント
・BM1R00147Fのシャントレギュレータ回路部の周辺部品の設定により、出力電圧を設定する。
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
キーポイント
・従来の絶縁型フライバックコンバータの二次側の置き換えなので、実際の動作確認は非常に重要。
・ノイズによる二次側MOSFETの誤動作が発生する場合には、DRAIN端子のラインにフェライトビーズの追加、フィルタ用抵抗の抵抗値を大きくする方法がある。
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
キーポイント
・従来の絶縁型フライバックコンバータの二次側の置き換えなので、実際の動作確認は非常に重要。
・軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合があり、対策は4つほどある。
1) DRAIN 端子接続抵抗R1を小さくする
2) 強制OFF時間が長い機種(IC)に変更する
3) 二次側MOSFETのドレイン-ソース間にスナバ回路を追加する
4) トランスの巻線比Ns / Npを小さくする・各対策にはトレードオフとなる注意事項がある。
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
キーポイント
・従来の絶縁型フライバックコンバータの二次側の置き換えなので、実際の動作確認は非常に重要。
・サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合があり、対策は3つほどある。
1) 二次側MOSFETのドレイン-ソース間に容量を挿入する
2) 一次側MOSFETのゲート抵抗値を大きくする
3) トランスの巻線比Ns/Npを小さくしてVDS2を下げる・各対策にはトレードオフとなる注意事項がある。
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
キーポイント
・従来の二次側ダイオード整流方式と置き換えの同期整流方式の効率は、明らかに同期整流方式のほうが高い。
・同期整流方式のハイサイド方式ローサイド方式では、効率の差はほとんどない。
・効率の差の支配的要因は、ダイオード整流のダイオードにおける損失(VF)と同期整流のMOSFETの損失(VDS)の違い。
- 実装基板レイアウトに関する注意点
キーポイント
・二次側同期整流化においても、基板レイアウトに関する注意点のほとんどは、スイッチング電源回路におけるレイアウトの基本に基づく。
以上
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- AC/DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーはじめにー
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点