この記事のキーポイント
・内部の回路構成がわかることで、端子の電圧電流特性や規格値にはない特性を知ることができる。
・入力等価回路を開示しているメーカーはあまりない。
「電源ICのデータシートの読み方」として、「データシートの表紙」、「ブロック図」、「絶対最大定格と推奨動作条件」、「電気的特性の勘所」、「特性グラフ、波形の見方」、「応用回路例」、そして「部品選定」について説明してきました。この項では、ICの入力ピンに関する内部等価回路について説明します。実は、「入力等価回路」を開示しているメーカーはあまりないのですが、ロームのデータシートには掲載があります。この情報は、ICの入力端子の振る舞いの理解に非常に役に立つので、すべてのデータシートにあるものではありませんが、ここで取り上げます。
入力等価回路
電源ICに限らず、ICの各端子には最大定格やバイアス電流などの規格値が存在します。規格値以外にも電圧/電流特性がグラフで示されていることがあります。これらは、おおよそその端子が接続する内部回路に依存します。特に入力端子は、抵抗やコンデンサを接続したり、他のデバイスの出力を接続するので、入力端子のバイアス電流や入力回路がどのようになっているかを知ることで、より確実な設計が可能になります。
入力回路もしくは等価回路が提供されれば、以下のようなことを知ることができます。
- 端子の電圧/電流特性
- バイアス電流(シンク/ソース、流入/流出電流など表現はいくつかある)
- 保護構造
本稿で説明に使っている電源IC BD9A300MUV を例に説明します。FB端子の入力等価回路からは、保護として入力トランジスタのゲートには20kΩの抵抗が入っていることがわかります。また、寄生ダイオードがあるため、最大定格(-0.3V~+7V)のマイナス電圧がこのダイオードの順方向電圧にマージンを持たせた値であることもわかり、FB端子がこのダイオードのVFを超えると、FB端子に順方向電流が流出することもわかります。
MODE端子は、流入電流として10μA(typ)、20μA(max) @5Vが規定されています。入力等価回路を見ると、MODE端子は10Ω+500kΩの抵抗を介してAGNDに接地されているので、必然的に10μA程度が流れ込むと理解できます。逆に、トランジスタのゲートに挿入されている10kΩの抵抗も含めて、アプリケーション例では入力電圧に直接接続するようになっていますが、内部でそれが可能な構造になっているとも理解できます。
端子のバイアス電流などは比較的規格値として提示されているのですが、保護構造(過電圧保護などの保護機能ではない)の詳細までは規定や説明がないことがほとんどなので、等価回路の情報は設計や評価の詰めには非常に役立ちます。
また、「ICの電源投入前に端子に電圧がかかった場合」という検討がよくあります。FB端子の例だと、マイナス電圧であれば前述したように電流が流出しますが、トランジスタに何らかの寄生パスが成立するバイアス関係になったとしても、20kΩの抵抗があるので大電流が流れる可能性は基本的にないことがわかります。つまり、等価回路はデータシートに記載がない条件を与えたときにどうなるかといったような検討の補助的情報にもなります。
この電源ICのデータシートが提供しているのは入力等価回路ですが、この情報が非常に有用なのは理解いただけたかと思います。ただし、等価回路の場合はあくまでも等価回路ですので、重要な判断をするにはメーカーに確認を取った方がよいでしょう。また、提供されている情報の中に等価回路の情報がない場合にはメーカーに問い合わせることになりますが、提供されるかどうかはケースバイケースかと思われます。
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