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2020.09.29 Siパワーデバイス
今回は全体を通してのまとめを行います。
「ダブルパルス試験によるMOSFETのリカバリ特性評価」では、インバータ回路やTotem Pole型力率改善(PFC)回路等は、2つのMOSFETが直列接続されたブリッジ構成の回路であるため、上下アームを貫通する電流によってターンON損失が増大する現象があることに着目しました。
この現象は、スイッチングしているMOSFETと逆アームのMOSFETが持つボディダイオード(寄生ダイオード)のリカバリ特性に大きく影響を受けることから、ダブルパルス試験を利用して、MOSFETのボディダイオードのリカバリ特性の評価結果を示しました。
ダブルパルス試験では、2つの観点でターンON損失を比較評価しました。1つは標準的なSJ MOSFETとリカバリ特性が高速なSJ MOSFETであるPrestoMOS™の比較で、もう1つは高速リカバリ特性を特長とした異なるメーカーのSJ MOSFETの比較です。
この評価では以下の2つの結果が得られ、ターンON損失を低減させるためには、MOSFETのボディダイオードのリカバリ特性の評価を実施し、リカバリ特性に優れたMOSFETを選定することが重要であることを確認しました。
これらに加えて、リカバリ特性が高速でもターンON損失を低減できない場合があり、その要因である「セルフターンオン」の抑制も重要であることも示しました。セルフターンオンは、MOSFETの各ゲート容量(CGD,CGS)およびRGに起因して生じる現象で、ブリッジ構成においてスイッチング側のMOSFETがターンONした際に、本来OFFである還流側のMOSFETに意図しないターンONが生じ、貫通電流が流れ損失が増大します。
以下の図は、「セルフターンオン発生のメカニズム」で示したものですが、セルフターンオンが発生するとボディダイオードのリカバリ電流に加え、さらに大きな貫通電流が流れることを示しています。
上述の評価結果2で示したように、異なるメーカーの高速リカバリを特長とするSJ MOSFETの比較においてPrestoMOS™のターンオン損失が一番小さかったのは、リカバリ特性の高速性に加えて、各ゲート容量の比を最適化してセルフターンオンを抑制することを意図した設計がされているからです。
したがって、ブリッジ回路のスイッチング損失は、MOSFETのボディダイオードのリカバリ特性(IrrとQrr)に加え、セルフターンオンによる貫通電流の影響を受けるので、この両方の抑制が可能なMOSFETを選択することが、スイッチング損失低減のポイントになります。
以下に各記事のリンクとキーポイントをまとめました。