この記事のキーポイント
・過渡的な消費電力の上昇が見込まれる場合は、過渡状態でのピークTJを求める。
・過渡状態での温度上昇を求める際の熱抵抗は、過渡熱抵抗用いる。
・過渡状態でのピークTJがTJ MAXを超えていないかを確認する。
ここまでは、消費電力が一定の場合のTJを見積もる計算例を示してきましたが、過渡的に消費電力が増加する条件での計算方法と例を示します。
過渡変動の例
ICの例として、今までと同様のLDOリニアレギュレータBD450M2EFJ-Cを用います。条件としては、入力電圧VINが図1のように過渡的に変動する場合を考えます。定常の入力電圧は13.5Vですが、60sの周期で3s間35Vまで変動する例です。
入力電圧が過渡的に変動すると結果として消費電力も過渡的に変動するので、それにともないTJも変動することは想像できると思います。このような場合には、過渡熱抵抗を使用して、定常時のTJに過渡時の温度上昇を足し合わせる形でTJを計算します。
過渡熱抵抗とは
厳密に言えば、TJは電力投入時点から上昇(発熱)を開始し、ある時間をもって安定します。通常の熱抵抗θJAは安定状態の発熱を消費電力で割った値です。これに対して過渡熱抵抗は時間のパラメータを持っています。図1の例では、VINが13.5Vから35Vに変動して3s経過した時点の発熱を、変動した消費電力で割った値が過渡熱抵抗になります。
図2に過渡熱抵抗の例を示します。グラフから過渡状態の時間(パルス幅)が長くなるにつれて、過渡熱抵抗ZTHが大きくなり、おおよそ300sが経過すると熱抵抗は一定になることがわかります。
過渡熱抵抗は多くの場合グラフで提供され、過渡状態の時間(パルス幅)から値を読み取ります。グラフから、事例の3s/周期(Duty)5%の場合の過渡熱抵抗ZTH(黄緑のライン)は、21℃/Wと読み取れます。また、安定状態の値40℃/Wは、パッケージのθJAとして提供されている値になります。
過渡熱抵抗を使ったTJの見積もり計算例
前述のように、定常時のTJに過渡熱抵抗を使用して計算した過渡時の温度上昇を足し合わせる形でTJを求めます。手順としては、最初に定常時と過渡時の消費電力を計算し、次に各熱抵抗を使ってそれぞれの温度上昇(発熱)を計算します。そして、定常時と過渡時の発熱の和にTAを加算し過渡時のTJを求めます。それでは、計算をしていきます。
定常時のVIN=13.5V、VOUT=5.0V、IOUT=90mA、ICC=40μA(TYP)における消費電力P1を計算します。
過渡時VIN=35Vにおける消費電力P2を計算します。P2は定常時のP1=0.77Wを含んだ値であることを覚えておいてください。
上記の定常時熱抵抗θJA=40℃/W、3s/Duty 5%の過渡熱抵抗ZTH(3s)=21℃/Wを使って、それぞれのTJの温度上昇を計算します。過渡時の温度上昇は、常温時の消費電力P1をP2から差し引いた消費電力から算出します。
定常時温度上昇
過渡時温度上昇
それぞれの温度上昇を足して全体の温度上昇を求めます。
全体の温度上昇
最後に、過渡状態における周囲温度TAを加えてTJを求めます。TAは65℃とします。
過渡状態における
これで、13.5VのVINが60sの周期で3sの間35Vまで過渡的に上昇する条件における、最大のTJを求めることができました。図3は、VINの過渡的変化に対する温度上昇のイメージです。温度上昇波形がVINの積分波形なのは、図2に示した過渡熱抵抗特性が時間のパラメータを持つからです。
ここまでのTJ計算は、消費電力が過渡的に増加する場合に、その時のTJのピークを把握するのが目的です。これとは別に、平均消費電力からTJを見積もるアプローチもあります。以下に上記と同じ条件での計算例を示します。熱抵抗は定常熱抵抗θJA=40℃/Wを用います。
平均消費電力 ※0.05はDuty=5%より
平均温度上昇
先の計算では、過渡時の温度上昇は71.3℃なので、この事例では平均電力による算出アプローチは適切ではないことがわかります。
熱計算で最も重要な確認すべきポイントは、TJが絶対最大定格TJ MAXを超えていないかどうかです。絶対最大定格は瞬時でも超えることは許容されないので、過渡時のピーク温度を知る必要があります。
過渡状態が十分長い場合(これを過渡と呼ぶかは別として)、例えば図2の例ではパルス幅が300sを超えるような場合は過渡熱抵抗=定常熱抵抗になるので、単純に定常熱抵抗で最大消費電力時のTJを求めて、それが
TJ MAX未満であることを確認すればよいことになります。
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