約2年半、全47記事にわたったTech Web Motor基礎知識「モータドライブ基礎編」は、今回で一旦終了になります。今回は全体のまとめとして、各記事とリンクおよびキーポイントの一覧を作りました。リファレンスとしてご利用下さい。
モータとモータドライブの概要
モータドライバに求められる4つのポイント
キーポイント
- ・世界的にモータの需要は強い増加傾向にある。
- ・世界的なエネルギー問題に関連して、効率の高いモータ駆動や制御方法は非常に重要。
- ・モータドライバに求められる4つのポイント:「高信頼性」、「低消費電力、高効率」、「静音、低振動」、「制御、利便性」
モータの種類と分類
キーポイント
- ・モータの種類と分類についてはいろいろな考え方がある。
- ・モータを使う側から見て、エネルギー変換の媒体、電源、構造、特性などからの分類例を提示した。
小型モータの構造
キーポイント
- ・モータの基本構成部品は、コイル、永久磁石、ロータが主体。
- ・種類によりコイルが固定のものと磁石が固定のものがある。
各分野におけるモータドライブシステムの概要
キーポイント
- ・モータドライブシステムは、分野やアプリケーションによって異なる。
- ・アプリケーションや要求事項によって、適切なモータとドライブおよび制御方法が多数ある。
モータの回転原理と発電原理
モータの回転原理
キーポイント
- ・モータの回転原理は、電流と磁界と力に関する法則に基づく。
モータの発電原理
キーポイント
- ・モータの発電作用は回転動作と同様に、電流と磁界と力に関する法則に基づく。
- ・モータは電磁誘導によって機械的エネルギー(運動)を電気エネルギーに変換する。
ブラシ付きDCモータ
ブラシ付きモータの構造
キーポイント
- ・ブラシ付きモータには名称の通りブラシと呼ばれる電極が存在する。
- ・構造は、ステータ、ロータからなり、ステータには磁石、ロータにはコイルと整流子が含まれる。
回転原理
キーポイント
- ・ブラシ付きモータは、ブラシと整流子の接続状態、電流と磁界の発生、固定磁石とコイル外側の極性の関係において、コイルが連続的に同方向に移動することでロータが回転する。
発電原理
キーポイント
- ・磁界中をコイルが回転することで発電し、モータ端子にDC電圧が発生する。
ショートブレーキ
キーポイント
- ・モータ端子をショートすることで、逆方向の回転力が発生し回転を止めるブレーキ効果を得られる。
ブラシ付きDCモータの特性
キーポイント
- ・トルクがかかると回転数が一定に低下する。
- ・電源電圧を上げると回転数は上昇する。
- ・トルクがかかるとモータ電流は一定に増加する。
- ・最大トルク時=回転数ゼロ時=モータ電流最大。
Hブリッジ回路によるブラシ付DCモータの駆動:原理
キーポイント
- ・Hブリッジ回路はモータの接続状態を変更するための回路。
- ・4つのスイッチ(トランジスタ)を使って4つの接続状態の切り替えを行う。
- ・実際のブラシ付きDCモータの駆動回路はHブリッジ回路と電圧制御回路の組み合わせになる。
Hブリッジ回路によるブラシ付DCモータの駆動:出力状態の切り替え
キーポイント
- ・Hブリッジの4通りの接続状態切り替えは2ビットのロジックで行うことが可能。
- ・実際のブラシ付きDCモータドライブICには、Hブリッジと制御ロジック回路の他にレベルシフトや同時オン防止機能が含まれるものが多い。
Hブリッジ回路によるブラシ付DCモータの駆動:ハイサイド電圧リニア制御
キーポイント
- ・Hブリッジ回路のハイサイド電圧をリニア制御可能な回路構成。
- ・出力端子のH電圧を制御することでモータの回転数/トルクのリニア制御が可能になる。
BTLアンプ回路によるブラシ付DCモータの駆動:リニア電圧駆動
キーポイント
- ・BTLアンプをモータ駆動に応用したブラシ付DCモータのリニア電圧ドライバ例。
- ・BTLアンプでのブラシ付DCモータ駆動には、電圧駆動と電流駆動がある。
BTLアンプ回路によるブラシ付DCモータの駆動:リニア電流駆動
キーポイント
- ・BTLアンプをモータ駆動に応用したブラシ付DCモータのリニア電流ドライバ例。
- ・BTLアンプでのブラシ付DCモータ駆動には、電圧駆動と電流駆動がある。
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:PWM駆動の原理
キーポイント
- ・ブラシ付きDCモータのPWM駆動は、電圧印加と電流回生を繰り返す。
- ・Hブリッジによる電流回生方法は複数ある。
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:PWM駆動時の電流回生方法
キーポイント
- ・ブラシ付きDCモータのPWM駆動は、電圧印加と電流回生を繰り返す。
- ・Hブリッジによる電流回生方法は複数あり、回生電流経路によって損失が異なる。
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:損失と注意点
キーポイント
- ・ブラシ付きDCモータのPWM駆動における損失は、電圧印加時、電流回生時、遷移時から考える。
- ・スイッチング(スルーレート)を高速化すると効率は上がるがノイズが増加する。
- ・PWM周波数を高くすると電流リップルを低減できるが効率は低下する
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:Hブリッジ回路PWM駆動
キーポイント
- ・PWM駆動対応Hブリッジブラシ付きDCモータドライバICにはいくつかのタイプがある。
- -IN1/IN2に直接PWM信号を入力できるタイプ。
- -Vref端子、三角波発生器、コンパレータによるPWM信号生成回路を備えたタイプ。
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:Hブリッジ定電流駆動
キーポイント
- ・HブリッジPWM定電流駆動の1つの方法として、電流検出抵抗によりモータ電流を検出し、コンパレータにより基準電圧と比較をしてPWM制御する方法がある。
- ・電流検出抵抗には大きな電流変化が生じるためノイズ電圧が発生し誤動作が発生する可能性がある。
- ・誤動作抑制にはブランク時間を設定する方法がある。
PWM出力によるブラシ付DCモータの駆動:BTLアンプ入力形式駆動
キーポイント
- ・BTLアンプ入力形式を利用したHブリッジPWM駆動で、VINの電圧差を利用してデューティを制御する。
- ・同時オン防止回路がある場合、デューティが0%や100%付近で制御の直線性が保てないことがある。
- ・また初段アンプ、三角波発信器、コンパレータがそれぞれにオフセットのばらつきを持つため、入力電圧に対するデューティにずれが存在する点にも注意。
1スイッチ回路駆動、ハーフブリッジ回路駆動
キーポイント
- ・1スイッチ回路駆動は、回転、空転の2つの状態を1つのスイッチで制御する。
- ・1スイッチ回路駆動にパワートランジスタをスイッチに使う場合、逆起電圧でトランジスタがダメージを受ける可能性があるので、クランプダイオードを使う必要がある。
- ・ハーフブリッジは、回転、空転、ブレーキの3状態を制御可能。
- ・ハーフブリッジはスイッチにMOSFETを使った場合、MOSFETの寄生ダイオードによりブレーキ動作が可能。1スイッチ、ハーフブリッジともにPWM駆動、電流駆動が可能。
ブラシ付DCモータの駆動回路 まとめ
ステッピングモータ
ステッピングモータの構造
キーポイント
- ・ステッピングモータとは、パルス信号に同期して回転角度、回転速度を正確に制御できるモータで、パルスモータとも呼ばれる。
- ・基本的な構造は、コイルが固定されていて永久磁石が回転できるようになっている。
ステッピングモータの基本動作原理
キーポイント
- ・2相バイポーラのステッピングモータでは、コイルを1相ずつ順番に励磁するとモータは回転する。
- ・順番を逆に励磁すると逆回転が可能である。
ステッピングモータ:マイクロステップ動作原理
キーポイント
- ・ステッピングモータは、マイクロステップ駆動により、より細かいステップ角制御が可能。
- ・マイクロステップ駆動のメリットは、微少角の位置制御が可能になることと、低速域での振動や騒音の低減が可能なこと。
ステッピングモータの基本特性
キーポイント
- ・引き込みトルク特性は、起動トルク特性とも呼ばれ、停止状態のモータが起動できる周波数(パルスレート)と負荷トルクの関係を示している。
- ・引き込みトルク曲線内の領域は「自起動領域」と呼ばれ、起動、停止、逆転が可能な領域。
- ・負荷トルクがゼロ=モータを起動できる限界になる周波数を「最大自起動周波数」と言う。
- ・脱出トルク特性は、連続特性、スルートルク特性とも呼ばれ、自起動後に負荷トルクを増加していったときに、回転を継続できる周波数を示しているおり、引き込みトルク特性より高い値になる。
- ・モータが連続動作できる限界を「最大連続動作周波数」と言う。
- ・引き込みトルク特性および脱出トルク特性ともに、パルス周波数が高くなると負荷トルクは低下する。
- ・ホールディングトルクは、通電状態で停止しているときに外から力が加わっても停止位置を保持しようとする力。
- ・引き込みトルク特性と脱出トルク特性は、励磁方法と駆動回路によって違ってくる。
ハイブリッド型ステッピングモータの構造と動作原理
キーポイント
- ・ハイブリッド形ステッピングモータは、VR型とPM型の両方の利点を備えたステッピングモータ。
- ・VR型の構造を利用して細かいステップ角を実現し、永久磁石を組み合わせることで大トルク化が可能。
- ・2対のコイルの通電状態を切り替える(4ステップ)ことで、ロータの歯1つ分を回転させる。
ステッピングモータの駆動:バイポーラ結線とユニポーラ結線
キーポイント
- ・バイポーラ結線
- -1つの巻線に対して双方向に電流を流す駆動方式(バイポーラ駆動)を取る。
- -構造は簡単だが駆動回路は複雑になる。
- -巻線の利用効率がよく細やかな制御ができるので高い出力トルクが得られる。
- -コイルに発生する逆起電力を低減できるので、耐圧が低めのモータドライバを利用できる。
- ・ユニポーラ結線
- -センタータップを持ち、1つの巻線に対し常に一定方向に電流を流す駆動方式(ユニポーラ駆動)を取る。
- -構造は複雑になるが駆動回路は簡単になる。
- -巻線の利用効率が悪く、バイポーラ結線に比べ約半分程度の出力トルクしか得られない。
- -コイルに高い逆起電力が発生するので、高耐圧のモータドライバが必要になる。
2相バイポーラステッピングモータの駆動 その1
キーポイント
- ・2相バイポーラステッピングモータは、Hブリッジ駆動回路を2ch分使用することで駆動できる。
- ・2相バイポーラステッピングモータ駆動の電流回生モードには、Slow Decay、Fast Decay、Mix Decayがある。
2相バイポーラステッピングモータの駆動 その2
キーポイント
- ・Slow DecayはFast Decayに比べ電流リップルが小さいのでノイズが小さく、平均電流が大きくなるので発生トルクを大きくすることができる。ただし、高速パルスレートでは不利。
- ・Fast Decayは逆にノイズ、トルクに関しては不利だが、高速パルスレートに対しては有利。
- ・Mix Decayは、Slow DecayとFast Decayの組み合わせで波形の最適化が可能。
2相ユニポーラステッピングモータの駆動
キーポイント
- ・2相ユニポーラステッピングモータの駆動回路は、2相バイポーラステッピングモータの駆動回路と比較すると、入力段構成、内部ロジックや制御回路、駆動回路を2ch分使うことは基本的に同様だが、出力段構成が異なる。
- ・2相バイポーラステッピングモータ駆動にはHブリッジ出力段を2ch用いるのに対し、2相ユニポーラステッピングモータ駆動には2個のスイッチ(MOSFET)を2ch用いる。
- ・出力オフの瞬間に過渡電圧が発生し、構造上トランス結合により(2×VM)以上の電圧が発生するので、ドライバの耐圧に注意する必要がある。
ステッピングモータ まとめ
3相ブラシレスモータ
3相全波ブラシレスモータの構造
キーポイント
- ・3相ブラシレスモータのコイルは基板に固定してあり、鉄心に巻かれている。
- ・コイルは固定で永久磁石(ロータ)が回転する。
- ・ロータ(磁石)の位置検出にはホール素子を利用できる。
3相全波ブラシレスモータの回転原理
キーポイント
- ・3つのコイルの電流の流入・流出により磁界を変化させ、ロータを回転させる。
3相全波ブラシレスモータの位置検出
キーポイント
- ・3相全波ブラシレスモータの位置検出には、ホール素子を使う方法と、ホール素子を使わずモータコイルの誘起電圧を利用する方法がある。
3相全波ブラシレスモータの駆動:センサ付、120度通電リニア電流駆動
キーポイント
- ・120度通電駆動は各相が120度ずれながら、120度オン(H)、60オフ、120度オン(L)、60オフを繰り返して駆動する。
3相全波ブラシレスモータの駆動:センサ付、正弦波通電PWM駆動
キーポイント
- ・正弦波通電駆動は各相が120度ずれながら、正弦波で駆動する。
- ・正弦波駆動は120度通電駆動のようにスパイクノイズが出ないため騒音面に優れる。
- ・PWM駆動により高効率である。
3相全波ブラシレスモータの駆動:進角制御
キーポイント
- ・モータのトルクは、磁石磁界の位相が巻線磁界の位相に対し90度遅れているときに最大トルクが得られる。
- ・相誘起電圧と相電流の位相が同じ場合に上記条件になり最大トルクが得られる。
- ・ただし、相誘起電圧と同じ位相で電圧を印加すると相電流に位相遅れが生じてマイナストルクが発生する。
- ・相電流の位相を相誘起電圧の位相と合わせるために、相印加電圧の位相を進める方法が進角制御。
3相全波ブラシレスモータの駆動:モータ印加電圧の最大化
キーポイント
- ・3相全波ブラシレスモータの正弦波駆動において、正弦波そのままで駆動するとモータ印加電圧は電源電圧の0.87倍になってしまう。
- ・モータ印加電圧最大化のために、2つの手法がある。
- -正弦波の下側円弧部分を他の2つの相の上側に半分ずつ加えて駆動する。
- -基本波の正弦波に三次高調波を加算する。
3相全波ブラシレスモータの駆動:センサレス120度通電駆動
キーポイント
- ・センサレス駆動ではモータの位置検出に、ホール素子の代わりにコイルの誘起電圧を利用する方法がある。
- ・この方法では、3つのコイルの中点の信号CTを利用する。
- ・CT信号とA1、A2、A3の信号を駆動回路に取り込み、コンパレータにより比較処理を行い各出力を生成する。
- ・このセンサレス駆動は、誘起電圧を利用する以外はセンサ付きと基本的に同様。
センサレス120度通電駆動の起動方法 1:同期動作運転から誘起電圧を検出して起動
キーポイント
- ・3相全波ブラシレスモータのセンサレス120度通電駆動の起動には、停止時の永久磁石の位置がわからないため以下の方法を採る。
- ①同期動作運転から誘起電圧を検出して起動
- ②永久磁石停止位置を検出して起動
- ・①の方法は、永久磁石の位置に関わらず合成磁界を回転方向に作り、一定時間で切り替えることにより永久磁石が回転を始めることで発生する誘起電圧を検出して通常制御に持ち込み起動する方法。
- ・この方法には以下の課題がある。
- -永久磁石の位置に関係なく合成磁界を作るので、状態によっては逆転方向のトルクがかかることがあり、永久磁石の停止位置によって起動に時間がかかる。
- -本来、十分なトルクを発生する永久磁石と合成磁界の位置関係は90度だが、永久磁石の位置に関係なく合成磁界を作ることから70度や60度といった角度からスタートするので、一定の大きな起動トルクが得られない。
- ・対処としては、②の方法を採る。
センサレス120度通電駆動の起動方法 2:永久磁石停止位置を検出して起動
キーポイント
- ・「永久磁石の停止位置を検出して起動する方法」は、「同期動作運転から誘起電圧を検出して起動する方法」の課題である逆転や低トルクでの起動は回避し、起動に時間がかかることを改善する。
- ・永久磁石の停止位置検出には、モータが回転しない短時間の6パターンの通電を行い、電源電流が最大(または最小)のパターンを確認する。
まとめ-3相全波ブラシレスモータの特徴と用途
キーポイント
- ・最大のメリットは、ブラシがないので電気的ノイズ、機械的ノイズが小さく、信頼性が高く寿命が長い。
- ・デメリットとしては、整流機能に複雑な電子回路やセンサが必要な分コストがかかる。
小型モータの選び方
小型モータの特徴、性能、特性の比較
キーポイント
- ・小型モータの特徴、性能、特性の比較をモータ選択の参考する。
- ・同じ分類のモータにも様々な仕様のものが存在するのであくまでも目安として利用。
- ・最終的には個々のモータのデータシートで細部を確認する必要がある。
モータドライバICの絶対最大定格
モータの仕様とモータドライバICの絶対最大定格の関係
キーポイント
- ・半導体デバイスの絶対最大定格は、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしている。
- ・絶対最大定格の定義は、「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」。
- ・モータドライバICを選定では、基本的にモータの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバICを選ぶ。
- ・絶対最大定格を超えた場合、ドライバICの特性劣化、寿命低下、破壊につながる。
- ・ドライバICの信頼性は、使用環境条件によって絶対最大定格以内であっても、条件が厳しいほど低下する。
【資料ダウンロード】モータの種類分類、用途の概要
モータの種類と構造の説明に加えて、各分野のモータドライブシステムの概要をまとめてあります。