2014.10.15
・数値算出に続き、具体的なトランス構造の設計に進む。
・数値算出に加え、おおよその構造設計ができれば、トランスメーカーなどの協力を得て最終化を促進することが可能。
前項の数値算出に続き、トランスT1の構造設計に入ります。普段、電子部品だけでの設計が多い人には、コアやホビン、巻線を組み合わせ、経験則的な要素も必要となるトランス設計は異世界のように感じるかもしれません。とはいっても、電源設計、特にAC/DCコンバータ、絶縁コンバータには重要な部品ですので、ここでは少なくても手順と必要な検討を理解していただければと思います。
トランスT1の構造設計は、以下の手順で進めていきます。
①ボビン選定
②有効巻枠の確認
③巻線構成決定
④沿面距離とバリアテープ
⑤線材の選定
⑥結線図、層構成、巻線仕様
⑦トランス仕様決定
この項では、「その1」として①~④までを、次回「その2」で⑤~⑦の説明を行います。
ボビンには、図のように縦型、横型があります(コアサイズによってはどちらか一方のみのものもある)。高さと実装面積を考えて、選定することになります。
また、ピン数も考える必要があります。表に示されているのは、数値算出の項で算出した巻数です。これらの巻線を巻けるだけのピン数があるものを選びます。
コア | JFE MB3 EER28.5A または互換品 |
Lp | 249μH |
Np | 30ターン |
Ns | 6ターン |
Nd | 8ターン |
次に、ボビンの仕様から有効な巻枠を求めます。赤い矢印で示した図の斜線部分が実際に巻線を巻くことが可能なエリアになります。このエリアはボビンごとに異なりますので、使用するボビンの図面できちんと確認して下さい。
写真は実物で、赤矢印部分が有効巻枠です。今回選択したコア、JFE EER28.5の場合は、J=16.6mm、H=4mmとなります。
巻線構成は、トランスの特性に大きな影響を与えます。ここでは2つの構成を紹介します。
<シンプルな構成>
<サンドイッチ巻構成>
左側は最もシンプルな構成になります。層数が少ない分コストメリットはありますが、各巻線とも1層しかないため、34ターンと巻数が多いNp巻線では一列に巻ききれなく、2列や3列に巻くことになるため結合度は劣ります。
ピン数は片側4ピンで済みます。この構成は、出力電力の小さい場合やボビンのピン数が片側4ピンという制約があるような場合に採用されます。
右側はサンドイッチ巻きと呼ばれている構成です。この構成は、1次巻線Np1とNp2で他の巻線を挟むことで、1次巻線と他の巻線の結合度が上がります。ただし、層数が増えますので巻枠の厚さが増え、ボビンのピン数は最低でも片側5ピンが必要になります。
巻線構成についてはこれが正解というものはありません。特性を追及する場合には、時間はかかりますがいくつか試作を作り、実際の基板レイアウトに他の部品と組み合わせてきちんとした回路を構成し、特性の確認を行いながら最適な仕様に落とし込んでいくことになります。
安全規格適合を考えた場合、トランスの一次-二次間の沿面距離によって絶縁を確保する必要があります。沿面距離は、動作電圧、使用環境の汚染度合、使用する材料群によって決められています。沿面距離を確保する手段のひとつとして、バリアテープが使われます。
トランスT1を安全規格IEC60950に準じて以下とした場合の沿面距離を求めます。
250V:2.5mm、300V:3.2mmより
270Vでは2.78mmとなり3mmとする。強化絶縁では2倍の6mm。
※縦型ボビンを使う場合は、上部は引き出し線がないので、沿面距離を1/2、3mmにできる。
規格に関する用語がいくつか出てきたので、概略を記します。詳細は規格書で確認してください。
※Ⅲaのボビンの材料は、汎用的なPM9820/住友ベークライト(フェノール)で CTI < 400
「絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)その2」に続きます。
AC/DCコンバータを理解し設計に進むための基礎内容がわかる資料をご用意いたしました。
AC/DC変換の基本から高電圧DC/DC変換の方式、そして設計手順概要や検討事項など、設計への導入が示されています。
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