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エンジニアコラム

第15回 EMC概要(3)
電磁両立性(EMC)とは何か?

実例を知ればその重大さがわかる

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こんにちは! ロームの稲垣です。

第15回は、電磁両立性(EMC)の現象を具体的に説明します。今回も、半導体集積回路(IC)を主役とします。

まずは電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference, エミッション)の事例です。半導体集積回路(IC)がスイッチング技術を使って動作していて、プリント基板(PCB)上でのEMC対策が不十分な場合を想定します。EMIフィルタの設計が良くない場合、例えば低域通過フィルタ(LPF)の遮断周波数がスイッチング周波数の1/10よりも高い場合等です。こういった場合、その半導体集積回路(IC)を動作させると、

  • ・その周辺に置かれているAM/FMラジオの受信感度が悪くなってピーピー・ガーガー等の雑音が入る
  • ・Bluetoothで接続している機器等が切断されてしまう
  • ・スマートフォンでの動画再生が途切れる

等々の、現象が起きる可能性があります。

次に電磁感受性(EMS: Electromagnetic Susceptibility, イミュニティ)の事例です。半導体集積回路(IC)の近くに電磁雑音があって、それが悪さをする場合です。こちらもプリント基板(PCB)上でのEMC対策が不十分な場合を想定します。ノイズ・フィルタが無い場合や、あってもその周波数特性が電磁雑音を十分に減衰させられない場合です。こういった場合には、

  • ・差動演算増幅器(オペアンプ)の動作点が通常はVCC(電源電圧)/2のバイアス電圧となっているものが、VCC近くやGND近くの電圧に変動してしまう
  • ・データ通信用半導体集積回路(IC)のデータ送受信において、電磁雑音が発生している時だけその受信データが反転してしまう
  • ・低電圧デジタル回路(CPUやメモリ含む)で、電磁雑音が発生している時だけ制御ロジックがエラーを起こしてしまう

等々が発生する可能性があります。

前回説明した、電磁両立性(EMC)国際規格に適合/不適合というだけではイメージしにくかったと思いますが、実例からはどれもが重大な妨害や誤動作に直結する事が理解できるかと思います。このように電磁両立性(EMC)に関する現象は、大変重要です。特に航空・宇宙、医療、車載等の人命に関わる製品や部品については、万が一にも発生してはいけない事案です。それだけに十分な検証を行って安全・安心な製品や部品にするために、各業界、部品メーカーからセットメーカーまで、エンジニアの皆さんは懸命に電磁両立性(EMC)に取り組んでいます。

では何故今、電磁両立性(EMC)がこんなに注目されているのでしょうか?

電磁干渉(EMI)に関しては、動作周波数の高速化が大きく関係しています。ひと昔前までの100MHzが超高速と扱われていた時代とは異なり、今や1GHz~10GHzで動作する製品も珍しくありません。当然その高調波成分が電磁干渉(EMI)の元となるので、電磁干渉(EMI)の周波数帯域は格段に広くなっています。また高周波程放射しやすくなるので、より注意が必要です。

電磁感受性(EMS)に関しては、電源電圧の低下が要因に挙げられます。5Vロジックと0.9Vロジックでは、H電圧とL電圧の電圧差(VIH/VIL)が全然異なります。電源電圧が低いと電磁雑音に対する耐性が低くなります。

更に半導体集積回路(IC)を構成する規模や素子数が年々多くなっています。今や5億~10億個のトランジスタが一つのシリコン・チップ上に構成される時代です。そのため、電磁両立性(EMC)の問題が発生する箇所が増え確率もより高くなっています。今後もムーアの法則に従って微細化・高集積化が進み半導体集積回路(IC)の集積度が向上すれば、電磁両立性(EMC)特性はどんどん悪化していきます。

現場では、エンジニアの皆さんは既に気づいていて、以前は電磁両立性(EMC)を特に気にしなくても問題はなかったのですが、ここ最近の製品や部品では電磁両立性(EMC)特性をきちんとケアしないと、とんでもない事になってしまうことを肌で感じています。なので、正確には「注目している」という状況ではなくて、「注目せざるを得ない」状況と言う方が現実に近いかもしれません。

次回からは、電磁両立性(EMC)の設計や作り込みに関する実践的な内容である「EMC計算法・EMCシミュレーション」についての説明を開始する予定です。どうぞお楽しみに!

御一読頂きまして、どうもありがとうございます。