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DC/DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化

出力の安定性と応答性のチェックには
周波数特性を評価する

-その1-

注目ワード
  • 出力電圧の安定性や負荷過渡応答特性
  • DC/DCコンバータの周波数特性
  • 出力の応答性
  • 負荷電流過渡
  • 出力の安定性
  • リンギング
  • 発振
  • 帰還回路
  • 負帰還
  • 負帰還が正帰還になる
  • ボード線図
  • 位相遅れ
  • 位相余裕度
  • ゲイン(利得)余裕度
  • クロスオーバー周波数
  • 安定性が高まる方向
  • 応答性は低下
  • 安定性と応答性はトレードオフ
  • 安定性と応答性の最適化
  • 周波数特性分析器(FRA:Frequency Response Analyzer)
  • 実機基板を測定のために加工するのが困難
  • シミュレーション

DC/DCコンバータの設計において、設計した回路が実使用条件に対し安定に動作し、機器の性能や仕様を満足する電源に仕上げるには、静的特性に加えて動的特性に関する評価も要求される。その中でも出力電圧の安定性と応答性は重要なチェックポイントであり、その確認と調整にはDC/DCコンバータの周波数特性の理解が必要になる。今回、DC/DCコンバータの周波数特性と評価方法について、アプリケーションエンジニアである愛宕 崇之 氏に聞いた。

-最初に、DC/DCコンバータの周波数特性を評価し理解する必要性を教えてください。

どの設計でも同じだと思いますが、机上の回路設計が終わると試作を行い、設計目標を達成しているかどうかの評価を行います。DC/DCコンバータでは、出力電圧精度や最大出力電流などの電源としての基本動作の確認の他、出力電圧の安定性や負荷過渡応答特性の確認が重要になります。安定性や応答性は、基本的に設計したDC/DCコンバータの周波数特性に関係した特性なので、周波数特性の確認とその結果に基づく最適化が必要になります。

-出力電圧の安定性と過渡応答について、具体的に説明いただけますか?

それぞれの概念を示した図がありますので、これを使って説明したいと思います。

DC/DCコンバータの出力電圧の安定と過渡応答の模式図

まず、この図だけで説明ができる応答性から説明します。この模式図は、12Vバッテリからスイッチング方式のDC/DCコンバータを使って5Vに降圧し、マイクロコントローラの電源としています。また、この5Vは俗にリセットICとも呼ばれている電圧監視ICによってモニタされ、設定以下の電圧の場合リセット信号がマイクロコントローラに送られるという、よくある回路の例です。

出力電圧の応答性とは、負荷電流の急激な変化により瞬間的に変動した出力電圧をもとに戻す動作のことです。通常は電圧変動がなるべく小さいうちに応答し、なるべく短時間で設定電圧に安定させることが期待されます。

図では、負荷電流が急激に立ち上がり出力電圧5Vが一瞬低下する例と、逆に負荷電流が急激に立ち下がって出力電圧が一瞬5Vより高くなる例が示されています。負荷電流の急増によって低下した出力電圧がリセットICのしきい値を超えてしまうと、不要なリセット信号が発せられマイクロコントローラをリセットしてしまいます。また、負荷電流の急減によって出力電圧が急上昇してマイクロコントローラの電源電圧定格を超えてしまうと、マイクロコントローラが誤動作したり場合によっては破壊に至ったりする恐れがあります。これは、マイクロコントローラやCPUなど、スリープ状態から一瞬でフル稼働、またその逆の状態が生じるデバイスなどの電源には必須のチェック項目です。

これらは、DC/DCコンバータの過渡応答特性を調整することで、電圧変動がリセットICのしきい値や後段デバイスの電源定格を超えないように最適化して対処します。

-なるほど。過渡応答特性が最適化されていないと、場合によっては致命的な問題が起こるのですね。

そうです。それでは、出力電圧の安定性の説明に移ります。ここでの出力電圧の安定とは、出力に過度のリンギング発振が発生しないことを言っています。発振の波形例を示します。DC/DCコンバータの出力電圧は、スイッチングによるリップル電圧が含まれており完全なDC電圧ではありませんが、発振はリップルとは異なる異常なものです。この波形図は、負荷を取ると発振が顕著に現れる状態のDC/DCコンバータの例です。

出力電圧の発振を示す波形

-発振というとオペアンプを使った回路を思い浮かべてしまいますが、DC/DCコンバータも発振するのですね。

DC/DCコンバータが発振するのは、出力電圧を一定に保つ制御を行うために帰還回路を用いていることに起因します。したがって、発振する原理や条件はオペアンプと同じです。ちなみに、LDOなどのリニアレギュレータも帰還制御を用いているので同様に条件によって発振を起こします。発振が起こる原理は、周波数特性の理解にもつながるので少し詳しく説明します。

DC/DCコンバータICの内部回路は概略的にはこのような構成になっています。赤い矢印のA点とB点は本来つながっていますが、出力制御のために帰還される信号Bと、その帰還信号に基づく制御信号A(出力)を意図して切り分けています。

出力電圧はR1とR2からなる分圧抵抗を介して、IC内部のエラーアンプ入力に帰還されます。エラーアンプは基準電圧と出力電圧を比較して、出力電圧が設定電圧より高い場合は下げる制御を、低い場合は上げる制御を行って、出力電圧を一定に保ちます。

出力電圧の発振を示す波形

この帰還制御は負帰還であるため、帰還される信号Bに対する制御信号Aの位相は180度ずれた状態になります。位相の関係を示した波形図を示します。

しかしながら、実際にはIC内部で信号処理がなされ出力されるまでには、どうしても時間を要し遅延時間が生じます。そのため周波数が速くなるに連れ、遅延時間によって位相にどんどん遅れが生じます。位相が0度に近づくに連れ不安定な状態になり、0度にまで遅れると負帰還が正帰還になってしまい異常発振を起こします。

負帰還の位相遅れを説明する図

-オペアンプ回路で発振が起こる場合に、「位相余裕が足りない」などと言うのと同じですか?

基本的に同じです。今、位相遅れだけの話をしましたが、実際には位相特性とゲイン特性に基づく、「ボード線図」により安定性を見極めることになります。

-ボード線図ということは、つまり周波数特性がDC/DCコンバータの安定性や応答性とつながるわけですね。

そうです。それでは、安定性、応答性と周波数特性の関係を具体的に説明します。今までの話を整理しながら進めます。

安定性は、「出力電圧が発振条件に対してどれぐらい余裕があるか」、応答性は、「出力電圧が変動した時出力電圧が設定値に戻るまでの応答時間」です。これらの特性を確認するパラメータとして、位相余裕度ゲイン(利得)余裕度クロスオーバー周波数が使われます。これらは、そのDC/DCコンバータから取得したボード線図から読み取ることができます。ボード線図と各パラメータ、安定性と応答性の関係を示した図がありますのでご覧ください。

DC/DCコンバータの周波数特性を示すボード線図と確認ポイント

最初に、各パラメータの計測ポイント、安定性・応答性との関係、数値と特性の傾向を表にまとめましたので、これを基にボード線図を見て行きたいと思います。

位相余裕度 ゲインが0dB時の位相 安定性に関連 大きいほど安定
ゲイン余裕度 位相が0deg(度)時のゲイン 安定性に関連 大きいほど安定
クロスオーバー周波数 ゲインが0db時の周波数 応答性に関連 高いほど応答が速い

表と図の青、赤、緑の枠内の説明の通り、位相余裕度はゲインが0dbの時の位相、ゲイン余裕度は位相が0deg(度)の時ゲイン、クロスオーバー周波数はゲインが0dbの時の周波数になります。

位相余裕度とゲイン余裕度は安定性に関係し、どちらも大きいほど安定性が高くなりリンギングや発振は起こりにくくなります。また、クロスオーバー周波数は応答性に関係し、高い程応答性がよくなり負荷過渡による出力変動を小さく抑えることが可能になります。

提示したボード線図には、位相特性を示す曲線(青色)と3種類のゲイン特性曲線(ゲイン1:赤色、ゲイン2:桃色、ゲイン3橙色)がプロットされています。

ゲイン1は標準的な例です。ゲイン1が0dB時の周波数、つまりクロスオーバー周波数はおおよそ85kHz(緑の丸ポイント)で、その時の位相余裕は55degほど(水色の丸ポイント/青色両端矢印①)です。そして、位相0deg時のゲイン余裕は15dBほど(赤の丸ポイント)あります。図中の説明に各パラメータの目安的な値が示されているので参考にしてください。

ゲイン2はゲインが低めの場合を想定した例です。ゲイン1に比べゲインが下がったことで、クロスオーバー周波数は約9kHzに下がり、位相余裕は100degを超えています(青色両端矢印②)。ゲイン余裕(ゲイン2曲線上の赤の四角ポイント)に関しても30dB以上あり、位相余裕とともに増加したことで、安定性が高まる方向になっています。しかしながら、クロスオーバー周波数が下がったことで応答性は低下します。

ゲイン3はゲインが高めの場合を想定した例です。ゲイン1に比べゲインが上がったことで、クロスオーバー周波数は約180kHzに上がり、位相余裕は20degほどに減少しています(青色両端矢印③)。ゲイン余裕(ゲイン3曲線上の赤の四角ポイント)も5dB前後に減少しています。この例では、クロスオーバー周波数が高くなったことで応答性はよくなりますが、位相余裕とゲイン余裕の両方が減少したことで安定性が低下します。

ここで気付かれたと思いますが、安定性と応答性はトレードオフの関係にあり、一方を高めると他方が低下します。したがって、設計においては回路条件に合わせて安定性と応答性の最適化を図る必要があります。

-DC/DCコンバータの安定性と応答性の確認には、周波数特性を評価する必要がある点は理解しました。それでは、DC/DCコンバータの周波数特性はどのように取得すればよいのでしょうか?

周波数特性を測定するには、周波数特性分析器(FRA:Frequency Response Analyzer)を使うのが簡単で確実です。実際のFRAと測定回路を示します。実は先ほど見てもらったボード線図は、FARを使って取得したものです。

周波数特性分析器(FRA)/周波数特性分析器(FRA)を使った周波数特性測定回路例

DC/DCコンバータの周波数特性を測定するには、測定回路図にあるように帰還ループの出力と分圧抵抗間を切断し、所定の抵抗(注入抵抗)を挿入してその抵抗の両端をFRAに接続します。あとは、ほぼ自動で位相余裕とゲイン余裕を測定し、グラフ表示してくれます。

-割と簡単そうですが、実機で確認するには基板を加工する必要があるのでは?

実際のところそうなります。確かにFRAを使うと簡単に周波数特性を測定できるのですが、課題がないわけではありません。今いただいた質問も課題の1つで、昨今は部品の小型化、さらには高密度実装化により、実機基板を測定のために加工するのが困難な場合が少なくありません。また、周波数特性を測定できたとしても、それを調整し最適化するために該当の抵抗やコンデンサの値を変更しては周波数特性を再測定するという作業を繰り返すことが必要で、同様に実機基板上の小さなチップ部品を何度も交換するのはかなり大変な作業になります。

-つまり、周波数特性の最適化には該当部品の定数変更と再測定を繰り返す試行錯誤が必要で、それは部品の小型化と高密度実装化が進んだ基板の場合簡単ではないと。

その通りです。さらには、そもそも高価なFRAを持ち合わせていないという場合も少なくありません。

-では、FARを利用できない場合はどうすればよいのでしょうか?

実測定を補完する意味でシミュレーションが非常に役立つと思います。近年のシミュレータは、周波数特性や負荷応答特性のシミュレーションが可能なものが多く、ICメーカからはシミュレーション用のデバイスモデルや周辺回路を含んだモデルなどが提供されています。

-確かに設計においてシミュレーションを利用する話はよく聞くようになりました。それでは、シミュレーションについて伺っていきます。

(続く)

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