エンジニアコラム

技術トレンド:車載・産業機器の低消費電力化に貢献する SiCダイオード内蔵IGBT

2022.05.10

この記事のポイント

・カーボンニュートラル達成に向けて、DC-DCコンバータなど電力変換システムのさらなる効率向上が求められるようになる。

・より多くの用途に適用可能な電力変換システムの実現には、高効率と低コストを両立するIGBTとSiCショットキーバリアダイオードを集積した「Hybrid IGBT」が貢献できる。

加速する脱炭素化と、強まる低電力化への要請

現代社会は、工場での工業製品の生産活動や産業プラントの稼働などに、莫大なエネルギーを消費しています。ところが近年、世界中の国や地域でのカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが急加速し、あらゆる産業・業種の企業には、これまで以上に強く脱炭素化への対応が求められています。

2021年末に開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、産業革命以前と比べた世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求する成果文書が採択されました(図1)。6年前のパリ協定の時点では努力目標だった1.5℃目標が必達目標に格上げされ、「わが国は、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が困難。目標達成を待ってほしい」といった抗弁が通用しなくなりました。今後、各国政府は、地球温暖化ガス(GHG)の排出を削減するための具体的な政策や規制を次々と打ち出していくことになるでしょう。特に、現時点でCO2を大量排出している、自動車や工場での生産活動が排出削減の主要ターゲットになる可能性が高まっています。

図1 COP26では、1.5℃目標が努力目標から必達目標に格上げされた

こうした状況を反映して、既に世界中のさまざまな国や地域で、炭素税など企業のCO2排出量をコストに転嫁する仕組み「カーボンプライシング」の導入が始まっています。世界銀行によると、2021年4月10日時点で、46の国、35の地域に導入されているそうです。特にグローバルなビジネスを営む企業にとって、脱炭素化への取り組みが、自社製品のコスト競争力に直結する時代になりました。

急増する電力で駆動する機器・設備、その効率化が急務

脱炭素化の取り組みの中では、いわゆるEVシフトを軸とした自動車の電動化と、再生可能エネルギー由来の電力の活用がよく話題に挙がります。ただし、1.5℃目標の達成を目指すためには、これだけでは全く足りませんし、これらだけが脱炭素化の取り組みでもありません。

「自然エネルギー世界白書 2021」によると、全世界の総エネルギー消費量のうち、32%が自動車などエンジンで駆動する輸送機器関連で、17%が家庭や工場などで電力として利用している分になります(図2)。実は、現時点では、電力消費によるCO2排出の量は割合から見れば少ないと言えます。残りの51%は、産業プラントなどを動かすタービンや熱処理などに利用するボイラーなどで、化石燃料を燃やして熱エネルギーを利用しています。この部分は、なかなか脱炭素化が難しい部分でもあります。

図2 世界のエネルギー総消費のうち、電力として利用しているのは17%
出典:REN21、「Renewables 2021 Global Status Report (GSR)」

今後、世界の脱炭素化は、大まかに言えば、次のような戦略で進められます。まず、エネルギー消費が大きく、化石燃料を燃やしている輸送機器関連や熱エネルギー利用の領域をなるべく電化し、キメ細かな制御を可能にします。エネルギーの利用形態を、制御が容易な電力に集約しようという作戦です。一般に、一度動かしたら止めにくい、エンジンやタービン、ボイラーよりも、電力で動くモータや熱ヒータの方が利用状況に応じて止めたり、動かしたりし易いからです。そのうえで、発電での再生可能エネルギーの活用や、必要な時にだけ最も効率的な条件で機器などを動かし、省電力化を推し進めていきます。つまり、今後、電力で駆動する機器、設備、プラントは急増し、高い電力効率で動かしたい電気機器や電機設備が急増することを意味します。

電動化車両(xEV)や産業用モータの駆動装置、太陽光発電所のパワーコンディショナ、さらには産業機器・各種プラントの制御機器などには、車載充電器やDC-DCコンバータなど、多種多様な電力変換システムが搭載されています。ただし、電力変換時には電力の損失がつきものです。DC-DCコンバータの場合の変換効率は、一般に80~95%です。たとえ、1回の電力変換時の効率が低かったとしても、発電所で生み出した電力を、送電・配電し、利用するまでの間に、幾度も電力変換を繰り返すことになるため、約1/3が熱や電磁波となって損失しています。この損失分を、発電所の増設で補っていると考えれば、いかにムダが大きいかが分かります。損失の最小化は脱炭素化を推し進めるうえでの重要なポイントです。

そして、重要なことは、電力効率を高めるソリューションは、より高効率なものが求められるだけでなく、より多くの応用に適用できる必要があることです。たとえ劇的な高効率化が可能な技術であっても、その導入に要するコストが高くては、適用先が限定され、トータルな低電力化は実現できないからです。

SiCデバイスによる低損失化と、現実解としてのハイブリッドデバイス

電力変換システムを低損失にするための手段には、変換回路の構成を工夫する手法と、動作時の損失が少ないパワーデバイスを採用する手法があります。

そして近年、IGBTなど従来のシリコン(Si)ベースのパワーデバイスに代わって、シリコンカーバイド(SiC)ベースのパワーデバイスを利用できるようになりました。SiCデバイスは、Siデバイスよりもオン抵抗が低く、高温、高周波、高電圧環境での性能が優れています。これらの特長から、過酷な環境で利用することが多い自動車用や産業用の電力変換システムの構成に向く、次世代の低損失デバイスとして期待されています。

SiCデバイスは、太陽光や風力による発電設備でのDC/ACコンバータ、電気自動車もしくはハイブリッド車の車載充電器やパワーコンバータ、産業機器などのパワーインバータや電源、蓄電設備などへの応用が進んでいます。そして、ロームでは、650V/1200 V耐圧のSiCショットキーバリアダイオード(SBD)、650 V/750 V/1200V/1700V耐圧のSiC MOSFETを量産・提供しています。

現時点での電力変換システムの多くは、SiベースのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)もしくはSJ-MOSFET(Super Junction Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)をスイッチング素子として利用しています。このうちIGBTは安価に生産できる利点がありますが、モータやコイルなどの誘導性負荷に用いる際には、動作に還流ダイオードが必要になります。また、一般にIGBTはターンオフ損失に課題を抱えています。一方、SJ-MOSFETは、ターンオフ損失も少ないのですが、大電力対応が難しいという課題があります。これらに代えて、SiC MOSFETとSiC SBDを組み合わせて活用すれば、変換効率を劇的に低減できます。ただし、現時点では、素子を形成する基板であるSiCウエハーが極めて高価であるため、その適用先が限定されているのが現状です。

脱炭素化を積極的に推し進めていくためには、より多くの応用に適用できる、高効率と低コストを両立させた電力変換システム用のソリューションが不可欠です。そこで、ロームは、低コスト化に向くIGBTと高効率化をもたらすSiCデバイス双方の特長のいいとこ取りをし、ブレイクスルーとなるソリューション「Hybrid IGBT」を生み出しました。IGBTの還流ダイオードとしてSiC SBDを採用することによって、ターンオン損失を大幅に低減できます。ハーフブリッジ構成での還流側デバイス(Low side)のターンオフ特性が改善することで、スイッチング側デバイス(High side)でのターンオン時の損失が改善されます。そして、スイッチング素子自体には、SiC MOSFETよりも安価なIGBTを採用しているため、コストの低減が実現し、より多くの応用への適用が可能になります。

ロームのHybrid IGBTの性能と採用のメリット

IGBTの還流ダイオードは、IGBTの特性に合ったものを選択し、利用する必要があります。単に既存のSiベースのダイオードをSiCベースへと代えただけでは、十分な効率改善は実現しません。ロームの650V耐圧のHybrid IGBT「RGWxx65Cシリーズ」は、IGBTとSiC SBDの特性を擦り合せ、1パッケージ化しています。最も精緻な回路設計が求められる部分をデバイスレベルで最適化しているため、ユーザーは容易に高いコストパフォーマンスの電力変換システムを構成することが可能です。

RGWxx65Cシリーズを車載充電器に適用すると、従来品のIGBT比では67%の低損失化を、SJ-MOSFET比でも24%の低損失化を実現できます(図3)。変換効率についても幅広い動作周波数において97%以上の高効率を確保することが可能であり、動作周波数が100kHzの時にはIGBT比で3%増の高効率化を実現します。しかも、現在採用されているIGBT搭載回路と置き換えるだけで、こうした効率改善を得られます。車載信頼性規格「AEC-Q101」に準拠しており、車載・産業機器の過酷な環境下でも安心して使用できます。

ロームのHybrid IGBTは、より多くの自動車や工場での脱炭素化に貢献できる、導入効果の高いデバイスだと言えます。

本記事に関連するローム製品のご紹介

品名 耐圧
VCES(V)
コレクタ電流
IC@100℃
(A)
導通損失
VCE(sat)
Typ(V)
還流
ダイオード
AEC-Q101
準拠
パッケージ
RGW60TS65CHR 650 30 1.5 SiC SBD YES TO-247N
RGW80TS65CHR 40
RGW00TS65CHR 50

RGW40NL65CHRB
20 TO-263L
(LPDL)

RGW50NL65CHRB
25

RGW60NL65CHRB
30

☆:開発中 パッケージはJEDEC表記です。()内はROHMパッケージを示します。

※本Hybrid IGBT以外にも、還流ダイオードにSi-FRDを採用した製品、還流ダイオードの無い製品もラインアップしています。詳細は下記URLをご覧ください。
https://www.rohm.co.jp/products/igbt/field-stop-trench-igbt?SearchWord=rgw

「SiCダイオード内蔵IGBT」の関連記事

技術資料ダウンロードのご案内

ローム主催セミナーの講義資料やDC-DCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。

技術資料ダウンロード

ローム主催セミナーの講義資料やDC-DCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。