2021.04.27
・ブリッジ回路におけるデッドタイム設定は損失と安全性に関わるので十分な検討が必要。
・デッドタイムの最適値は、貫通せず最短となる時間。
・スイッチング素子のスイッチングスピードは温度やロットのばらつき等で変動するので、設計では最短時間に加えてマージンを持たせる。
ここでは、ブリッジ回路における最適なデッドタイムについて、どのように見積もれば良いかを検討します。
回路は、Power Device Solution Circuit/AC-DC PFCの一覧にあるシミュレーション回路「A-6. PFC CCM Synchro Vin=200V Iin=2.5A」を例にします(図16参照)。回路図の詳細は、こちらからも確認できます。
この回路は同期整流動作を行うので、ハイサイド(HS)とローサイド(LS)のSiC MOSFET SCT2450KEのデッドタイムの最適値、つまり貫通せず最短となる時間をシミュレーションを利用して検討します。デッドダイムは、シミュレータのPWMコントローラのパラメータ、TD1(HS)、TD2(LS)でそれぞれ設定できます。
図16:PFCシミュレーション回路「A-6. PFC CCM Synchro Vin=200V Iin=2.5A」
図17にデッドタイム期間における電流の流れを示します。ブリッジ構成の回路において、デッドタイムは貫通電流を防ぐために十分な長さを確保する必要がありますが、不必要に長く設定すると損失が大きくなります。これは、デッドタイム期間中はSiC MOSFETがOFF状態のため、ボディダイオードを通って電流が流れるからです。ボディダイオードは一般に導通損失が大きく、その導通期間が長いと損失が増加します。
図17:デッドタイム期間における電流の流れ
図18に、デッドタイムの長さとインダクタ電流ILの関係を示します。デッドタイムが長過ぎると、低電圧領域で不連続動作となりインダクタ電流波形が歪み、力率が悪化することがあります。よって、デッドタイムを不必要に長く設定することは、力率の観点からも好ましくありません。
図18:デッドタイムの長さとインダクタ電流ILの関係
図19に、デッドタイムを変化させた時のSiC MOSFETの損失シミュレーション結果を示します。
図19:デッドタイムを変化させた時のSiC MOSFETの損失シミュレーション結果
デッドタイムが50ns以下では、貫通電流が流れることで損失が急激に大きくなります。逆に、デッドタイムを長くすると、HSのSiC MOSFETのボディダイオードの導通時間が長くなるので、この条件でも損失が大きくなります。SiC MOSFETの損失が最小になるのは、デッドタイムが貫通電流の流れない最短の場合で、この例では100nsであることがわかります。ただし、スイッチングスピードは温度やロットのばらつき等で変動するので、一般的に100ns程度のマージンを見ておく必要があります。よって、この場合デッドタイムは200nsが最適と言えます。
ローム主催セミナーの講義資料やDCDCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。
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