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基礎知識

基礎編

モータドライバICの絶対最大定格

モータの仕様とモータドライバICの絶対最大定格の関係

モータを使う場合には、基本的にモータ駆動回路が必要です。モータの駆動回路はモータの種類、電力などの仕様、アプリケーションなどによって、ディスクリート構成からドライバIC、およびマイコンとの組み合わせなど様々です。モータドライブ基礎編では、代表的なモータの構造や動作原理から、基本的にはモータドライバICを利用した駆動方法を解説してきました。

今回は、モータドライバICを選択する際に必ず綿密にチェックしなければならない絶対最大定格について説明します。1つは、モータの視点からモータの仕様とモータドライバICの絶対最大定格対応について、もう1つはモータドライバICの各絶対最大定格の意味と注意点についてまとめました。

絶対最大定格とは

最初に絶対最大定格とは如何なるものかの確認をしておきます。この理解が不十分だと重大な事故につながる可能性がありますので、設計者でも使用者であっても正確な理解と厳密な適用が必要です。ここでは、モータドライバ前提ですが、絶対最大定格の定義はモータドライバに限らず、他の半導体デバイスに範囲を広げても同じです。

半導体デバイスの絶対最大定格に関しては基本的に、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしています。その定義は「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」とされています。解釈としては、「絶対最大定格にあるどの項目の値も、どんなに短い時間でも絶対に超えてはいけない」というものです。

実際的な考えたかや適用に関しては、Tech Web Motor TECH INFOのこちらのコラムで詳しく説明していますので参照して下さい。

モータの仕様とモータドライバICの絶対最大定格の関係

モータアプリケーションにおいてモータドライバICを選定する際には、基本的にモータの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバICを選ぶことになります。例えば、モータの使用電圧が24V±10%であればドライバICはこの上限をカバーする電源電圧定格を持っている必要があります。以下に、モータ仕様とドライバICの絶対最大定格関する主な関係を表にまとめました。条件によって他にも細かい留意事項がありますので、個々には検討が必要です。

※モータの例:24V複写機用ブラシレスモータ

項目 モータ仕様例 モータドライバICの絶対最大定格との関係
定格(電源)電圧 DC24V
  • ・使用電圧上限が絶対最大定格、許容損失を超えない範囲であること。
  • ・ターンオフの時のコイルのL成分による逆起電圧についても確認が必要。
  • ・実際の電源電圧はスタンバイ(無負荷)、スタート(負荷時)で変動するので、使用電圧上限の120%程度をICの絶対最大定格値とする。例:24V+10%=26.4V→32V以上が絶対最大定格の目安。
使用電圧 DC24V±10%
定格負荷/
負荷電流
60mN/1.2A以下
  • ・負荷電流以上の出力電流定格が必要。
  • ・定格電流にて連続通電した実際のモータ温度上昇による加味して、ICのTjが125℃以下で設計することが望ましい。ドライバICの絶対最大定格はTj=150℃の場合が多い。
起動電流 3A以下
  • ・電流値はLSIの絶対最大定格を超えないこと。
  • ・起動電流=絶対最大電流×0.8を目安。例:3Aであれば3.75A以上。
モータ巻線絶縁種 E種(120℃)
  • ・ドライバICには該当なし。
寿命 連続3000時間以上
  • ・モータの寿命(多くは軸受寿命)よりICの寿命は遥かに長いので考慮不要。
使用温度範囲 -5℃~+60℃、
  • ・許容差を考慮し仕様を満足すること。例:-20℃~+80℃、-40℃~+85℃
保存温度範囲 -30℃~+80℃、
  • ・許容差を考慮し仕様を満足すること。例:-55℃~+150℃

モータドライバICの絶対最大定格と注意点

モータドライバICの絶対最大定格と注意点を表にまとめました。一般的な注意点としては、絶対最大定格を超えた場合、ドライバICの特性劣化、寿命低下、破壊につながります。また、ドライバICの信頼性は、使用環境条件、例えば電圧、電流、温度、湿度などが絶対最大定格以内であっても条件が厳しいほど低下します。したがって、信頼性の高い設計には、定格に対してディレーティングを考慮する必要があります。

項目 内容 注意点
電源電圧
  • ・電源端子とグランド(GND)端子間に内部素子の特性劣化や破壊なしに印加できる最大電源電圧。
  • ・複数電源端子がある場合は各電源端子に対して規定される。
  • ・特性劣化や破壊が起こらない印加可能な電源電圧であり、正常に動作する電源電圧ではない。
  • ・ICの保証値を確保し正常動作させるには、動作電源電圧範囲で使用する必要がある。
出力電流
  • ・パワー段の出力端子、パワー段の電源端子とGND端子に、内部素子特性やボンディングワイヤーの劣化、破壊を起こすことなく流すことができる最大電流。
  • ・特に記載がない場合は連続的に流すことができる。
  • ・瞬時たりとも超えてはならない。
  • ・瞬時条件を規定し、値が大きい仕様もある。
  • ・パッケージの許容損失を超えないことと、ASO* を超えない値にする。
入力電圧範囲
  • ・出力端子の状態を制御するための各入力端子と入力回路のGND端子間に、内部素子の特性劣化や破壊を起こすことなく印加可能な電圧範囲。
  • ・最大値が「-0.3~Vcc」のように示されている場合は、実際のVcc電圧までが定格となる。
  • ・入力端子と電源端子間に静電破壊保護用ダイオードがある場合、入力端子電圧が電源端子電圧+ダイオードのVFを超え導通状態にならないようにする。
動作温度範囲
  • ・正常動作する周囲(もしくは接合部)温度の範囲である。
  • ・温度が周囲温度(Ta)か接合部温度(Tj)かを確認する。
保存温度範囲
  • ・IC単体で内部素子の特性劣化やパッケージ材料の劣化を起こさずに保存できる温度範囲。
  • ・接合部温度の絶対最大定格の記載がない場合、この最大温度が接合部温度の絶対最大定格になる。
許容損失
  • ・周囲温度Taが25℃でICが消費できる電力。
  • ・ICが電力を消費すると発熱し、接合部(チップ)温度Tjは周囲温度よりも高くなる。
  • ・Tjmaxの制限により消費可能な電力が決まる。
  • ・特定の基板に実装した場合、または単体での値であるため、実際に使用する基板の面積や厚さ、配線層の層数、面積、厚さ、スルーホールの取り方などで、許容損失は大きく変わる。
  • ・許容損失は一般に、内部の発熱と外部の放熱が均衡した時のθj-aを使用して求めているので、短時間の電力消費ではTjの上昇が小さいので熱抵抗が小さく見え、損失可能な電力が大きくなる。
  • ・短時間の許容損失は個々の過渡熱抵抗データを用いて判断する必要がある。
接合部温度
  • ・ICチップ(接合部)の最大許容温度(Tjmax)。
  • ・ICの電力消費によるチップの発熱にTaを加算した温度で、消費電力の確認と放熱設計が必要。

* ASO:Area of Safety Operation:安全動作領域。SOA(Safety Operation Area)と呼ぶこともある。絶対最大定格ではないが、関連する定格に基づく。

右のグラフが示す曲線の内側(値の低い側)がASOで、ドライバICであれば出力段トランジスタの安全な動作領域を示しています。定格電流で制限される領域④と定格電圧で制限される領域①の内側で、許容損失で制限される領域③と、さらにバイポーラ素子では2次降伏により電圧と電流が定格内でも破壊する領域②の制限を受けます。またMOSFETにおいても発熱点の集中によりバイポーラ素子の2次降伏と同じような領域②を持つ場合があります。

ASO:Area of Safety Operation:安全動作領域のグラフ。SOA(Safety Operation Area)と呼ぶこともある

特にインダクタンス負荷で使用する場合、電圧と電流間に位相差が生じるため、過渡的に電圧、電流の両方が加わることがあり、その際にASO範囲内であるかの確認が必要になります。過渡現象の波形を観察し、電圧と電流が同時に印加されている時間がどのくらいあるか測定し、各ドライバICの出力段トランジスタのASOデータと比較して確認します。

キーポイント

  • ・半導体デバイスの絶対最大定格は、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしている。
  • ・絶対最大定格の定義は、「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」。
  • ・モータドライバICを選定では、基本的にモータの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバICを選ぶ。
  • ・絶対最大定格を超えた場合、ドライバICの特性劣化、寿命低下、破壊につながる。
  • ・ドライバICの信頼性は、使用環境条件によって絶対最大定格以内であっても、条件が厳しいほど低下する。