レーザーダイオード|基礎編
レーザーダイオードの特性・使用上の注意・駆動回路設計
2025.03.21
レーザーダイオード(半導体レーザー、LD)は、電気エネルギーを高出力の光エネルギーに変換する半導体で、高いコヒーレンス性とスペクトル幅が狭く指向性の高い発光を特長とします。通信、医療、産業用切断・溶接などさまざまな用途・市場で広く利用されますが、過電流や静電気、発熱に対しては注意が必要となります。駆動回路設計においては適切な電流制御と熱管理が求められ、レーザーダイオードの保護回路や冷却システムの導入が推奨されます。この記事では、レーザーダイオードを使用する際に知っておきたい注意事項などをまとめています。
レーザーダイオードの特性
はじめにレーザーダイオードの基本的な特性について説明します。その後、データシートでも用いられている特性を示す用語・記号について解説、最後にパッケージ内部の回路構成を紹介します。レーザーダイオードを使用・選定される際にご参考ください。
レーザーダイオードの基本特性
1. 光出力 Po
レーザーダイオードの最も基本となる特性です。光出力Poとは、レーザーダイオードの順方向に、ある大きさの電流を流したときに出力される光の大きさのことで、単位は[W]で示します。これをグラフに示したものを “I-Lカーブ(光出力-順電流特性)” と言います。I-Lカーブから分かるように、ある電流を流したときに得られる光出力は、温度が高くなるほど小さくなります。つまり、温度が高くなるほど一定の光出力を得るために必要な電流は大きくなるということです。
下記の例では、25℃のとき、光出力5mWを得るために必要な電流が30mAであるのに対して、70℃のときは同じ光出力を得るために44mAを流す必要があることが読み取れます。
例:RLD65NZX2

レーザーダイオードの光出力の大きさは製品によって異なりますが、現在、数mW~数百Wまで量産化されています。用途に合わせて必要となる光出力のレーザーダイオードを適切に選択することが重要です。
2. 発振波長 λ(発振スペクトル)
波長は、レーザーダイオードから放出される光の色は周波数を示す指標で、実際にレーザーダイオードを使用する場合に重要な特性です。単位はnm(ナノメートル)で、波長が短ければ紫外線(UV)や青色光に近く、波長が長ければ赤外光(IR)に近い光となります。
レーザーダイオードにおいては、特定の波長によって通信の電波特性や特定の物質に対する吸収、反射率が異なるなど、その使用用途によってそれぞれの特性に合わせた波長が求められます。
また、使用に際しては、発振波長の温度依存性、光出力依存性を考慮する必要があります。チップのジャンクション(活性層)温度が上がると共振器長が物理的に伸び、屈折率が大きくなるために、光出力が大きくなるとケース温度が上がり発振波長は長くなる傾向にあります。

3. ファーフィールドパターン(FFP:Far Field Pattern)
一直線の平行光をイメージされることが多いレーザー光ですが、実はレーザーダイオードから発振される光は広がりを持っています。レーザーダイオードのチップ端面より十分離れた場所に放射された光の強度分布を、ファーフィールドパターンと呼びます。
レーザー光は完全な直線光ではなく、回折することにより広がりながら進みます。チップ内の共振器(活性層とストライプ)は、垂直方向は数10nm、水平方向は数μmでつくりこむため、一般的にファーフィールドパターンは活性層に対し垂直方向の方が水平方向よりも大きくなります。


レーザーダイオードの特性の定義
●Absolute Maximum Ratings(絶対最大定格):
絶対最大定格は、いかなる外部条件のもとでも瞬時たりとも、決して超えてはならない値です。ケース温度Tc=25℃における値で規定されています。
●光出力(Po (max.)):
連続動作させた場合の最大許容出力です。光出力-順電流特性において、この光出力まではキンク(曲り)はありません。(図1)
図1
●逆耐圧(Vr):
製品に逆バイアスが加わる場合の最大許容電圧です。レーザーとフォトダイオードは別々に規定されます。
●動作温度(Topr):
製品を動作させる場合に許容される周囲温度です。製品のケース温度で定義します。
●保存温度(Tstg):
製品を保存する場合に許容される周囲温度です。
●Characteristics(電気的・光学的特性):
Conditionsに記載の条件でレーザーダイオードを駆動したときの特性を示しています。
●しきい値電流(Ith):
図2において、Aは自然発光領域、Bはレーザー発振領域に区別されます。レーザー発振を開始する電流値がしきい値電流です。レーザー発振領域の電流―光出力直線の延長線とX軸との交点をIthと定義しています。
●動作電流(Iop):
定められた光出力を出すときに必要な順方向電流です。
●動作電圧(Vop):
定められた光出力を出すときの順方向電圧です。
●微分効率(η):
単位駆動電流当たりの光出力の平均増加値です。レーザー発振領域での順方向電流に対する光出力直線の傾きを示します。(図2)
図2
●モニタ電流(Im):
定められた逆電圧をモニタ用フォトダイオードにかけた状態で、定められた光出力を出すときのフォトダイオードの出力電流です。
●水平広がり角(θ//)・ 垂直広がり角(θ⊥):
レーザーからの放射光は図3のように広がります。この分布を接合面に対して水平方向(x方向)、垂直方向(y方向)で測定すると図4のようになります。この分布のピーク強度の1/2での広がり幅(半値全角)をθ//、θ⊥といい、角度で定義します。
図3:放射特性
図4:放射特性
●水平方向光軸傾き(Δϕ//)・ 垂直方向光軸傾き(Δϕ⊥):
基準面に対する光軸のずれを表します。水平方向、垂直方向の広がり角分布(図4)において、 共に(a-b)/2で定義します。(図5)
図5:光軸傾き
●発光点位置(ΔX, ΔY, ΔZ):
発光部の位置ずれを表します。ΔX、ΔYはパッケージのセンターからのずれ、ΔZは基準面からのずれを表します。(図6)
図6:発光点位置
●発振波長(λp):
定められた光出力を出すときのピーク発振波長です。発振スペクトラムには図7のようにシングルモードとマルチモードがありますが、マルチモードの場合は、スペクトラムの最大光強度の波長で定義します。
図7:発振スペクトル特性
●電力変換効率(PCE):
電気エネルギーをどれだけ効率よく光に変換できるかという指標です。
●非点隔差(As):
レーザーダイオードの発する光の焦点が、垂直方向と水平方向で異なる位置に形成される現象を指します。この2つの焦点間の距離を非点隔差 (Astigmatism, As) と定義しています。非点隔差はレーザー光のビーム品質や形状に大きく影響を与えることがあるため、この値は最小限に抑える必要があります。

レーザーダイオードのパッケージ内部構成と回路
レーザーダイオードのパッケージの内部構成は、フォトダイオードを内蔵するものと内蔵しないものの2つに分けられます。フォトダイオードはレーザーダイオードの光出力を一定に保つためのモニタリング用に使用されます。
3pinパッケージを例にすると、ロームではレーザーダイオードのパッケージを上(レーザー光の出射方向)から見て、時計回りに1,2,3ピンとしています。そのうち3ピンはレーザーダイオードとフォトダイオードの共通する端子であるため、一般的にコモンピンと呼ばれます。
【3pinパッケージの例】

各製品によってレーザーダイオード・フォトダイオードの極性(パッケージ内部回路)が異なります。ロームのレーザーダイオードの形名は下記の構成になっており、左から6番目の文字が極性を意味しています。

レーザーダイオードの使用上の注意点
レーザーダイオードは非常に繊細なデバイスであり、使用時にはいくつかの注意点があります。そのうち特に重要なポイントとして、絶対最大定格を超えないこと、サージ電流対策、静電気対策(ESD)、適切な冷却システムの導入による温度管理、そして高出力光に対する安全対策が必要です。レーザーダイオードを使用の際は次のことに注意いただき、安全にご使用ください。
絶対最大定格
レーザーダイオードは、最大定格を超えて動作させると瞬時に破壊したり劣化を誘発したりし、製品の信頼性が著しく低下します。瞬時たりとも規定の最大定格を超えないようにしてください。
(1)電源スイッチのオン・オフ時等に発生するサージ電流によって素子が破壊することがあります。使用の際、必ず電源の過渡特性をチェックして、サージ電流レベルで最大定格を超えないことを確認してください。
(2)最大定格は、ケース温度25℃における値で規定されています。温度が高くなるにつれて最大光出力や許容損失が低下し、動作範囲が限定されます。定格値を考慮した設計を行ってください。
静電気・サージ破壊対策
レーザーダイオードは、静電気などサージ電流が加わると、光学的な損傷(COD*)が発生しやすい特性があります。そのため、他の一般的なディスクリート製品と比較すると、静電気耐性(ESD*レベル)が非常に低く、より慎重な取り扱いが求められます。レーザーダイオードの順方向にサージが入ると、発光部に過剰な光密度が集中する過発光により、発光部や出力面が損壊して発光効率の低下や完全な動作停止が起こります。CODは一度破壊が起こってしまうと破壊前の光学特性が得られなくなる、深刻な永久的な損傷です。短時間で発生するため、予防策が重要となります。
*ESD:Electro Static Dischargeの略 静電気放電の意味
*COD:Catastrophic Optical Damageの略 端面の光学的な破壊が起こること

CODを防ぐためのポイント
レーザーダイオードの静電破壊の原因の多くは「自分の身体に生じた静電気」や「装置電源のオン/オフ時のスパイク電圧」によるサージ電流印加です。レーザーダイオード取り扱いの際は、次のような対策を行ってください。
-
1.作業環境
機器及び回路はアースを施し(アースラインからノイズが入らないよう確認)、各電源入⼒部にノイズフィルター、ノイズカットトランスなどのサージ静電気対策を⾏う。 -
2.作業者
静電気対策のされた作業服、帽⼦、靴を着用する。特に作業中は、必ずアースバンドを装着し、⾼抵抗1MΩを介して人体をアースする。 -
3.運搬、保管ケース
帯電防⽌処理の施されたものを使用する。 -
4.その他
電源オン/オフ時に過大なスパイク状のサージ電流が流れると、レーザーがダメージを受け劣化の原因となるため⼗分に注意する。
蛍光灯グローランプのようなものの近くでは使用を避ける。(⾼周波サージが発⽣する機器の近くでは、誘導サージによりレーザーが劣化、破壊することがあるため)

高温対策(放熱について)
レーザーダイオードは⼀般の半導体同様に⻑時間通電に従いジャンクション部で発熱が起こり、素⼦温度が上昇します。放熱が⼗分でないと、ケース温度が上昇して光出⼒が減少するため、定められた光出⼒を維持するためにはより多くの電流を流さなければなりません。順電流の上昇はケース温度のさらなる上昇を引き起こし、更に順電流の上昇という悪循環が⽣じます。
そのためレーザーダイオードのステムに、アルミなどの放熱板(30x30x3mm 以上のもの)を密着させて使用してください。
安全性の確保について
レーザーダイオードの出射光は誤った使い方をすると、人体に影響を及ぼす可能性があり非常に危険です。レーザーダイオードの出射光を直接見たり、レンズを通して見たりすると失明の恐れもあります。また、出力の大きなレーザー光の場合、皮膚に当たることでやけどなどの炎症を起こす恐れがあります。目に見えない赤外線や紫外線も危険性は可視光と同様です。目に見えないから安全なのではなく、むしろ細心の注意を払って取り扱う必要があります。光軸調整を行うときはTVカメラなどを用い、決してレーザー光を直接見たり、人に当てたりしてはいけません。
ロームのレーザーダイオードは光出力・波長に応じてクラスⅢb、Ⅳに分類されており、データシート及び製品を梱包している袋には下図のような警告ラベルが表示されています。

パッケージの取り扱い
⾼所から落としたり、過度な圧⼒をパッケージに加えたりしないでください。リードを曲げるフォーミング加⼯によってガラス封⽌部を破損したり、パッケージ内のリードに応⼒を加えることでワイヤーを切断したりすることがないように、⼗分留意してください。
・ガラス窓付き品の場合
レーザーダイオードのガラス窓部には決して触れないでください。ガラス窓部にキズ、汚れがあるとレーザーの光学特性が変化します。
・オープンパッケージ品の場合
外部環境によって特性や信頼性が低下する可能性があります。トナーや人的異物、煙草の煙を含む異物、イオンによる腐⾷、接着剤やフラックスの揮発成分による影響、結露、光ピンセット効果などについて、十分に対策してください。また、レーザーチップ発光部を含むキャップ内の構成部品に触れる事がないように注意してください。
偏光特性について
偏光とは、電場及び磁場の振動する方向が規則的な光のことです。レーザーダイオードの光は偏光特性を持っており、レーザーダイオードのチップの接合面に平行な方向に電場が振動している場合をTE(Transverse Electric wave)モード、接合面に垂直な方向に電場が振動している場合をTM(Transverse Magnetic wave)モードと言います。TEモード、TMモードは製品によって異なります。偏光光学部品を使用する場合には注意が必要です。
光出力測定について
レーザーダイオードの光出力の測定には光パワーメーターという、光信号の強度を定量的に測定するための電子テスト装置を使用します。
【測定準備】
・使用する波長に対して光パワーメーターを適切に設定・校正する。
・安定した温度環境で動作させるために、レーザーダイオードに放熱板を取り付け、温度コントローラを使用する。
【測定手順】
・光パワーメーターの受光面にレーザー光の全光束が入射するように受光面を調整する。
・光パワーメーターの受光面からの反射光がレーザーダイオードに戻らないよう、受光面を光軸に対して5~20°傾ける。
・レーザーダイオードに電流を注入し、光パワーメーターで出力光パワーを測定する。
・測定した光出力を記録し、必要に応じてグラフ化してI-L特性を作成する。
I-L特性(注入電流(I)と光出力(L)の関係)
(I-L)特性は、順方向電流(IF)と光の出力(PO)の関係、つまり電流が増加するにつれて光出力がどのように変化するかを示しています。この特性から、レーザーダイオードが発振を開始する閾値電流(Ith)や動作電流(Iop)を確認できます。また、モニタ電流(Im)は、レーザーチップの後面から放射されたレーザー光を、内蔵されたフォトダイオードで検出した際に得られる電流を指します。
I-L特性を測定することで、レーザーダイオードの性能や動作状態を評価でき、最適な動作条件を判断できます。

レーザーダイオードの基本の駆動回路
レーザーダイオードの駆動方法は大きく分けてCW駆動(連続波駆動)とパルス駆動の2種類があります。CW駆動は、一定の出力を連続して発振することで安定した光出力を得られる駆動方式で、パルス駆動は短い電流印加時間(パルス)で出力することでピーク強度が非常に高出力となります。
CW駆動
CWとは「連続波:Continuous Wave」の略であり、CWレーザーは一定の出力を連続して発振するレーザーです。安定した光出力を得られるのが特長です。可視光や赤外光など幅広い波長帯の製品があり、市場での用途は多岐に渡ります。

主な波長帯:可視光から近赤外光
主な光出力:数mW ~数W
駆動方法 :CW駆動 (APC駆動方式、ACC駆動方式など)
主な用途 :レーザーポインタ、墨出器、レーザービームプリンター、光ディスク、センサ用光源
パルス駆動
短い電流印加時間(パルス)で出力を発振するのがパルスレーザーです。一定の繰り返し周波数で発振する場合や、短パルスで発振させる場合があります。ピークの光出力強度を高くでき、レーザー光を遠くまで届けられるため、長距離を測定するためのセンサ用光源として近年特に需要が高まっています。

主な波長帯:近赤外光
主な光出力(ピーク) :数W~数百W
駆動方法 :パルス駆動(電流共振型、矩形波型など)
主な用途 :LiDAR、ToF用光源
CWレーザーダイオードの駆動回路
CWレーザーダイオードの駆動回路は主にAPCとACCの2種類があります。
APC (Auto Power Control)
レーザーダイオードのパッケージに内蔵されたPD(フォトダイオード)のモニタ電流を観測し、光出力が一定になるようにLD駆動電流を制御する制御方式です。
【APC駆動回路の例】

ACC (Automatic Current Control)
レーザーダイオードに流す電流を一定に保つ制御方式です。
※ACC駆動回路の注意点
一定の電流を注入した時、レーザーダイオードの光出力は温度によって変化します。ACC回路で光出力を一定に保つためには、レーザーダイオードの温度コントロールが必要です。そのため、一般には周辺温度が変動しても常に一定光出力が得られるAPC回路が使用されます。
【ACC駆動回路の例】

パルスレーザーの駆動回路
パルスレーザーダイオードの駆動回路にはさまざまなものがありますが、ここでは電流共振型駆動回路について紹介します。電流共振型の回路は短パルスで高出力化しやすいという特徴があります。
【電流共振型駆動回路の例】
