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2021.08.17 EnOcean
今回は、前回説明したソーラーセルの発電特性を踏まえて、開閉センサとして磁気式コンタクトセンサを搭載したマグネットコンタクトモジュールSTM 429Jを例にした、エネルギーバジェットの計算例を示します。
エネルギーバジェット計算例:STM 429Jの例
以下の図は、マグネットコンタクトセンサSTM 429Jがテレグラムを送信する際の電流消費量を示しています。波形より、合計3回のサブテレグラム送信を行った後に、スリープ状態に入ることが示されています。
マグネットコンタクトモジュールSTM 429Jの電流消費量
この波形の面積(積分値)が、テレグラム送信に必要な電荷量を表しています。STM 429Jのユーザーマニュアルには、1回の開閉検知とテレグラム送信にかかる電荷量は約80μC、1回の開閉検知のみでテレグラム送信なし*1の場合は約10μCであることが記述されています。 *1:実際にはこの動作モードは実装されていない。
この情報を基に、STM 429が満充電から下記条件でどの程度動作するかを考察して行きます。
0 lx条件下(暗所)での送信回数
0 lx条件下(暗所)での満充電からの動作時間(Dark timeと呼ばれることもある)については、STM 429Jユーザーマニュアルに以下のような数値と条件の記載があります。
マグネットコンタクトモジュールSTM 429JのDark Time
この記載からSTM 429は、0 lx下では1,500秒ごとの送信で、175時間の動作が可能なことがわかります。これより、送信回数を逆算すると、以下のようになります。
0 lx(暗所):420回(=175時間÷1,500秒)
これは、開閉1回(=開1回+閉1回)の送信が、1,500秒に1度行われるという仮定のもとでの試算です。実使用ではこの条件とは限らないので、開閉頻度(すなわち送信間隔)に応じて動作可能時間は変わってくることになります。開閉頻度に応じた計算方法を以下に示します。
まず、満充電からの最大動作時間・送信回数を算出するためには、ソーラー発電によって得られたエネルギーを貯める蓄電キャパシタの動作上限・下限の仕様と、その貯めたエネルギーを消費する側の仕様(具体的には、1回のテレグラム送信にかかる電流と、送信と送信の間で消費されるdeep sleep電流)を明確にする必要があります。先に示したDark Timeの図の下部にある記載事項を参照して、これらを割り出します。以下、ポイントになる記載事項の抜粋と、最大動作時間・送信回数の算出の流れです。
以上より、開閉頻度をf [Hz]、その周期をT(=1/f)[s]とすると、0 lx時の開閉回数は以下の式で表すことがきます。
0 lx時の開閉回数 [回]=消費可能な電荷量÷(1テレグラム送信に必要な電荷量+deep sleep電流×Ts)
=225mC÷(160μC+0.251μA×Ts)
またこのときの平均消費電流は、以下のようになります。
平均消費電流 [µA]=160µC÷Ts+0.251µA
100 lx、200 lx、400 lx条件下での送信回数
各照度におけるソーラーセルの発電量Y [μA]と、連続動作可能な限界開閉周期T [s]は、以下のようになります。なお、ソーラーセルの発電量は前回の考察で導出した以下の式を用います。
Y=0.025X ※Y:発電量 [μA]、X:照度 [lx]
●ソーラーセルの発電量Y [μA]
●連続動作可能な限界開閉周期T [s]
100 lxを例に挙げると、もし想定される開閉周期が71秒以上に1回であれば、連続動作が可能(つまり送信回数の上限なし)となり、送信し続けることが可能であることがわかります。ちなみに、STM 429Jは開閉操作に関わらず1,500秒に1度必ずその時点での開閉状態が送信されるので留意願います。
上記より、開閉頻度をf [Hz]、その周期をT(=1/f)[s]とすると、各照度における送信回数は以下のようになります。
●各照度における送信回数
以上が、STM 429Jのエネルギーバジェットの考え方です。今回は照度を100 lx、200 lx、400lxという代表値にして送信回数を算出してきましたが、この考え方を応用すれば反対に開閉頻度と目標送信回数を設定して、それに必要な照度を逆算することも可能になります。
・マグネットコンタクトモジュールSTM 429Jを満充電から動作させる照度の条件を0 lx(暗所)、100 lx、200 lx、400 lxとした場合の、送信可能な開閉回数とその算出方法、動作時間(連続動作の可否)の算出方法を示した。