光センサ|基礎編

フォトカプラとは?動作原理や使い方、選定方法を解説

2024.06.26

絶縁状態で信号を伝達する際に利用されるフォトカプラ。古くからさまざまな分野で利用されている重要な素子ですが、細かい動作原理や使い方、選定方法などの理解に不安があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、概要から動作原理、種類、特性、用途、選定方法まで基本となる知識を解説します。本記事でフォトカプラに関する理解を深め、フォトカプラを使いこなしましょう。

フォトカプラとは

フォトカプラとは、光信号を用いて入力から出力に信号を伝達できる素子であり、その仕組みによって、2つの絶縁された回路間で電気信号の伝送を可能にする半導体デバイスです。

オプトカプラやフォトアイソレータ、またはオプティカル(光結合)絶縁などとも呼ばれます。
また、英語では、「optocoupler」という呼称が一般的に使用されています。

フォトカプラは光信号を用いて信号を伝達するため、回路が絶縁状態でも信号を伝達できるのが特徴です。フォトカプラは発光ダイオード(LED、IR-LED)などの発光素子と、フォトトランジスタ、フォトダイオードなどの受光素子で構成されており、外部からの光が入らないようにパッケージングされています。

その他の光半導体デバイス

フォトカプラは光半導体デバイスの一種ですが、光半導体デバイスには大きく分けて発光デバイス、受光デバイス、光複合デバイス、光通信用デバイスの4種類があります。発光デバイスはLEDなど光を発するデバイス、受光デバイスはフォトダイオード・フォトトランジスタなど光を受け取るデバイス、発光デバイスと受光デバイスを組みあわせて信号伝達を行うのが光複合デバイスにあたります。フォトカプラも光複合デバイスの一種です。

  • 発光デバイス:光を発するデバイス(LED、IR-LED、レーザーダイオードなど)
  • 受光デバイス:光を受け取るデバイス(フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトサイリスタ、フォトトライアック、撮像素子など)
  • 光複合デバイス:発光・受光デバイスを用いて信号伝達を行うデバイス(フォトカプラ、フォトリレー、フォトインタラプタなど)
  • 光通信用デバイス:光信号を用いてデータ伝送を行うデバイス(光ファイバー用レーザーダイオードチップなど)

フォトカプラの動作原理

フォトカプラは、以下の流れで信号伝達を行います。

  • 1.入力された電気信号を、発光素子を用いて光信号に変換
  • 2.発光素子と受光素子を用いて、光信号を伝達
  • 3.受光素子を用いて、光信号を電気信号に戻して出力

フォトカプラでは、入力・出力側ともに電気的に分離されており、絶縁状態で信号を伝達できます。フォトカプラで用いられる発光素子はLEDやIR-LEDですが、受光素子はフォトトランジスタ、フォトダイオード、フォトトライアックなどさまざまです。フォトカプラと一括りにまとめられる場合もありますが、それぞれの特性を理解しておくと良いでしょう。それぞれのフォトカプラの詳細は「フォトカプラの種類」で解説します。

また、フォトカプラと同じ原理を持つ光複合デバイスにフォトインタラプタがあります。フォトインタラプタは、発光素子と受光素子の間に通した遮光物体を検知するセンサーとして用いられ、自動販売機やATMなどで硬貨・紙幣を検知する際に利用されています。

・フォトカプラの信号伝達イメージ

・フォトカプラの回路図

フォトカプラの種類

フォトカプラは、受光素子の違いにより、主に以下の4種類に分類されます。それぞれのフォトカプラの特徴を解説します。

トランジスタ出力

受光素子にフォトトランジスタを用いた最も一般的なフォトカプラです。最初に生まれたフォトカプラであり歴史が長く、価格が安価で汎用性が高いという特徴があります。従来は変換効率が悪い、耐圧性能が低いなどの課題がありましたが、高変換効率、高耐圧を備えた製品も開発されています。

IC出力

受光素子を集積化したフォトカプラです。受光素子を集積化することで、通常のフォトカプラよりも遅延が少なく、通常では数kHz〜十数kHzの信号伝送しかできないのに対し、数十MHzの高周波信号にも対応している点が特徴です。

トライアック出力

出力にトライアック(サイリスタ)を利用したフォトカプラで、トライアックカプラとも呼ばれます。耐圧性能の高いトライアックを利用しており、家庭用・オフィスや工場などで利用される商用電源に接続するスイッチ素子として用いられます。トライアックカプラ単体では100mA程度の電流が限界ですが、フォトカプラの外部にトライアックを追加することで数A程度の電流を制御可能です。

MOSFET出力(フォトリレー出力)

出力にMOSFETを用いたフォトカプラで、フォトリレーとも呼ばれます。フォトリレーはAC-DCいずれの負荷にも対応しており、メカニカルリレーと比べて長寿命かつ高速・低ノイズ・静音である点が特徴です。単純なスイッチ機能のみではなくアナログ信号の切り替えにも利用されます。

フォトカプラの特性・メリット

フォトカプラの特性やフォトカプラを用いるメリットを4つ解説します。

絶縁状態で信号伝達ができる

フォトカプラは光を用いて信号を伝達するため、回路を絶縁状態にできます。そのため、GNDや電源電圧が異なる回路でも簡単に信号伝達ができます。また、回路を絶縁状態にすることで、隣接した回路間で予期せぬ電流が流れ込むことによる故障防止、感電防止などの安全対策においてもメリットがあります。

ノイズの影響を受けにくい

フォトカプラはGNDを含めて電気信号を絶縁できるため、ノイズの影響を低減できます。ノイズの影響を受けにくくなることで、安定した動作が可能になり、誤動作や故障の防止につながります。例えば、工場などで利用されるモーターはインバータで回転速度を制御しながら駆動していますが、高出力なために大きなノイズが発生します。ノイズがモーター自体や周辺機器に影響を及ぼすのを防ぐために、モーターの駆動システムにフォトカプラが利用されるケースも多いでしょう。

価格がリーズナブルで種類も多い

フォトカプラは構造がシンプルで価格がリーズナブルな点もメリットです。古くから利用されているために、各メーカーの製品ラインアップも豊富で、回路や機器にあわせた製品を選定しやすいでしょう。

寿命が長い

フォトカプラは物理的な接点や機械的な駆動がないため、パーツの摩耗による破損が生じにくく寿命が長い点も特徴です。物理的な接点や機械的な駆動を持つ部品に比べれば、寿命が長く安定した性能を保てるでしょう。ただし、LEDのエージングや焼けによる経年劣化には注意が必要です。LEDの経年劣化により発光効率が落ちれば、その分出力も弱まってしまいます。

フォトカプラの用途と製品例

ここまで解説してきたフォトカプラが、実際にどのような用途や製品で利用されているのかをご紹介します。

フォトカプラの用途

フォトカプラは主にスイッチング素子として使用され、以下のようなシーンで使用されます。

  • ・回路間を絶縁した状態で信号伝達を行うとき
  • ・基準電位(GND)が異なる回路間で信号伝達を行うとき
  • ・異電圧で信号伝達を行うとき

例えば、DC-DCコンバータの制御回路で、入力・出力を絶縁し出力電圧の誤差を増幅するために、フォトカプラとシャントレギュレータを用いた方式がよく採用されています。

フォトカプラと抵抗

フォトカプラを用いる際、入力側に抵抗が利用されることがあります。抵抗を利用する意味は2パターンあり、入力に対して抵抗を直列か並列いずれで接続するかによります。直列に接続する場合、電流制限抵抗とも呼ばれ、定格以上に入力電流が流れることを抑えるために用いられます。一方、並列に接続する場合は、他の素子から流れてくる微弱な電流でフォトカプラが動作しないようにするために用いられます。

フォトカプラが利用されている製品例

フォトカプラが利用されている製品には、医療用電子機器やPLC、音響機器、情報通信機器などがあります。

・医療用電子機器

医療用電子機器で患者の身体と触れる機器にはフォトカプラが用いられています。患者の身体に接触した際に、接触した部位から感電しないよう絶縁するためです。フォトカプラには国際規格をはじめ各国で安全規格が定められており、安全規格をクリアしたフォトカプラが利用されています。

・PLC

製造業で利用されるPLCシーケンサの入力配線にはフォトカプラが用いられています。PLCは工場内のさまざまな機械の動作を制御する装置です。そのため、PLCは工場内にあるさまざまな負荷と接続して利用することになります。負荷が動作する際には多くのノイズが発生しますが、それがPLCに届くと不具合や故障の原因となり、最悪工場内の機械が制御できなくなってしまいます。それを防ぐために、PLCの入力配線にフォトカプラを用い、ノイズを遮断する仕組みが用いられています。

・音響機器

ノイズの影響を受けやすいアンプなどの音響機器や情報通信機器にもフォトカプラが用いられています。フォトカプラを利用すれば絶縁状態で信号を伝送でき、ノイズの影響を軽減できるためです。音響機器や通信機器は特にノイズの影響を受けやすいため、フォトカプラを用いてノイズ対策が行われていることが多くあります。

フォトカプラの選び方

フォトカプラを選定する際に確認するポイントを解説します。

ノーマリーオープンとノーマリークローズの違い

フォトカプラには、電圧を印加しない状態だとスイッチがオフ、印加するとオンになるノーマリーオン(ノーマリーオープン)と電圧を印加しない状態だとスイッチがオン、印加するとオフになるノーマリーオフ(ノーマリークローズ)があります。ノーマリーオンとノーマリーオフでは動作が逆になるため注意が必要です。回路にあわせ、ノーマリーオンとノーマリーオフどちらが必要なのかを確認して購入するようにしましょう。

CTR(Current Transfer Ratio)のランク

フォトカプラの重要なパラメータに電流伝達率(CTR)があります。CTRとは、LEDの入力電流に対するコレクタの出力電流の比率です。CTRはフォトトランジスタの構造によって大きく異なることに加え、同じフォトトランジスタであっても素子によって差が出ます。また、連続稼働時間や周囲温度や経年劣化などによってもCTRの値は変動します。 このようにCTRにはばらつきがあるものですが、フォトカプラにはCTRのばらつきによってランクがあります。フォトカプラを選定する際は、データシートのCTRのランクを確認したうえで適切なものを選ぶようにしましょう。また、CTRが足りない場合は、増幅回路を追加する、ダーリントン接続したフォトカプラを使用するなどの設計を行うと良いでしょう。

必要な出力電流と定格の確認

CTRのランクや最大オン電流の範囲内であっても、実際に入力・出力できる電流には定格があります。フォトカプラを利用する際には、あらかじめ必要な出力電流を確認し、それにあわせた製品を選定しましょう。必要な出力電流に応じた電圧を印加する必要がある点にも留意し、データシートを基に余裕をもった定格の製品を選ぶことが大切です。

フォトカプラ不要の製品も検討する

フォトカプラは安価で汎用性の高い製品ですが、留意点としてLEDやIR-LEDの経年劣化があること、消費電力が比較的大きいこと、信号の応答速度がそれほど早くないことなどが挙げられます。消費電力や応答速度を改善した素子が登場しており、必ずしもすべての回路に高速な応答が求められるわけではないため、後者二つはデメリットと言えないレベルになっていますが、経年劣化は大きなポイントでしょう。産業機器などの耐用年数が長い機器の場合、フォトカプラが先に来てしまい、使用している電源モジュールやユニットを交換する必要がでてきます。

そのような負担を減らすために、用途に応じてフォトカプラ不要の製品を検討するのも手でしょう。フォトカプラが不要となり電源の寿命が伸びれば、機器の維持にかかるコストを削減できますし、部品数が減ることで設計も簡単になります。

▼消費電力の大きさや温度による検知精度の変化、経年劣化などを改善した絶縁型DC-DCコンバータについては、こちらをご覧ください。
https://www.rohm.co.jp/news-detail?news-title=2022-11-17_news_dcdc&defaultGroupId=false

▼フォトカプラレスでゼロクロス検知が可能なICについては、こちらをご覧ください。
https://www.rohm.co.jp/news-detail?news-title=2020-07-14_news_ac-zero-cross&defaultGroupId=false

フォトカプラの理解を深めてフォトカプラを活用しよう

フォトカプラとは、光信号を用いて絶縁状態でも信号を伝達できる素子です。フォトカプラは絶縁状態で信号伝達ができるため、異電圧の回路間での信号伝達が容易であり、機器の故障や感電防止のリスクを低減できます。また、ノイズに強く、価格がリーズナブルでさまざまな製品が登場している点もフォトカプラの大きな特徴です。フォトカプラには受光素子によってさまざまな種類があるため、それぞれの受光素子による違いをおさえておきましょう。

また、近年では従来フォトカプラが抱えていた課題を解決する技術が開発されており、小型化・消費電力の改善・経年劣化による影響の改善などが進んでいます。一方、そもそもフォトカプラを不要とする製品の開発も進んでいます。フォトカプラが不要となれば、その分経年劣化によるメンテナンスや回路設計の手間を削減できます。今後は、回路の用途にあわせ、フォトカプラの要・不要を使い分けることが重要になるでしょう。