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技術トレンド 工場のさらなるスマート化を後押しする1700V SiC-MOSFET内蔵AC-DCコンバータIC

2022.06.27

この記事のポイント

・あらゆる業界の工場で生産ラインのスマート化が進み、ライン上の装置・設備の横に高度な情報通信機器を導入する動きが広がる。

・高圧な工業用電源線の電力を情報通信機器向け電力に変換する高効率な補機向け電源を容易に作るために、1700V SiC-MOSFET内蔵AC-DCコンバータICが貢献できる。

あらゆる業界で生産ラインのスマート化が加速

自動車や半導体から食品・医薬品・化粧品などまで、あらゆる業界の工場において、さらなる生産性・品質の向上と脱炭素化(低消費電力化や温室効果ガスの排出抑制)が同時に求められるようになりました。

これまで製造業では、工場での生産性や品質の向上こそが、最優先の取り組み事項でした。ところが近年、脱炭素化への貢献が、社会貢献の観点のみならず、カーボンプライシンの導入、さらには市場参入の条件となり、ビジネスや企業価値を左右する取り組み課題になったのです。

ただし、生産ラインの生産性や品質の向上と脱炭素化への貢献を同時に進めることは、それほど簡単ではありません。こうした困難な時代の要請に応えるため、多くの工場で、よりスマート(賢い)な生産管理システムを導入する動きが出てきています(図1)。ライン上の各装置・設備にセンサを設置。多様なデータを収集して、装置・設備の動きや状態、完成品や仕掛り品の出来などを見える化。なおかつ、人工知能(AI)やビッグデータ解析などを活用して、状況に応じて、操業条件をリアルタイムで最適化するシステムです。

図1 生産性・品質の向上と脱炭素化へ貢献に向けて生産ラインのスマート化が進展

電源供給の手段が、工場への情報通信機器導入の課題の1つ

よりスマートな生産ラインを構築するため、生産ライン上には、IoT機器やエッジコンピュータ、ネットワーク機器など、多様な情報通信機器や制御機器などが、これまで以上に数多く導入されるようになりました。一般に、工場の中には、生産に利用する多様な装置・設備などが、工場内のフロア内に最密配置されています。工場をスマート化していく際には、こうした既存レイアウトの隙間を探して、いかにして多くの情報通信用補機を追加配置するかが大きな課題になります。なかでも、補機を分散配置する際の補機への効率的な電源供給の手段は、解決が難しい課題のひとつです。

センサで取得したデータなどをやり取りする工場内の情報ネットワークに関しては、無線化すれば、ケーブル敷設が不要になります。ところが電源線はそうはいきません。一般に、製造装置を構成する大出力のモーターやヒータなどは、最低でも交流(AC)200V、多くの場合AC400Vの電源を利用して駆動します。ところが、中核部品が半導体である補機では直流(DC)5V~48Vの電源を利用するため、既に設置されている装置・設備向けとは別の電源を用意する必要があるのです。

スマート化を後押しするためにAC-DCコンバータに求められる要件

補機向け電源を導入する最もシンプルな方法は、AC400Vといった既存の電源線から電力を引き出し、AC-DCコンバータを利用して、DC5V~48Vに変換する方法です(図2)。ただし、情報通信用の補機はあくまでも付帯設備であるため、工場内の装置・設備レイアウトを崩したり、消費電力増大を招いたりしないように、補機電源用AC-DCコンバータには以下のような技術要件が求められます。


図2 補機電源用AC-DCコンバータの活用と、そこで求められる技術要件

まず、小型であること。AC-DCコンバータを構成するパワーデバイスやドライバーICなど半導体を1パッケージに集積できれば理想的です。さらに、AC-DCコンバータの動作周波数を高めることによるコイル、コンデンサなどのコンバータの構成部品の小型化、さらには低損失・高耐熱なパワーデバイスの利用による放熱機構の小型化も求められます。

次に、高い信頼性。生産ライン上の装置は、過酷な条件で利用され、しかも故障が発生した際の経済的損失は甚大です。1パッケージ化による部品故障リスクの低減や、各種保護機能の導入が必要不可欠になります。

最後に、高効率・低損失であること。脱炭素化の実現手段として生産ラインをスマート化するわけですから、そこで使う補機電源で多くの電力を消費したのでは本末転倒です。産業機器の中には、既に制御機器を駆動する補機電源を搭載しているものもあります。ところが、多くの場合、そこに低耐圧もしくは損失が大きなパワーデバイスが採用されているため、思いの外多くの電力を消費しているのが現状です。今後は、AC400V以上の電力の扱いに最適化されたパワーデバイスの利用が欠かせなくなってきます。

AC-DCコンバータへのSiC-MOSFETの導入意義と課題

AD/DCコンバータをはじめとする、さまざまな電力変換回路を劇的に高効率化・小型化する新たな半導体技術が実用化されています。半導体基板の材料を、これまで主流だったSiかシリコンカーバイド(SiC)に代えたパワーデバイスです。

電力変換回路のスイッチに導通損失とスイッチング損失が少なく、耐熱性が高いSiC-MOSFETを導入することで、ヒートシンク不要で大出力のAC-DCコンバータを実現できます。さらに、高周波駆動も可能になります。SiCベースのパワーデバイスを活用すれば、工場のスマート化に向けたAC-DCコンバータに求められる技術要件の多くを満たせます。

ただし、その優れた潜在能力を最大限まで引き出すためには、SiC-MOSFETの駆動に最適化した仕様のドライバーICなどを併せて用意する必要があります。既存のドライバーICは、Siベースのパワーデバイスの特性に最適化しており、そのままSiCベースに適用することはできません。

ロームのSiC-MOSFET内蔵AC-DCコンバータの性能と採用のメリット

ロームは、1700V耐圧のSiC-MOSFETを内蔵したAC-DCコンバータIC「BM2SC12xFP2-LBZ」を開発。補機電源などへの応用に向けて提供しています。このチップは、1200V以上の高耐圧MOSFETとゲートドライバーICを1パッケージに封止した世界初の製品です。一般的なSi-MOSFETを利用したAC-DCコンバータを構成していた12個分の個別チップを1パッケージに集約し、劇的な部品点数の削減を実現しています(図3)。

図3 補機電源用AC-DCコンバータを構成する12個分の部品を1パッケージに集約

さらに、ユーザは、高効率・小型なAC-DCコンバータを、最小限の工数で、高信頼性を確保しながら開発することが可能になります。加えて、SiC-MOSFETを内蔵したことで高精度な過熱保護機能や過負荷保護(FB OLP)、電源電圧端子の過電圧保護(VCC OVP)、過電流保護、二次側電圧の過電圧保護なども搭載可能になり、連続稼働が求められる産業機器の補機への適用に耐える信頼性向上を実現しました。

しかもロームは、SiC-MOSFETに関する深い技術的知見を生かして、ゲートドライバーICの仕様を産業機器の補機電源用に最適化。AC-DCコンバータの電力変換効率をSiベースのMOSFETを利用した際の78.5%から83.5%へと劇的に引き上げました。制御回路には、一般的なPWM方式と比較して低ノイズで高効率動作が可能な擬似共振方式を採用しているため、産業機器に対するノイズの影響を最小限に抑えることが可能です。

ロームのBM2SC12xFP2-LBZは、生産性・品質の向上と脱炭素化を同時に目指す、スマートな生産ラインの構築に欠かせない、導入効果の高いデバイスだと言えます。

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