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CASE時代の車載システムに安定した電源を提供 独自技術で負荷応答性能を高めたDC-DCコンバータ

2022.12.19

CASEで進化する次世代車、高性能な電子システムを多数搭載

クルマは、私たちの生活やビジネス、社会活動を支える必需品です。現在そのクルマでは、「CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング&サービス、電動化)」と呼ばれる、モビリティのあり方を再定義し、内部システム構成を大幅刷新する動きが進行しています(図1)。そして、近未来のクルマには、これまでとは比較にならないほど高性能で多様な電子システムが搭載されていくことになりそうです。

CASE時代のクルマには、これまで以上に高性能、多様な電子システムが搭載される

センサなどで走行状況を検知して危険を察知すると自動ブレーキを掛ける衝突被害防止軽減ブレーキ機能は、すでに当たり前の機能になりました。そして今では、数多くのセンサやカメラ、レーダーなどで多様な情報を収集し、人工知能(AI)など高度な情報処理技術を活用して、さまざまな走行シーンで快適で安全な走行を支援する先進運転支援システム(ADAS)へと進化しつつあります。今後は、クルマの操縦に伴うあらゆる状況判断と操作を電子システムで自動化する完全自動運転車へと発展していくことでしょう。

ADASや自動運転システムの技術が進歩することで、ドライバーは運転作業から解放されて自由な時間を得ることになります。移動中のクルマは、周囲から隔絶された現代社会では得難いプライベートな空間です。近い将来の市場投入を見据えて、車室空間を有効利用できる環境を整備し、移動時間を有意義に過ごせるようにしたクルマの開発が進められています。より高度なエンターテインメント機器や、仕事や情報収集に活用できるICT機器、さらには豊かな表現力を持つディスプレイなどをクルマに搭載する機運が、これまで以上に高まることでしょう。

高性能化する車載システムを安定稼働させる電源が必須

車載電子システムの機能や性能の進化に伴って、システム内部で情報処理や制御を実行する半導体チップには、これまで以上に高性能なSoCやマイコン、メモリを数多く搭載される傾向が高まっています。従来の車載半導体は、安全性を重視して、技術的に成熟した製品が多く使われていました。これが今では、CASE時代の要請に応える高度な機能や安全確保の仕組みをソフトウェアで実装するため、パソコンやスマートフォンなどと同様に、最新の半導体チップを選び、システムに搭載するようになってきたのです。

ただし、半導体の処理能力が高まることで、システムを動かす電源回路では、より大きく急激な負荷変動が発生するようになりました。いかに高性能な半導体チップであっても、それを動かす電源が安定していないのでは正しく機能できません。次世代の車載電子システムの電源として、大きな負荷変動が急に発生しても、出力電圧の変動を最小限に抑えることができる電源が求められています。

クルマに搭載される電子システムの数が増したり、性能が高まったりすることによる負荷変動の増大に対処するための方法として、電源ICの出力コンデンサの容量を追加する方法があります。しかし、この方法では、搭載する車載電子システムの構成に応じて個別対応する必要があるため、電源回路の設計に相応の手間と時間を要していました。クルマの早期市場投入や開発コストの削減を阻む要因となっていたため、出力コンデンサの追加が不要で、要求される負荷変動への応答性能を実現できる電源ICが求められていました。

一般に、電源ICには、負荷変動が発生しても出力電圧を安定できるようにするため、出力電圧を常に監視し、IC内部の基準電圧と比較することで出力電圧を微調整する「帰還回路」と呼ばれる回路が搭載されています。帰還回路が迅速に応答できれば、入力電圧や負荷電流などの変動による出力電圧の変動を、短時間で元に戻すことができます。ただし、無闇に速く応答させようとすると、回路動作が不安定になり、狙い通りの応答性能を実現することが困難でした。出力コンデンサの追加なしで、安定した出力が得られるようにするためには、こうした課題を解決しておく必要がありました。

ローム独自の技術を投入し、電源ICの付加応答性能を向上

ロームは、車載向けのマイコン、SoC、メモリへの電力供給に向けた電源ICである降圧DC-DCコンバータ「BD9Sxxxシリーズ」のラインアップに、負荷応答性能向上版の「BD9S402MUF-C」を追加しました(図2)。多くの車載電源システムでは、まず鉛蓄電池の出力電圧である12Vをプライマリ(1段目の)降圧DC-DCコンバータで5.0Vなどに降圧し、セカンダリ(2段目)の降圧DC-DCコンバータで1.0Vといった最先端の半導体の駆動で求められる低い電源電圧を作り出す、2階層の電源回路を利用しています。BD9Sxxxシリーズは、このうちセカンダリで利用する電源ICです。

車載電子システム用電源回路の設計の最適化と工数削減を実現するロームの負荷応答性能向上版降圧DC-DCコンバータ「BD9S402MUF-C」

BD9S402MUF-Cでは、ローム独自の高速負荷応答技術である「QuiCur」を導入することで、きわめて高い安定動作(負荷応答特性)を実現しています。QuiCurでは、DC-DCコンバータの帰還経路にある誤差アンプを2段に分離。これによって、高い応答速度での電圧制御の実現に向けた信号処理と、安定した出力電圧に補正するための信号処理を高度に役割分担させて、高い安定性を維持しながら応答性能を極限まで高めることができるようにしました。同等機能の一般的な電源ICに比べて、出力電圧変動を25%低減した30mVの安定動作(測定条件:出力電圧1.2V、出力コンデンサ容量44µF、負荷電流変動0→2A/2µ秒)を実現。低電圧出力においても±5%以内と、安定した出力の電源が求められる先端ADASへの適用が可能です。

さらに、QuiCurの特性を応用して、BD9S402MUF-Cでは、「電圧変動量優先(業界トップクラスの安定動作)」と「コンデンサ削減優先(小容量22μFでの安定動作)」「位相余裕優先」という3つの動作モードを、GAIN端子のHigh/Low設定だけで簡単に切り替えられるようにしました。同じチップを、高性能なSoCに適用する際には電圧変動量優先モードを選択して電源を高品質化し、シンプルなマイコンに適用する際にはコンデンサ削減優先モードを選択して部品点数や実装面積を削減してトータルコストを削減する、といった具合に使い分けることができます。初回設計時はもちろんのこと、仕様変更やモデルチェンジの際に、簡単に期待する安定動作を実現できるため、設計工数の大幅な削減に貢献します。

次世代半導体の駆動で求められる0.6V電源にも対応

また、BD9S402MUF-Cでは、ローム独自の超高速パルス制御技術「Nano Pulse Control」を導入することで、従来困難だった50ns未満の細いスイッチオン時間においても安定した制御を可能にしました。2.2MHzと高速なスイッチング周波数を維持したまま、電源電圧5Vから出力電圧0.8Vという低電圧を、温度特性込みで±1.0%と高い精度で直接出力できます。現在の最先端のSoCやマイコンなどでは、1.0Vと極めて低い電源電圧で駆動されていますが、チップの高集積化と微細化が今後も継続的に進み、次世代の電源電圧として0.6Vが利用される見通しです。BD9S402MUF-Cでは、0.6V出力への対応も可能です。

BD9S402MUF-Cならば、センサ、カメラ、レーダーなどのADAS系、無線通信モジュールやゲートウェイなどの通信系、クラスタやヘッドアップディスプレイ(HUD)などのインフォテインメント系など、高性能なSoC・マイコンやDDRメモリを採用する多様な車載アプリケーションに最適です。CASE時代の車載電子システムの開発に欠かせない電源ICだと言えます。