この記事のキーポイント
・電源ICには、電源IC内の制御回路用の低電圧DC電源(呼称例:VCCなど)が必要で、一般にはトランスの補助巻線(他の呼称:VCC巻線、三次巻線など)を利用する。
・電源の生成には、シンプルなダイオード整流が利用されることが多い。
・電圧はICの仕様に従い、特にAC/DCの場合は高電圧からの変換になるので、定格を超えることがないように留意する。
この項では、この設計に採用したスイッチング電源用制御IC BM1P061FJの電源電圧VCCを生成する回路となる、ダイオードD5 とコンデンサC2、そしてサージ制限用抵抗R9ついて説明します。
最初にこの回路の目的と動作について説明します。基本的にどんなICも自身が動作するための電源が必要になります。多くの電源ICは入力電圧を自己の電源として利用します。ただし、ほとんど場合、ICの電源ピンに印加できる電源はDC電圧であり、その電圧も特別な高耐圧品でも60~80VDC程で、40VDC以下のものが一般的です。
このAC/DCコンバータの設計では、入力は85~264VACを許容する仕様であることから、一次側の整流電圧は400VDC以上であり、これをそのまま電源ICの電源電圧として使うことは不可能です。したがって、入力電圧から電源ICの電源電圧に適する電圧を生成する必要があります。この設計では、トランスの補助巻線(Nd)で電源ICの電源を生成します。
ここからは本稿での呼称を使います。電源ICの電源をVCC、VCCを生成する補助巻線をVCC巻線Ndと呼びます。VCC巻線Ndは、15VDCを生成するように巻数を設定しました。(Ndの仕様は、「トランス設計(数値算出)」の項を参照願います。) 一方、電源ICのVCCは、最大定格が-0.3~30.0 VDC、動作範囲としては8.9~26.0VDCが規定されています。VCC巻線Ndで生成されるVCCは、15Vをターゲットにして動作範囲を超えないように制御される必要があります。
VCCは、VCC巻線Nd、整流用ダイオードD5、平滑および安定のためのコンデンサC2、サージ電圧制限用抵抗R9によって生成されます。回路は、出力となる二次側と同じダイオード整流回路であることがわかると思います。
VCC生成用整流ダイオード D5および平滑用コンデンサ C2
前述のように、ダイオードD5とコンデンサC2はVCC巻線Ndからのスイッチング(チョッピング)された電圧をDCに変換します。基本的にはこの2つの部品でVCC用のDC電圧を生成可能です。
ダイオードD5は、高速タイプのダイオードが適しています。ダイオードの耐圧は、D5に印加される電圧Vdrから算出します。
マージンを 128.2V/0.7=183V として、耐圧200Vのファストリカバリダイオードを選択。
回路に示されているダイオード RF05VA2Sは、200V耐圧、平均整流電流が0.5Aのファストリカバリダイオードです。
この動作とは別に、電源ICのVHピンに接続するR1とともに、電源投入時のICの起動時間(ソフトスタート)を決定する部品にもなっています(VHピンに関しては後述予定)。これはこのIC固有のものであり、VCC用のコンデンサと起動時間設定用のコンデンサを共有とすることで部品点数を減らしています。したがって、C2の容量は、平滑/安定化と起動時間の2つの要求を満たす値である必要があります。選択のために電源ICのデータシートには、容量と起動時間に関するグラフが提供されています。
コンデンサC2: 2.2μF以上、50V耐圧
この設計では、経験則から2.2μF以上が必要で、10μFを選択しています。さらに起動時間を取る場合は、グラフから算出します。耐圧は、VCCには30V以上は掛からないことが原則ですが、マージンをもって50V品を使います。
VCC巻線用サージ電圧制限抵抗 R9
トランスのリーケージインダクタンス(Lleak)により、MOSFETがオンからオフになった瞬間、大きなサージ電圧(スパイクノイズ)が発生します。このサージ電圧がVCC巻線に誘起され、VCC電圧が上昇して、ICのVCC過電圧保護が作動することが想定されます。VCC巻線に誘起されるサージ電圧を軽減するために、制限抵抗R9を直列に挿入します。R9は、5~22Ω程度が適切な範囲で、VCC電圧の上昇を実機で確認して調整してください。
これで、電源ICの電源となるVCCを生成する回路を構成できます。ICのVCCの定格は30Vなので、サージ電圧も含めて定格を超えないことが重要です。DC/DCコンバータと違い入力電圧が高いので、十分な検証が必要です。
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