この記事のキーポイント
・スイッチング電源設計では基板レイアウトが電源性能やEMCに大きく影響する。
・基本的に大電流が流れるラインは太く短く、ループは小さくする。
・制御信号ラインは、ノイズの多いラインと別に引いて、トランスの直下にも引かない。
回路図面が完成したら、実装基板のレイアウトに入ります。この項では、基板レイアウトの例を示しながら、レイアウトの原則やポイントを説明します。
基板レイアウトのポイント
スイッチング電源はスイッチのオン/オフにより電圧を制御しますが純然たるアナログ回路です。極端な言い方をすれば、自身で高周波ノイズを発しながらも、帰還ループを持つためノイズに敏感です。つまり、スイッチング電源回路の経路には、大電流がオン/オフしノイズを発する経路と、ノイズに敏感な制御信号経路があることを考慮する必要があります。基板配線レイアウトでは、大電流経路はなるべくノイズを出さないように、制御信号経路はなるべくノイズの影響を受けないようにします。もちろん、ノイズは放射ノイズとしてEMCにも影響しますので、極力ノイズを出さないレイアウトにするのが重要です。
良いレイアウトをするには、かなりの経験を要します。レイアウトが適切でないために、電源が正常に動作しないばかりか、システム全体のS/Nを悪化させたり、最悪は構成部品や電源ICを破壊してしまうこともあります。経験がものを言う作業ですが、多くの場合、電源ICのデータシートや追補資料で、基本的な基板配線レイアウトの例が提供されています。場合によっては、ガーバーファイルなど、そのまま利用できるデータが提供されていることも少なくありません。
それらは経験豊富なエンジニアが作成したベストなものですので、大いに利用すべきです。
以下に、基板レイアウトの一例と注意点を示します。
上図は、一部簡略化した回路図面に大電流経路と制御信号経路を示してあります。
- 赤色ラインは大電流経路で、リンギングや損失の発生要因となるため、できるだけ太く短くする
- また、赤色ラインのループはできるだけ小さくなるようにする
- 二次側の橙色ラインも赤色ライン同様に、太く短く、小さいループにする
- 茶色ラインはVCC端子に流れる電流の経路で、スイッチング時に電流が流れるため、この経路は別個の配線にする
- トランスの直下は磁束の影響を受けるため、ICの制御信号ラインを引かない
- 赤色ライン、茶色ライン、青色ライン、緑色ラインのGNDは一点接地が望ましい
- 緑色ラインは二次側のサージを一次側に逃がす経路となり、瞬間的に大きな電流が流れるため、赤色ラインや青色ラインと別に配線する
- 青色ラインはIC制御信号用のGNDラインなので大電流は流れないが、ノイズの影響を受けやすくなるため、赤色ライン、緑色ライン、茶色ラインと別に配線する
下図は、これらの注意事項を考慮した基板レイアウトの例になります。上図の赤色、橙色、茶色ループを示してあります。
下の写真は実装後のイメージです。上記の回路とは若干異なるのですが、同じ電源ICを使い、部品構成もほぼ同じです。図面に対して現物のイメージができると思います。
実際の設計においては、利用できる基板の縦横の寸法など物理的、機械的な理由により理想とするレイアウトができないことがあります。しかしながら、前述のとおり、電源としての性能だけではなく、システム全体に悪影響を及ぼす可能性があります。また、試作基板とはいえ、大幅な修正はやり直しと同じなので、可能な限り最初から最善を尽くすことが、後々の時間と費用を抑えることにつながります。
電源設計は、大方のシステム仕様が決まって、プロジェクト終盤になって始めることも少なくないのですが、うまく調整をして手離れの良いしっかりとした設計をしたいものです。
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