この記事のキーポイント
・EMI対策には、入力フィルタ、スイッチ(D-S間)にコンデンサ、出力整流ダイオードにスナバを追加してみる。
・出力ノイズには出力にLCフィルタを追加。
・基板レイアウトの影響も大きいので、合わせて検討する。
前回までは、主要部品の選定、定数計算の説明をしてきました。今回は、EMIを低減するための対策を示します。
近年、EMCは電子機器の重要課題の一つと言えます。各国に規制があり、機器設計においてはそれらを満足する必要があります。それ以前に、スイッチング電源がノイズをまき散らすと、機器のS/Nを低下させ、機器の仕様を満たせなく場合があるのでノイズ対策は必須と言えます。
ところで、たまにEMCやEMIなどの用語を混同している方を見かけますので、用語の整理をしておきましょう。
・EMI(Electro Magnetic Interference):電磁妨害(電磁干渉、電磁障害)
電波や高周波の電磁波がノイズとして電子機器などに影響を与えること、または影響を与える電磁波。
-伝導ノイズ:ケーブルや基板配線を経由して伝わるノイズ
> ディファレンシャル(ノーマルモード)モードノイズ:電源ライン間で発生し電流と同じ方向に流れるノイズ
> コモンモードノイズ:金属ケースなどを経由し浮遊容量などを通り信号源に戻ってくるノイズ
-放射ノイズ:空中に放出されるノイズ
・EMS(Electro Magnetic Susceptibility):電磁感受性
電磁波による妨害、干渉(EMI:伝導ノイズおよび放射ノイズ)を受けても障害を起こさない能力、耐性。
・EMC(Electro Magnetic Compatibility):電磁両立性(電磁適合性)
EMI+EMS。エミッション(Emission:放出)対策とイミュニティ(Immunity:耐性)の両立、その対策。
EMIとして、経路の観点から伝導ノイズと放射ノイズがあり、伝導ノイズには伝わり方からディファレンシャルノイズとコモンモードノイズの分類があります。
EMI対策
用語の説明にあったように、EMIは他の回路に影響を及ぼすものなので、ノイズを出さないようにするのかこの対策の主旨になります。ノイズを発するポイントは、大きな電流がスイッチするノードやラインです。対策は、基本的にインピーダンスの整合やバイパス/フィルタの役目をするコンデンサや抵抗/コンデンサ回路を追加します。あらためて、回路全体を示しますので、対策ポイントを確認してください。
・入力部にフィルタ追加
入力電圧はリップルをもった高電圧で、それを内蔵MOSFETが高速にオンオフするので、入力部フィルタを追加することで、ノイズを低減することが可能です。
・内蔵MOSFETのドレイン-ソース間にコンデンサを追加
回路図のC8になります。静電容量47~100pF程度、耐圧は500V以上が必要です。これは、高速スイッチングに起因するオフ時のサージを低減します。また、スナバの一種です。ただし、損失が増加するので温度上昇に注意する必要があります。
・出力整流ダイオードD4にRCスナバを追加
C9:500V/1000pF、 R10:10Ω/1W程度をD4に並列に追加します。これは、オン/オフ時に発生するスパイクを低減します。入力スナバと同じ考え方になります。定数は参考値なので、実際のノイズを確認して調整する必要があります。
・出力にLCフィルタを追加
右の回路図は、出力にLCフィルタを追加した例です。(L2は10µH、C10は10µF~100µF程度)
出力電圧にはスイッチング周波数に依存したリップルがあり、その他にも高調波やインダクタンスや容量に起因したノイズが存在します。これらのノイズが問題になる場合には、出力にLCフィルタを追加するのが効果的です。

これらが主要なノイズ対策となります。いずれにしても、ノイズそのものを測定するか、少なくても機器に対するノイズの影響を確認する必要があります。正確なノイズの測定は測定環境や装置が必要になります。こういった定量的な測定ができない場合は、機器としてのS/Nなど、性能面から影響の有無程度は把握できる場合があります。
ここで提示した対策は、電源回路構成上のノイズ対策です。ノイズの発生は基板レイアウト、部品配置、部品性能などにも関係します。場合によっては、LCフィルタは簡単なL型からπ型やT型に拡張したり、回路基板にシールドを設けたりすることが必要になるかもしれません。
また、機器の仕様によっては、例えば国際無線障害特別委員会(CISPR)規格などのノイズ規格に適合しなければなりません。規格準拠が必要な場合には、設計当初からそれを念頭に置くことが非常に重要になります。