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2016.06.28 Siパワーデバイス
Siダイオードの3回目になります。今回はファストリカバリダイオード(以下FRD)の特徴と特性改善、そしてアプリケーションに関する説明をします。
Si-FRDの特徴
Si-FRDはPN接合によるダイオードで、高速性が特徴でTrrは高速になっています。それに対して、一般的にVFは高めであるのも特徴と言えます。例えば、汎用10AクラスのVFは2V弱といったイメージです。これは、Trrの高速性とVFはトレードオフの関係にあるからです。しかしながら、VFが大幅に低減されたタイプも開発されており、アプリケーションによって最適なSi-FRDを選択することができます。
以下の表は、Si-FRDの特徴と適するアプリケーションをまとめたものです。表中に「×」の表記がありますが、他との比較において劣る、適さない、とご理解ください。
超高速タイプはVFが高いのですが、逆電流IRが低いことから連続モードのPFC(力率改善)用途には損失が少ないので適しています。
高速で低VFのバランスタイプは、非常に汎用性が高く、様々なアプリケーションでFRDの高速性を利用することができます。
超低VFタイプはIR特性は多少劣りますが、低VFにより導通損失を低減できるので、ピーク電流が大きい臨界モードのPFCに適した特性です。
また、下のグラフは、VFとTrrがトレードオフの関係にあることを示したグラフです。橙色のものはVFは低いのですが、Trrは長くその間のIRも大きい特性のFRDです。赤色のものはその逆の特性です。高速だとVFは高い、低VFだとTrr/IRが大きいという関係がわかると思います。
Si-FRDのノイズ
EMCの観点から、スイッチング電源をはじめとしたスイッチングに起因するノイズは重要な検討事項です。Si-FRDはTrrが高速なことから、逆回復時、つまりTrr間にノイズを発します。以下の図は、逆回復時のノイズと改善後のイメージです。IRpはFRDがオフした時の逆電流のピークを示しています。また回復の傾き/急峻さをdir/dtで示しています。逆回復時のノイズは、IRpを小さく、そしてdir/dtを穏やかにすることができれば小さくすることができます。
実際に、このような低ノイズで「ソフトリカバリ」タイプと呼んでいるSi-FRDを開発することに成功しました。ここでは、そのアプローチについて少しお話しします。
IRpを小さく、そしてdir/dtを穏やかにするには、それぞれに別の改善策を取る必要がありました。最初にIRpを低減するために、P型シリコン(アノード)の不純物濃度を下げました。これによりリーク電流が減りIRpは減少しましたが、dir/dtは急峻なままでノイズはまだ残っており、さらにトレードオフとしてVFが上昇するという課題が残りました。
次に、傾きを緩やかにするために、ライフタイムキラーとしてプラチナ(Pt)拡散を施し、ライフタイムを短くすることでdir/dtをソフトにすることに成功しました。ライフタイムは、PN接合においてオフ/逆バイアスになった時の小数キャリアが再結合により元に戻るまでの時間で、これが長いと残留しているキャリアによって電流が流れるなどの現象が起きます。ライフタイムキラーは、再結合を速めてライフタイムを短くします。一般にライフタイムキラーとして不純物を拡散します。この場合はPtになります。
製造プロセスの話になり、馴染みのない方には少しむずかしい話になってしまいましたが、これら2つの手立てをベースに、最終的にはTrrとVF特性をほぼそのままに、逆回復ノイズを大幅に抑えたSi-FRDを実現しました。以下に示した実際の波形は、ソフトリカバリタイプ(赤)と標準タイプ(青)の比較です。ソフトリカバリタイプは、非常にノイズが少ないのが明らかです。
Si-FRDのTrrとVFによるアプリケーションイメージ
最後にSi-FRDの特性と適するアプリケーションのイメージを示しますので、設計の参考にしていただければと思います。先に説明した通り、Trrが高速なタイプはVFが高い、VFが低いものはTrrが低下するという基本的な傾向を踏まえて、アプリケーションの特性に適するものを選択することになります。
PFCに関して言えば、BCM(臨界モード)にはVFが極力低いもの、CCM(連続モード)にはTrrが極力高速なものが、それぞれの損失低減に寄与します。
また、ノイズが低減され、VFとTrrのトレードオフが最適化されたタイプは、非常に幅広いアプリケーションに対応可能です。
・Si-FRDの特性はシリコンに拡散される不純物によって異なる。
・Si-FRDのVFとTrrはトレードオフの関係にある。
・逆回復時のノイズはスイッチング電源アプリケーションで悪影響がでるので、改良型が開発されている。