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2020.07.28 SiCパワーデバイス

ローサイドスイッチターンオン時のゲート-ソース間電圧の挙動

SiC MOSFET:ブリッジ構成におけるゲート-ソース間電圧の挙動

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前回は、SiC MOSFETのブリッジ構成におけるゲート駆動回路のスイッチング動作によるVDSおよびIDの変化によって発生する電流と電圧の概略を説明しました。今回は、LSターンオン時の挙動の詳細を説明します。

ローサイドスイッチターンオン時のゲート-ソース間電圧の挙動

LSがターンオンすると、まずIDが変化します(下記模式波形図T1)。この時LSのIDは増加方向、HSのIDは減少方向となるため、下記等価回路図に示した事象(I)により、示された極性で式(1)の起電が発生します。式(1)は前回示したものと同じ式です。この起電による電流はソース側を正としてCGSを充電するため、LSではVGSを押し下げる一方、HSではVGSをマイナス側に引っ張り、負サージを生じさせます(模式波形図VGSのT1)。

LSスイッチターンオン時のゲート-ソース間の電流挙動。

LSスイッチターンオン時のゲート-ソース間の電圧挙動。

IDの変化が終了する、とLSのVDSの電位が減少します(模式波形図T2)。よって式(2)が示す電流が、等価回路図中の(II)-1、(II)-2のように流れ、それぞれ以下の式(3)、(4)で表される電圧上昇がVGSで起きます。

VDSが変化を開始した直後は式(3)によるVGSの上昇が主ですが、時間と共に式(4)によるVGSの上昇も始まります。つまり、MOSFETのCGD/CGS比や、駆動回路のRG_EXT、ゲート駆動信号パターン配線のインダクタンスLTRACEが大きく影響します。

等価回路図に示した通り、HSにおける(II)-2の電流ICGD2はVGSを持ち上げる方向になっています。そのため、本来オフしているはずのHSはVGSの持ち上がり次第ではターンオン動作を始めてしまいます。これをセルフターンオンと呼んでいます。HSのセルフターンオンが起こると、LSのオン動作と重なりHSとLSのMOSFETの同時オンが発生し、貫通電流が流れます。

ICGD2はLSのターンオン動作が完了するまで流れ続けLTRACEに蓄えられますが、VSWの変化が完了した時点で消滅しLTRACEが起電します。これが事象(III)です。ICGD2はRG_EXTなどのスイッチング条件によっては数アンペアに達することがあり、この起電が大きくなることがあります。

LSがターンオンした時のゲート-ソース電圧は、上記の事象(I)、(II)、(III)の影響より模式波形図に見られる挙動を示します。模式波形図と等価回路図の番号は同じ事象を表しています。なお、図中VGSの破線の波形は理想的な波形を示しています。

外付けゲート抵抗の影響

以下に、SiC MOSFETによるブリッジ構成のLSをターンオンした時のダブルパルス試験結果を示します。(a)の波形図は外付けゲート抵抗RG_EXTが0Ωの場合、(b)は10Ωです。図中の(I)、(II)、(III)は前出の事象と同意です

SiC MOSFETブリッジ構成のダブルパルス試験。ゲート抵抗値の違いによる挙動の比較。

(a)と(b)の波形の比較から、RG_EXTが小さい方が事象(I)によるVGSの減少が大きいことが分かります。また、スイッチング速度が非常に速いため、(a)では事象(III)が顕著に発生していますが、RG_EXTが0Ωのため事象(II)の波形はほとんど観測されません。一方、(b)においては、事象(II)-2とRG_EXTによるVGSの持ち上がりが顕著に表れています。

この結果からも明白なように、LSオン時のHSセルフターンオンを誘発する事象(II)-2のVGS持ち上がりを小さくするには、HSターンオフ時の外付けゲート抵抗RG_EXTを小さくする必要があります。しかしながら、一般的にHSとLSのRG_EXTは同じにすることが多く、このためRG_EXTを小さくするとLSのdVDS/dtが増大し、式(1)が示すようにHSのICGDが増加します。結果として式(4)からわかるように、HSサージの増大を招いてしまいます。

対策として、ターンオン時とターンオフ時のRG_EXTを別々とし、ターンオフ時のみのRG_EXTを小さくする方法があります。一般的な方法として右図ようにダイオードを用いる方法があります。この方法では、ターンオン時に動作する抵抗はRG_ONのみで、ターンオフ時にダイオードが導通しRG_ONとRG_OFFの並列抵抗となります。したがって、ターンオン時の抵抗値に対してターンオフ時の抵抗値が小さくなります。

SiC MOSFETブリッジ構成のダブルパルス試験。ゲート抵抗値の違いによる挙動の比較。

なお、HSのVGS波形が、最初に説明に使った模式波形図とは違って事象(I)の直前に一旦プラス側に振れているのは、事象(I)の電流が流れ始めた瞬間のLSOURCEによる起電がCGSを通して起電直後に観測されているためです。

次回は、LSがターンオフした時の詳細を説明します。

キーポイント:

・MOSFETのゲート容量と、スイッチングによるVDSおよびIDの変化によって、ブリッジ構成ではLSスイッチがターンオンした際にHSにセルフターンオンが生じる場合がある。

・セルフターンオンの対策として、外付けゲート抵抗の値を小さくする方法があるが、他の動作に影響を与えないようにHSターンオフ時だけゲート抵抗が小さくなるような工夫が必要。

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