シミュレーション|
PTCヒータの熱シミュレーション
2025.04.09
PTCヒータの熱シミュレーション
MyROHMに登録するだけで利用できるWebシミュレーションツールROHM Solution Simulatorには、多数のSolution Circuitが提供されています。熱シミュレーション向けに、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータ、リニアレギュレータなど、さまざまな熱シミュレーション用回路が用意されています。
「PTCヒータの熱シミュレーション」では、PTCヒータの熱シミュレーションにおいて、シミュレーション回路図の説明とシミュレーションを実行する方法を紹介します。
ここでは、PTCヒータの熱シミュレーションにおいて、シミュレーション回路図の説明とシミュレーションを実行する方法を紹介します。なお、この記事のもとになっている「User’s Guide PTCヒータ 熱シミュレーション」は下記からダウンロードできます。
PTCヒータの熱シミュレーションの回路と方法
本章では、PTCヒータの熱シミュレーションにおいて、シミュレーション回路図の説明とシミュレーションを実行する方法を紹介します。
PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータは、温度が上昇すると抵抗も上昇する正温度係数(PTC特性)を利用した自己制御型のヒータで、時間の経過とともに温度が安定するため低消費電力型といえます。このPTCヒータの電気シミュレーションと、内蔵デバイスの温度シミュレーションを同時に実行することが可能なシミュレーション回路や環境の紹介と、その使用方法について説明します。コンポーネントのパラメータを変更することで、さまざまな条件でシミュレーションが可能です。
PTCヒータの熱シミュレーション回路図の例
以下にPTCヒータの熱シミュレーション回路図を示します。黒色と青色の配線は電気シミュレーション回路を、赤色の配線は熱シミュレーション回路を表しています。この電気回路は、スイッチとなるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が3並列の回路形式です。各IGBTに負荷抵抗(ヒータ)が接続され、独立して駆動します。負荷電流は3個のIGBTでON/OFFによる3段階のみの調整で、スイッチングによる細かい調整は想定していません。また、3個の負荷のトータル電流をシャント抵抗で検出し、過電流を保護する回路を備えています。熱シミュレーション回路は、電気シミュレーションで算出したデバイスの損失と、一般的なPTCヒータ(水冷環境を含む)を熱シミュレーションモデル(ROM*1)化し、IGBTとシャント抵抗の温度を算出します。
*1 ROM(Reduced Order Model):3D-CAEで作成したモデルを1Dに低次元化する手法を用いたモデル
シミュレーション回路
図中右の4段グラフが、3個のIGBTとシャント抵抗の接合温度(ジャンクション温度、Tj)となります。起動後、3個のIGBTは時間と共に接合温度が上昇し、おおよそ4,334秒以降は接合温度が約125℃で安定しています。中央のグラフは、シャント抵抗RSHUNTを流れる電流値(3個の負荷のトータル電流)、左のグラフは、過電流を保護する回路の出力電圧となります。中央と左のグラフは、おおよそ2,000秒以降で安定しています。
PTCヒータの熱シミュレーションの方法
Simulation Settingsと実行
熱シミュレーションの実行は、上図の緑のRunボタン▶をクリックすることで実行できます。シミュレーション条件は、歯車印をクリックすることで設定できます。初期状態では、すでに条件設定されてシミュレーション結果も表示されています。シミュレーション条件を変更後に熱シミュレーションを実行すると、温度グラフなどが更新されます。
シミュレーションとパラメータ設定、過電流保護、熱シミュレーションモデル
本章では、PTCヒータの熱シミュレーションにおいて、シミュレーションの設定、パラメータの設定、過電流保護や、熱シミュレーションモデルを紹介します。
PTCヒータの熱シミュレーション:シミュレーション設定
コンポーネントのパラメータ定義
シミュレーション時間や収束オプションなどのシミュレーション設定は、上記の“Simulation Settings”から設定可能で、下表はシミュレーションの初期設定を示しています。シミュレーションの収束に問題がある場合は、詳細オプションを変更して解決することができます。電気回路のシミュレーション温度と各種パラメータは“Manual Options”で定義されています。
Simulation settingsの初期値
| パラメータ | 初期値 | 備考 |
|---|---|---|
| Simulation Type | Time-Domain | シミュレーションタイプは変更しないでください |
| End time | 5000 secs | |
| Advanced Options | More Speed | |
| Manual Options | .TEMP 100 | 電気回路のシミュレーション温度 IGBTの収束温度程度に設定してください |
| .PARAM ・・・ | 詳細は下表を参照 |
PTCヒータの熱シミュレーション:パラメータの設定
上図の青色で示したコンポーネントは、シミュレーション条件を設定する必要があるため、マニュアルオプションでパラメータを定義します。下表に、パラメータの初期値を示します。これらの値は、下図に示すようにシミュレーション設定の“Manual Options”にてテキストボックスに書き込みます。
パラメータの初期値
| パラメータ | 変数名 | 初期値 | 単位 | 説明 |
|---|---|---|---|---|
| VIN | V_VIN | 400 | V | |
| ILOAD1 | I_LOAD1 | 10 | A | |
| ILOAD2 | I_LOAD2 | 10 | A | |
| ILOAD3 | I_LOAD3 | 10 | A | |
| VGdelay1 | VG_delay1 | 0 | sec | IGBT1がONするタイミング |
| VGdelay2 | VG_delay2 | 1000 | sec | IGBT2がONするタイミング |
| VGdelay3 | VG_delay3 | 2000 | sec | IGBT3がONするタイミング |
シミュレーション条件のパラメータ定義
PTCヒータの熱シミュレーション:過電流保護
下図に過電流保護回路を示します。負荷電流は、シャント抵抗とオペアンプを使ったローサイドセンシング回路で検出します。負荷に流れるトータル電流は、シャント抵抗によってΔVSHUNTの電圧が発生します。この電圧をオペアンプで差動増幅し、”Voltage to Digital”段のしきい値を超えると次段のスイッチがONし保護を開始します。オペアンプの入力オフセット電圧を無視した場合、オペアンプの出力VOは以下の式で表せます。
\(V_O = I_{LOAD} \times R_{SHUNT} \times \displaystyle \frac{R2}{R1} \quad [V]\)
デフォルト回路は、ILOAD=30A、RSHUNT=1mΩ、R1=2kΩ、R2=120kΩとなっているためVO=1.8Vが出力されます。”Voltage to Digital”のしきい値は2V(過電流≒33.3A)に設定しているため保護は動作しません。
過電流保護回路
PTCヒータの熱シミュレーション:熱シミュレーションモデル
下図の“PTC-heater”シンボルは、PTCヒータの熱シミュレーションモデル(ROM*1)です。また、PTCヒータ熱シミュレーションモデルの端子説明を下表に示します。
*1 ROM(Reduced Order Model):3D-CAEで作成したモデルを1Dに低次元化する手法を用いたモデル
熱シミュレーションモデル
熱シミュレーションモデルの端子説明
| 端子名 | 説明 |
|---|---|
| S_S_IGBT_1 | IGBT1の損失を入力し、TJをモニターする |
| S_S_IGBT_2 | IGBT2の損失を入力し、TJをモニターする |
| S_S_IGBT_3 | IGBT3の損失を入力し、TJをモニターする |
| S_S_Res | RSHUNTの損失を入力し、TJをモニターする |
| F_Heater | ヒータ温度 |
| F_Water_Near_Side | 冷却水の温度(入口) |
| F_Water_Far_Side | 冷却水の温度(出口) |
| F_20CAmbient | 周囲温度 |
| S_M_IGBT1_mold | IGBT1のモールド温度をモニターする(ハイインピーダンスで受ける) |
| S_M_IGBT2_mold | IGBT2のモールド温度をモニターする(ハイインピーダンスで受ける) |
| S_M_IGBT3_mold | IGBT3のモールド温度をモニターする(ハイインピーダンスで受ける) |
| S_M_R_lead | RSHUNTのリード温度をモニターする(ハイインピーダンスで受ける) |
- ・ S_S_xxxx端子は、デバイスの損失を入力することで、デバイスの温度をモニターすることができます。
- ・ F_xxxx端子には”tc_amb”を接続し、その場所の温度に設定します。
- ・ S_M_xxxx端子は、IGBTのモールド温度、シャント抵抗のリード温度をモニターすることができます。
PTCヒータの熱シミュレーション:コンポーネントと品名リスト
本章では、PTCヒータの熱シミュレーションにおける、コンポーネントと品名リスト、関連文書を紹介します。
下図にPTCヒータの熱シミュレーションに使用する主なコンポーネント名を示します。各コンポーネントの初期値は下表を参照してください。コンポーネントの中には、使用する部品を予めセットされた品名リストから選択できるものがあります。変更可能な部品と品名リストを下々表に示します。品名変更は下々図のように、コンポーネント上でマウスを右クリックし、“Properties”を選択します。“Property Editor”の“Spicelib Part”から使用する品名を選択します。

主なコンポーネント名、コンポーネントの初期値
| コンポーネント名 | 機能 | 初期値 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Q1、Q2、Q3 | IGBT | RGS00TS65D | TO247パッケージ 変更可能 |
| RSHUNT | Resistor | 1mΩ | PSR100シリーズ 定数選択可能 |
| RL1、RL2、RL3 | Load Resistor | {Vin/ILOADx} | 固定 |
| OPAMP | Op-amp | LMR1802YG-C | Datasheet model |
変更可能なコンポーネントと品名リスト
| コンポーネント名 | 機能 | 品名 | 仕様 |
|---|---|---|---|
| Q1、Q2、Q3 | IGBT | RGC80TSX8R | 1800V、40A |
| RGCL60TS60D | 600V、30A | ||
| RGCL80TS60D | 600V、40A | ||
| RGS00TS65D | 650V、50A | ||
| RGS00TS65E | 650V、50A | ||
| RGS50TSX2DHR | 1200V、25A | ||
| RGS60TS65D | 650V、30A | ||
| RGS80TS65D | 650V、40A | ||
| RGS80TSX2DHR | 1200V、40A | ||
| RGT00TS65D | 650V、50A | ||
| RGT40TS65D | 650V、20A | ||
| RGT50TS65D | 650V、25A | ||
| RGT60TS65D | 650V、30A | ||
| RGT80TS65D | 650V、40A | ||
| RGTH00TS65D | 650V、50A | ||
| RGTH40TS65D | 650V、20A | ||
| RGTH50TS65D | 650V、25A | ||
| RGTH60TS65D | 650V、30A | ||
| RGTH80TS65D | 650V、40A | ||
| RGTV60TS65D | 650V、30A | ||
| RGW00TS65D | 650V、50A | ||
| RGW60TS65D | 650V、30A | ||
| RGW80TS65D | 650V、40A |
使用するコンポーネントの品名変更
・関連文書へのリンク
- 製品仕様書は、各々下記リンクから参照してください。
IGBT(TO247パッケージ)
シャント抵抗器PSRシリーズ
グランドセンスオペアンプ - ・アプリケーションノートは、下記リンクから参照してください。
ローサイド電流センシング回路設計
PTCヒータの熱シミュレーションの3D(3次元)モデル
本章では、PTCヒータの熱シミュレーションにおける、3D(3次元)モデルを紹介します。
PTCヒータの熱シミュレーションモデル(ROM*1)作成に使用した3D(3次元)モデルのイメージを下図に示します。また構造情報を下表に示します。
*1 ROM(Reduced Order Model):3D(3次元)-CAEで作成したモデルを1D(1次元)に低次元化する手法を用いたモデル
PTCヒータの3D(3次元)イメージ
PTCヒータの構造情報
| 構造部位 | 説明 |
|---|---|
| アルミ筐体*2 | 外形寸法:250mm × 110mm × 120mm |
| 基板 | 外形寸法:100mm × 90mm × 1.6mmt 基板材質:FR-4 銅箔厚:70μm(2 oz 銅箔) |
| 絶縁シート | 厚み:1mm |
*2 シミュレーション時間短縮のために、アルミ筐体部分の熱容量は考慮していません。
シミュレーション
- PTCヒータの熱シミュレーション
- リニアレギュレータの熱シミュレーション
-
電子回路シミュレーションの基礎
- SPICEシミュレータとSPICEモデル
- SPICEとは
- SPICEシミュレーションの種類:DC解析、AC解析、過渡解析
- SPICEシミュレーションの種類:モンテカルロ
- SPICEシミュレーションの収束性と安定性
- SPICEモデルの種類
- SPICEデバイスモデル:ダイオードの例 その1
- SPICEデバイスモデル:ダイオードの例 その2
- SPICEサブサーキットモデル:MOSFETの例 その1
- SPICEサブサーキットモデル:MOSFETの例 その2
- SPICEサブサーキットモデル:数式を用いたモデル
- サーマルモデル(Thermal Model)とは
- サーマルダイナミックモデル(Thermal Dynamic Model)とは
- 電子回路シミュレーションの基礎 ーまとめー
-
ROHM Solution Simulatorとは
- ROHM Solution Simulatorのアクセス方法
- ROHM Solution Simulatorを使ってみる その1
- ROHM Solution Simulatorを使ってみる その2
- ROHM Solution Simulatorシミュレーション回路の起動
- ROHM Solution Simulatorツールバーの機能と基本操作
- ROHM Solution Simulatorのユーザインタフェース
- シミュレーションの実行
- シミュレーション結果の表示方法
- シミュレーション結果表示ツール : Wavebox
- シミュレーション結果表示ツール : Waveform Viewer
- シミュレーションのカスタマイズ
- PartQuest™ Explorerへの回路データのエクスポート
- 評価サンプルの購入
- PFC回路の最適化
- インバータ回路の最適化
- DC-DCコンバータの熱シミュレーションとは