モータードライバー|基礎編
モーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格の関係
2020.09.15
この記事のポイント
・半導体デバイスの絶対最大定格は、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしている。
・絶対最大定格の定義は、「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」。
・モータードライバICを選定では、基本的にモーターの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバICを選ぶ。
・絶対最大定格を超えた場合、ドライバICの特性劣化、寿命低下、破壊につながる。
・ドライバICの信頼性は、使用環境条件によって絶対最大定格以内であっても、条件が厳しいほど低下する。
モータードライバーICの絶対最大定格を理解し、それを超えないような設計にすることは非常に重要です。ここでは、モーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格の関係に関して、1つはモーターの視点からモーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格対応について、もう1つはモータードライバーICの各絶対最大定格の意味と注意点を説明します。
絶対最大定格とは
最初に絶対最大定格とは如何なるものかの確認をしておきます。この理解が不十分だと重大な事故につながる可能性がありますので、設計者でも使用者であっても正確な理解と厳密な適用が必要です。ここでは、モータードライバー前提ですが、絶対最大定格の定義はモータードライバーに限らず、他の半導体デバイスに範囲を広げても同じです。
半導体デバイスの絶対最大定格に関しては基本的に、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしています。その定義は「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」とされています。解釈としては、「絶対最大定格にあるどの項目の値も、どんなに短い時間でも絶対に超えてはいけない」というものです。
実際的な考えたかや適用に関しては、Tech Web Motor TECH INFOのこちらのコラムで詳しく説明していますので参照して下さい。
モーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格の関係
モーターアプリケーションにおいてモータードライバーICを選定する際には、基本的にモーターの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバーICを選ぶことになります。例えば、モーターの使用電圧が24V±10%であればドライバーICはこの上限をカバーする電源電圧定格を持っている必要があります。以下に、モーター仕様とドライバーICの絶対最大定格関する主な関係を表にまとめました。条件によって他にも細かい留意事項がありますので、個々には検討が必要です。
※モーターの例:24V複写機用ブラシレスモーター
| 項目 | モーター仕様例 | モータードライバーICの絶対最大定格との関係 |
|---|---|---|
| 定格(電源)電圧 | DC24V |
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| 使用電圧 | DC24V±10% | |
| 定格負荷/ 負荷電流 |
60mN/1.2A以下 |
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| 起動電流 | 3A以下 |
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| モーター巻線絶縁種 | E種(120℃) |
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| 寿命 | 連続3000時間以上 |
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| 使用温度範囲 | -5℃~+60℃、 |
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| 保存温度範囲 | -30℃~+80℃、 |
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モータードライバーICの絶対最大定格と注意点
モータードライバーICの絶対最大定格と注意点を表にまとめました。一般的な注意点としては、絶対最大定格を超えた場合、ドライバーICの特性劣化、寿命低下、破壊につながります。また、ドライバーICの信頼性は、使用環境条件、例えば電圧、電流、温度、湿度などが絶対最大定格以内であっても条件が厳しいほど低下します。したがって、信頼性の高い設計には、定格に対してディレーティングを考慮する必要があります。
| 項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 電源電圧 |
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| 出力電流 |
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| 入力電圧範囲 |
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| 動作温度範囲 |
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| 保存温度範囲 |
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| 許容損失 |
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| 接合部温度 |
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* ASO:Area of Safety Operation:安全動作領域。SOA(Safety Operation Area)と呼ぶこともある。絶対最大定格ではないが、関連する定格に基づく。
右のグラフが示す曲線の内側(値の低い側)がASOで、ドライバーICであれば出力段トランジスタの安全な動作領域を示しています。定格電流で制限される領域④と定格電圧で制限される領域①の内側で、許容損失で制限される領域③と、さらにバイポーラ素子では2次降伏により電圧と電流が定格内でも破壊する領域②の制限を受けます。またMOSFETにおいても発熱点の集中によりバイポーラ素子の2次降伏と同じような領域②を持つ場合があります。

特にインダクタンス負荷で使用する場合、電圧と電流間に位相差が生じるため、過渡的に電圧、電流の両方が加わることがあり、その際にASO範囲内であるかの確認が必要になります。過渡現象の波形を観察し、電圧と電流が同時に印加されている時間がどのくらいあるか測定し、各ドライバーICの出力段トランジスタのASOデータと比較して確認します。