レーザーダイオード|基礎編

レーザーダイオード(半導体レーザー)とは?

2024.06.05

レーザーダイオード(半導体レーザー)は、半導体のpn接合を利用して電流を光に変換し、レーザー光を生成する電子部品です。レーザーダイオードは指向性と直進性に優れ、エネルギー制御が容易な光源として、光通信、医療、センシング、データストレージ、エンターテインメントなどの分野で使用されています。その基本原理は、電子と正孔が再結合する際に発生する光を利用するもので、異なる波長や出力特性を持つ製品が多く存在します。本記事では、レーザーダイオードの基本原理、構造、材料、種類、用途について詳しく解説します。

レーザーダイオードとは?

レーザーダイオード(Laser Diode)は半導体レーザーとも呼ばれます。「レーザー」とは “Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation”の頭文字をとったもので、「放射の誘導放出による光の増幅」という意味です。自然界の光やLEDの光は、波長が一定でも位相や波形が揃っていません。これに対し、レーザー光は特定の波長のみを増幅させた「コヒーレント(coherent)」な光です。コヒーレントな光源は「可干渉性」とも訳され、位相や波形が揃っているため、干渉を利用して焦点を極めて小さく(数um~)することもでき、光スイッチや光変調など、さまざまな応用が可能です。

歴史と発展

レーザーダイオードの歴史は、1917年にアルバート・アインシュタインが、すべてのレーザー技術の基礎である「誘導放出」現象を初めて理論化したところから始まりました。その後、1953年にドイツのジョン・フォン・ノイマンが未発表の原稿で半導体レーザーの概念を記載しています。また「1957年アメリカのゴードン・グールドは光の増幅に誘導放出が利用できると提唱し、それを「LASER(放射の誘導放出による光増幅)」と名付けました。このようにさまざまな科学者によってレーザーの研究が進められ、1962年にはホモ接合構造によるガリウム砒素(GaAs)半導体レーザーからのコヒーレント発光が実証され、同年可視光の発振にも成功しました。しかし、この時代の半導体レーザーは常温での連続発振に課題がありましたが、1970年にダブルヘテロ構造の発見によって室温での継続的な発振が可能になりました。1970年代以降、半導体レーザーは急速に進化し、様々な分野で広く使用されるようになりました。

レーザーダイオードの発光原理

レーザーダイオードは、特定の波長でレーザー光を発生させる半導体デバイスです。その基本構造は、p型半導体とn型半導体の接合からなるpn接合、光を放出する活性層、および光を反射するコーティングが施された鏡面で構成されます。レーザーダイオードの発光原理は、電流が流れることで電子と正孔が再結合し、その際に放出される光子が活性層内で増幅され、共振器内で反射することでレーザー光となります。はじめに、レーザーダイオードやLEDに共通する「光る半導体」の基本的な構造と発光原理について説明します。

ダイオードの基本的な構造と材料

半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通しにくい「絶縁体(不導体)」の中間の性質を持つ物質です。導体は鉄や金といった金属物質、絶縁体はゴムやガラスなどの物質が該当します。半導体は電気を通したり通さなかったりすることで、電流の制御が可能です。また、使い方によっては光と電気のエネルギー変換もできます。

一般的にダイオードの素子は主にシリコン(Si)でできています。シリコン(Si)は半導体として最も代表的な材料です。シリコンは「珪石(SiO2: 二酸化ケイ素が主成分の石)」などの形で自然界に存在しており、資源が豊富です。加工もしやすいため、多くの半導体製品はシリコンを採用しています。

半導体材料であるシリコン(Si)は、もともと絶縁体であり、キャリアとしての自由電子はほとんど存在していません。そのため、シリコン(Si)に他の不純物を添加しシリコン(Si)中のキャリア濃度を増加させて、その電気伝導率を上げて利用します。このように不純物を添加してキャリアを増やした半導体を不純物半導体と呼びます。キャリアには自由電子と自由正孔があり、このうち自由電子キャリアを増加させたものを「n型半導体」、自由正孔キャリアを増加させたものを「p型半導体」と呼びます。

※p型半導体(+: positive 正孔(ホール)が多い半導体)
 n型半導体(–: negative 電子が多い半導体)

ダイオードの素子はp型半導体とn型半導体が繋ぎ合わさった構造をしており、これをpn接合といいます。p型半導体からの端子をアノード、n型半導体からの端子をカソードといい、アノードからカソードの方向へ電流が流れます。

ダイオードの発光原理

pn接合の素子に順方向の電圧をかけると、正孔(プラス)と電子(マイナス)はその接合部に向けて移動し双方が結合します。このとき生じる余分なエネルギーが光として変換され発光します。この現象を発光再結合といいます。

このときのキャリアの動きについてpn接合のエネルギーバンド図を使って示します。(左)はpn接合に電圧バイアスがかかっていない状態、(右)は順方向バイアスの電圧を加えた状態です。順方向電圧がかかると、pn接合部のエネルギー障壁の高さが低くなって、n型領域の多数キャリアである電子は図のようにエネルギー障壁を越えてp型領域に移動し、p型領域の多数キャリアである正孔と再結合します。このとき余ったエネルギーが光として放出されます。一方、p型領域にある正孔はn型領域に移動してn型領域の多数キャリアである電子と再結合し、同様に余ったエネルギーを光として発します。

この図のように、伝導帯と価電子帯のエネルギーレベルには差があり、このエネルギーの差をバンドギャップといいます。また、電子がバンドギャップを越えて伝導帯から価電子帯へ移ることを電子の遷移と言います。つまり、エネルギーの高い伝導帯からエネルギーの低い価電子帯へ電子が遷移し正孔と再結合したとき、そのバンドギャップに相当するエネルギーがフォトン(光)となって放出されるのです。これが半導体の発光する仕組みです。

レーザーダイオードの材料と波長・発光色

レーザーダイオードは、半導体材料を用いて光を生成するデバイスです。レーザーダイオードの性能や特性は、選ばれる材料によって大きく変わります。一般的なダイオードはシリコンを使用しますが、レーザーダイオードは化合物半導体を使用するため、高い発光効率を持ちます。レーザーダイオードの材料選択は、その波長、発光効率、動作温度など多くの特性に直接影響します。

以下では、レーザーダイオードに使用される化合物半導体の役割とその特徴について詳しく見ていきます。

化合物半導体の役割

一般的なダイオードの素子がシリコン(Si)でできていることに対して、レーザーダイオードの素子には化合物半導体という材料が用いられます。シリコン(Si)は発光遷移確率(電流が光に変わる確率)が低くほとんど発光しないため、レーザーダイオードやLEDなどの発光素子の材料には適しません。
レーザーダイオードやLEDのように光る半導体を「直接遷移型半導体」、光らない半導体を「間接遷移型半導体」と呼びます。 半導体では、エネルギーの高い伝導帯からエネルギーの低い価電子帯へ電子が遷移します。このときの電子の遷移には、半導体の材料によって「直接遷移」と「間接遷移」があります。
下の図で間接遷移と直接遷移の様子を示します。縦軸はエネルギー、横軸に波数kを示しています。

A) 光る半導体「直接遷移半導体」(左図)

伝導帯の最も低い底と価電子帯の頂上が同じ波数k(電子波の空間的振動状態)にある半導体を「直接遷移半導体」といいます。価電子帯と伝導帯の間で電子が遷移する際、波数kは変わりません。つまり、伝導帯に励起された電子はエネルギー差であるバンドギャップEgをフォトン(光)の形で放出して価電子帯に遷移し、正孔と再結合します。これにより、光の発生効率が高く、レーザーダイオードやLEDの材料として利用されます。
直接遷移型半導体にはGaAs/AlGaAs、GaAlP/InGaAlP、GaN/InGaNなどがあります。このように、複数の元素を材料にしている半導体を化合物半導体といいます。特にⅢ族とV族の元素が結合したⅢ-Ⅴ族化合物半導体は、レーザーダイオードやLEDの発光素子に広く使われています。

B) 光らない半導体「間接遷移型半導体」(右図)

伝導帯の最も低い底と価電子帯の頂上の波数kが異なる半導体を「間接遷移型半導体」といいます。電子が価電子帯と伝導帯の間で遷移する際、波数kが変化します。この変化はフォノン(格子振動の量子)の放出・吸収により起こり、そのエネルギーは熱として放出されます。フォトン(光)の吸収とフォノンの吸収・放出が同時に起こる必要があります。光の放出を伴う遷移の確率(発光遷移確率)が低いため、発光効率が悪いので、発光素子として用いられません。間接遷移型半導体にはSiやGeがあります。

波長の範囲と調整方法

レーザーダイオードやLEDの材料である化合物半導体はその構成や比率によって、赤外光から赤や緑といった可視光、紫外光などさまざまな波長で発光します。基本的な発光波長は、活性層となる半導体のキャリア(励起状態の電子と正孔)が再結合するときのバンドギャップのエネルギーによって決まります。
バンドギャップエネルギー(Eg)と波長(λ)の関係は次の式で表されます。
Eg=hν=hc/λ(h:プランク定数、ν:光の振動周波数、c:光の速度)
この関係式より、バンドギャップエネルギー(Eg)は波長(λ)に反比例することがわかります。 つまり、バンドギャップエネルギーが大きいほど、光の波長λは短くなります 。

レーザーダイオードやLEDのような化合物半導体は、基板となる半導体材料の上にpn接合の薄膜結晶をエピタキシャル成長して作ります。良好な薄膜結晶を積み重ねるためには、半導体基板と各結晶層の格子定数が合うことが望ましく、材料を選定するときにはバンドギャップのエネルギーだけでなく格子定数も考慮する必要があります。

こちらの図は、格子定数とバンドギャップエネルギー(=波長)の関係をⅢ-Ⅴ族化合物半導体を中心に示しています。バンドギャップエネルギーの大きい材料は格子定数が小さく、逆にバンドギャップエネルギーの小さい材料は格子定数が大きい傾向にあります。この図から、原理的にはⅢ-Ⅴ族化合物半導体で紫外・可視・赤外の幅広い波長帯への対応が可能であることが分かります。例えば、GaAs基板の上にGaInPのpn接合を成長させると格子定数のマッチングもよく、約650nmの発光波長が得られると読み取れます。

発光色と波長の関係

単色性が高いレーザーダイオードは、幅広い波長で発光するLEDと違い、ほとんど一定の波長で光を発生します。世の中には様々な波長のレーザーあり、そのうち目に見える波長の光のことを「可視光線」と呼びます。代表的な波長は以下の通りです。

赤外線レーザー 780~1700nm
可視光線レーザー 380nm~780nm
紫外線レーザー ~380nm
X線レーザー 0.1~10nm

可視光と光の波長

材料と発光色

レーザーダイオード( 半導体レーザー)の材料には、主に以下のものがあります。

  • ガリウム砒素 (GaAs) : 最も一般的なレーザーダイオード材料で、広い波長範囲に対応できます。
    半導体製造技術がよく発展しているため、高い性能を発揮できます。
  • ガリウム窒化物 (GaN) : 高効率な青色LEDや高出力UV LEDの開発で知られています。
  • インジウムリン (InP) : 高速通信用途や、近赤外線領域のレーザーダイオードに使用されます。

レーザーダイオードの材料と発光色

レーザーダイオードの製造プロセスは、典型的には、化学蒸着法(CVD)や分子線エピタキシー(MBE)と呼ばれる技術を使用して行われます。これらの技術により、非常に細かい層を成長させることができ、高精度な半導体レーザーの製造が可能になっています。また、半導体材料の選択や製造プロセスの微調整により、レーザーダイオードの発光波長や出力パワーを制御することができます。

レーザーダイオードの発振原理

これまで レーザーダイオードやLEDに共通する「光る半導体」の構造や材料について説明してきました。では、レーザーダイオードとLEDは何が異なるのでしょうか?「レーザー(LASER)」とは “Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation”の頭文字をとったもので、「放射の誘導放出による光の増幅」という意味です。その名前のとおり、誘導放出を用いて増幅した光を取り出すことがレーザーの基本的な条件であり、LEDと異なる点です。
ここからは、レーザーダイオードの発振の原理である光の「誘導放出」と「増幅」について説明します。

誘導放出による光の増幅

半導体では、伝導帯から価電子帯へ電子が遷移して正孔と再結合するときにそのエネルギーを光として放出することはこれまでの説明のとおりです。光の放出には「自然放出」と「誘導放出」の2種類があります。

「自然放出」は伝導帯にある電子が各々の相互作用なしにそれぞれに価電子帯の正孔と再結合して光を出すもので、1つの再結合により1個のフォトンが放出されて完結します。
前述のように、光の波長は半導体のキャリアが再結合するときのバンドギャップエネルギーの大きさによって決まります。しかし、実際の再結合では、バンドギャップエネルギーとは異なる大きさのエネルギーを有した電子が価電子帯の正孔と再結合するので、自然放出光はランダムな偏光と位相をもっています。

これに対して、「誘導放出」は、伝導帯と価電子帯のバンドギャップエネルギーEgに相当する光λ1が通過するとき、光による相互作用により伝導帯中の電子が刺激されて価電子帯の基底状態に遷移します。このとき、同じエネルギー(波長)と同じ位相を持った光(フォトン)が放出されます。最初は1個だったフォトンが2個になり、この2個のフォトンが更に伝導帯の電子を刺激して4個になり…と誘導放出が増えていくことで、同じ波長と位相を持った強い光が取り出せます。このようにして、レーザー光の誘導放出が起こります。

光の共振器

誘導放出によって増幅作用が生じますが、レーザー発振をするためには、この増幅作用による利得を大きくする必要があります。そのため、レーザーダイオードは2つの反射面(ミラー)を向かい合わせに置いて、その間で光を繰り返し往復させる構造をとっています。このように、光増幅媒質を挟んだ両側に平行の反射面のある構造を、ファブリ・ペロー(Fabry-Perot)共振器といい、特にその共振器内部をキャビティといいます。半導体を用いたレーザーダイオードに限らず、ほとんどのレーザーでこの共振器がレーザー発振に重要な役割を果たします。
しかし、キャビティで光を往復させるだけでは、レーザーダイオードの外に光を取り出せません。そこで、光を反射面から外に出すために、片側の反射面の反射率を下げる、つまり光の一部を反射し一部を透過させる必要があります。反射面の反射率(又は透過率)を最適に設定することは、レーザーダイオードから効率よく光を取り出すための非常に重要なファクターです。
キャビティで光が往復し、光が十分に増幅され一定以上の強さになると、その光が反射率を下げた反射面を突き抜けます。これがレーザー発振の原理です。
一般的にレーザーダイオードでは、半導体のへき開面を反射面として利用し、へき開面から光が出射する構造をしています。このような構造のレーザーダイオードを、端面発光レーザー(EEL:Edge Emitting Laser)といいます。

レーザーダイオードの構造(光の閉じこめ、キャリア制御)

発光効率の高い実用的なレーザーダイオードにするために、これまでさまざまな構造の研究がされてきました。レーザーダイオードから効率よく光を取り出すために特に重要となるのが「光とキャリアの閉じ込め」です。まず、光の閉じ込めの基本原理となる、光の導波について説明します。

光の導波

光は、屈折率の高い部分に閉じ込められる性質があります。光の導波において、光が伝播する部分を「コア」、その周囲を「クラッド」と呼びます。コア部の屈折率n2はクラッド部の屈折率n1よりも高く、その屈折率差によって光がコア部に閉じ込められます。光はコア部とクラッド部との界面で全反射を繰り返しながら導波されます。

この光の導波を利用した例として、光ファイバーがあります。光ファイバーは「コア」である光伝送部と、その周りの「クラッド」、及び表面の被覆で構成されています。クラッド部にはコア部よりも屈折率が低い素材が使われるため、光はコア部に閉じ込められコア部をジグザグに進行しながら伝搬されます。
このような光の性質がレーザーダイオードの素子の構造にも利用されています。

ダブルヘテロ構造

LEDやレーザーダイオードに用いる半導体は、光のエネルギーを効率よく取り出す(発光効率を上げる)ために、ダブルヘテロ接合の構造をしています。一般に材料の異なる結晶の接合をヘテロ接合と言い、ダブルヘテロ接合とは、このヘテロ接合を2つ持っているということです。ダブルヘテロ接合では、「活性層」と呼ばれる半導体の層が、「クラッド層」と呼ばれるn型とp型の半導体に挟まれているサンドイッチ型の構造をしています。「活性層」はバンドギャップエネルギーの小さい発光の核となる半導体で、「クラッド層」は活性層よりもバンドギャップエネルギーの大きい半導体が用いられます。

ダブルヘテロ構造の役割は2つあり、「光の閉じ込め」と「キャリアの閉じ込め」です。

  • 光の閉じ込め:活性層に屈折率の高い層を、クラッド層に屈折率の低い層を用いることで、光ファイバーのように光を中央の活性層領域に閉じ込める働きをしています。
  • キャリアの閉じ込め: キャリア(電子と正孔)についても、活性層内に閉じ込める働きをします。その働きについて、ダブルヘテロ接合のエネルギー図で説明します。

上記の図の内、左側はダブルヘテロ接合に電圧バイアスがかかっていない状態です。
電子はn型クラッド層に多く存在していますが、活性層とn型クラッド層の間はエネルギー障壁があり、またバンドギャップの差により活性層とp型クラッド層との間にもエネルギー障壁が存在します。このため、電子は活性層に入り込めず、n型クラッド層に留まっています。これに対して、正孔のほうは、活性層とp型クラッド層の間にエネルギー障壁がないため、正孔は活性層に入り込んでいます。
この構造に順方向に電圧を印加した状態が右側の図となります。
n型クラッド層の電子にエネルギー障壁が無くなり、電子は活性層に移動することができます。しかし、バンドギャップの差による活性層とp型クラッド層の間のエネルギー障壁は残ったままのため、電子はせき止められて活性層内に滞留します。p型クラッド層からの正孔も同様に活性層内に滞留します。 n型クラッド層からの電子とp型クラッド層からの正孔が、活性層内で再結合することで発光します。 この構造により、活性層中にキャリア(電子と正孔)が閉じ込められてその密度が非常に高くなり、再結合確率が高くなります。この効果をキャリアの閉じ込め効果といいます。この効果により、発光効率の良い半導体の製造が可能となります。

光学的閉じ込めとキャリアの制御

基本的なレーザーダイオード素子の構造はダブルヘテロ構造をしています。p型n型面の全面に電極を付けたレーザーをブロードエリアレーザー(全面電極型レーザー)といいます。この構造では電流は広い範囲に流れるため、活性層の広い範囲からレーザー光が出射されることになります。この構造では、非常に大きな電流が流れることになり、実用化に向いていません。そこで、活性層の一部にだけ電流が注入されるように、ストライプ型レーザーというものが考案されました。その中でも、活性層の周りに活性層よりも屈折率の低い層を埋め込んだ内部ストライプ型レーザーが主流となっています。光ファイバーの原理と同じく、活性層では光の閉じ込めが起こります。
この構造のレーザーは発振モードが安定しており実用性が高いため、現在ほとんどのレーザーダイオードでこの構造が採用されています。

つまり、レーザーダイオード素子の活性層ではダブルヘテロ接合による垂直方向だけでなく、ストライプの埋め込みにより水平方向にも光が閉じ込められる構造になっています。 このような構造の工夫により、発光効率の高いレーザーダイオードが実用化されてきたのです。
現在は、更に発光効率を高めるために、活性層を複数層積層したスタック型レーザーダイオードも実用化されており、製品形態も多様性が広がっています。それにより、レーザーダイオードの用途も多岐に渡ります。これまではCDやDVDなど光ディスクのピックアップ用途、レーザープリンタやMFP(Multi-Function Printer)の感光用途などがレーザーダイオードの主要な市場でしたが、現在は光学センサの光源としての需要が拡大しています。特に近年は数百ワットといった高出力のレーザーダイオードの開発が進んでおり、自動車の自動運転に必要となるLiDAR向けの光源としての活用が期待されています。

レーザーダイオードと自然光やLEDとの違い

レーザーダイオード( 半導体レーザー)とLEDは、共に半導体素子を利用した光源であり、光を発生させる仕組みは類似しています。両者の違いは、“誘導放出”が起こるかどうかにあります。LEDは発生した光がそのまま放出される(自然放出)のに対し、半導体レーザーの発光は“誘導放出”といい、共振構造により、自分で発生させた光を活性層内で往復・増幅させて、位相の揃ったさらに強い光として発振します。こうして発光するレーザーには、LEDの光や自然光と比べて次のような特性があります。

  • 1. 指向性・直進性が高い
    LEDや自然光は、波長、位相、方向がランダムであるため、あらゆる方向に光が分散しやすくなります。一方、レーザー光は、非常に狭い角度で高い指向性を持ちます。これは、半導体レーザーの仕組みにより同じ波長、同じ位相で、同じ方向に集まった光を発生させられるためで、光源からの距離が遠くなってもほとんど広がることなく、一方向に強い光のまま直進します。このような特性は、レーザーダイオードが多くの用途に適している理由の1つです。

    自然光とレーザーダイオードの光の指向性・直進性の比較

  • 2. 単色性が高い
    レーザーダイオードの発光する光は単色性が高く、波長が狭いため、プリズムに通しても分解されにくいという特徴があります。これは、レーザー光が同じ波長、位相、方向に集まっているためです。そのため、特定の波長の光を効率的に生成でき、鮮やかで色再現性の高い光を実現します。下記の図からも、レーザー光はLEDと比べて特定の波長に集中していることが分かります。

    LED光とレーザーダイオード光の波長スペクトル分布比較

    一方太陽光のような自然光は様々な色の波長が混ざりあっているため、プリズムに通すと、七色の光に分解されます。LEDの光も波長の範囲が広く、波長が広がると光の強度が低下してしまいます。

    プリズムによる分光

    プリズムによる分光

    レーザー光はこの単色性の高さにより、特定の光の波長を必要とする光学測定やレーザー治療などに適しています。

  • 3. 可干渉性に優れ、高エネルギー密度
    レーザー光は高い可干渉性を持つため、複数の光が干渉し合って強くなることができます。これは、レーザー光が一定の波長を持ち、その波長の光が同じ位相の“コヒーレントな光”であるためです。複数のレーザーダイオードから放たれる光は、互いに位相が合致しているため、光が重なったときに互いに増幅されます。
    これに対して、LEDや自然光は複数の波長を持っており、その波長の光が異なる位相を持つため、重なったときに干渉し合って強くなることはありません。また、レーザー光は方向や位相がきっちりと揃っていることで、集光性に優れ、光エネルギーを一方向に集めやすくなります。たとえば、太陽光をレンズで集光すると、そのエネルギーで紙を燃やすことができますが、エネルギー集中性の高いレーザー光は金属をも溶かす高いエネルギー密度を実現できます。

    自然光とレーザーダイオードのコヒーレンス性・集光性比較 

レーザーダイオードの種類

レーザーの種類

医療、産業、通信など幅広い分野で活用されているレーザーですが、その媒質の素材によっていくつかに分類されます。
本記事で紹介するレーザーダイオードのほかに、以下のような種類があります。

  • ・ 固体レーザー:レーザー媒質に固体材料(半導体を除く)を使ったレーザーで、代表的なものにルビーレーザーやYAGレーザーがあります。ルビーレーザーは世界で最初にレーザー発振したレーザーです。波長が1064nm のYAGレーザーは鉱石を媒質としたレーザーで、金属加工などの産業用に幅広く用いられています。レーザー媒質が同じ固体であっても、半導体を材料とした場合はかなり性質が異なるため、レーザーダイオードとして区分するのが一般的です。
  • ・ 液体レーザー:レーザー媒質に液体が使われたもので、使用する媒質の特性によって有機色素レーザー、有機キレート化合物レーザー、無機レーザーの3種類に大別されます。代表的なものは「有機色素レーザー」で、色素分子を有機溶媒に溶かした有機色素を媒質に用いています。有機溶媒に溶かす色素分子により、可視光を含む波長を連続的に選択できる、いわゆる「波長可変レーザー」です。分光測定や分析など理学分野で多く活用されています。
  • ・ 気体レーザー:レーザー媒質に気体が使われており、ガスレーザーとも言われます。他のレーザーと比較してレーザー媒質が均質で損失が少ないため、大きなレーザー出力を得ることができるのが特徴です。
    代表的なガスレーザーの一つである炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)は、高出力で様々な素材の加工や溶接に向いているため産業用に多く使われています。また、レーザーメスとして医療用途にも用いられます。

レーザーダイオード(半導体レーザー)の種類

 レーザーダイオードは、光が出射する向きによって分類できます。

  • ・ 端面発光レーザー(EEL: Edge Emitting Laser):
    半導体へき開面を反射鏡として利用し、へき開面から光が出射する構造のレーザーです。
  • ・ 面発光レーザー(SEL: Surface Emitting Laser):
    半導体基板の表面から垂直方向に光が出射する構造のレーザーです。
  • ・ 垂直共振器面発光レーザー(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser) 
    半導体基板面の垂直方向に光を共振させ、放出された光を面の垂直方向に取り放出させます。
    閾値電流が小さい、低電流での高速変調が可能、温度特性が小さいなどの特長を持ち、光通信やセンサ分野で広く利用されています。

垂直共振器面発光レーザー

垂直共振器面発光レーザー

これらの種類のレーザーダイオードは、それぞれの特性に応じて、様々な用途に使用されています。

レーザーダイオードで利用されるパッケージ

現在、レーザーダイオードでは、円筒形の金属製ボディを持ち先端部に光出力窓があるCANパッケージが広く使用されています。一般的に以下のような特性を持ちます。

レーザーダイオードのパッケージ:CANパッケージの例 

レーザーダイオードのパッケージ:CANパッケージの例 

レーザーダイオードのパッケージ:フレームパッケージの例 

レーザーダイオードのパッケージ:フレームパッケージの例 

  • 1.外形寸法:直径3.8mmから5.6mmの範囲で利用可能で、高さは2.5mmから6mm程度となります。
    業界標準のサイズは5.6mmφ CANタイプが主流です。
    クワッドビームLDや一部の通信系などでは、サイズの大きい9.0mmφ などが用いられます。
    コスト重視の光ディスク分野では、樹脂でできたフレームなども採用されています。
  • 2.ボディ素材:一般的に真鍮、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属が使用されます。
    光出力窓:先端部に細い窓があり、この窓からレーザー光を出力します。
    窓は一般的にシリコンまたはガラスで作られ、直径は100μmから500μm程度となります。
    コストを重視した用途では、カバーガラスのないタイプもあります。
  • 3.ピン配置:Canパッケージには、一般的に2本または3本の端子が付属しています。
    2本の場合はレーザーダイオードとピンフォトダイオードのためのもので、3本の場合は温度センシング用のものが追加されます。

近年では、面実装パッケージタイプやチップ出荷等も対応しており、レーザーダイオードの用途は更なる広がりを見せています。

レーザーダイオードの寿命

レーザーダイオードの平均寿命は、動作環境(使用温度、静電気、電源ノイズ等)に依存しますが、一般的な条件(ケース温度25℃)での連続点灯で約10,000時間と言われています。使用時の動作温度が高いと寿命は短くなりますし、静電気放電(ESD)は故障の原因につながります。また、電源から発生するサージやノイズはレーザー素子の破損につながる可能性もあります。
レーザーダイオードを長期的に使用するためには、ヒートシンクなどによる放熱対策や、十分な帯電防止やサージの対策、ノイズフィルタ等の使用、また出力を必要最小限に抑える、などが有効となります。
パワー密度が高いレーザーの出力光は、たとえ小さな放出量であっても誤った使い方をすると人体に有害となる可能性もあり、非常に危険です。そのため十分な安全対策をしたうえで使用する必要があります。

レーザーダイオードの用途

  • 1 .光ディスク(CD, DVD, BD)
    CDやDVD、BDなどの光ディスクと呼ばれるデジタル記録メディアで、光ピックアップ(データを再生、記録するための装置)に使用されています。レーザー光を利用して音楽、映像などのデータの読み取り(再生)や、逆に情報の書込み(記録)ができます。
    レーザー光を使ってわずかな凹凸の有無を検出し、音や映像になどの電気信号に変換します。主にCDでは赤外線レーザーが、DVDでは赤色レーザーが使われます。波長が短くなるほど、レーザー光をより小さな領域に絞ることができ、より多くの情報の記録・再生が可能なため、ブルーレイディスクや次世代DVD用ピックアップでは青色のレーザー光が使われています。
  • 2. レーザープリンタ、MFP(Multi-Function Printer)など
    光の集光性に優れているレーザーダイオードは、レーザープリンタや複合機の感光などに利用されています。感光ドラムに照射する事によって信号を紙に転写します。レーザープリンタは印刷スピードが速く印刷物が劣化しにくいため、大量印刷が必要なビジネスシーンなどで広く利用されています。
  • 3. 光通信
    1300nm~の赤外線レーザーが使用されます。電力損失が小さく、膨大な量の情報を光信号に変えて遠方まで伝達することができるため、光ファイバー通信の光源として使用されています。また、高速通信が必要な無線通信システムの光データ伝送にも利用されており、ますます長距離高速伝送が求められる通信分野に向け高精度化が進みます。
  • 4. レーザー顕微鏡
    レーザー顕微鏡は、レーザー光を対象物に照射し、その反射した光を検出することで観察します。可視光よりも短い波長のレーザー光を使うことで、より高解像度で観察することができます。
  • 5. ポインタ、墨出し器
    直進性の高いレーザー光は、レーザーポインターにも活用されます。また、天井や壁に垂直水平をマーキングする墨出し器にも適しており、建築現場等で設置や施工を行う際の目印として使われます。
  • 6. 光学測距・3Dセンサ
    レーザーダイオードは高い直線性と精度を持つため、光学測定にも活用されます。レーザー光を利用して対象物との距離や形を計測するLiDAR(Light Detection and Ranging)は、自動車の自動運転支援システムや航空測量に使われるほか、スマートフォンやARのヘッドセットにも搭載されています。そのほか速度測定や重力波検出など、様々な分野で応用が広がっています。
  • 7. 煙・ダストセンサ
    レーザーダイオードはセンサの光源用途として、使用されています。レーザーの光が煙や空気中の微細なダストにぶつかり拡散することで、煙やダストの有無を検知します。
  • 8. レーザー治療
    医療分野においては、光力学反応を用いた疾患の診断や治療、手術や照射治療などに利用されており、例えば皮膚治療や目の手術、歯科治療、内視鏡手術など、今後さらに応用が見込まれています。
  • 9. 材料加工
    レーザーダイオードは、高い出力光を発生させることができるため、金属、プラスチック、セラミックなどの材料を加工するための光源として使用されます。レーザー加工は、高精度で高速な加工が可能であり、難加工材料の切断や穴あけなどの用途にも適しています。
  • 10. エンターテインメント
    レーザーダイオードは、ライブショー、コンサート、プロジェクションマッピングなどのエンターテインメント用途でも使用されます。レーザーの光の特性を生かして、幻想的な演出を行うことができます。

購入方法

ロームは世界中で半導体製品を提供しており、レーザーダイオードもその一部です。

下記のネット商社で製品を購入いただけます。

ロームの製品だけでなく、他のメーカーのレーザーダイオード製品も扱っています。
製品の価格、在庫状況、納期などを比較して、最適な半導体レーザーを選択することができます。

ロームでデータシートをダウンロードする。

ロームのサイトでは以下のレーザーダイオードをご紹介しております。

【資料ダウンロード】 レーザーダイオード ガイド【デバイス編】

レーザーダイオードの基礎として、レーザー光の特性、パッケージ構造、特性の読み取り方を説明します。 レーザーダイオードの駆動回路例や製品ラインアップについても紹介します。