プリントヘッド|設計編

最大定格と標準印字条件

2024.10.02

サーマルプリントヘッド(TPH)が組み込まれた機器の長寿命と高性能を実現するためには、「標準印字条件」と「最大定格」への理解が重要です。標準印字条件は最良の印字結果を達成するための基準を示すもので、最大定格は機器を安全かつ効率的に使用するために、条件の上限値を定めたものです。大定格の設定値はプリンタの特性を決定づける項目であり、定格を満足いただかなければ、製品の特性に影響を及ぼすこととなります。また、定格や印字条件の規定を満たせない場合、プリントヘッドの機能不全や早期故障を招く可能性があります。デバイスの耐久性と出力品質を保証する上で重要になりますので、レシートやラベルなど様々な用途に応じて、設計ガイドラインに従ってプリンタを設計ください。

最大定格

最大定格は、サーマルプリントヘッド(TPH)製品の使用にあたって、設定可能な最大値を示しています。TPH製品によって最大定格値は異なっています。プリンタの設計に際しては、周辺デバイスの選定も考慮の上、TPHの最大定格値を超過しないように注意が必要です。最大定格値を超過した値でTPH製品を使用いただいた場合、製品特性の低下や、製品損傷が発生する恐れがあります。また最大定格値の範囲内で製品の使用条件を設定しても想定されるプリンタ用途で必要十分な特性が得られない場合は、TPHの機種選定や設定値が不適切である可能性があります。ロームまでお問合せください。

ロームTPHの仕様書に記載している最大定格について、例を挙げて説明します。

最大定格 (ヘッド周囲温度25℃の時)

項目 記号 最大定格値 単位 条件
印字電源電圧 VH 26.4 V Vp < 28 V
Vp : VHのピーク電圧
印加エネルギー E0 0.215 mJ/dot S.L.T.=0.82msec
基板温度 Tsub 65 サーミスタ温度
ロジック電源電圧 VDD 7 V ピーク電圧含む
ロジック入力電圧 Vin -0.25 ~ VDD+0.25 V 最大7.0V

印字電源電圧(VH

印字電源電圧とは、発熱体を発熱させるための電源電圧です。サーマルプリントヘッド(TPH)の発熱体抵抗値は、印字電源電圧が最大値となった場合でも、実装されているドライバICの許容電圧、許容電流を満足するように設定しています。そのため最大定格値を超過すると、ドライバICに許容量を超過する負荷がかかることになりますので、TPHが損傷する可能性があります。バッテリーの満充電時の電圧や印字動作のON/OFFなどで変動する電圧に関しても、本最大定格が適用されますので、プリンタ動作においてTPHへの電圧が超過しないように注意する必要があります。

印加エネルギー(E0

印加エネルギーとは、発熱体を発熱させる電力と、電力を負荷とする時間の積で表します。仕様書に記載している印加エネルギーは、発熱体で消費されるエネルギーを示しています。TPH全体に供給するエネルギーの総量は、上記エネルギーに加え、駆動回路や配線で消費されるエネルギーの和で考慮されることとなります。本エネルギーは同一のTPHでも、印字条件によって変動することとなります。
サーマルプリントヘッド(TPH)への印加エネルギーが最大定格値を超過すると、発熱体が過熱することで損傷する可能性があります。また製品特性の低下、発熱体の抵抗値が異常となる恐れがあります。

基板温度

基板温度は、サーマルプリントヘッド(TPH)に実装されているサーミスタの検出温度を示します。TPHは発熱体が発熱する製品ですので、製品の使用に伴って基板温度が上昇することになります。使用条件や放熱板等による放熱特性を設定することで、基板温度が最大定格値を超えないように調整ください。基板温度が最大定格値を超過すると、実装されているドライバIC等が誤動作を引き起こし、製品が損傷する可能性があります。

ロジック電源電圧、ロジック入力電圧

ロジック電源電圧は、TPHに実装されているドライバICを駆動させるための電源電圧であり、ロジック入力電圧はドライバICに入力する信号の電圧を示しています。ロジックの電源電圧に応じて、ロジック信号の入力電圧が規定値内となるように設計ください。入力信号が規定値を超過すると、ドライバICが正常に動作せず、製品が誤動作あるいは損傷する可能性があります。

標準印字条件

サーマルプリントヘッド(TPH)製品の使用にあたって、推奨する標準的な印字条件を示しています。製品によって標準印字条件は異なっています。プリンタ設計にあたって標準印字条件を参考に使用条件を設定ください。想定されるプリンタ用途で十分な特性が得られない場合は、TPH機種の選定や設定値が不適切である可能性がありますので、ロームまでお問合せください。

標準印字条件として、電気的条件、機械的条件、感熱紙の3つを挙げ、例を用いて順に説明します。

(1) 電気的条件

ロームの仕様書に記載している条件を例に、標準印字条件としての電気的条件について説明します。

 (ヘッド周囲温度 25℃の時)

項目 記号 電気的条件 単位 条件
消費電力 Po 0.75 W/dot Rave=650Ω
供給電圧 VH 24.0 V
印字周期 S.L.T. 0.82 ms/line ヘッド周囲温度
消費エネルギー
(記録パルス幅)
Eo
(Ton)
0.20 mJ/dot 5℃
(0.27) ms
0.19 mJ/dot 25℃
(0.26) ms
0.18 mJ/dot 45℃
(0.24) ms
消費電流 Io 21.7*1 A
分割数 1  同時印加ドット数640

消費電力(Po)

消費電力とはサーマルプリントヘッド(TPH)の発熱体で消費される電力のことです。
製品の中央値(設計狙い値)で製造された製品について、消費電力値を算出しています。

供給電圧(VH)

供給電圧とは、TPHの発熱体回路に付加する電圧のことです。発熱体への印加エネルギーは印字条件によって変動いたします。

印字周期(S.L.T.)

印字周期とはScanning Line Timeの頭文字をとったものであり、主走査方向の発熱体を駆動する周期を示します。ストローブを順次駆動させ1ライン全ての印字を完了させる時間を周期として定義づけています。

消費エネルギー

仕様書に記載している印加エネルギーが、発熱体での消費エネルギーになります。印加エネルギーとは、発熱体を発熱させる電力と、電力を負荷する時間(記録パルス幅)の積で表しています。サーマルプリントヘッド(TPH)全体に供給するエネルギーの総量は、上記エネルギーに加え、駆動回路や配線で消費されるエネルギーの和で考慮されることとなります。本エネルギーは同一のTPHでも、印字条件によって変動することとなります。

記録パルス幅とは発熱体を駆動する通電時間を示します。この時間は通常は、ストローブ信号より与えられます。また、熱履歴制御内蔵型サーマルプリントヘッドでは、スタート信号により与えられます。

環境温度によって、標準とする記録パルス幅は変動させています。発色記録に必要とする熱量が、環境温度によって変動するためです。また製品の連続使用により、基板温度が変動することになりますが、同様に基板温度に対して記録パルス幅を設定することを検討ください。環境温度に応じた記録パルス幅を設定することで、安定した印字品位が期待できます。

使用される感熱紙(印字媒体)に応じて、記録パルス幅を最適化してください。感熱紙の保存特性や状態によって発色感度が異なっています。発色感度に応じて記録パルス幅を設定することで、安定した印字品位が期待できます。適正な印字品位の設定が困難である場合は、印字周期などの条件を検討ください。

消費電流(Io)

消費電流とは、印字動作で流れる瞬間最大電流です。印字条件によって変動する値となります。安定した印字品位を確保するために、必要とされる電源の確保をお願いします。消費電流の実効値はサーマルプリントヘッド(TPH)の電流容量を超えないようにしてください。実効電流値は、使用条件の通電時間と記録周期から算出できます。ただしケーブルの電流容量は含まれていませんので、使用を予定されている部材についても確認ください。

分割数

分割数とは、同時に印加するドット数について、1ラインの発熱体数を除算した値を表しています。1ラインの発熱体を複数回通電するにあたっての分割の程度を示しています。

同時印加ドット数は、印字品質を得るための値です。同時印加ドット数が多くなると印字濃度のバラツキが大きくなる場合があります。

(2) 機械的条件

ロームの仕様書に記載している条件を例に、標準印字条件としての機械的条件について説明します。

(ヘッド周囲温度 25℃時)

項目 機械的条件 単位又は条件
プラテン押圧 18.6±1.96 N/印字幅
プラテン硬度 40±5 ShoreA
プラテン径 14.0~20.0 Mm
副走査方向送りピッチ 8.0 line/mm

プラテン押圧

プラテン押圧とは、プラテンローラーをサーマルプリントヘッド(TPH)の発熱体部へ押し当てる圧力のことです。プラテンおよびTPHの間に、感熱紙または熱転写リボンなどの熱反応材料を介することとなります。プラテン押圧の推奨値は製品仕様により異なりますが、印字幅全域に対して、荷重を加えるようにしてください。主走査方向について均一に荷重を加えることを推奨しています。

プリンタの用途に応じて、最適な印字品位が得られるように調整ください。ローム製品の特性は標準印字条件の設定値内で確認しております。

プラテン硬度

プラテン硬度とは、プラテンローラーのゴム材の硬度のことを示します。数値が高いほど、硬いことを示します。硬度に応じて、発熱体部への局所的な応力が変動することになります。またプラテンとの応力負荷面積が変動することになります。使用される印字媒体に応じて選定いただくこととなります。

プラテン径

プラテン径とはプラテンローラーの直径サイズのことです。プラテン径は製品仕様により異なります。
プラテンローラーの最大直径は、記載されている直径値を満足するようにしてください。プラテン径の最大値を超過すると、ドライバIC保護樹脂等に接触する可能性がありますので、印字品位への影響、あるいは製品不具合が発生する可能性があります。

副走査方向送りピッチ

副走査方向送りピッチとは感熱紙または熱転写リボンなどの搬送方向への送りピッチのことです。通常は、TPHの主走査方向の発熱体解像度と同一の値が、副走査方向の送りピッチとなります。一部の製品では、発熱体を1ドットサイズより小さく形成するように、熱集中構造にすることで、発色の効率を向上させている製品があります。

(3) 感熱紙

ロームの仕様書においては、標準印字条件の感熱紙として、以下を推奨しています。

 王子製紙 PD150R または同等品

サーマルプリントヘッド(TPH)製品が使用されるプリンタ用途を想定して、標準的な感熱紙を設定しています。推奨紙以外を使用する場合は、適正な印字品位が得られるように印字条件を調整ください。またプリンタの設定条件によってもTPH製品特性に影響を及ぼすことがあります。製品特性が満足できているかも含めて十分な評価をしてください。

サーマルプリンタ市場には多様な感熱紙等の印字媒体が流通していますが、印字媒体の特性に応じた印字条件の設定、印字条件に応じた製品への影響を考慮してください。