電源設計の技術情報サイト
2017.09.26 スイッチングノイズ-EMC
初回の「EMCとは」において、電磁妨害EMIは大きく「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の2つに分けられることを説明しました。その内、伝導ノイズは伝導の仕方によって、「ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズ」と「コモンモードノイズ」という2種類に分類できます。今回は、これら2種類のノイズについて説明します。
ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズ
伝導ノイズは2つに分類することができます。1つは「ディファレンシャルモードノイズ」で、「ノーマルモードノイズ」とも言います。条件によって使いわけをしている場合がありますが、ここでは同じものとします。もう1つは「コモンモードノイズ」です。以下の図を使って説明します。ここでは電源ベースの話をしていますので、図は回路があるプリント基板(PCB)が筐体に入っており、外部から給電される例になっています。
ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ源が電源ラインに対して直列に入り電源電流と同じ方向にノイズ電流が流れ、電源ライン間に発生します。行きと戻りの向きが逆になることから、ディファレンシャルモード(Differential mode)と呼ばれています。
コモンモードノイズは、浮遊容量などを介して漏れたノイズ電流が、大地を経由して電源ラインに戻ってくるノイズです。電源の(+)側と(-)側で流れるノイズ電流の向きが同じことからコモンモード(Common mode)と呼ばれます。電源ライン間にはノイズ電圧は発生しません。
前述したように、これらのノイズは伝導ノイズです。しかしながら、電源ラインにノイズ電流が流れているわけなので、ノイズは放射されます。
ディファレンシャルモードノイズによる放射の電界強度Edは、左下の式で表すことができます。Idはディファレンシャルモードでのノイズ電流、rは観測点までの距離、fはノイズ周波数です。ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ電流ループを作ってしまうので、ループ面積Sが重要なファクタになります。図と式が示すように、他の要素が一定だとすると、ループ面積が大きくなれば電界強度は高くなります。
コモンモードノイズによる放射の電界強度Ecは、右下の式で表すことができます。図と式が示すように、ケーブル長Lが重要なファクタになります。
ここで、それぞれのノイズによる放射の特徴を確認するために、実際の数値を入れて電界強度を計算*1してみたいと思います。条件はまったく同じです。電界強度の観測点を青色のドットで示してあります。*1:式の出典-詳解 EMC工学 実践ノイズ低減技法 著者 ヘンリーWオットー 東京電機大学出版局
この計算結果で重要なのは、同じノイズ電流値でもコモンモードノイズによる放射が遥に大きい(この例では約100倍)点です。いずれにしても、これらの伝導ノイズおよび放射ノイズ、つまりEMIが許容範囲を超えるようであれば、ノイズ対策をする必要があります。特に、放射ノイズ対策を考えた場合は、コモンモードノイズに対する対策が重要になることを覚えておいてください。
対策に関しては、今後、順を追って説明してきますが、最も原則的なノイズ対策としては、デファレンシャルモードノイズはループ面積Sを減らす、例えばケーブルは撚り線にする、コモンモードノイズはケーブルを極力短くするといったことになります。しかしながら、配置や部材の制限が必ず出てくるので、フィルタを追加するといった方法を検討する必要があります。
この項では、まずはノイズの種類と性質を理解しておいてください。
・電磁妨害EMIは大きく「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の2つに分けられる。
・伝導ノイズはディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズの2種類に分類できる。
・放射に関しては、ディファレンシャルモードノイズはラインのループ面積、コモンモードノイズはライン長が重要なファクタになる。
・条件が同じでも、コモンモードノイズによる放射はディファレンシャルモードノイズより遥に大きいので注意する。