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2020.09.29 SiCパワーデバイス
前回は、LSスイッチターンオン時のゲート-ソース間電圧の挙動挙動について説明しました。今回は続いてLSターンオフ時の挙動の詳細を説明します。
ローサイドスイッチターンオフ時のゲート-ソース間電圧の挙動
以下に、LSのMOSFETがターンオフする時の電流挙動を示した等価回路と各波形の模式図を示します。ターンオン時と同じく、各象事に(IV)、(V)、(VI)の番号を付けてあります。ターンオン時に対してVDSとIDが変化する順序が変わるだけで、基本的な動作は同じです。ターンオン時の事象との対応は以下のようになります。
ターンオフ | ターンオン | |
事象(IV) | → | 事象(II) |
事象(V) | → | 事象(III) |
事象(VI) | → | 事象(I) |
dVDS/dtによるLSのVGSの盛り上がりとHSのVGSのマイナスサージ(模式波形図T4)が事象(IV)となります。
模式波形図のT4期間終了時に式(2)に示すICGD1が消滅すると発生するサージが事象(V)です。式(2)は以前示したものと同じです。その後ドレイン電流が変化し(模式波形図T6)、式(1)に示すLSOURCEによる起電が発生し、等価回路の事象(VI)のように電流が流れます。式(1)も以前示したものと同じです。
この電流はMOSFETのCGSを、ソース側を負として充電するため、HSではVGSを押し上げ、LSではVGSをプラス側に引き上げVGSが降下するのを妨げる動きとして見えます。結果として、模式波形図のようなVGS挙動となります。模式波形図中のVGSの点線は、理想的な電圧波形を示しています。
外付けゲート抵抗の影響
以下に、SiC MOSFETによるブリッジ構成のLSをターンオフした時のダブルパルス試験結果を示します。(a)の波形図は外付けゲート抵抗RG_EXTが0Ωの場合、(b)は10Ωです。図中の(IV)、(V)、(VI)は先の事象と同意です
波形図が示すように、事象(V)のサージが顕著に現れていることが分かります。
VDSの変化による事象(IV)の影響は小さいですが、HSにおける事象(IV)によるマイナスサージはしばしば定格を超えることがあり、その場合は回路に対策が必要となります。このターンオフ時のHSマイナスサージを小さくするためには、HSゲート抵抗RG_EXTを小さくします。しかしながら、前回説明したような一般的に用いられているゲート抵抗調整回路では、抵抗値の高いRG_ON側で事象(IV)が顕著になるため注意が必要です。
なお、事象(VI)によるVGSの持ち上がりについては、このタイミングがターンオフ終了直前であることから、HSがターンオン動作に入ったとしてもLSはターンオフしておりほとんど問題になりません。
・LSスイッチがターンオフした際にも、ターンオン時と基本的に同じ挙動が生じる。
・HSに発生するマイナスサージは定格を超えることがあり、その場合は回路に対策が必要。