電気回路設計|基礎編

リアクタンスとは? 「電気回路の流れにくさ」

2024.09.30

リアクタンスは、交流回路における電流の流れを妨げる電気的抵抗の一種で、記号は「\(X\)」、単位は「\(Ω\)」です。リアクタンスには容量性と誘導性の2種類があり、周波数が高くなると容量性リアクタンスは減少し、誘導性リアクタンスは増加します。リアクタンスは電流の位相変化によって発生し、電力を蓄える特性があります。この特性の理解は、交流回路の設計や解析において必要であり、高周波フィルタや共振回路の調整、電力伝送の効率化に欠かせません。

本記事ではリアクタンスの2つのタイプや計算方法、更にインピーダンスとの関係を解説していきます。

リアクタンスとはなにか

リアクタンスは交流電流の流れにくさのこと

リアクタンスは交流回路でのみ発生する抵抗の一種です。交流電流がコイル(インダクタンス)やコンデンサ(キャパシタンス)を通過すると、電流の位相が変化してリアクタンスが生じます。記号は「\(X\)」、単位は「\(Ω\)」で表されます。リアクタンスは、コイルやコンデンサを使った交流回路の設計や解析で重要な原理です。また、複素インピーダンスを構成する際の虚部でもあります。

インピーダンス=抵抗+リアクタンス

リアクタンスの求め方

リアクタンス\(X\)は、電圧\(V\)と電流\(I\)の比から計算できます。以下の公式で求められます。

\(X=\displaystyle \frac{V}{I}\ [\mathrm{\Omega}] \)

ただし、コイルとコンデンサでリアクタンスの動作は異なり、コイルのリアクタンスを「誘導性リアクタンス」、コンデンサのリアクタンスを「容量性リアクタンス」といいます。

リアクタンスと抵抗の違い

リアクタンスと同様に、電流の流れにくさを示す「抵抗」もあります。抵抗は「\(R\)」で表され、単位は「\(Ω\)」です。抵抗も「電流を妨げる大きさ」を表しますので、電流と電圧との公式はリアクタンスと同じになります。

\(R=\displaystyle \frac{V}{I}\ [\mathrm{\Omega}]\)

一般的に、抵抗は「抵抗器」のことを指すことが多いです。

リアクタンスと抵抗の違いは2つあります。1つは、リアクタンスは「交流回路における電流の流れにくさ」を表すのに対し、抵抗は「直流回路と交流回路の両方の電流の流れにくさ」を表す点です。

もう1つの違いは、リアクタンスは周波数によって変化するのに対し、抵抗は周波数によって変化しません。
例えば、\(5Ω\)の抵抗に「振幅\(5V\)、周波数\(100Hz\)の交流電源」で接続した場合と、「振幅\(5V\)、周波数\(200Hz\)の交流電源」を接続した場合を比較すると、どちらも電流の大きさは同じです。

\(I = V / R = 5/5 = 1A\)

誘導性リアクタンス

誘導性リアクタンスとは、交流電流が変化する際にインダクタ(コイル)によって生じる抵抗力のことです。この抵抗力は、電流の変化に反応し、その変化を抑えようとする反対向きの電圧をインダクタが生成することで発生します。その結果、誘導性リアクタンスは交流回路内で電流の流れを遅くし、電流と電圧の間に位相差を生じさせます。誘導性リアクタンスの記号は「\(X_L\)」で表されます。

誘導性リアクタンスの求め方

誘導性リアクタンスは、コイルなどの誘導素子によって生じるもので、交流電流の周波数と誘導素子のインダクタンスに依存します。具体的には、誘導性リアクタンス「\(X_L\)」は、以下の公式で計算されます。

\(X_L\ =\ \omega L\ =\ 2\pi fL\ [\mathrm{\Omega}]\)

ここで、

  • ・\(ω\):角周波数(\(2πf\))\(rad/s\)
  • ・\(f\):周波数
  • ・\(L\):インダクタンス\(H\)

なお、インダクタンス「\(L\)」の単位「\(H\)」は、「ヘンリー」と読みます。コイルのインダクタンス「\(L\)」は、コイルの形状や巻き数によって決まる固有の値です。

誘導性リアクタンス

周波数「\(f\)」が高くなるにつれ、誘導性リアクタンス「\(X_L\)」は大きくなります。つまり、誘導性リアクタンスは周波数に比例します。直流回路では周波数が\(0Hz\)であるため、誘導性リアクタンスは\(0\)になります。

誘導性リアクタンスにおいては、電流は周波数に反比例する

誘導性リアクタンスにおいては、電流は周波数に反比例します。誘導性リアクタンスは交流回路における電圧と電流の比であるインピーダンスの一部であり、以下の公式で表されます。

\(X_L=V/I\left[\mathrm{\Omega}\right]\)

この公式を電流「I」に対して解くと、次のようになります。

\(I = \displaystyle \frac{V}{X_L} = \displaystyle \frac{V}{2\pi f L} \, \text{[A]}\)

この式から、電流「\(I\)」は周波数「\(f\)」が高くなるにつれて小さくなる、つまり反比例することがわかります。

誘導性リアクタンスで、電流が周波数に反比例している

容量性リアクタンス

容量性リアクタンスとは、交流電流が変化する際にキャパシタ(コンデンサ)によって生じる抵抗力のことです。この抵抗力は、電流の変化に対応してキャパシタが蓄える電荷量が変わり、それによって生じる電圧の変化を通じて発生します。その結果、容量性リアクタンスは交流回路内で電流の流れを速くし、電流と電圧の間に位相差を生じさせます。容量性リアクタンスの記号は「\(𝑋_𝐶\)」で表されます。

容量性リアクタンスの求め方

容量性リアクタンスは、キャパシタなどの容量素子によって生じ、交流電流の周波数とキャパシタのキャパシタンスに依存します。具体的には、容量性リアクタンス「\(𝑋_𝐶\)」は以下の公式で計算されます。

\(X_C=\displaystyle \frac{1}{\omega C}=\displaystyle \frac{1}{2\pi fC}\ \left[\mathrm{\Omega}\right]\)

ここで

  • ・\(ω\):角周波数(\(2πf\))[\(rad/s\)]
  • ・\(f\):周波数[\(Hz\)]
  • ・\(C\):キャパシタンス\(F\)

キャパシタンス「\(C\)」の単位「\(F\)」は、「ファラド」と読みます。コンデンサの静電容量「\(C\)」は、コンデンサの物理的特性によって決まる固有の値です。

容量性リアクタンス

周波数「\(f\)」が高くなるにつれて、容量性リアクタンス「\(X_C\)」は小さくなります。つまり、容量性リアクタンスは周波数に反比例します。直流回路では周波数が\(0Hz\)であるため、容量性リアクタンスは無限大になります。

容量性リアクタンスにおいては、電流は周波数に比例する

容量性リアクタンスは、交流回路における電圧と電流の比であり、以下の公式で表されます。

\(X_C = \displaystyle \frac{V}{I} \, \text{[Ω]}\)

この公式を電流「\(I\)」に対して解くと、次のようになります。

\(I=\displaystyle \frac{V}{Xc}=V・2πfC[A]\)

この式から、電流「\(I\)」は周波数「\(f\)」が高くなるにつれて大きくなる、つまり比例することがわかります。

容量性リアクタンスで、電流が周波数に反比例している

合成リアクタンス

合成リアクタンスとは、交流回路において、誘導性リアクタンス(インダクタによって生じる抵抗力)と容量性リアクタンス(キャパシタによって生じる抵抗力)の効果が合わさった総合的な抵抗力のことです。この合成された抵抗力は、回路内の電流の位相と電圧の位相の間の関係に影響を及ぼし、それによって交流回路の挙動を決定します。誘導性リアクタンスは電流の変化に対して抵抗し、位相を遅らせる一方で、容量性リアクタンスは電流を先行させます。合成リアクタンスはこれらの二つのリアクタンスの差として計算され、その結果によって電流が電圧に対して遅れるか、逆に先行するかが決まります。合成リアクタンスの記号は通常「\(X\)」で表され、その値は誘導性リアクタンス「\(X_L\)」から容量性リアクタンス「\(X_C\)」を引いたものになります。

\(X = X_L – X_C = \omega L – \displaystyle \frac{1}{\omega C} = 2\pi f L – \displaystyle \frac{1}{2\pi f C} \, \text{[Ω]}\)

ここで注目する点として、誘導性リアクタンスと容量性リアクタンス共に周波数が関係しているという点です。特定の周波数のときに、\(X_L\)=\(X_C\)、つまり合成リアクタンスの値が\(0\)になる場合があります。この状態を共振といい、このときの周波数を共振周波数といいます。

合成リアクタンス

▼共振及び共振周波数に関する情報は、こちらの記事でも詳しく解説しています。
共振周波数とは?固有振動数と共振回路のリアクタンスやインピーダンスも解説

インピーダンスの構成要素としてのリアクタンス

リアクタンスとインピーダンスの違いを理解することは、効率的な電気回路設計に必要です。ここでは、リアクタンスとインピーダンスの特性を掘り下げ、それぞれが電気回路に与える影響の違いを説明します。

インピーダンスとは、抵抗とリアクタンスで構成された交流回路における電気の流れにくさを示す指標です。その記号は「\(Z\)」、単位は「\(Ω\)」と表されます。

インピーダンス=抵抗+リアクタンス

インピーダンスは複素インピーダンスとして表すことが一般的です。複素インピーダンスは電気回路における電流と電圧の関係を複素数で表すもので、リアクタンス(\(X\))は、虚部にあたります。複素数インピーダンスの公式は次のように表現されます:

\(Z = R + jX\)

ここで、\(R\)は電力を消費する成分、\(X\) は電力を蓄える成分です。
また\(j\)は虚数単位で(\(j^2 = -1\))です。

また、インピーダンスの大きさ(絶対値)の公式は、三平方の定理から次のように計算されます

\(Z=\sqrt{\left(R^2+X^2\right)}\)

複素インピーダンス

▼インピーダンスについて詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
インピーダンスの計算|直列回路、並列回路それぞれ解説

リアクタンスの電流の位相に対する影響

リアクタンスは、電子回路で電流の流れを遅らせたり進めたりします。誘導リアクタンスは、インダクタの磁場の変化で電流の流れを遅らせ、容量性リアクタンスは、コンデンサの電荷の蓄積と放出で電流の流れを進めます。

交流でのRLCと位相シフト

これにより、誘導リアクタンスは電流の位相を電圧に対して遅らせ、容量性リアクタンスは電流の位相を電圧に対して進めます。具体的には、誘導リアクタンスを持つ回路では電流が電圧より90度遅れ、容量性リアクタンスを持つ回路では電流が電圧より90度進みます。この位相差は、交流回路の設計や分析において重要です。

交流回路における位相差は力率(Power Factor)に直接影響し、電力の効率的な伝送や消費に大きな影響を与えます。電力因数が1に近い場合、電力の効率が良いことを意味し、逆に電力因数が低い場合、無駄な電力が多く消費されます。したがって、リアクタンスの影響を理解し、管理することはエネルギー効率の向上と電力コストの削減に役立ちます。

このことから、リアクタンスは電流の位相に対して重要な影響を与え、これを理解することは、電子回路や電力システムの効果的な設計と運用に役立ちます。

リアクタンスと電力の関係

交流電力には皮相電力、有効電力、無効電力の3種類がありますが、リアクタンスは、この無効電力を生み出す主な要因です。リアクタンスによって、電圧と電流の位相差θが生じることで無効電力が発生します。

  1. 皮相電力(Apparent Power, \(S\)):電圧と電流の積で表される総電力です。単位はVAです。

    \(S=V\times I\)

  2. 有効電力(Active Power, \(P\)):実際に仕事をする電力で、抵抗によって消費されます。単位はWです。

    \(P=V\times I\times cos\theta\)

  3. 無効電力(Reactive Power, \(Q\)):エネルギーが蓄えられたり放出されたりする成分で、インダクタンスやキャパシタンスによって引き起こされます。単位はVARです。

    \(Q=V\times I\times sin\theta\)

リアクタンスが大きくなると、この位相差も大きくなり、それに比例して無効電力も増加します。したがって、リアクタンスは無効電力の発生に直接的に関与していると言えます。

リアクタンスの種類と関連項目の違いを理解しよう

リアクタンスは、交流回路における電流の流れに対する抵抗を示す概念です。記号「\(X\)」、単位「\(Ω\)」で表され、誘導性リアクタンス(インダクタによる)と容量性リアクタンス(コンデンサによる)の二つに分類されます。これらは周波数に依存して変化し、電流の位相を変化させるため、交流回路の設計や解析に必要です。

誘導性リアクタンスは周波数が上がると増加し、容量性リアクタンスは周波数が上がると減少します。この特性により、交流回路内での電流の挙動が決まります。また、合成リアクタンスはこれら二つのリアクタンスの差で計算され、共振周波数ではリアクタンスが打ち消し合い、合成リアクタンスがゼロとなることを覚えておきましょう。

リアクタンスの理解は、次に取り上げるインピーダンスの理解に繋がります。インピーダンスはリアクタンスと抵抗を組み合わせたもので、電流と電圧の関係を示します。次の記事では、インピーダンスの詳細と計算方法を解説します。その後、共振回路に進み、リアクタンスやインピーダンスが共振現象にどう影響するかを探ります。

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