電気回路設計|基礎編

交流回路と複素数の関係

2024.07.23

交流回路において、電流や電圧は時間経過と共に変化する性質を持ちます。これらの変化が電気回路にどのような影響を与えるのかを正確に理解するために、複素数の知識は極めて重要です。複素数の具体的な計算方法を理解し、視覚的にも詳細に解説します。これにより、交流回路の特性を深く理解し、より効率的かつ精密な回路設計を実現するための基盤を築きます。

交流回路と複素数の基本理解

交流回路は電流や電圧が時間によって変化する回路を指します。これに関連する複素数の基本的な理解は、交流回路の特性を正確に把握するために重要です。複素数の導入や計算、表示方法、基礎的な概念を網羅的に解説します。

複素数の基本形式

複素数は通常、実部と虚部からなります。一般的な複素数の表現は以下のようになります。

\( Z = a + jb \)

ここで、\( a \)は実部、\( b \)は虚部であり、\( j \)は虚数単位です。
複素数を極座標形式に変換することも一般的で、 \( Z = re^{j\theta} \) と表すことができます。

複素数の基本形式

複素数の四則演算

加算と減算:複素数の加算と減算は、実部と虚部をそれぞれ計算します。
例えば、複素数 \( Z_1 = a_1 + jb_1 \) と \( Z_2 = a_2 + jb_2 \) の和は、\( Z_1 + Z_2 = (a_1 + a_2) + j(b_1 + b_2) \) となります。

乗算:複素数の乗算は、実部同士と虚部同士を掛け、虚数単位の積が負になることを利用して計算します。
例えば、複素数 \( Z_1 = a_1 + jb_1 \) と \( Z_2 = a_2 + jb_2 \) の積は、\( Z_1 \cdot Z_2 = (a_1 \cdot a_2 – b_1 \cdot b_2) + j(a_1 \cdot b_2 + a_2 \cdot b_1) \) となります。

除算:複素数の除算は、分母と分子に複素数の共役をかけることで実現されます。

例えば、複素数 \( Z_1 = a_1 + jb_1 \) と \( Z_2 = a_2 + jb_2 \) の商は、\(\displaystyle \frac{Z_1}{Z_2} = \displaystyle \frac{a_1 a_2 + b_1 b_2}{a_2^2 + b_2^2} + j \displaystyle \frac{a_2 b_1 – a_1 b_2}{a_2^2 + b_2^2}\)となります。

インピーダンスの複素数表現

回路のインピーダンスは複素数で表されます。抵抗、インダクタンス、キャパシタンスのそれぞれが複素数として表現され、これらのインピーダンスを複素数の演算を用います。

交流回路解析への応用として、複素数演算を用いて計算し、回路のインピーダンスを最適化(インピーダンスマッチング)することで、エネルギー伝達を最大化できます。これにより、回路間での信号伝達や電力伝送の効率が向上します。

また、複素数解析を用いて、システムの安定性や周波数応答を視覚的に理解するためのツールとしてナイキスト図があります。これは複素平面上で伝達関数をプロットし、システムの挙動を把握するのに役立ちます。

その他、複素数解析を使用して回路の帯域幅や信号対雑音比を最適化する方法を提供するボードマンの法則より、回路の性能向上が期待できます。

数学的背景

数学的な背景は、交流回路と複素数の理解において基本的であり、電子回路の解析や設計において不可欠です。以下では、オイラーの公式、三角関数、微分、積分、絶対値などが交流回路と複素数の理解に欠かせない概念について解説します。

オイラーの公式

オイラーの公式は複素数表示において中心的な役割を果たします。指数関数と三角関数が結びついたこの公式は、複素数の表現を極座標形式や直交座標形式で簡潔に行う際に利用されます。

1. 複素指数関数の定義
複素指数関数は、オイラー数\( e \)を用いて次のように定義されます。

\( e^{j\theta} = \cos\theta + j\sin\theta \)

ここで、\( j \)は虚数単位です。

2. オイラーの公式の導出
複素数\( Z \) を\( Z = a + jb \) とし、複素指数関数を利用して表現すると次のようになります。

\( e^{z} = e^{a + jb} = e^{a} e^{jb} \)

この式に先程の複素指数関数の定義を代入すると、次のようになります。

\(e^z = e^a (\cos b + j \sin b)\)

特に\( Z = j\theta \) とすると、\(a = 0 と b = \theta \) です。これを整理すると、オイラーの公式が導出されます。

\( e^{j\theta} = e^0 (\cos\theta + jsin\theta) = \cos\theta + j\sin\theta \)

オイラーの公式

オイラーの公式の応用例

オイラーの公式を用いた複素数の極座標形式は、複素数を極座標で表すための方法です。極座標形式は特に三角関数や回転の概念を用いて表現され、複素数 \( z \) が \( re^{j\theta} \) と表されるとき、以下の要素から成り立ちます。

1. 複素数の極座標形式
複素数 \( z \) を極座標形式で表すと次のようになります。

\( z = re^{j\theta} \)

ここで、\( r \) は複素数の大きさ(絶対値)、\( \theta \) は複素数の位相角を表します。これはオイラーの公式を用いて導かれます。

2. オイラーの公式を用いた導出
オイラーの公式 \( e^{j\theta} = \cos\theta + j\sin\theta \) を利用して、極座標形式を導出します。

\( Z = re^{j\theta} = r(\cos\theta + j\sin\theta) \)

この形式では、三角関数の性質が明示的に現れ、複素数が複素平面上での角度と大きさに分解されています。

3. 極座標形式の意味
大きさ\( r \):複素数の原点からの距離で、絶対値を表します。
位相角 \( \theta \):複素数がx軸から反時計回りになす角度で、引き続き角度はラジアン単位で表されます。

4. グラフ上の表現
複素数 \( z = re^{j\theta} \) は、複素平面上の原点から大きさ \( r \) だけ離れ、x軸から角度 \( \theta \) だけ回転した点を指します。これは、三角関数の性質から導かれる円運動の考え方です。

5. オイラーの公式の優れた特性
オイラーの公式によって、三角関数と指数関数が結びつけられることで、複素数の操作や解析が楽になります。極座標形式は特に、複素数の掛け算や割り算などの計算が角度の加法や減法としてシンプルに表現できる点で便利です。

6. 複素数の掛け算と割り算
極座標形式を用いると、複素数の掛け算と割り算が簡単に計算できます。

掛け算:
\( z_1 \cdot z_2 = r_1 e^{j\theta_1} \cdot r_2 e^{j\theta_2} = r_1 r_2 e^{j(\theta_1 + \theta_2)} \)

割り算:
\( \displaystyle \frac{z_1}{z_2} = \displaystyle \frac{r_1 e^{j\theta_1}}{r_2 e^{j\theta_2}} = \displaystyle \frac{r_1}{r_2} e^{j(\theta_1 – \theta_2)} \)

三角関数

三角関数は交流回路や正弦波の解析において頻繁に使用されます。特に正弦波の表現にはサインやコサインが頻繁に登場します。三角関数の基本的な性質やグラフの特徴を理解し、交流回路における波形の特性を掴みましょう。

正弦関数

\(y=sinθ\)

正弦関数

周期性 :正弦関数は周期的で、周期は2πまたは360度。
振幅 :振幅は1で、-1から1の間を振動する。
対称性 :偶関数であり、\(sin(-θ)=-sin(θ)\)
最大・最小値:最大値は1、最小値は-1。
位相差 :\(sin(θ+π)=-sin(θ) \) 位相差πは逆位相を表す。

余弦関数

\(y=cosθ\)

余弦関数

周期性 :余弦関数も周期的で、周期は2πまたは360度。
振幅 :振幅は1で、-1から1の間を振動する。
対称性 :偶関数であり、\(cos(-θ)=cos(θ)\)
最大・最小値:最大値は1、最小値は-1。
位相差 :\(cos(θ+π)=-cos(θ)\) 位相差πは逆位相を表す。

正接関数

\(y = \tan \theta = \displaystyle \frac{\sin \theta}{\cos \theta}\)

正接関数

周期性 :正接関数は周期的で、周期はπまたは180度。
発散点 :余弦関数が0になる点では、正接関数は発散する。

微分と積分

微分と積分は、電流や電圧の変化を捉えるために必要な数学的な手法です。交流回路の解析においては、時間に対する変化を考慮することが重要です。微分や積分の概念を理解し、交流回路における信号の時間的な特性を捉えましょう。

微分と積分

微分の概念

微分は、関数の変化率を表す操作であり、ある点における瞬時の変化を示します。関数\(f(x) \) を\( x \) で微分すると、導関数\( f’ (x) \) が得られます。導関数は元の関数の傾きを表し、次のように定義されます。

\(f'(x) = \displaystyle \frac{\lim}{t \to 0} \displaystyle \frac{f(x+t) – f(x)}{t}\)

積分の概念

積分は、関数の面積や累積を計算する操作であり、微小な区間を足し合わせることで得られます。関数\( f(x) \)を\( x \)で積分すると、不定積分\(∫f(x) dx \)又は定積分\( \int_a^b f(x) \, dx \)が得られます。不定積分は原始関数を求め、定積分は区間\( [a,b] \)での面積を表します。

\(\int f(x) \, dx = F(x) + C\)

ここで、\(F(x) \)は \(f(x) \)の原始関数、\( C \)は積分定数です。

交流回路における信号の時間的な特性

交流信号の表現
交流回路では、時間とともに変化する信号が一般的に使用されます。交流信号は一般的に正弦波で表され、以下のような形を持ちます。

\(V(t)=V max si n⁡(ωt+θ)\)

ここで、\( V max\)は振幅、\( ω \)は角周波数、\( t \)は時間、\( θ \)は初期位相です。

信号の微分
信号の微分は、時間的な変化率を表します。交流信号\( V(t) \)を微分すると、導関数が得られます。

\(\displaystyle \frac{dV(t)}{dt} = V_{\text{max}} \omega \cos(\omega t + \theta)\)

これは元の信号の振幅に角周波数を掛けたもので、信号の瞬時の変化率を示します。

信号の積分
信号の積分は、信号の面積や累積を表します。交流信号\( V(t) \)を積分すると、次のようになります。

\(\int V(t) \, dt = -\displaystyle \frac{V_{\text{max}}}{\omega} \cos(\omega t + \theta) + C\)

これは元の信号の振幅を角周波数で割ったものにマイナス符号を掛け、余弦波の積分が得られます。積分定数Cは積分過程における積分定数です。

信号の微分・積分の意義
微分 :信号の微分は変化率や瞬時の動きを示し、回路の応答や特性の理解に利用されます。
積分 :信号の積分は信号の累積や面積を表し、電荷やエネルギーの蓄積などに関連しています。

絶対値

複素数の絶対値はその大きさを表し、交流回路において振幅や信号の強さを示します。絶対値の計算方法や応用について学び、複素数の振る舞いを正確に理解します。これにより、回路の挙動を数学的に予測できるようになります。

1. 複素数の形式

複素数\( z \)は一般的に\( z=a+bj \)の形を取ります。ここで、\( a \)は実数部、\( b \)は虚数部です。この形式から絶対値を求める方法を見ていきます。

2. 絶対値の計算式

複素数\( z=a+bj \)の絶対値(モジュラス)は次の計算式で求められます。

\(|z| = \sqrt{a^2 + b^2}\)

これは複素数を複素平面上で考えたとき、原点からその点までの距離を表しており、ピタゴラスの定理を応用しています。

3. 複素数の複雑平面上での意味

複素数\( z=a+bj \)を複素平面上にプロットすると、それは直角座標系での点\( (a,b) \)として表示されます。この点と原点との距離が絶対値となり、これは振幅や信号の強さを示すと考えることができます。

4. 振幅や信号の強さへの応用

a. 振幅の考え方
交流回路において、複素数は通常振幅と位相角度で表される極座標形式に変換されます。ここで、\( r \)は振幅を表しています。この振幅は絶対値と一致します。

\(z = re^{j\theta}\)
\(r=|z|\)

b. 信号の強さの考え方
振幅は信号の強さを示しており、振幅が大きければ強い信号、小さければ弱い信号を意味します。特に交流回路においては、電圧や電流の振幅が信号の強さやエネルギーの伝達量を表します。

5. 簡単な例

例えば、複素数 z=3+4j の絶対値は次のように計算されます。

\(|3 + 4j| = \sqrt{3^2 + 4^2} = 5\)

これは原点から点 (3,4) までの距離を表しています。振幅や信号の強さも同様に計算できます。

正弦波と交流回路

交流回路では、正弦波が一般的に使われます。交流電圧は以下の形で表現されます。

\(V(t) = V_{\text{max}} \sin(\omega t + \theta)\)

ここで、\( Vmax \)は振幅、\( ω \)は角周波数、\( t \)は時間、\( θ \)は初期位相です。

正弦波と交流回路

振幅 :波形の最大の高さ。電圧の振幅は電力の伝達量を表す。
周期 :一つのサイクルが完了するまでの時間。
角周波数:\( ω=2πf \)で表され、fは周波数。
初期位相:時間0のときの位相角度。

電圧と電流の位相差と位相シフト

位相差と位相シフトは、交流回路において波形の時間的な関係を表現するための重要な概念です。以下では、これらについて詳細に解説します。

位相

位相は電津や電流の波形が時間の経過とともにどれだけ進んでいるかを示す指標です。位相は通常、ラジアン又は度で表され、周期的な波形において一定の角度で示されます。正弦波の位相は、波形が0度又は0ラジアンの位置から始まり、時間が進むにつれて増加していきます。

交流回路において、電圧や電流の位相は角度で表され、以下のような表現が一般的です。

\(V(t) = V_{\text{max}} \sin(\omega t + \theta)\)

ここで、\( V(t) \)は時刻\( t \)における電圧の値,\( V_{\text{max}} \)は振幅(最大値),\( ω \)は角周波数(2π 乗じたもの),\( θ \)は位相(位相角)です。

位相差

異なる波形の位相の差を位相差と呼びます。位相差は通常、1周期あたりの角度で表現されます。例えば、2つの波形が同じ位置で始まる場合、位相差は0度又は0ラジアンです。位相差が90度であれば、1つの波形がもう一方よりも 1/4 周期進んでいることを示します。

位相差

位相シフト

位相シフトは、波形が時間的にずれる現象を指します。これは、交流回路内の抵抗\( (R) \)、インダクタンス\( (L) \)、キャパシタンス\( (C) \)などの要素や信号処理の過程で発生することがあります。位相シフトが生じると、波形のピークやクレストが時間的に変化し、回路内の信号がどれだけ時間的に遅れたり進んだりしているかを示します。

位相シフトの数学的表現として時間領域での表現と複素数形式での表現があります。

a. 時間領域での表現

\(V_1(t) = V_{\text{max}} \sin(\omega t + \theta_1)\)
\(V_2(t) = V_{\text{max}} \sin(\omega t + \theta_2)\)

ここで、\(V_1(t)\)と\(V_2(t)\)は二つの波形で、\(θ_1\)と\(θ_2\)がそれぞれの位相です。位相シフトは\( θ2 -θ1 \)で表されます。

b. 複素数形式での表現

複素数形式で表すと、位相シフトは複素数の積として表現できます。二つの複素数\( Z1 \)と\( Z2 \)があり、それぞれの位相が\( θ1 \)と\( θ2 \)の場合、

\(Z_1 = V_{\text{max}} e^{j \theta_1}\)
\(Z_2 = V_{\text{max}} e^{j \theta_2}\)

と表されます。位相シフトはこれらの複素数をかけ合わせることで得られます。

\(Z_{\text{total}} = Z_1 \cdot Z_2 = V_{\text{max}}^2 e^{j(\theta_1 + \theta_2)}\)

ここで、\( j \)は虚数単位です。

正の位相シフト

正の位相シフトは、波形が時間軸上で遅れている状態を表します。これは通常、波形が右にずれていると考えることができます。コイル(インダクタンス)\( L \)のみを接続した交流回路の位相では、コイル(インダクタンス)\( L \)に流れる交流電流\( I_L \)はコイル(インダクタンス)\( L \)にかかる電圧\( V_L \)より位相が\( \displaystyle \frac{\pi}{2}\)(90°)進んでいるということになります。

負の位相シフト

負の位相シフトは、波形が時間軸上で進んでいる状態を示します。これは通常、波形が左にずれていると考えることができます。キャパシタンスCのみを接続した交流回路の位相では、キャパシタンス\( C \)に流れる交流電流\( I_C \)はキャパシタンス\( C \)にかかる電圧\( V_C \)より位相が\( \displaystyle \frac{\pi}{2}\)(90°)遅れているということになります。

負の位相シフト

インピーダンスなどの回路要素と複素数解析

交流回路を構成する要素として、インピーダンス、コイル、静電容量、抵抗などがあります。特に抵抗\( (R) \)、インダクタンス\( (L) \)、キャパシタンス\( (C) \)を組み合わせたRLC回路で、複素数インピーダンスを用いた回路解析手法である複素数解析は特定の周波数における挙動を理解するのに役立ちます。

直列回路の複素数解析

直列回路は、抵抗\( R \)、インダクタンス\( L \)、キャパシタンス\( C \)が直列に接続された回路です。複素数インピーダンスを用いて直列回路を解析する際、各要素の複素数インピーダンスを計算し、合成インピーダンスを求めます。

直列回路の複素数解析

1. 抵抗 \( R \) の複素数インピーダンス

抵抗の複素数インピーダンス\( Z_R \)は実部が抵抗の値\( R \)で、虚部がゼロです。

\(Z_R=R+j・0=R\)

2. インダクタンス \( L \) の複素数インピーダンス

インダクタンスの複素数インピーダンス\( Z_L \)は、\( j \)によって表現される虚数成分を持ちます。

\(Z_L=jωL\)

ここで、\( j \)は虚数単位、\( ω \)は角周波数、\( L \)はインダクタンスです。

3. キャパシタンス\(C\)の複素数インピーダンス

キャパシタンスの複素数インピーダンス \(Z_C \)も、 \( j \)によって表現される虚数成分を持ちます。

\(Z_C = \displaystyle \frac{1}{j \omega C}\)

ここで、\( j \)は虚数単位、\( ω \)は角周波数、\( C \)はキャパシタンスです。

4. 合成インピーダンス \( Z_{\text{total}}\) の計算

直列回路では、各要素の複素数インピーダンスを合計して合成インピーダンスを求めます。

\(Z_{\text{total}} = Z_R + Z_L + Z_C = R + j \omega L – \displaystyle \frac{1}{\omega C}\)

5. 定常状態の電流 \( I \) の計算

合成インピーダンスを用いて、定常状態の電流\( I \)を求めるためにオームの法則を利用します。

\(I = \displaystyle \frac{V}{Z_{\text{total}}}\)

ここで、\( V \)は回路に印加された電圧です。

6. 定常状態の電圧降下\( V_R ,V_L,V_C \)の計算

各要素にかかる電圧降下はオームの法則を用いて計算します。

\(V_R=I・Z_R\)
\(V_L=I・Z_L\)
\(V_C=I・Z_C\)

7. 各要素の電力の計算

各要素の電力は、電圧降下と電流の積として計算します。

\(P_R=V_R・I\)
\(P_L=V_L・I\)
\(P_C=V_C・I\)

並列回路の複素数解析

並列回路では、抵抗\( R \)、インダクタンス\( L \)、キャパシタンス\( C \)が並列に接続された回路です。各要素の複素数インピーダンスを計算し、合成インピーダンスを求めることで回路の挙動を解析します。

並列回路の複素数解析

1. 抵抗 \( R \) の複素数インピーダンス

抵抗の複素数インピーダンス\( Z_R \)は実部が抵抗の値\( R \)で、虚部がゼロです。

\(Z_R=R+j・0=R\)

2. インダクタンス \( L \) の複素数インピーダンス

インダクタンスの複素数インピーダンス\( Z_L \)は、\( j \)によって表現される虚数成分を持ちます。

\(Z_L=jωL\)

ここで、\( j \)は虚数単位、\( ω \)は角周波数、\( L \)はインダクタンスです。

3. キャパシタンス \(C \) の複素数インピーダンス

キャパシタンスの複素数インピーダンス\( ZC \)も、\( j \)によって表現される虚数成分を持ちます。

\(Z_C = \displaystyle \frac{1}{j \omega C}\)

ここで、\( j \)は虚数単位、\( ω \)は角周波数、\( C \)はキャパシタンスです。

4. 合成インピーダンス \( Z_{\text{total}}\) の計算

並列回路では、各要素の逆数の和を取って合成インピーダンスを求めます。

\(\displaystyle \frac{1}{Z_{\text{total}}} = \displaystyle \frac{1}{Z_R} + \displaystyle \frac{1}{Z_L} + \displaystyle \frac{1}{Z_C} = \displaystyle \frac{1}{R} + \displaystyle \frac{1}{j \omega L} + j \omega C\)

5. 定常状態の電流 \( I \) の計算

合成インピーダンスを用いて、定常状態の電流\( I \)を求めるためにオームの法則を利用します。

\(I=V・Z_total\)

ここで、\( V \)は回路に印加された電圧です。

6. 各要素にかかる電圧 \( V_R,V_L ,V_C \) の計算

各要素にかかる電圧はオームの法則を用いて計算します。

\(V_R=I・Z_R\)
\(V_L=I・Z_L\)
\(V_C=I・Z_C\)

7. 各要素の電力の計算

各要素の電力は、電圧降下と電流の積として計算します。

\(P_R=V_R・I\)
\(P_L=V_L・I\)
\(P_C=V_C・I\)

実用的応用

実用的応用の重要性

1. 性能向上

複素数解析を実用的に応用することで、電子回路やシステムの性能を向上させることが可能です。効率的なエネルギー変換や信号処理により、システムの応答や信頼性を向上させることが期待できます。

2. 設計の効率化

複素数解析は数学的な手法を提供するため、設計段階での効率化が図れます。正確な計算に基づいた設計により、試行錯誤を減らし、設計の時間短縮が可能となります。

3. 信頼性の向上

実用的応用により、電気回路やシステムの動作を理論的かつ数学的に正確に理解できます。これにより、システムの信頼性向上やトラブルシューティングの効率化が期待できます。

4. マルチディシプリンな活用

複素数解析は電気工学だけでなく、制御工学、通信工学、音声工学などさまざまな分野で活用されます。これにより、異なる領域での問題解決にも応用可能です。

実用的応用の例

1. インピーダンスマッチング

インピーダンスマッチングは、信号伝送や電力伝送において送信側と受信側のインピーダンスを調整し、最大のエネルギー伝達を実現する手法です。これにより、信号の損失を最小限に抑え、システムの効率を向上させます。

2. フィルタ設計

実用的な電子回路では、信号の周波数特性を制御するためにフィルタが利用されます。複素数解析を用いて、帯域通過や減衰などの特性を最適化し、望ましい信号を抽出することが可能です。

3. 電力解析

実用的な電力回路や電力伝送システムでは、電力、電流、電圧の解析が重要です。複素数解析を用いてこれらのパラメータを詳細に分析し、効率的なエネルギー変換を実現します。

4. シグナル処理

音声処理や通信工学など、シグナル処理においても複素数解析は頻繁に利用されます。特定の周波数成分を取り出すことや、信号の位相や振幅を調整する際に役立ちます。

5. 制御システム

制御システムにおいては、システムの安定性や応答速度を評価するために複素数解析が適用されます。制御対象や制御器の挙動を理解し、最適な制御設計を行います。

実例

最後に、具体的な実例を挙げながら、これまでの知識を活用する方法を解説します。例題と解答を通じて、問題解決能力や複素平面上での位相の理解を深め、実践的なスキルを養います。

複素数解析を用いることで、RCフィルタの特性を数学的にモデリングできます。この手法により、カットオフ周波数の設計は対象の周波数応答が所望の特性を持つようにするための重要なステップとなります。設計変数であるカットオフ周波数とコンデンサ容量を適切に調整することで、フィルタの性能をカスタマイズすることが可能です。

実例: \( RC\)ローパスフィルタの設計

背景

\( RC\)ローパスフィルタは、抵抗(\( R\))とコンデンサ(\( C\))を組み合わせた回路で、特定の周波数成分を通過させるために使用されます。ここでは、複素数解析を用いて、特定のカットオフ周波数での\( RC\)フィルタ の挙動を設計します。

ステップ1: 仕様の設定
カットオフ周波数を\( f_c\)とする。
コンデンサの容量を\( C\)とする。

ステップ2: 複素数解析

  1. 1.インピーダンスの計算
    コンデンサのインピーダンス
    \(Z_C = \displaystyle \frac{1}{j\omega C}\)
    \( j\)は虚数単位、\(ω=2πf\)は角周波数。
  2. 2.合成インピーダンスの計算
    抵抗のインピーダンス
    \( Z_R=R\)
    合成インピーダンス
    \(Z_{\text{total}} = Z_R + Z_C = R + \displaystyle \frac{1}{j\omega C}\)
  3. 3.伝達関数の導出
    伝達関数
    \(H_{LP}(\omega) = \displaystyle \frac{V_{\text{out}}}{V_{\text{in}}} = \displaystyle \frac{Z_C}{Z_{\text{total}}} = \displaystyle \frac{\displaystyle \frac{1}{j\omega C}}{R + \displaystyle \frac{1}{j\omega C}} = \displaystyle \frac{1}{1 + j\omega RC}\)
    \( H_{LP}(ω)\) を周波数依存性として導出。

    実例: \( RC\)ローパスフィルタの設計

ステップ3:カットオフ周波数の設計
カットオフ周波数\(f_C\)での伝達関数を解析。
\( HLP(ω)\)が0.707(-3dB)になる周波数を求め、それを\(f_C\)とする。
\(f_c = \displaystyle \frac{1}{2\pi RC}\)

実例: \(RC\)ハイパスフィルタの設計

背景

RCハイパスフィルタは、抵抗(\(R\))とコンデンサ(\(C\))を組み合わせた回路で、高周波数成分を通過させるために使用されます。ここでは、複素数解析を用いて、特定のカットオフ周波数での\(RC\)フィルタの挙動を設計します。
\(H_{HP}(\omega) = \displaystyle \frac{V_{\text{out}}}{V_{\text{in}}} = \displaystyle \frac{Z_R}{Z_{\text{total}}} = \displaystyle \frac{R}{R + \displaystyle \frac{1}{j\omega C}} = \displaystyle \frac{j\omega RC}{j\omega RC + 1}
\)

実例: \(RC\)ハイパスフィルタの設計

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