SiCパワーデバイス|応用編
プローブの取り付け方
2022.05.31
この記事のポイント
・プローブの取り付け方によって測定波形は大きな影響を受ける。
・延長ケーブルが長い場合は、ゲート端子およびソース端子と測定治具との間に形成されるループにより、本来の波形とまったく異なる波形が観測されてしまうので、このループを最小にする取り付け方をする。
SiC MOSFETゲート-ソース間電圧測定:プローブの取り付け方
「一般的な測定方法」で示したように、プローブの取り付け方によって測定波形は大きな影響を受けます。その確認のために、一般的に行われている以下のプローブの取り付け方による測定波形の違いを比較します。
(a) プローブヘッドをDUTの端子に直接取り付ける
(b) より線で引き出し、プローブヘッドを取り付ける
(c) 長いより線のそれぞれにダンピング抵抗100Ωを挿入し、プローブヘッドを取り付ける
(d) 短いより線のそれぞれにダンピング抵抗100Ωを挿入し、プローブヘッドを取り付ける
(a)は電圧プローブのヘッド部を直接DUTに取り付けます。(b)はより線に加工した約12cmの延長ケーブルの一端をDUTの端子にはんだ付けし、もう一端を電圧プローブのヘッド部を取り付けます。(c)は(b)の延長ケーブルの途中に100Ωの抵抗を挿入しています。(d)は(b)の線長を約4cmに短くした延長ケーブルの途中に100Ωの抵抗を挿入しています。図5は実際に使用した延長ケーブル、図6はプローブヘッドを取り付けた状態を示します。

図5. 実際の延長ケーブル

図6. 実際に各電圧プローブを取り付けた写真
図7に、図6の(a)~(d)の取り付け方によるダブルパルス試験でのゲート-ソース間電圧波形の比較を示します。転流側であるLSのゲートーソース間電圧に着目すると、それぞれの測定方法で大きく波形が異なっていることがわかります。
(a)はターンオン時、HSMOSFETのスイッチング動作が始まり電流変化が起こると、図8に示す電圧プローブのヘッド部が形成するループ内を突き抜ける方向に磁束変化が発生します。そして、その磁束変化がヘッド部のループに時計周りの起電を発生させるので、観測される波形にあたかも負サージが発生しているように見えます。本来は、(c)や(d)のように正側へのサージが現れます(*3)。
(b)は延長ケーブルによるインピーダンスが高速スイッチングによるリンギングを誘発し、大きなサージが発生しているように観測されています。

図7. 図6の(a)~(d)の取り付け方によるダブルパルス試験でのゲート-ソース間電圧波形の比較

図8. 転流側プローブでの起電
このように、ゲート端子およびソース端子と測定治具との間に形成されるループが主回路の電流変化による磁束変化に反応し、本来の波形とまったく異なる波形が観測されてしまうので、実際の波形を観測するには、測定治具とゲート-ソース端子間に形成される閉ループを最小にする必要があります。ちなみに図6の(b)、(c)、(d)は、延長ケーブルをSiC MOSFETのパッケージ直近の端子部分にはんだ付けしているので、形成されるループは最小になっています。
*3. 参考資料: 「ドライバーソース端子によるスイッチング損失の改善」 アプリケーションノート(No. 62AN039JRev.002)ローム株式会社, 2020年4月
SiCパワーデバイス
基礎編
応用編
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