SiCパワーデバイス|応用編
SiC MOSFET:スナバ回路の設計方法 スナバ回路の種類と選定
2022.08.30
この記事のポイント
・スナバ回路が十分な効果を発揮するには、できる限りスイッチングデバイスの近くに実装する必要がある。
・スナバ回路には、R、L、Cなどの受動部品を組み合わせた回路や、半導体デバイスを用いたアクティブ回路がある。
・ここでは制御が不要でコスト的に優れた回路方式として、Cスナバ回路、RCスナバ回路、放電型RCDスナバ回路、非放電型RCDスナバ回路を紹介した。
今回は2つ目の、「スナバ回路の種類と選定」に関する説明です。
SiC MOSFET:スナバ回路の種類と選定
スナバ回路には、抵抗やコイルおよびコンデンサなどの受動部品を組み合わせた回路や、半導体デバイスを用いたアクティブ回路があります(*1)。ここでは、制御が不要でコスト的に優れた回路方式について説明します。
図5にスナバ回路例を示します。ブリッジ構成となっているSiC MOSFETの上下に一括してコンデンサCSNBを接続する(a)Cスナバ回路、各スイッチングデバイスのドレイン-ソース間に抵抗RSNBとコンデンサCSNBを接続する(b)RCスナバ回路、RCスナバ回路にダイオードを追加した(c)放電型RCDスナバ回路、RCDスナバ回路の放電経路を変更した(d)非放電型RCDスナバ回路などがあります。

これらのスナバ回路が十分な効果を発揮するためには、できる限りスイッチングデバイスの近くに実装されなければなりません。
(a)Cスナバ回路は、部品点数が少ないですが、ブリッジ構成の上下間に接続しなければならないため、配線長が長くなる欠点があり、ディスクリート構成より2 in 1構成などのモジュールで用いられることが多い回路です。
(b)RCスナバ回路は、各スイッチングデバイスの近傍にスナバ回路をレイアウトできますが、デバイスがターンオンする毎にCSNBに蓄積されたエネルギーすべてをRSNBで消費しなければなりません(ブリッジ構成の場合、同期側はデッドタイム期間中にCSNBに蓄積されたエネルギーは回収されます)。そのため、スイッチング周波数が高くなると、RSNBで消費される電力は数Wにもなり、CSNBをあまり大きくできずサージ抑制効果が限定的になりやすい方式です。また、RSNBによりサージ吸収能力は制限され、抑制効果も限定的になりやすいです。
(c)放電型RCDスナバ回路は、RSNBで消費する電力は(b)RCスナバ回路と同じですが、サージはダイオードのみを経由して吸収されるため、(b)よりもサージ吸収効果が高く実用的です。ただし、使用するダイオードのリカバリ特性に対する注意と、サージ吸収時の電流変化が大きいので、スナバ回路の配線インダクタンスを極力小さくするなどの配慮が必要になります。なお、RSNBはCSNBと並列に接続しても動作上は同じになります。
(d)非放電型RCDスナバ回路は、CSNBで吸収したサージエネルギーのみをRSNBで消費するだけで、CSNBに蓄積されたエネルギーすべてをスイッチング毎に放電しません。そのため、スイッチング周波数が高速化してもRSNBの消費電力はそれほど大きくならず、CSNBを大きくすることが可能となり、極めて抑制効果の高い回路を実現できます。ただ、配線レイアウトが複雑になり、4層以上の基板でなければ実現は極めて困難です。
以上のように紹介したスナバ回路には一長一短がありますので、電源回路の構成や変換電力容量に応じて最適なスナバ回路を選択する必要があります。次回から各スナバ回路の設計方法について説明して行きます。
*1:「スイッチングコンバータの基礎」 P95~P107 原田耕介、二宮保、顧文建 著, コロナ社, 1992年2月
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SiCパワーデバイス
基礎編
応用編
- SiC MOSFET : ブリッジ構成におけるゲート-ソース間電圧の挙動
- SiC MOSFET:スイッチング波形から損失を求める方法
- SiC MOSFET:スナバ回路の設計方法 ーはじめにー
- SiC MOSFET:ゲート-ソース電圧のサージ抑制方法
- ドライバーソース端子によるスイッチング損失の改善
- SiC MOSFETゲート-ソース間電圧測定時の注意点:一般的な測定方法
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