トランジスタ|評価編
インバータ回路におけるスイッチング素子の逆回復特性の重要性 三相変調インバータ回路の基本動作
2022.07.26
この記事のポイント
・インバータ回路では動作上ボディダイオードの逆回復電流が発生する。
・逆回復時間や逆回復電流が大きいと損失増加につながるので、インバータ回路においてデメリットとなる。
・逆回復時間と逆回復電流ピークの小さいMOSFETを用いることにより、インバータ回路での損失を低減し、MOSFET破壊リスクの低減が可能。
今回は、2つ目の「三相変調インバータ回路の基本動作」の説明です。前項に記した通り、ここからはモーター駆動でよく用いられる「正弦波駆動(三相変調)方式」を例にして説明をして行きます。
- ■インバータ回路の種類と通電方式について
- ■三相変調インバータ回路の基本動作
- ■ダブルパルス試験によるPrestoMOS™と通常のSJ MOSFETの損失比較(実測定結果)
- ■三相変調インバータ回路によるPrestoMOS™と通常のSJ MOSFETの効率比較(シミュレーション)
三相変調インバータ回路の基本動作
図6に、U相における三相変調インバータ回路のタイミングチャートを示します。U相の正極性時はHigh Side(Q1)が励磁を行うため、U相電流のピークに近づくにつれてゲート駆動信号のデューティが増加し、負極性に近づくほどデューティが減少し、負極性時は還流動作を行います。U相の負極性時はその逆で、Low Side(Q2)が励磁を行い、正極性で還流動作を行います。
この駆動パターンでは、V相、W相も同様のPWM動作および還流動作を行っているため、AC出力のどのタイミングにおいても三相すべてがスイッチングしていることが特徴で、このことから三相変調と呼ばれています。
各スイッチングのタイミングにおけるデューティD(t)は、インバータ出力AC周波数f、および位相差θを用いて、以下の式で表されます。

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ここで、DmaxはAC出力のピークにおけるデューティであり、変調率と呼ばれます。
図7に、U相電流ピーク付近(正極性)におけるU相の相電流波形と、各相のトランジスタ(Q1/Q2、Q3/Q4、Q5/Q6)のゲート駆動波形を示します。
U相電流ピーク付近において、インダクタにエネルギーを蓄積するための励磁スイッチであるU相High Side(Q1)がONしてからOFFし、再びONするまでの区間を(1)~(13)までの動作モードに分けて説明することができます。以下の図はU相から見た電流経路の変化を示しています。
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Mode(1)
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Mode(2)
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Mode(3)
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Mode(4)
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Mode(5)
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Mode(6)
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Mode(7)
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Mode(8)
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Mode(9)
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Mode(10)
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Mode(11)
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Mode(12-1)
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Mode(12-2)
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Mode(13)
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この様な動作から、Mode(12-2)のようなボディダイオードの逆回復電流が発生します。このボディダイオードの逆回復電流は、Q1~Q6すべてで発生するものなので、インバータ回路では逆回復特性の優劣は非常に重要になります。この逆回復電流による悪影響として、以下が考えられます。
●逆回復電流(ピーク電流)が大きい場合
例えばMode(12-2)のように、Q1がターンONした時にはQ2の逆回復電流が流れます。逆回復電流ピークIrrが大きいと、Q1に過大な電流が流れます。この時、MOSFETの定格を超えると(電流密度が大きくなると)のドレイン-ソース間がショート破壊を起こしアーム短絡状態となるため、Q1、Q2双方のMOSFETが破壊する可能性があります。
●逆回復時間が長い場合
ボディダイオードの逆回復電流が流れる時、Mode(12-2)においてQ2のボディダイオードが導通している時は、Q1のドレイン-ソース間にはVin分の電圧が印加されています。この時、ターンONのスイッチング波形は図11のようになります。逆回復時間trrが長いほど、ターンONする時Q1のドレイン電流ID(t)が流れている時間と、ドレイン-ソース間電圧VDS(t)が印加されている時間が長くなります。この時のスイッチング損失PSWは、スイッチング1周期をTSとして、次の式で表されます。
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(2)式より、ID(t)とVDS(t)の積に時間をかけた面積分が損失のエネルギーEONとなるので、逆回復が遅いほどスイッチング損失が増加することがわかります。インバータ回路の場合、インダクタに流れる電流は正弦波状に変化するため、スイッチングのタイミングによってターンONの逆回復電流も変化します。つまり、正弦波のピーク付近ほど逆回復電流が大きくなります。したがって、正弦波のピーク付近のスイッチングでは、逆回復電流による損失が大きくなるので特に注意が必要です。
このように、逆回復時間や逆回復電流が大きいことは、インバータ回路においてデメリットとして働きます。逆回復時間が小さく、かつ逆回復電流ピークの小さいMOSFETを用いることにより、インバータ回路での損失を低減し、スイッチング素子の破壊リスクを低減できます。
一般的に、インバータ回路の単アーム評価にはダブルパルス試験が用いられます。次回はダブルパルス試験により、逆回復特性が優れたMOSFETと通常のSJ MOSFETとの損失比較を行います。














