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パスコン(バイパスコンデンサ)とは?役割や最適容量を解説

2023.11.09

バイパスコンデンサ(パスコン)は、ICに電源を供給しつつ、ノイズ対策にも役立つ非常に重要な部品です。しかし、適切な容量を使用し正しく接続しなければ、十分な効果が得られません。
本記事では、バイパスコンデンサの役割や最適容量、接続する際のポイントについて解説します。

バイパスコンデンサの役割

バイパスコンデンサとは

バイパスコンデンサは、電源とグラウンド(GND)の間に接続し、ノイズを迂回(バイパス)して逃がす役目をもつコンデンサのことです。特定の種類のコンデンサを意味するのではなく、ノイズをバイパスするために使われるコンデンサの総称です。ノイズを逃がすことで、電子回路へ安定した電源供給が実現できます。

バイパスコンデンサがないと、電子回路によっては正しく動作できない場合があるほどに重要な部品です。バイパスコンデンサはパスコンとも呼ばれます。

また、バイパスコンデンサは直流と交流両方の成分からノイズなどの交流成分をバイパスして逃がすことから、デカップリングコンデンサとも呼ばれます。

バイパスコンデンサは高周波ノイズ対策と、電源電圧の安定化を目的に用いられます。容量は用途によって異なり、高周波ノイズ対策を目的とする場合は数100pF~0.01μF程度、電源電圧の安定化を目的とする場合は数10μF〜数100μFの容量が使われます。

バイパスコンデンサの役割とその種類

バイパスコンデンサの役割について詳しく見ていきましょう。役割として「高周波ノイズ対策」「電源電圧の安定化」「ICの補助電源として必要な電力を補充」の3つがあります。

・高周波ノイズ対策

バイパスコンデンサは、電源ラインとグラウンドのインピーダンスを下げ、電源ラインに入ってくる高周波ノイズをグラウンドに落として取り除きます。

高周波の変動ノイズを吸収するために、数100pF~0.01μF程度の小さな容量のコンデンサを用います。

小容量のバイパスコンデンサは、ノイズの発生源に近い所に配置しないとノイズ吸収効果ができません。そのため、ICの電源ピンにできるだけ近い位置に配置します。

・電源電圧の変動を小さくする

バイパスコンデンサは、たまっている電荷を放出することにより、電源電圧の変動を押さえるという役割も持っています。

バイパスコンデンサがない場合では、過渡電流が流れると、電源ラインに存在する抵抗成分やインダクタンス成分によって、電圧変動が発生します。この電圧変動によって機器の誤動作や、放射ノイズの原因となる場合もあります。

バイパスコンデンサがあると、過渡電流はバイパスコンデンサから供給されるため、電源ラインの電圧変動を押さえることが可能です。そのため、機器の誤動作や放射ノイズを防止できます。

・ICの補助電源として必要な電力を補充

バイパスコンデンサは、ICへ電荷を供給し、必要な電力を補充する役割があります。ICの消費電流が増大すると、インダクタンスによって十分な電流が供給されない場合があります。その場合、バイパスコンデンサの電荷放電を過渡電流として利用することで、不具合を防止できます。

ただし、コンデンサが蓄積できる電荷は制限があるため、補助電源としての役割を果たすには十分な静電容量をもつ部品が必要です。

以上のように、バイパスコンデンサは電源ラインを安定動作させるために非常に重要な部品です。バイパスコンデンサがないと、電源ラインが安定せずICが正しく動作しない可能性があります。

バイパスコンデンサの接続場所とは

バイパスコンデンサを効果的に利用するには、適切な場所に接続することが大切です。ここでは、バイパスコンデンサの接続場所について解説します。

電源ピンの近くに配線

高周波ノイズを取り除くためには、バイパスコンデンサをできるだけICの電源ピンに近い位置に配線します。ICとコンデンサが離れている場合、「インダクタンス成分」が大きくなるため、ノイズ除去効果が十分に得られません。

また、バイパスコンデンサをICの近くに置くことで、ノイズが流れるループが短くなります。これにより放射ノイズの発生を抑えられる効果もあります。回路設計時にバイパスコンデンサの配置を検討する場合は、必ずICの電源ピンに近い位置に配線しましょう。

異なる容量のコンデンサを複数付ける場合は、電源ピン側から容量が小さい順に配置する

複数のバイパスコンデンサを配線する場合は、静電容量が小さい部品を電源ピンの近くに配線しましょう。例えば、電源ピン ← 0.01μF ← 0.1μF ← 1μF といった具合に、電源ピンに近い側は容量が小さくなるように並べて配置します。この順番を間違うと、高周波ノイズを取り除きにくくなります。

なお、静電容量が大きいコンデンサはICの電源ピンから離れても距離の影響が小さいので問題ありません。

ノイズの周波数も考慮して静電容量を決める

バイパスコンデンサの容量は用途によって異なり、高周波ノイズ対策を目的とする場合は数100pF~0.01μF程度、電源電圧の安定化を目的とする場合は数10μF〜数100μFの容量が使われると解説しました。

しかし、コンデンサの容量の大きさでインピーダンスの周波数特性も変わるので、ノイズの周波数も考慮することが大切です。

高周波ノイズ対策では数100pF~0.01μF程度の小容量のほうが、インピーダンスが低くなるので効果的です。低周波ノイズの場合は、10μF以上の大容量でないと、ノイズを吸収できません。

除去するノイズの周波数帯が幅広い場合は、静電容量が異なるコンデンサを用意し、組み合わせて使いましょう。

バイパスコンデンサの容量

バイパスコンデンサの容量を決める場合は、除去するノイズの周波数によって選定します。ここで、コンデンサの周波数特性について見ていきましょう。

コンデンサは容量(C)だけでなく、誘電損失や電極の抵抗によって決まる等価直列抵抗(ESR)と、電極が持つインダクタンスによって決まる等価直列インダクタンス(ESL)を持ちます。

この特性によって、周波数特性は共振点で折り返されるV字型となります。そのため、バイパスコンデンサは、インピーダンスが低いほど、ノイズ対策の性能が向上すると言えます。

バイパスコンデンサの容量算出方法とは

バイパスコンデンサは容量が小さいほうが、インピーダンスが低くなり、高周波ノイズ対策の性能が向上します。電源ノイズはICの動作周波数(スイッチング動作)によって発生するため、この動作周波数からバイパスコンデンサの適切な容量値を算出します。

例えば、スイッチング電顕回路のような低周波ノイズの場合は、大容量(数10μF〜数100μF)のコンデンサを使用したほうが良いです。また、数10MHz以上で動作するICから発生する高周波ノイズを小さくしたい場合は、数100pF~0.01μF程度の小容量のコンデンサを使用しましょう。

データシートがある場合

電源ICやバイパスコンデンサなどの部品によっては、データシートに推奨回路が載っていることがあります。データシートがある場合は、記載されている内容をそのまま採用する方もいるでしょう。

ただし、データシートの内容を把握し、なぜその容量のコンデンサが使用されているかをよく理解することが大切です。

多くのデータシートでは、複数個のバイパスコンデンサを組み合わせた回路が掲載されています。次では、複数個のバイパスコンデンサを使用した場合について解説します。

バイパスコンデンサの個数

バイパスコンデンサは、幅広い周波数帯のノイズを対策したい場合など、複数個を並列接続して使用することがあります。このとき、静電容量が同じコンデンサを複数個使用した場合と、静電容量が異なるコンデンサを複数個使用した場合で、効果が異なります。

異なる静電容量のコンデンサを複数使用する場合は、前述のとおり容量の小さいコンデンサをICの近くに配置します。

静電容量の小さいコンデンサは高周波数のインピーダンスを下げ、静電容量の大きいコンデンサは低周波数のインピーダンスを下げることで、幅広い帯域の周波数に対して効果があります。

逆に、同じ静電容量のコンデンサを複数並列接続すると、接続するコンデンサの数が増えれば増えるほど、全周波数帯域でインピーダンスが低下します。これにより、より高いノイズ対策の効果が得られます。

複数のバイパスコンデンサを組み合わせることで、よりノイズ対策の効果が得られますが、バイパスコンデンサの配置スペースが大きくなってしまいます。そのため、ノイズ対策が必要な部分のみに接続しましょう。

バイパスコンデンサ使用時の注意点とは

セラミックコンデンサでは「DCバイアス特性」に注意

バイパスコンデンサは、いくつかの種類を組み合わせて使用されますが、その中の1つ「セラミックコンデンサ」に直流電圧を加えると、静電容量が減少する「DCバイアス特性」が発生します。

セラミックコンデンサには静電容量が「公称値」として記載されていますが、直流電圧を加えると、公称値よりも静電容量が減少し、実際に使用する際の実容量と差が発生してしまいます。

セラミックコンデンサを使用する場合には、電圧に対して数倍の耐性をもつセラミックコンデンサを選択し、DCバイアス特性による容量減少を抑えましょう。

異なる静電容量のコンデンサ同士を接続すると発生する「反共振」に注意

異なった静電容量のコンデンサを配置すると、電源インピーダンスが大きくなる「反共振」が発生します。反共振が発生すると電源電圧が大きく変わってしまい、結果としてICが誤動作する可能性があります。

反共振を小さくするためには、組み合わせる静電容量を変更する、またはバイパスコンデンサを追加したり、削除したりするなどして、反共振を小さくすることを検討します。

バイパスコンデンサについて まとめ

本記事では、バイパスコンデンサについて解説しました。バイパスコンデンサは、電源とGNDの間に接続し、ICに電源を供給しつつ、高周波ノイズを取り除く役割を持ちます。また、電源電圧の変動を防ぐ役割をもち、これにより機器の誤動作や故障を防止できます。

このような役割を十分発揮できるようにするため、適切な位置に配置することが大切です。なるべくICの電源ピンに近い所に配置しましょう。また、バイパスコンデンサに電圧を加えたり、異なった容量同士を組み合わせたりすることがないよう注意が必要です。

本記事の内容をぜひ参考にし、バイパスコンデンサを上手に活用しましょう。

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