2023.11.09
半導体は、現代社会において欠かせない存在で多くの電気製品や電子機器に使われていますが、なぜここまで広く普及したのでしょうか。半導体の仕組みを知ることで、多くの電気製品に使われる理由を簡単に理解することができます。
この記事では、半導体の仕組みから定義や性質についてわかりやすく説明しますので、ぜひご一読ください。
半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通しにくい「絶縁体(不導体)」の中間の性質を持つ物質です。導体は鉄や金といった金属物質、絶縁体はゴムやガラスなどの物質が該当します。半導体は電気を通したり通さなかったりすることで、電流の制御が可能です。また、使い方によっては光と電気のエネルギー変換もできます。こうした性質により、半導体はCPUやメモリなどのIC(集積回路)、LED、サイリスタといった数多くの製品に利用されています。
半導体は電流を制御するわけですが、そもそも「電気の流れ(電流)」とは「電子の移動」と言い換えられます。前提として、物質は「原子」の集まりです。さらに、原子は「原子核」+「電子」で構成されています。簡単に言うと、電子は電気を運ぶ役目があります。
導体の原子は、原子核と電子の結合が弱い状態です。原子核から電子が離れやすく、物質の中で自由に動ける「自由電子」が多くあります。電圧の印加により自由電子が移動することで、電気が流れる仕組みです。さらに導体には、電子が存在できない領域「バンドギャップ(禁制帯)」がありません。自由電子が容易に移動できることから、電気が通りやすいわけです。
対する絶縁体の原子は、原子核と電子の結合が強い状態です。電気を運ぶ自由電子がほとんどない上にバンドギャップが大きく、電圧を印加しても電気は流れません。なお、半導体のバンドギャップは導体よりも大きく、絶縁体よりも小さいといった特徴があります。
半導体の仕組みをわかりやすく理解するため、材料についても把握しましょう。半導体の材料は、シリコン(Si)が最も使用されています。ゲルマニウム(Ge)やセレン(Se)などの元素を使う場合もあります。シリコンは「珪石(SiO2:二酸化ケイ素が主成分の石)」などの形で自然界に存在しており、資源が豊富です。加工もしやすいため、多くの半導体製品はシリコンを採用しています。
IC(集積回路)を製造する場合、採取した珪石は、金属シリコン→多結晶シリコン→単結晶シリコンの順番で精錬されます。続いて、ICの基盤である「シリコンウエハ」に加工されると、回路や電極を取り付けたチップに分離して製品化される仕組みです。
▼半導体の材料やシリコンウエハの製造プロセスについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
・半導体の原料とは何か? 半導体チップの製造プロセスで使われる材料も紹介
https://techweb.rohm.co.jp/trend/glossary/17300/
・半導体ウエハー技術の進化
https://techweb.rohm.co.jp/trend/glossary/18521/
半導体に用いる単結晶シリコンは、「真性半導体(i型半導体)」とも言われます。シリコンは4個の価電子(電子の総数は14個)を持つ原子です。4個の価電子は隣り合うシリコン原子と強く結びつき(共有結合)、強固な結晶格子を形成しています。このままでは電子が移動できず、ほとんど電気が流れません。
そこで、シリコンに不純物をわずかに混ぜて「不純物半導体」を作ります。不純物の種類により、「n型半導体」あるいは「p型半導体」となりますが、どちらも電気が流れる半導体です。それぞれの仕組みを確認しましょう。
n型半導体とは、自由電子を移動させて電気を流す半導体です。マイナスの自由電子を利用する仕組みにより、「negative型」と名付けられました。シリコンにリン(P)、アンチモン(Sb)、ヒ素(As)などの不純物を添加して作ります。
リンの原子は、5個の価電子(電子の総数は15個)を持ちます。シリコンの価電子は4個であるため、リンを加えたn型半導体は価電子が1個余っている状態です。余った1個の価電子は隣り合う原子と共有結合できず、自由電子になります。自由電子はマイナスの電荷を持つため、電圧を印加することでプラス側に移動して電気が流れるわけです。
p型半導体は、「正孔(ホール)」への電子の移動を利用して電気を通します。主に利用する不純物は、ホウ素(B)やインジウム(In)です。
ホウ素の原子は価電子が3個(電子の総数は15個)であるため、シリコンよりも価電子が1個少ないです。シリコンにホウ素を添加すると価電子が不足し、結合箇所に電子が欠落した空白「正孔(ホール)」が1つ生じます。正孔がある状態で電圧を印加すると、電子はプラス側へ動き、隣の電子が正孔に移動して電流が流れるわけです。
代わりに移動した電子が、元いた位置に新たな正孔が発生します。実際は電子がプラス側に移動しているわけですが、ホールが次々とマイナス側に動いているように見えます。まるで正孔がプラスの電荷のようにふるまうため、「positive型」と命名されました。
ここまで、不純物半導体である「n型半導体」と「p型半導体」の仕組みを別々に説明しました。しかし、現代の半導体製品の多くは、n型半導体とp型半導体を組み合わせた「pn接合」の仕組みが主流です。pn接合とは、n型半導体とp型半導体を繋ぎ合わせている接触面を指します。
n型半導体とp型半導体が接触すると、お互いのキャリア(自由電子と正孔)が拡散します。つまり、n型半導体の自由電子がp型半導体の方向へ、p型の正孔がn型の方向へ移動するわけです。拡散したキャリアは接触面で結合し、相殺されます。
お互いのキャリアが消滅した接触面付近は「空乏層」と呼ばれ、キャリアが存在しません。絶縁物のように、電気を通さない領域です。空乏層がある状態でp型側にプラスの電圧を印加すると、自由電子と正孔は接触面へ向かいます。次第に空乏層が縮小し、電流が流れます。
pn接合において、p型半導体側にプラスの電圧を印加することを「順方向バイアス」と言います。順方向バイアスは空乏層が狭まり、電流が流れます。
反対に、n型半導体側からプラスの電圧を印加する「逆方向バイアス」は、電流が流れません。お互いのキャリアが離れるように移動するため、空乏層が広がって電気が通らなくなります。
こうしたpn接合による電流を流す・流さない「整流作用」は、半導体デバイスの1つ「ダイオード」で活用されています。ダイオードとは、電流を一方通行にする半導体です。アノード(陽極)からカソード(陰極)の方向にしか電流を流さず、逆流を防ぎます。
pn接合はダイオードだけでなく、トランジスタにも利用されています。トランジスタとは、電流のオン・オフによるスイッチ機能や、電流の増幅を行う部品です。ダイオードと並び、基礎的な半導体製品と言えます。
トランジスタは、p型半導体とn型半導体を3つ使用しています。Pnp又はnpnの順番で、どちらかを挟んでいる構造です。それぞれ、「PNPトランジスタ」「NPNトランジスタ」と言います。
ここまで紹介した仕組みにより、半導体はどのような役割を担っているのでしょうか。半導体の役割は、「電流のコントロール」と「エネルギーの変換」の2つがあります。
半導体の1つ目の役割が、電流のコントロールです。pn接合などのメカニズムによって、電流の流れを制御できます。前述のとおり、「電流の流れを一方向にする」ダイオードや「電流のオン・オフ」「信号の増幅」が可能なトランジスタで活用されています。
さらに、オン・オフの高速な切り替えにより、デジタル信号の高度な処理も可能です。一例として、「IC(集積回路)」が代表的な製品です。ICは、基盤上にトランジスタやコンデンサなどの電子素子を配置し、電子回路を形成しています。高速な情報処理により、ICはコンピュータの演算・制御を行う「CPU」や、データの記憶媒体「メモリ」などの製品に広く使用されています。
半導体は、エネルギーの変換も可能です。以下の半導体製品により、光から電気、あるいは電気から光へのエネルギー変換ができます。
・光から電気へ変換:太陽電池
・電気から光へ変換:LED、レーザー
例えば太陽電池は、光が当たった物質から電子が飛び出す「光電効果」により発電しています。pn接合の半導体に太陽光が当たると電子が弾かれ、p型側はマイナスの自由電子が、n型側はプラスの正孔が発生します。自由電子が正孔へ流れることで電気が流れ、発電されるわけです。
半導体は、身近な製品から社会インフラまで、数多くの製品に組み込まれています。例として、以下の製品が挙げられます。
・パソコンやスマートフォンなどの情報機器
・エアコンや冷蔵庫、炊飯器、テレビ、LED電球などの身近な家電製品
・自動車、医療機器、産業機器、業務用機械
例えば、上記の身近な製品のうち、エアコンは半導体を使った装置「インバータ」を使用しています。インバータとは、直流を交流に変換する装置です。交流電流の周波数を変化させ、エアコンの回転数を制御しています。インバータにより、「設定温度に室温が近づくと回転数を下げる」「室温と設定温度が離れているので回転数を上げる」といった省エネ運転を実現しています。エアコンがなければ温度センサーとスイッチのみで制御するため、柔軟な温度調整ができません。
冷蔵庫では、半導体チップであるマイコンの制御によってコンプレッサーを動作させたり停止させたりしながら内部の温度を温度センサーで計測して一定に保ったり、スイッチのON/OFFをセンサーで検出してドアを開いた際にライトを点灯させたり、といったことを実現しています。
またテレビでは、半導体によるLED、有機半導体(半導体としての性質を示す有機物)による有機ELなどのさまざまな仕組みで、画面の表示を実現しています。
このように、半導体は電化製品の利便性を大幅に向上させています。2020年ごろには世界的に半導体不足が広がり、「欲しい製品が買えない」「車の買い替えやリフォームができない」といった日常生活への影響も生じました。今や半導体は、現代生活に不可欠な部品と言えるでしょう。
半導体は、今後さらなる技術開発が期待されています。とりわけ注目されている分野が、ダイヤモンド(C)やシリコンカーバイド(SiC)を使う「ワイドバンドギャップ半導体」です。
ワイドバンドギャップ半導体とは、従来のシリコン(Si)よりもバンドギャップが広い半導体です。絶縁破壊電界強度はシリコンの約10倍以上とされ、放熱性やエネルギー効率にも優れています。シリコンを超える高電圧・高速・高温動作が可能になることから、電気自動車、航空機、電車、情報機器といった多様な分野への実装が待たれている半導体です。
半導体は「導体」と「絶縁体」の中間の性質を持ち、電気を通したり通さなかったりすることで、電流を制御しています。半導体の種類は、主にシリコンへ不純物を添加した「n型半導体」又は「p型半導体」があります。現代の半導体製品は、両者を接合した「pn接合」の仕組みが一般的です。半導体は多くの製品に組み込まれており、私たちの生活の利便性に貢献しています。
ローム主催セミナーの講義資料やDC-DCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。
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