AC-DC コンバータ|基礎編

AC-DC 変換回路設計の手順

2024.06.26

AC-DC変換回路設計は、交流(AC)電源を直流(DC)電源に変換するための必要な技術です。設計プロセスには、要求仕様の確定、制御ICの選定、設計と周辺部品の選定、試作と評価、量産設計と出荷検査が含まれます。AC-DC変換回路設計の成功には、このプロセス全体を理解し、適切に実行することが必要です。
この記事では、設計手順の詳細と実際の設計で直面する課題、その解決策について解説します。

AC-DC変換回路設計の手順 概要

この項目では、AC-DC変換回路設計の手順を説明します。基礎編ということで概要になりますが、作業の順番とこれらの項目を確認しながら設計を進めていくということを理解いただければと思います。回路図を理解する知識はあっても、図面を引く以外の仕事や具体的な手順は仕事の場で覚えるしかありません。その他にも経験に基づくやり方や判断も重要なノウハウです。ものを作り上げるには、理論、知識、そして経験が補完し合い相乗効果をもたらすようなアプローチが必要です。

以下は、標準的な設計手順ですが、大まかに分類し順に並べると以下のようになります。

  • ① 要求仕様固め
  • ② 制御(電源)ICの選択
  • ③ 設計、周辺部品選定
  • ④ 試作、評価
  • ⑤ 量産設計、評価、出荷検査

まずは、設計の仕様を決めて、それを満足するICを選択し、部品を選択しつつ設計を進めます。設計は回路図だけではなく、基板レイアウトの設計も必要になります。その後に試作と評価を行い、量産に至るという流れです。なお、これはAC-DC変換の設計のみならず、他の電源設計においてもほぼ同じです。

ここで、2番目が「ICの選択」となっていますが、前述のようにオンボード電源の設計においては、ほとんどの場合電源ICを使った回路設計になると思われますので、「ICの選択」としました。

設計を担当する方の仕事の範囲は、会社や諸状況によってまちまちかと思います。例えば、本来の設計の仕事範囲ではないと思いますが、出荷検査の方法や不具合品の調査などにも関わることが無きにしも非ずです。ただ、これらは設計への重要なフィードバックでもあり、製品を市場に出すというのはこのような関連する工程をすべてクリアする必要があります。 

要求仕様固め

最初の作業として重要なのは、要求仕様を明確にすることです。本来は、これが最初で一番重要なのですが、電源仕様は回路基板全体の仕様が決まらないと決めることができないという宿命があり、しばしば設計期間が終わりに近づいてから大急ぎで取り掛かるといった話をよく聞きます。そうとはいえ、まずは何か決めなければ進まないので、仮仕様として必要な電圧と推定される負荷電流をもとにスタートします。本来スタート時点で決まっていなければならない主な内容は以下のとおりです。

① 要求仕様固め

  • 1) 入出力:入力電圧範囲、出力電圧/精度
  • 2) 負荷:電流、過渡有無(スリープ/ウェイクアップ含む)
  • 3) 待機時電力、効率
  • 4) 温度:最大/最小、冷却
  • 5) サイズ:実装面積、高さ(フォームファクタ)
  • 6) 必要な保護:低電圧、過電圧、過熱など
  • 7) 特異な環境/アプリケーション条件:車載、宇宙/通信、RFなど
  • 8) コスト

入力条件を例にとると、国内向けだけなら100VACを考えればよいのですが、海外へも販売するものであれば、その国の電圧や全世界に通用するユニバーサル入力対応が必要です。また、国によっては電圧が不安定なところもありますので、許容差をどの範囲で考えるかなど、多くの検討事項があります。それによって、部品の選択が大きく変わりますので、スタート時点で可能な限りの情報を集めておくことが非常に重要です。厳密なことをいえば、仕様がはっきりしないのに設計を進められるわけがありませんが、目的は期日内に的確な電源を設計することなので柔軟な姿勢も必要です。

制御(電源)IC の選択

仕様が決まれば、それを満足する電源ICの選択に取り掛かります。前述したように、ここでは電源ICを使用することを前提としています。

要求事項をもとに、適するAC-DC方式がトランス方式なのかスイッチング方式なのか、降圧か昇圧か、フライバックかフォワードかなどを決めて電源ICの選択に入ります。つまり電源ICの選択は、電源方式の決定を意味します。基本的に電源ICは特定の方式にしか対応できないので、決めた方式のICを選ぶことになります。電源ICを使った設計においては、電源ICが担う部分が大きく、使うICによって回路や部品が決まってきます。言い換えれば、ICを中心に設計することになるといっても過言ではありません。

② 制御(電源)ICの選択

  • 1) 方式:トランス方式、スイッチング方式
  • 2) 方式:降圧、昇圧、昇降圧、反転
  • 3) 方式:リニア、フライバック、フォワードなど
  • 4) 絶縁/非絶縁

電源ICにはさまざまなバリエーションがあり、備えている機能もそれぞれです。電源ICを選択する際には、設計する電源に必要な機能を備えたICを見つけることがポイントです。特に保護機能に関しては、それを外付け回路で実現しようとすると、電源ICより多くの追加部品と実装面積が必要となり、さらに設計と評価の時間までが追加となります。こういった理由から、ディスクリート構成での機能追加はあまり現実的ではないといわざるを得ません。電源ICをうまく使うというアプローチは、設計の能率向上につながります。

選択において、「大は小を兼ねるか?」という質問を受けることがあります。多くは、高耐圧のものや大電力対応のもので広くまかなうといった主旨だと思います。答えとしては「兼ねることは可能」になるのですが、効率や外付け部品の最適化を考えるとお勧めはできません。

最後に、スイッチング電源用のICはメーカー間であまり互換性がありません。似たような構成ですが、何よりもピン配置が違います。リニアレギュレータの78シリーズのように差し替えは基本的にできませんので、設計途中、特に基板レイアウトをしてしまってからの部品変更は再設計を意味することになるので、ICの選択には十分な検討が必須です。

設計、周辺部品選定

ICが決まると、そのICのデータシートの説明やアプリケーション例などを参考に設計を進めていきます。その際に外付けのコンデンサや抵抗などの定数を決定することになりますが、スイッチングAC-DCコンバータの場合はトランスの設計が非常に重要になります。

③ 設計、周辺部品選定

  • 1) 主要変圧部品:トランス、ブリッジ、ダイオード、コンデンサなど
  • 2) ICが必要とする部品
  • 3) 各定数の計算、最適化
  • 4) トランス設計:サイズ、L値、巻数、構造設計(線径、層構成)

トランス設計は以下のような手順で行います。最初にトランスのサイズを検討します。電源方式、スイッチング周波数、出力電力などからトランスサイズを決定します。次に、磁気飽和しないようにメイン巻線(一次巻線)のL値、各巻線の巻数を決めます。続いて、構造設計に入ります。構造設計では、結合度を考慮した層構成、安全規格を考慮した沿面距離の確保、そしてボビンの有効巻枠に巻くことが可能かどうか確認しながら線材の線径を決定します。このようにトランスの仕様を決定していきます。参考ではありますが、トランス仕様の一例を示します。

図 1:トランス設計の例 図 1:トランス設計の例

トランスに限らず、部品選定や設計の検討は、電気、電子の知識はもちろん、部品の知識、そして特に経験が必要になります。これらをもって設計を進めていきますが、なかなかうまくいかないこともあるかと思います。その際には、ICメーカーや部品メーカーのサポートを利用して、無駄なく迅速に設計を進めるのが良策と考えます。

試作、評価

図面を引き終わり、部品リストも完成し、基板レイアウトができれば、試作を行い性能の評価に入ります。試作においては、まず基本動作の確認からスタートします。とはいっても、どういった動作が正しいのかがわからない場合も少なくありません。その場合にはICメーカーが用意している評価ボードを利用する方法があります。細かい仕様が自身の設計仕様とは異なるかもしれませんが、比較検討の見本になります。

④ 評価、試作

  • 1) 評価ボード/ツールの利用
  • 2) 試作基板作成、想定条件での動作、性能評価
  • 3) デバッグ、最適化
  • 4) 要求仕様に対する適合/不適合、トレードオフの判断

評価項目として効率を測定することになると思いますが、ACを扱うパワーメーター(電力計)があると便利です。もちろん、電圧計、電流計、クランプ電流計などを駆使して測定することは可能ですが、昨今のパワーメーターは効率そのものを表示してくれます。

また、必ずオシロスコープを使って、各ポイントの波形を観察してください。異常な波形、ノイズやスパイクなどは波形観察を行わない限りわかりません。それっぽく動いているようだけど何かおかしいといった場合の原因が見つかることがあります。

評価においては、入出力電圧、負荷電流、温度に対するマージンをしっかりチェックすることも大事です。マージンが不十分な設計では、量産時に仕様から外れたものが多くなったり、ロットによって歩留まりが大きく変わることがあります。回路を構成する部品の特性には必ずばらつきがあります。それを含んで仕様目標を達成できる設計が求められます。

量産設計、評価、出荷検査

⑤ 量産設計、評価、出荷検査

デバッグや最適化が終われば、量産に向けての判断をします。このときに、要求仕様を完璧に満足できない場合があります。その際には、どうしても譲れない仕様を満たすために再設計が必要になったり、何かを少し妥協して全体として目標に近づけるトレードオフの検討が必要になる場合があります。

以上、手順と確認項目を示しましたが、おおよそこのような順序で設計を進められれば良いかと思います。いずれにしても、きちんとした計画と臨機応変な対応の両方があって設計は進捗します。

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