この記事のキーポイント
・重負荷時にtrrが長い場合、進みレグのターンOFF時に寄生バイポーラトランジスタが誤ONして、MOSFETが破壊する可能性がある。
・PSFB回路は、リカバリー中のBody Diodeのバイアスがほぼ0Vなため電荷放出が遅くなり、結果としてtrrが長くなる。
・PSFB回路ではtrrが小さいMOSFETを使用することが重要。
・高速リカバリー型SJ MOSFETであってもメーカーやシリーズによって性能に差異があるので、選択には十分な検討が必要。
重負荷時においてMOSFETのBody Diodeのリカバリー時間trrが長く、電流が残っている場合、進みレグのMOSFETのターンOFF時に寄生バイポーラトランジスタが誤ONしてしまい、MOSFETが破壊する可能性があります。これは、ターンOFF時に発生する、ドレイン-ソース間容量CDSへの充電電流によって寄生バイポーラトランジスタが自発的にON(誤ON)してしまい、瞬間的に大電流が流れることによって起こります。
インバータ回路などでは、MOSFETのBody Diodeに順方向電流が流れている状態で、高電圧の逆バイアスを印加することにより強制的にBody Diode内の電荷(Qrr)を急速に放出します。この放出に要する時間がtrrなので、結果としてtrrが短くなります。
一方、PSFB回路では、リカバリー中のBody Diodeにかかるバイアスがほぼ0Vであるため、電荷放出が遅くなり、結果としてtrrが長くなります。下図に、進みレグのMOSFETのVDS、ID、リカバリー電流の概略図を示します。
trrが長くなると、リカバリーによって発生する電流は図の赤点線のようにシフトしていきます。つまり、ターンOFF時にMOSFET中に電荷が残存していることになり、より電流が流れやすく、寄生バイポーラトランジスタの誤ONが発生しやすくなります。
t0~t1: | MOSFETの出力容量から放電し、Body Diodeに順方向電流が流れ始める。 |
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t1~t3: | Body Diodeが導通している期間。 |
t1~t5: | MOSFETがターンONし、ON状態の期間。 |
t3~t4: | Body Diodeのリカバリー電流が流れる期間。trrが長いと、この期間は長くなる。 |
t5~t6: | MOSFETがターンOFFする。この時、trrが長いと寄生バイポーラトランジスタが誤ONしやすくなり、MOSFETが壊れる。 |
このような理由からPSFB回路では、trrが小さいMOSFETを使用する必要があります。単純にはtrrが小さければ小さいほど有効性は高まります。市場にはtrrが小さい高速リカバリーを特徴としたSJ MOSFETが流通していますが、メーカーやシリーズによってtrrや関連するパラメータに差異があります。したがって、選択には十分な検討が必要です。
遅れレグのMOSFETでも、ターンOFF時に発生する寄生バイポーラトランジスタの誤ONは起きる可能性があります。しかし、PSFB回路の動作で説明したように、進みレグに比べIDが正である期間が長いためtrrによる影響を受けにくくなり、遅れレグのほうが寄生バイポーラトランジスタの誤ONによるMOSFETの破壊は発生しにくくなります。進みレグと同じく、リカバリー電流の概略図を示します。
t0~t1: | MOSFETの出力容量から放電し、Body Diodeに順方向電流が流れ始める。 |
---|---|
t0~t2: | Body Diodeが導通している期間。 |
t1~t4: | MOSFETがターンONし、ON状態の期間。 |
t2~t3: | Body Diodeのリカバリー電流が流れる期間。trrが長いと、この期間は長くなる。 |
t4~t5: | MOSFETがターンOFFする。進みレグと比較してリカバリーによる影響を受けにくいため、寄生バイポーラトランジスタの誤ONは発生しにくい。 |