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DC-DCコンバータの熱シミュレーションとは

2025.05.08

本記事では、ROHM Solution Simulatorを使って、80V耐圧5A出力のDC-DCコンバータIC BD9G500EFJ-LAによる電源回路の回路動作シミュレーションと、このICと外付け部品であるショットキーバリアダイオードRB088BM100TLの温度シミュレーションを同時に実行することが可能なシミュレーション環境と、その使用方法について説明します。

ROHM Solution Simulatorの熱シミュレーションとは

このシミュレーションは、ROHM Solution Simulatorに追加された熱解析機能を使用します。最初にこの熱解析機能の概要を説明します。

ROHM Solution Simulatorに追加された熱解析機能は、ROHM Solution Simulator用のシミュレーションモデルであるSolution Circuitに含まれる形で提供されます。現在、熱解析機能を備えたSolution Circuitは10点あり、今後順次追加されて行きます。ここで使用するBD9G500EFJ-LAのSolution Circuitも、この10点の内の1つです。

ROHM Solution Simulatorの熱解析機能は以下の特長を持っています。

  • ・パワー半導体やICと受動部品による回路の電気・熱連成解析。
  • ・回路動作時の半導体チップ温度(ジャンクション温度)に加えて、端子温度や基板上部品の熱干渉まで解析可能。
  • ・従来1日近くの時間を要した熱解析シミュレーションを10分以内で実行。
  • ・熱解析が簡単にできるので事前に十分な熱設計できるため、試作の再作業が減り開発工数を削減可能。

この熱解析機能は、実基板から算出した放熱に関するパラメータを熱流体解析ツールで3Dモデル化し、電気回路シミュレータで熱解析できるよう1Dに低次元化して、電気と熱を連成解析するものです。連成解析とは、電気、熱、流れなど、異なる2つ以上からなる領域の連成現象を処理し、定常および過渡の状態を計算する解析手法です。以下にイメージを示します。

ROHM Solution Simulatorの熱解析機能。電気・熱連成解析

この熱シミュレーションでは、回路動作時に変化する半導体ジャンクション(チップ)温度TJ、パッケージ上面温度TT、はんだ面温度TFINに加えて、SPICEベースの熱モデルでは不可能だった基板上の周辺部品温度、モジュール内チップの熱干渉なども確認することができます。

ROHM Solution Simulatorに熱解析機能。半導体ジャンクション(チップ)温度TJ、パッケージ上面温度TT、はんだ面温度TFINに加えて、SPICEベースの熱モデルでは不可能だった基板上の周辺部品温度、モジュール内チップの熱干渉なども確認することができる

また、シミュレーション時間も大幅に短縮されています。従来このような熱解析シミュレーションは十数時間から1日近くの時間を要するものでしたが、ROHM Solution Simulatorでは10分以内で実行することができます。

ROHM Solution Simulatorに熱解析機能。シミュレーション時間を大幅に短縮

ROHM Solution Simulatorでは、以上のような熱解析が可能です。

DC-DCコンバータ熱シミュレーション回路

ここからは、具体的にROHM Solution Simulatorと熱解析機能を搭載したDC-DCコンバータ BD9G500EFJ-LAのSolution Circuitを使って、使用方法を説明して行きます。実際にROHM Solution Simulatorを起動して操作しながら読んでいただければと思います。

まず、以下の確認をお願いします。

DC-DCコンバータの熱シミュレーションに使用するシミュレーション回路

上記のDC-DCコンバータ BD9G500EFJ-LAのSolution Circuitを起動させると、図1のような回路が開きます。緑色の線に囲まれている部分は熱シミュレーション回路、それ以外は電気シミュレーション回路を表しています。

ROHM Solution SimulatorのDC-DCコンバータ BD9G500EFJ-LAの電気・熱シミュレーション回路
図1. DC-DCコンバータ BD9G500EFJ-LAのシミュレーション回路

この電気回路は、BD9G500EFJ-LAを使用した最大5A出力の1ch降圧DC-DCコンバータのアプリケーション回路です。

熱シミュレーション回路は、電気シミュレーションで算出したBD9G500EFJ-LA(以下IC)の損失およびショットキーバリアダイオード(以下SBD)RB088BM100TLの損失を熱シミュレーションモデルへ入力し、ICとSBDの温度を算出します。

シミュレーションの方法

シミュレーションの設定や実行は、回路図上部にある「回路図ツールバー」で行います(参照:「ROHM Solution Simulatorツールバーの機能と基本操作」)。

シミュレーション時間や収束オプションなどのシミュレーション設定は、図2に示す「Simulation Settings」から設定可能で、表1はシミュレーションの初期設定を示しています。

シミュレーションの収束に問題がある場合は、詳細オプションを変更して解決することが可能です。電気回路のシミュレーション温度と各種パラメータは、「Manual Options」で定義されています。

ROHM Solution SimulatorのSimulation Settingsと実行

図2. Simulation Settingsと実行(

パラメータ 初期値 備考
Simulation Type Time-Domain シミュレーションタイプは変更しない
End time 7 msecs
Advanced Options More Speed
Manual Options .PARAM 詳細は次章の表2を参照

表1. Simulation Settings の初期値

シミュレーション条件

シミュレーションを行うにあたり、シミュレーション条件の設定や選択をする必要があります。

パラメータの定義

図3の青色で示したコンポーネントは、シミュレーション条件を設定する必要があるため、「Manual Options」でパラメータを定義しています。「Simulation Settings」のボタンをクリックして、「Advanced Options」をクリックすると、「Manual Options」のテキストボックスが表示されます(図4)。

表2に、各パラメータの初期値を示します。これらの値は、図4に示すようにシミュレーション設定の「Manual Options」のテキストボックスに書き込まれています。

ROHM Solution Simulator熱解析でパラメータ定義が必要なコンポーネント

パラメータ 変数名 初期値 単位 説明
Temperature Ta 25 周囲環境温度
Voltage V_VIN 48 V 入力電圧7~76Vの範囲で設定
Voltage V_VOUT 5 V 1V~(0.97×V_VIN)の範囲で設定
Current I_IOUT 1 A 5A(MAX)
Inductance L_PRM 33 μH 平滑用インダクタ

表2. シミュレーション条件。「Manual Options」に記述されている初期値

ROHM Solution Simulatorの熱シミュレーションの「Manual Options」のテキストボックス

コンポーネント定数設定

スイッチング周波数、出力LCフィルタ定数、出力電圧などの設定方法は、BD9G500EFJ-LAのデータシートの「アプリケーション部品選定方法」を参照します。コンポーネントの定数設定は、該当コンポーネントをダブルクリックすると「Property Editor」が開き値を変更できます(参照:「シミュレーションのカスタマイズ」、「PartQuest™ Explorerへの回路データのエクスポート」)。

BD9G500EFJ-LA データシート

熱回路

図5の緑矢印で示したシンボルは、BD9G500EFJ-LAの熱シミュレーションモデルです。図5の赤色配線のノードでジャンクション温度、パッケージ表面温度、FIN表面温度が確認できます。各ノードの詳細を表3に示します。

ROHM Solution SimulatorのBD9G500EFJ-LA熱シミュレーションモデル

ノード名 説明
BD9G500EFJ_Tj BD9G500EFJ-LAのジャンクション温度をモニターする
SBD_Tj RB088BM100のジャンクション温度をモニターする
BD9G500EFJ_Tt BD9G500EFJ-LAのパッケージ上面中心温度をモニターする
SBD_Tt RB088BM100のパッケージ上面中心温度をモニターする
SBD_Tfin RB088BM100のFIN中心温度をモニターする

表3. 図5の熱シミュレーションモデルノード説明

◆ 熱シミュレーションモデルを選択
熱シミュレーションモデルは表4に示すコンポーネントが用意されており、その中から選択できます。図6に選択方法を示します。まず、BD9G500EFJ-LAコンポーネントをダブルクリックするか、右クリックして「Properties」を選択すると「Property Editor」が開きます。「Property Editor」の「SpiceLib Part」の値を、表4に示した値から選択し(「SpiceLib Part」のボックスに選択肢が表示されます)設定することで熱シミュレーションモデルが変更されます。

ROHM Solution Simulator熱シミュレーション。熱シミュレーションモデルの選択方法

コンポーネント名 SpiceLib Part値 説明
BD9G500EFJ-LA 2s 2層基板の熱シミュレーションモデル
2s2p 4層基板の熱シミュレーションモデル

表4. 選択可能な熱モデルのリスト

熱シミュレーションモデル

BD9G500EFJ-LA 熱シミュレーションモデル

参考までに、BD9G500EFJ-LAの熱シミュレーションモデル作成に使用した3Dモデルのイメージを図7に示します。また、構造情報を表5に示します。

ROHM Solution Simulator BD9G500EFJ-LA 熱シミュレーションモデルの3Dイメージ

構造部位 説明
基板外形寸法 114.3mm×76.2mm, t=1.6mm
基板材料 FR-4
レイアウトパターン 1ch降圧スイッチングレギュレータ BD9G500EFJ-LA EVK User’s Guide」参照
2層基板 層構成 Top Layer:70μm(2oz) Bottom Layer:70μm(2oz)
4層基板 層構成 Top Layer:70μm(2oz)
Middle1 & Middle2 Layer:35μm(1oz)
Bottom Layer:70μm(2oz)

表5. BD9G500EFJ-LA 熱シミュレーションモデルの構造情報

シミュレーション条件」の「熱シミュレーションモデルを選択」の項で示したように、BD9G500EFJ-LA の熱シミュレーションモデルには2層基板と4層基板の選択肢があります。熱の評価の際には、2層基板と4層基板の両方でのシミュレーションを実施して温度の違いを確認し、熱設計に反映させることができます。

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