2023.11.09
共振周波数と共振回路は、電子回路の設計やノイズ対策で用いられる重要な概念です。共振周波数の意味や計算方法、共振回路がどのように機能し、どのような場面で応用されているのかなど、この領域についての知識が不足している方も多いのではないでしょうか。 本記事では、共振周波数や固有振動数の基本原理、共振周波数の求め方、共振回路におけるリアクタンスやインピーダンスの理解、共振回路のQ値とその重要性について詳しく解説します。共振周波数と共振回路の理解を深め、それらの実際の応用例についても学ぶことで、より実践的な知識を得るための参考にしていただきたいと思います。
共振周波数とは、共振が発生する周波数を指します。共振という事象を理解するためには、まず固有振動についておさえましょう。固有振動とは、物体に衝撃を加えた際に、物体固有の振動数で物体が振動することを指します。物体によって固有振動数が決まっているため、衝撃の強さに関わらず、物体は固有振動数でしか振動しません。打楽器は誰が叩いても同じ高さの音を出せますが、それは物体が固有の振動数で振動するためです。また、異なる打楽器を叩いたときに音の高さが異なるのは、物体それぞれで固有振動数が異なるためです。
一方で、物体に固有振動を与え続けると変異が増幅し、振動がどんどん大きくなります。例えばブランコを漕いでいるときに、ブランコの揺れに合わせて体重をかけ続けると、徐々にブランコの揺れが大きくなっていきます。この事象が共振です。共振は物体に固有振動を与え続けることで発生するため、理論上では固有振動数=共振周波数になります。
共振は、抵抗、インダクタ、コンデンサで構成される回路において、システムがエネルギーを蓄積し、異なる蓄積モード間(例えば、単純な振り子で見られるような運動エネルギーや位置エネルギー)で容易に移動できる場合に発生します。
共振回路を理解するにあたって、まずは事象としての「固有振動」や「共振」を理解しておく必要があります。
「固有振動」とは、物体に衝撃を与えた際、その物体が、物体ごとに固有する振動数で振動する事象のことを指します。
固有する振動数で振動する、とはどういうことかというと、例えば木琴(楽器)のそれぞれの鍵を叩いたときや、水が入ったグラスのふちを叩くと音が鳴りますが、この行動を誰が行っても、必ず同じ高さの音が出ます。
同じ高さになる理由は、木琴のそれぞれの鍵の材質や大きさ、グラスの材質や厚さ、入っている液体の水位などの条件によって、それぞれ衝撃を与えた際の振動数が決まっている(固有振動数が決まっている)からとなります。
そして、ひとつの物体に固有振動を与え続けた場合には、与えられる振動と同期して振動が更に大きく増幅していきます。この事象を「共振」と呼んでいます。
例えば、揺れるブランコへ力を与え続け、こぎ続けていると、ブランコの動きが徐々に大きくなるのも、「共振」が起こっているからです。
共振回路とは、特定の周波数での振動(共振)を利用する電子回路のことを指します。この回路は主にインダクタ(コイル)とキャパシタ(コンデンサ)の組み合わせによって構成されます。
共振回路は2つのタイプ、すなわち並列共振回路と直列共振回路があります。後のセクションで詳しく取り上げますが、直列共振回路はインダクタとキャパシタが直列に接続され、特定の周波数でインピーダンスが最小となり、並列共振回路ではインピーダンスが最大(無限大)とる特性があります。
このページの後半では、共振回路におけるリアクタンス、インピーダンス、並列共振回路の条件など、より詳細な情報について解説します。
しかし、先ずは共振回路の基本的な概念と共振周波数、角共振周波数の理解を深めることが重要なためここで解説します。
共振周波数は以下の式で表されます:
\(f_0 = \frac{1}{2\pi \sqrt{LC}} \, \text{[Hz]}\)
また、この共振周波数を角周波数として表現する場合、以下のようになります:
\(\mathbf{\omega}_{\mathbf{0}} = \mathbf{2\pi}\mathbf{f}_{\mathbf{0}}\)
・ω0は角共振周波数
共振回路は、通信、放送、アナログ電子機器などのさまざまな領域で使用されており、その特性によって特定の周波数の信号を強調することが可能となります。
▼共振回路において、LED(発光ダイオード)を光らせる場合の抵抗の役割やオームの法則については、こちらの記事をご覧ください。
抵抗器の基礎知識
前項で、共振回路には直列と並列の2種類があると述べましたが、まずはRLC直列共振回路の概略について解説します。
R(抵抗)とL(インダクタ)、C(コンデンサ)を直列接続した電気回路上にて、共振が発生します(コンデンサとコイルのインピーダンスがイコールとなる周波数のときに、共振という事象が起こる)。これを、RLC直列共振回路と呼びます。
RLC直列共振回路が共振しているとき、インダクタLのリアクタンスXL=ωLと、コンデンサCのリアクタンスXC=1/ωCが互いに打ち消し合っている状態となっています。つまり、「XL=XC」となります。
共振状態のRLC直列回路においては。インピーダンスがZ = Rとなり、見かけ上はL(インダクタ)とC(コンデンサ)がなくなり、R(抵抗)だけの状態となります。その際、インピーダンスが最小になり、電流は最大となります。
RLC直列共振回路は、R(抵抗)とL(インダクタ)とC(コンデンサ)を直列接続したRLC直列回路において、共振が発生した状態の回路です。共振が発生するリアクタンスについては「共振回路におけるリアクタンスとインピーダンス」の項で詳しく解説します。
直列共振回路は、電気及び電子回路で使用される最も重要な回路のひとつです。AC電源フィルター、ノイズフィルター、ラジオやテレビの同調回路など、さまざまな電気製品に組み込まれ、さまざまな周波数チャネルを受信するための非常に選択的な同調回路を生成します。
続いて、RLC並列共振回路の概略について解説します。
RLC並列共振回路では、R(抵抗)とL(インダクタ)、C(コンデンサ)を上図のように、並列の関係として接続します。
RLC並列共振回路が共振しているときもRLC直列共振回路が共振しているときと同様に、インダクタLのリアクタンスXL=ωLと、コンデンサCのリアクタンスXC=1/ωCが互いに打ち消し合っている状態となっています(XL=XC)。
共振状態のRLC並列回路においても、インピーダンスがZ = Rとなり、見かけ上はL(インダクタ)とC(コンデンサ)がなくなり、R(抵抗)だけの状態となります。この際、RLC直列回路とは異なり、インピーダンスが最大(無限大)、電流は最小(電流が流れず回路が切断されているのと同じ状態)となります。
RLC並列共振回路は、R(抵抗)とL(インダクタ)とC(コンデンサ)を並列接続したRLC並列回路において、共振が発生した状態の回路です。並列共振回路も直列共振回路と同様に、容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスの2つの無効成分を含む3要素からなるネットワークであり、2次回路になります。
直列共振回路との違いとしては、並列共振回路は、並列共振回路(LCタンク回路)内の各並列分岐を流れる電流の影響を受けることです。
並列共振回路は、AC周波数を選択または除去するためにフィルターで使用されるLとCの並列の組み合わせです。
電子回路における共振周波数は、回路がある特定の周波数で最大の振動応答を示すときに表されます。
直列共振回路、並列共振回路いずれにおいても共振周波数は以下の式で求められます。
\(f_0 = \frac{1}{2\pi \sqrt{LC}} \, \text{[Hz]}\)
共振回路でインピーダンスがなぜ抵抗値と等しくなるかはリアクタンスについての理解が必要です。
同じRLC回路でも、共振が発生するかどうかにはリアクタンスが関係しています。容量性リアクタンスXC及び誘導性リアクタンスXLはそれぞれ以下で定義され、周波数に応じて値が変化します。
\(X_C = \frac{1}{2\pi fC}\)
\(X_L = 2\pi fL\)
インピーダンスZは下記の図ように、抵抗RとリアクタンスXによって決まります。
X=0になる場合の周波数が共振周波数となり、そのときZ=Rとなります。
さらに詳しく説明すると、周波数によって減少していく容量性リアクタンスと増加していく誘導性リアクタンスは、特定の入力周波数において交差します。この交点である容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスが等しくなるXC=XLにおいて、2つのリアクタンスが互いを相殺する状態で共振が発生します。
▼リアクタンスについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
リアクタンスとは? 「電気回路の流れにくさ」
共振が発生している状態では容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスが互いを相殺しているため、RLC直列共振回路とRLC並列共振回路のいずれにおいても、インピーダンスはインダクタとコンデンサがないのと同じ状態、つまり抵抗分のみ(Z = R)になります。
しかし、RLC直列共振回路とRLC並列共振回路では、インピーダンスと電流の関係が異なります。RLC直列共振回路を流れる電流は電圧をインピーダンスで割った積であるため、共振時にインピーダンスは最小値(=R)となり、回路電流は最大になります。
一方、RLC並列共振回路においては、共振時にアドミタンスの虚数部がゼロになり、インピーダンスが最大(=∞)になります。インピーダンスが最大になると、回路電流が制限されることになりますので、回路が切断されているのと同じ状態です。
RLC直列共振回路とRLC並列共振回路では、共振周波数の求め方や共振時にZ = Rとなる点など多くが共通していますが、RLC直列共振回路は共振時にインピーダンスが最小・電流が最大になり、RLC並列共振回路は共振時にインピーダンスが最大(無限大)・電流が最小(電流が流れず回路が切断されているのと同じ状態)になるという点をおさえておきましょう。
「Q値(Quality Factor)」とは、共振周波数においての信号の「鋭さ」を表す値です。
Q値が大きいと信号特性が鋭くなり、Q値が小さいと信号特性が緩やかになります。
Q値は、周波数や角周波数で表すと以下のような式で定義されます。
\(Q = \frac{共振周波数においての信号の強さ}{バンド幅BW}\)
\(Q = \frac{\omega_0}{\omega_2 – \omega_1} = \frac{f_0}{f_2 – f_1}\)
RLC直列共振回路において共振が起こっている際は、電流Iが一定で、L(インダクタ)とC(コンデンサ)が互いに打ち消し合っている状態です。
このとき、QはL(インダクタ)の抵抗成分と、R(抵抗)の成分の比率で表すことができます。
そして、インダクタ側からの電圧が抵抗にかかり、電源電圧に対して何倍になるのかを示す係数がQとなります。
\(V = V_R + V_L + V_C\)
\(V = V_R + V_L + V_C\)
例えば下図は、RLC直列共振回路においての、流れる電流の大きさ“I”の周波数特性を示す図です。
L(インダクタ)とC(コンデンサ)が共振する周波数(角周波数)において、インピーダンスが最大になります。
また、角周波数を横軸とした際に電流の大きさが最大値となることがお分かりいただけるでしょうか。
RLC直列共振回路においては、Q値で帯域幅が変わり、RLC並列共振回路においては、帯域幅は固定となります。
RLC並列共振回路において共振が起こっている際は、電圧Vが一定で、L(インダクタ)とC(コンデンサ)が互いに打ち消し合っている状態です。
この時、L(インダクタ)に流れる電流と、R(抵抗)に流れる電流の比率でQが決まります。
RLC並列回路の特性の1つは、インピーダンスが非常に大きく回路 電流が制限されることであることに注意してください。
RLC直列回路とは異なり、LC並列回路の抵抗は、回路の帯域幅に振動をおさえる効果(ダンピング効果)があります。
並列共振回路の Q値は、直列回路の Q値の式の逆数であることに注意してください。
\(I = I_R + I_L + I_C\)
\(Q = I_L I_R = \frac{V}{\omega L} \frac{V}{R} = R \omega L\)
ここまで解説した直列や並列の共振回路は、私たちの身のまわりにおいて、実際にどのようなことに応用されているでしょうか。
例えば直列共振回路の応用例には、テレビやラジオの受信回路があります。
直列共振の「特定の周波数において、電流が最大になる」という特性を活かし、受信したい周波数とイコールの周波数を「共振周波数」として持つ回路をあらかじめ作成しておき、目的の周波数では大きな電流を流す、不要な周波数においてはほとんど電流を流さないようにしておく、という具合です。
直列共振回路は、そのほかAC電源フィルター、ノイズフィルターなどにも応用されています。
並列共振の回路の応用例には、マルチバンドアンテナで用いられるトラップ回路や、広帯域増幅回路などが挙げられます。
▼コンデンサやコイルを使用したノイズ対策、EMC対策についてはこちらからお探しいただけます。
https://techweb.rohm.co.jp/know-how/nowisee/
なお、電子部品の小型化・高集積化が進む昨今において、RLC共振回路を活用するにあたってはノイズ対策が非常に重要となります。そのためには、インダクタを用いた適切なノイズ対策と周波数制御についてしっかりと理解しておく必要があります。
電子回路の中で、意図しない共振回路が含まれている場合、共振周波数に達した際に非常に大きな電流・電圧が発生します。したがって、ノイズ障害が起きやすくなってしまうのです。すなわち、回路から意図しない共振をできるだけ排除することが重要となります。意図しない共振を抑制するためには、ダンピング抵抗が用いられます。
また、フェライトビーズを用いて、ノイズをバイパスし、尚且つ熱に変換するという方法もあります。
▼フェライトビーズの詳細や、インダクタの基本特性とノイズ対策の関係、ローパスフィルタとしての動作などについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
https://techweb.rohm.co.jp/know-how/nowisee/8138/
共振周波数とは、共振が発生する周波数です。共振回路は電気及び電子回路で利用される最も重要な回路のひとつであり、さまざまな電気製品で用いられています。
特に、電子部品の小型化・高集積化が進む昨今ではノイズ対策が重要であり、インダクタを用いたノイズ対策を理解しておく必要があるでしょう。RLC共振回路の理解を深めることは、インダクタの自己共振事象やノイズ対策について理解するうえでも大事なポイントです。
また、共振回路の特性を製品のなかで活用する際には、ノイズ障害への対策が重要となります。
今回解説した内容や、関連記事の内容を基に、適切な共振回路の活用を行いましょう。
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