用語集
バイポーラトランジスタの種類と使い方
2022.11.07
トランジスタは、電子回路において信号の増幅やスイッチングを行う重要な半導体素子です。本記事では、トランジスタの種類と特徴を示し、バイポーラトランジスタを中心に、その構成素子であるNPN型トランジスタとPNP型トランジスタについて解説します。
トランジスタの種類と特徴
トランジスタは製造プロセスや構造によって、以下の3つに大別されます。以降で各トランジスタの特徴を見ていきましょう。
- ・バイポーラトランジスタ
- ・ユニポーラトランジスタ
- ・絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)
バイポーラトランジスタ
バイポーラトランジスタは、N型半導体とP型半導体の組み合わせにより、電子と正孔の2種類のキャリアを利用するトランジスタです。バイポーラトランジスタにはNPN型とPNP型の2種類があり、いずれもベース、コレクタ、エミッタという3つの端子によって構成されます。
回路記号

ユニポーラトランジスタ(電界効果トランジスタ)
ユニポーラトランジスタは、電界効果トランジスタ(FET)とも呼ばれ、電圧を印加することで生じる電界によって電流を制御します。ユニポーラトランジスタには接合型FET(JFET)と金属酸化膜半導体FET(MOSFET)があり、いずれもゲート、ドレイン、ソースの3つの端子によって構成されます。ユニポーラトランジスタは、更にnチャネルとpチャネルの2種類が存在します。
・接合型FET(JFET) 回路記号

・金属酸化膜半導体FET(MOSFET)回路記号

絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)は日本で開発された技術で、大電力の高速スイッチングが可能なトランジスタです。バイポーラトランジスタとユニポーラトランジスタにはパワータイプと小信号タイプがある一方で、IGBTは大電力を扱うために開発されたため、基本的にパワータイプのみ存在します。IGBTにはNチャネル型とPチャネル型の2種類があり、いずれもゲート、コレクタ、エミッタの3つの端子で構成されます。

3種類のトランジスタの比較を下表に示します。
| バイポーラトランジスタ | ユニポーラトランジスタ | 絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT) | |
| 駆動方法 | 電流駆動 | 電圧駆動 | 電圧駆動 |
| 駆動電力 | 多い | 少ない | やや多い |
| スイッチング速度 | 遅い | 早い | やや遅い |
| 温度安定性 | 低い | 高い | 高い |
| 高耐圧化 | 容易 | 要構造変更 | 容易 |
NPN型トランジスタとは
NPN型トランジスタとは、エミッタがN型半導体、ベースがP型半導体、コレクタがN型半導体で構成されます。NPN型トランジスタは、ベースに流れ込むベース電流を増幅し、大きなコレクタ電流を生み出します。動作原理は以下のとおりです。
- 1.電圧の印加:エミッタを接地(GND)し、コレクタには正電圧VCCを加えます。ベースにはエミッタよりVBEだけ高い正電圧を加えます。
- 2.電子の注入と再結合:エミッタのN型領域からベースのP型領域へ電子が流れ込みます。一部の電子はベース内で正孔と再結合し、これがベース電流となります。
- 3.コレクタ電流の形成:エミッタからベースへ移動した電子の大部分は、再結合せずに薄いベース領域を通過し、空乏層を超えてコレクタのN型領域に流れ込みます。これにより、コレクタ電流が形成されます。
- 4.外部回路への電流:エミッタからコレクタへ移動した電子は、外部回路を通してコレクタ電流として流れます。
このように、エミッタから注入された電子がベースとコレクタを通過することで、NPNトランジスタ内の電流が制御されます。

PNP型トランジスタとは
PNP型トランジスタとは、エミッタがP型半導体、ベースがN型半導体、コレクタがP型半導体で構成されます。PNP型トランジスタは、ベースから流れ出るベース電流を増幅し、大きなコレクタ電流を生み出します。動作原理は以下のとおりです。
- 1.電圧の印加:エミッタに正電圧VCCを加え、コレクタにはエミッタよりも低い電圧を加えます。ベースにはエミッタよりVBEだけ低い正電圧を加えます。
- 2.正孔の注入と再結合:エミッタのP型領域からベースのN型領域へ正孔が流れ込みます。一部の正孔はベース内で電子と再結合し、これがベース電流(ベース流出電流)となります。
- 3.コレクタ電流の形成:エミッタからベースへ移動した正孔の大部分は、再結合せずに薄いベース領域を通過し、空乏層を超えてコレクタのP型領域に流れ込みます。これにより、コレクタ電流が形成されます。
- 4.外部回路への電流:エミッタからコレクタへ移動した正孔は、外部回路を通してコレクタ電流として流れます。
このように、エミッタから注入された正孔がベースとコレクタを通過することで、PNPトランジスタ内の電流が制御されます。
なお、電子の流れる向きと電流の向きは反対方向、正孔の流れる向きと電流の向きは同一方向です。

NPN型トランジスタとPNP型トランジスタの使い方
NPN型トランジスタとPNP型トランジスタの違いはキャリアの極性にあります。電子と正孔では電子の方が移動度が大きいため、多数キャリアが電子であるNPN型トランジスタの方が、トランジスタとしての性能自体は高くなります。そのため、一般的にはPNP型トランジスタよりもNPN型トランジスタが利用されることが多いです。
また、電流の入出力方向によってNPN型トランジスタとPNP型トランジスタを使い分けるのも一般的です。トランジスタでエミッタ、コレクタ、ベースのいずれかの電位を固定する場合、その構成をそれぞれ「エミッタ接地」「コレクタ接地」「ベース接地」と呼びます。
入力信号でスイッチングを制御したいのであれば、一般的にはエミッタ接地が多く使用されます。その場合、エミッタが電源若しくはグラウンドと接続されている必要があります。電子回路の電源側で制御したいのであればPNP型トランジスタを、接地側で制御したいのであればNPN型トランジスタを使用します。
NPN型トランジスタとPNP型トランジスタの見分け方
トランジスタがNPN型かPNP型かを見分けるには、型番で識別するか、テスターで確認します。
トランジスタの型番がわかれば、型番で識別するのが良いでしょう。トランジスタの型番は、2SA~・2SB〜・2SC〜・2SD〜の4種類あります。頭の「2S」はトランジスタを表し、A・B・C・Dは、トランジスタの特性を表します。
- ・2SA:PNP型トランジスタの高周波用
- ・2SB:PNP型トランジスタの低周波用
- ・2SC:NPN型トランジスタの高周波用
- ・2SD:NPN型トランジスタの低周波用
型番がわからない場合は、テスターを導通モードにし、テスターの赤色ピンをトランジスタのベースに、黒色ピンをコレクタ次いでエミッタにつなぐことで導通を確認できます。ベースとコレクタ間、ベースとエミッタ間それぞれが導通していれば、NPN型トランジスタです。PNP型トランジスタの場合は、赤色ピン・黒色ピンをNPN型トランジスタの場合と差し替えてつないで確認します。
まとめ
トランジスタは信号の増幅やスイッチングといった、重要な役割を持っている半導体素子です。トランジスタには、バイポーラトランジスタ、ユニポーラトランジスタ、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の3種類あり、それぞれ構造や特性が異なります。
バイポーラトランジスタは更にNPN型トランジスタとPNP型トランジスタの2つに分類されます。それぞれのトランジスタの動作原理を理解して、適切に使用することが重要です。
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