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Tjmaxとは? 熱抵抗と熱設計

2023.01.26

近年の電子機器は、ますます小型化・高性能化が進んでおり、1つの基板により多くの部品を集積することが一般的になっています。このような状況下でますます重要になるのが熱設計です。適切な熱設計を行わないと、部品の性能低下や製品寿命の短縮だけでなく、最悪の場合、発火や火災といった重大な事故につながる可能性もあります。これにより企業の信頼が損なわれ、経営に深刻な影響を与えることも考えられます。そこで、熱設計を最適化するために不可欠なのが、Tjmax(接合部最大温度)などの温度定格の理解です。

本記事では、Tjmaxの概念や熱設計のポイント、計算方法について詳しく解説します。これを参考に、より安全で効率的な熱設計を目指しましょう。

Tjmaxなど温度定格とは?

電子部品に対しては、以下の温度規定があります。

ジャンクション温度(Tj)

ジャンクションとは、主に半導体デバイスにおけるPN接合部を指し、そのPN接合部の温度をジャンクション温度(接合部温度)といいます。

Tjmaxはジャンクション温度Tjの最大定格です。電子機器の部品がTjmaxの値を超える温度に達すると、機器の性能低下や寿命短縮を引き起こす可能性があり、最悪の場合、熱暴走などにより重大な故障を引き起こすこともあります。そのため、設計時には構成部品がTjmax値を超えないように、発熱を抑えるか冷却手段を用いるといった対策が必要です。Tjmaxは製品ごとに規定されているため、販売元サイトで製品仕様を確認してください。

ケース温度(Tc)

ケース温度(Tc又はTcase)は、電子部品や機器のパッケージ表面の温度を指します。製品によって最大ケース温度Tcmaxが規定されており、設計時にはTjmaxと同様に、このTcmaxを超えないように注意が必要です。ケース温度は測定する位置や方法によって値が変わる可能性があるため、製品の取扱説明書に記載された測定手順に従い、正確に測定することが重要です。

周囲温度(Ta)

周囲温度(Ta)は、自然空冷時における電子部品や電子機器周辺の空気の温度を指します。Taが規定された範囲を超えると、電子機器の性能が低下したり、寿命が短くなる可能性があります。そのため、電子機器を安定して動作させるには、Taを一定範囲内に保つ必要があります。特に密閉された空間ではTaが上昇しやすくなるため、冷却対策が重要です。

熱抵抗と熱設計

熱設計を適切に行うためには、熱の伝導経路と熱抵抗について理解する必要があります。以下にこれらの要素を含めた熱設計について解説します。

なぜ熱設計が重要なのか

電子機器の小型化・高性能化に伴い、基板上で高密度の実装が一般に求められるようになり、熱設計において発熱密度を考慮することが重要となっています。

熱設計が適切に行われず、製品の量産直前で熱設計の問題が発覚した場合、部品交換や熱設計の再考が必要となり、大幅な手戻りにつながります。そのため納期どおりに製品を出荷できなくなった場合、関連する工程にも影響が及び、コスト増を招き、大きな損失が生じる可能性があります。

また、熱設計の問題を抱えたまま製品を出荷してしまうと、リコールや人命に関わる問題を発生させる可能性があります。このような熱設計のミスによる影響を十分認識し、設計の初期段階から適切な熱設計を組み込む必要があります。

熱伝導と熱抵抗

熱設計の基本知識として、熱の伝わり方や熱抵抗、放熱を理解しましょう。熱の伝わり方は伝導、対流、放射の3種類があり、さまざまな経路を経て放熱されます。熱抵抗は、熱の伝わりにくさで、Rthθを使って表され、単位は℃/W (K/W)が用いられます。熱の伝わり方と熱抵抗の計算方法を以下に示します。

・伝導:
熱エネルギーで発生した分子の運動が隣接する分子に伝わって熱移動がうまれる。

熱抵抗(Rth)=伝導物質の長さ/(断面積×熱伝導率)

断面積:周囲が断熱物質である場合の接面積
熱伝導率:物質固有の値

・対流:
空気や水などの流動する物質で熱移動がうまれる。

熱抵抗(Rth)=1/(対流熱伝達率×物体表面積)

対流熱伝達率:自然対流か強制対流かなどによって異なる

・放射(輻射):
電磁波によって熱移動がうまれる。

熱抵抗(Rth)=1/(放射熱伝達率×物体表面積)

放射熱伝達率:物質固有の表面放射率や温度によって異なる

上記に示した熱抵抗の計算式から、熱伝導における熱抵抗は、伝導物質の長さと断面積と熱伝導率に依存することが分かります。また、対流の熱抵抗は物体の表面積に、放射の熱抵抗は物体の表面積と温度と放射率に影響されます。熱設計の基本は、放熱経路の熱抵抗をいかに下げるかということです。

熱設計を行う際は、目標熱抵抗を決め対策を行います。熱抵抗の値は、基板が多層になるほど低くなり、基板の向き(水平・垂直)や基板の実装位置によっても変動します。熱抵抗の値は、上記以外にもさまざまな点で影響を受けるため、熱設計に起因する問題発生を防ぐためには、詳細なシミュレーションが必須です。

ジャンクション温度(Tj)の計算方法

Tjは、周囲温度、ケース温度、過渡熱抵抗特性の3つから算出する方法があります。それぞれの計算方法を解説します。

周囲温度から計算する場合

周囲温度と消費電力からTjを計算することができます。計算式は以下のとおりです。

\(T_j = T_a + R_{th(j-a)} \times P\)

Ta:周囲温度
Rth(j-a):ジャンクション-雰囲気間の熱抵抗
P:消費電力

周囲温度からジャンクション温度Tjを計算する際は、ジャンクションだけでなくジャンクションの雰囲気の熱抵抗を加味する必要があります。ジャンクション – 雰囲気間における実際の熱抵抗は実装する基板ごとに異なります。

消費電力が時間によって異なる場合には、消費電力の平均値を用いて近似的に算出されるのが一般的です。計算式からわかるとおり、Tjは消費電力に比例して大きくなります。この計算式を用いれば、消費電力に応じたTjがわかり、結果としてどの程度の電力が許容されるかを計算できます。

ケース温度から計算する場合

ケース温度を用いてジャンクション温度Tjを以下のように計算することが可能です。

\(T_j = T_c + R_{th(j-c)} \times P\)

Tc:ケース温度
Rth(j-c):ジャンクション-ケース間の熱抵抗
P:消費電力

周囲温度から計算する場合と同様に、消費電力が時間とともに変動する場合には消費電力の平均値を用いて近似的に算出します。

ケース温度から計算する場合に注意すべきなのは、Rth(j-c)の値が基板や放熱条件によって大幅に変わることがあり、ケース温度の正確な測定が難しい点です。自社で実装している基板によっても測定値が異なるため、他社の基板における測定値を使っても正確な値が求められない可能性が高くなります。また、パッケージ表面のケース温度をどのように測るかによっても値が異なります。Rth(j-c)やケース温度を測定することが難しい場合には、その他の計算方法を用いることが望ましいでしょう。

過渡熱抵抗特性から計算する場合

過渡熱抵抗特性からジャンクション温度Tjを計算する場合も、「周囲温度から計算する場合」と同様の計算式を用いることができます

\(T_j = T_a + R_{th(j-a)} \times P\)

周囲温度から計算する場合は電力が持続的に印加される場合を想定していますが、過渡熱抵抗特性から計算する場合は、瞬間的な電力印加を行った際を想定しています。瞬間的な電力印加を行った場合のTjの上昇は、過渡熱データを基に推定します。

ジャンクション温度は電力の印加時間に比例して上昇していきますが、一定の時間が経つと熱飽和が発生し、温度上昇が止まります。持続的に電力が印加される場合は消費電力の平均値を用いるため、算出されるのは熱飽和の発生を考慮した値です。計算式は同じですが、瞬発的な印加と持続的な印加で、相違が生じます。

開発の早い段階で熱設計を組み込む

年々小型化・高性能化していく電子機器において、熱設計は非常に重要な工程となっています。そのため製品設計の初期段階から熱設計を導入する「フロントローディング化」が行われるようになってきました。

フロントローディング化では、製品の不具合やデバッグ作業、設計変更といった手戻りを防ぐために、設計の初期段階で熱シミュレーションを行います。フロントローディング化では高精度な熱シミュレーションを行うため、さまざまな熱シミュレーションモデルが用意されるようになってきました。すべてのメーカーで熱シミュレーションモデルに相当する製品が用意されているわけではありませんが、本記事で解説した内容をふまえ、代表的な熱シミュレーションモデルには目を通しておくと良いでしょう。

熱設計に関する詳細は、以下の記事を参照してください。

【資料ダウンロード】 電⼦機器における半導体部品の熱設計

電子機器の設計では近年熱対策が注目され、熱設計が新たな課題になっています。熱は以前から重要検討事項ですが、近年は電子機器に対する要求が変化しており、従来の熱対策を見直す必要が出てきました。このハンドブックでは、基本的に電子機器で使われるICやトランジスタなどを前提にした熱設計に関して解説します。