用語集
半導体製造に使われる材料
2023.01.26
半導体は電子機器に組み込まれている重要な素子です。現代生活に欠かせない存在ですが、そもそも半導体は何からできているのでしょうか。この記事では、半導体の原料を紹介し、最も重要な原料であるシリコンについて解説します。
また、半導体の製造工程で用いる材料についても紹介します。
半導体ウエハの原料
半導体を作る際、まず初めに円盤状のウエハを製造します。半導体ウエハの材料の観点から、半導体は元素半導体と化合物半導体の2つに分類されます。
元素半導体
元素半導体とは、単一元素で作る半導体で、以下のいずれかの元素を使用します。
- ・シリコン(Si)
- ・ゲルマニウム(Ge)
- ・セレン(Se)
半導体ウエハの多くは元素半導体を使用しており、シリコン(ケイ素)から作るシリコンウエハが主流となっています。
シリコンとは
シリコンは、酸素とケイ素の化合物(SiO2)であるケイ石として、自然界に豊富に存在する元素です。
採掘されたケイ石を溶解してケイ素を抽出すると、金属シリコンが得られます。この金属シリコンを半導体に適した多結晶シリコンに精製する必要があります。純度99.999999999%以上の超高純度な多結晶シリコンは「イレブン・ナイン」と呼ばれています。
更に、多結晶シリコンを石英ルツボ内で溶解し、引き上げた円筒状の物質が単結晶シリコン(シリコンインゴット)です。この単結晶インゴットをスライス・研磨して、シリコンウエハが完成します。
シリコンが主に使われる理由
かつての半導体原料はゲルマニウムが主流でしたが、現在はシリコンが一般的です。シリコンは地殻を構成する元素のうち2番目に多い元素で、岩石・砂・植物・水などにも含まれているため、枯渇の心配がありません。
更に加工しやすく安定性にも優れ、化合物半導体と比べ低コストという利点から、ほとんどの半導体ウエハはシリコンを原料としています。
化合物半導体
化合物半導体は、以下のように複数の元素が結合した半導体です。
- ・ヒ化ガリウム(GaAs)
- ・炭化ケイ素(SiC)
- ・リン化インジウム(InP)
- ・窒化ガリウム(GaN)
複数の元素を原料とする化合物半導体は結晶欠陥が多く、割れやすい点が特徴です。そのため半導体ウエハの大口径化が困難で、製造効率も劣り、コストが高くなります。
こうした弱点がある一方で、シリコンよりも発光効率が良く高速信号処理も可能なため、LEDや光通信の受光素子などの用途に適しています。また、絶縁破壊電界強度がシリコンよりも高いため、パワー半導体に利用されています。
金属シリコンとシリコンウエハの製造国
シリコンは二酸化ケイ素の形でどの国にも存在しますが、それを加工して、半導体の原料となる金属シリコンを生産・輸出しているのは、中国、ノルウェー、ブラジル、アメリカなどの限られた国々です。二酸化ケイ素から金属シリコンを生産するには膨大な電力が必要なことがその理由です。因みに日本は、金属シリコンは輸入に頼っているものの、シリコンウエハは世界市場で最大のシェアを占めています。2019年度に生産されたシリコンウエハのうち、55%を日本メーカーが製造しています※1。
※1 出典:Informa UK Limited「令和元年度安全保障貿易管理対策事業(電子機器製造の産業基盤実態等調査)」
半導体チップの製造工程で使用される材料
原料としてシリコンを使用した場合に、各製造プロセスで使われる主な材料を紹介します。半導体チップの製造プロセスは、前工程と後工程に分かれます。
前工程で使われる主な材料
前工程では、鏡面のように研磨したシリコンウエハに処理を施します。この工程では、以下の材料を使用します。
1.酸素ガス(O2)又は水蒸気(H2O)
シリコンウエハの表面に約800〜1,100度の酸素ガス又は水蒸気を吹きつけて熱酸化させ、表面に酸化膜を形成します。
2.フォトレジスト・現像液
酸化膜の上にさらに必要に応じて薄膜を形成した後、表面にフォトレジスト(感光剤)を均一に塗布します。半導体の回路パターンをフォトマスクで照射すると、フォトレジストが感光し、表面に回路パターンが転写されます。この後、現像液を使って不要なフォトレジストを除去します。
3.エッチング剤
エッチング剤は、回路パターン以外の不要な薄膜の除去に用います。エッチング方法としては、腐食性ガスをプラズマ化し、イオン衝撃と化学反応で不要な薄膜部分を除去するドライエッチングが一般的です。
4.洗浄用薬液
回路パターンの転写/照射を含めた各工程の要所で、洗浄用薬液を用いてシリコンウエハを洗浄します。パーティクル(空気中の微小な塵)や油脂などの汚染を除去することで、配線不良を防止し、歩留りを向上させます。
5.ドーパント
イオン注入などのドーピング工程で、シリコンウエハの表面にドーパント(不純物イオン)を添加して熱処理を施します。主な添加物は、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)です。ドーパントによって自由電子又は正孔のキャリアを作り、電気を通しやすくします。ドーピング後は各加工を繰り返して、最後に表面を研磨し電極を生成します。
後工程で使われる主な材料
半導体を完成させる後工程では、以下の材料を使用します。
1.リードフレーム
シリコンウエハの表面には、数百~数千個の半導体チップが形成されています。半導体チップを切り離す作業が、ダイヤモンドブレードによるダイシングです。切り離された半導体チップは、金属のリードフレームなどに固定されます。
2.ボンディングワイヤ
ボンディングワイヤにより、リードフレームと電極を電気的に接合します。ワイヤとしては、金線(Au)、銀線(Ag)、銅線(Cu)が使用されます。中でも金線は、導電性・化学的安定性・耐食性に優れており、高価であるものの半導体の接続材料として最適です。
3.樹脂
モールディング、パッケージング、封止と呼ばれる工程では、半導体チップを保護するために樹脂で封入します。使用する樹脂は、エポキシ樹脂が主流です。モールディング後、半導体チップはさまざまな検査が実施され出荷されます。
シリコンに代わる新たな半導体原料
豊富な資源であるシリコンは、安価で加工しやすいためにゲルマニウムにとって代わりました。そして今日、化合物半導体以外では、新たな原料としてダイヤモンドに期待が寄せられています。ダイヤモンド基板ウエハは、バンドギャップが広く、耐圧・絶縁性が高いことから、パワー半導体への応用が期待されています。しかし、製造が難しく、コスト的にSiCを凌駕する必要があることから、さらなる取り組みが期待されています。
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