IGBTパワーデバイス|基礎編
実際のIGBT IPMの例:絶対最大定格
2022.10.11
この記事のポイント
・絶対最大定格は、どの項目の値も絶対に超えてはいけない。
・IGBT IPMの絶対最大定格も、基本的な解釈は半導体デバイスと同様。
・絶対最大定格は動作や特性を保証する値ではないので、設計は推奨動作条件や電気的特性の項目にある規格値に基づく。
前回、実際のIGBT IPMの例として、仕様と機能の概要について説明しました。今回は、IGBT IPMの絶対最大定格について説明します。IGBT IPMの例としては前回同様に、ローム第3世代のIGBT IPMであるBM6337xS-xx/BM6357x-xxシリーズを用います。
実際のIGBT IPMの例:絶対最大定格
最初に絶対最大定格の意味について念のため確認をします。絶対最大定格の意味するところの理解が不十分だと、重大な事故につながる可能性がありますので、設計者でも使用者であっても正確な理解と厳密な適用が必要です。ここでは、IGBT IPMの絶対最大定格の説明をしますが、基本的にこの定義は他の半導体デバイスについても同様に適用されます。
半導体デバイスの絶対最大定格に関しては基本的に、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしています。絶対最大定格の定義は、「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」とされています。これは、「絶対最大定格にあるどの項目の値も絶対に超えてはいけない」という解釈になります。つまり、絶対最大定格には許容範囲はありません。
以下に、IGBT IPMのBM63374S-VAの絶対最大定格とその説明をまとめました。各項目の意味と意図が理解できると思います。表中には端子名などがでてきますので、リンク先にあるデータシートを参照願います。
当然のことながら、設計では絶対最大定格を超えないようにする必要があります。もし超えるようなら、設計仕様の変更ができない場合は設計仕様を満たすIGBT IPMを検討します。
インバータ部 絶対最大定格
| 項目 | 記号 | 定格 | 意味・説明 | |
|---|---|---|---|---|
| 電源電圧 | VP | 450V | スイッチング動作していない状態でP-NU、NV、NW端子間に印加できる最大直流電圧。この電圧を超えるような場合は制限回路が必要。 | |
| 電源電圧(サージ) | VP(surge) | 500V | スイッチング動作している状態でP-NU、NV、NW間に発生する最大サージ電圧。この電圧を超える場合は母線インダクタンスの低減やスナバ回路が必要。 | |
| コレクタ-エミッタ間電圧 | VCES | 600V | 内蔵 IGBTのC-E間に印加できる最大電圧。 | |
| コレクタ電流 | 直流 | IC | ±15A | TC=25℃時の最大連続DCコレクタ電流。 |
| ピーク | ICP | ±45A | TC=25℃時の最大パルスコレクタ電流(1ms以下)。 | |
| 接合部温度 | Tjmax | 150℃ | 内蔵パワーチップの最大瞬時接合部温度は150℃(@TC=100℃以下)だが、安全動作させるために平均接合部温度は125℃以下(@TC=100℃以下)を推奨する。パワーチップはTj=150℃で直ちに損傷しないが、パワーサイクル寿命は減少する。 | |
制御部 絶対最大定格
| 項目 | 記号 | 定格 | 意味・説明 |
|---|---|---|---|
| 制御電源電圧 | VCC | 20V | HVICのHVCC-GND端子間、LVICのLVCC-GND端子間に印加できる最大直流電圧。 |
| フローティング制御電源電圧 | VBS | 20V | ハイサイドIGBT駆動電源電圧としてVBU-U、VBV-V、VBW-W端子間に印加できる最大直流電圧。 |
| 制御入力電圧 | VIN | -0.5V~VCC+0.5V | HINX-GND端子間、LINX-GND端子間に印加可能な電圧。(X=U, V, W) |
| エラー出力印加電圧 | VFO | -0.5V~VCC+0.5V | FO-GND端子間に印加可能な電圧。 |
| エラー出力電流 | IFO | 1mA | FO-GND端子間に流れるシンク電流。 |
| 電流検出入力電圧 | VCIN | -0.5V~+7.0V | CIN-GND端子間に印加可能な電圧。 |
| 温度出力端子電圧 | VOT | -0.5V~+7.0V | VOT-GND端子間に印加可能な電圧。 |
ブートストラップダイオード部 絶対最大定格
| 項目 | 記号 | 定格 | 意味・説明 |
|---|---|---|---|
| 逆電圧 | VRB | 600V | 内蔵ブートストラップ用ダイオードに印加できる最大電圧。 |
| 接合部温度 | TjmaxD | 150℃ | 内蔵パワーチップの最大瞬時接合部温度は150℃(@TC=100℃以下)だが、安全動作させるために平均接合部温度は125℃以下(@TC=100℃以下)を推奨する。 |
システム全体 絶対最大定格
| 項目 | 記号 | 定格 | 意味・説明 |
|---|---|---|---|
| 電源電圧自己保護範囲(短絡) | VP(PROT) | 400V | VCC=13.5V~16.5V、2µs以内、非繰り返しの条件で、IGBTが短絡または過電流状態となった場合、保護機能によってIGBTを安全に遮断できる最大電源電圧。 |
| 動作モジュール温度 | TC | -25℃~+115℃ | パワーチップの直下のTC測定点にて、ヒートシンクに溝を加工するなどして、熱電対で測定した値。 ※下図「TC測定点」参照 |
| 絶縁耐圧 | Viso | 1500Vrms | 放熱面のセラミック表面と全端子(ショート)との絶縁耐圧。 平面型ヒートシンク使用時はヒートシンクと端子間で放電する可能性があるため1500Vrmsとなる。 下図右側のように凸型形状のヒートシンクを使用し、ヒートシンクと端子間距離を広げた場合(2.5mm以上推奨)、2500Vrmsを満足する。 UL認証は、凸型形状のヒートシンクを使用した条件で絶縁耐圧2500Vrmsにて取得している。 |
<TC測定点>

以上、絶対最大定格について説明してきましたが、絶対最大定格の値はあくまでも定格であるので、その値までIGBT IPMは絶えることができますが、正常に動作することが保証されているわけではありません。データシートに記載されている「推奨動作条件」や「電気的特性」の項目にある「規格値」が本来の動作や特性を保証する値です。絶対最大定格とそれらの値を比較して使用条件を検討する必要があります。
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