エンジニアに直接聞く
業界最高8Vゲート耐圧の150V GaN HEMT量産体制を確立 GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
2022.09.27
ロームは2022年3月、業界最高*となるゲート-ソース間定格電圧8Vを実現した、150V耐圧GaN HEMTの量産体制を確立したことを発表した。一般的にGaNデバイスは、低オン抵抗とスイッチング性能に優れていることから、次世代電力変換用パワーデバイスとして期待されているが、ゲート耐圧が低くいなどの課題があった。今回発表したGaN HEMTである「GNE10xxTBシリーズ(GNE1040TB)」は、既存の課題解決に向けて開発されたもので、その開発背景や特徴などについて、ロームの開発担当者に聞いた。 *2022年3月23日 ローム調べ
パワー分野に積極的に取り組み、次世代半導体材料によるパワーデバイスを開発
ロームは、トランジスタやダイオードなど各種ディスクリートのラインアップを揃えており、Si(シリコン)デバイスに加えてSiC(シリコンカーバイド/炭化ケイ素)デバイスのパイオニア的なサプライヤーである印象があります。今回は、GaN(ガリウムナイトライド/窒化ガリウム)デバイスとのことですが、最初にロームのパワー分野への取り組みを教えてください。
ロームは、パワー分野に向けたデバイスやモジュールの開発を積極的に行っています。例えばSiCを使ったパワーデバイスは2010年から量産を開始し、この時点ではSiCショットキーバリアダイオードの量産は国内初、SiC-MOSFETは世界初という状況でした。現在ロームのSiCパワーデバイスは第4世代にまで進化しており、EV/xEVほか大電力高効率が求められる様々な電力変換アプリケーションに使用されています。この図は、現在のパワー分野向け製品の一覧になります。

パワーデバイスの開発においては、素子構造や製造プロセスを発展させるアプローチに加えて、新しい半導体材料の研究開発とその実用化がブレークスルーになります。先にお話ししたようにロームでは、SiCという半導体材料を使ったパワーデバイスをいち早く量産化しましたが、並行して新しい材料の研究開発を行っています。GaNもその1つで、今回HEMT(高電子移動度トランジスタ)の量産体制を確立したことで、パワー分野向け製品のポートフォリオを広げたことになります。
GaNとは? GaN HEMTとは?
まず、GaNやGaN HEMTがどんなものなのか教えてください。
GaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)は、ガリウムと窒素の化合物を使った化合物半導体で、次世代パワーデバイス用材料の1つとして期待されています。ちなみに、SiCも化合物半導体で、シリコン(ケイ素)と炭素を使ったものです。
Si、SiCとGaNの主な物性の比較があります。GaNはSiと比較してバンドギャップが広いことから、ワイドバンドギャップ半導体とも呼ばれます。ワイドバンドギャップ半導体は絶縁破壊電界強度が大きいという特長があり、Siと同じ耐圧をより薄い耐圧層で実現できます。

また、電子飽和速度がSiCよりも高いことから、より高いスイッチング性能を実現できます。このようにGaNはSiC以上の性能指数を持っているのですが、SiCよりもさらに結晶化や加工が難しい材料です。
HEMTとは、High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)の単語の頭文字を取った略称で、半導体ヘテロ接合に誘起された高移動度の二次元電子ガスをチャネルとした電界効果トランジスタのことです。一般に化合物半導体で作られ、GaNの他にGaAs(ヒ化ガリウム/ガリウム砒素)なども使用されます。図にあるように、GaN HEMTはシリコンの表面にGaNとAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)によるヘテロ接合(異なる半導体材料の接合)を構成する横型構造です。ドレイン-ソース間を流れる電流は、高移動度の二次元電子ガスのチャネルを横方向に流れ、電子の移動は高速です。対してSiやSiCのMOSFETは縦型構造で、電流は不純物を含むPN接合を流れるため、GaN HEMTに比べ電子の移動速度は劣ります。

スイッチング特性に優れるGaN HEMTはスイッチング損失を大幅に低減可能
この物性やトランジスタの構造は、デバイスとして考えるとどんな特徴につながるのでしょうか?
GaNの物性とGaN HEMTの原理的な説明だけだと具体的なイメージがわかないと思いますので、トランジスタとして比較した資料がありますのでご覧ください。

表に示されたSi SJ(スーパージャンクション)MOSFET、SiC MOSFET、GaN HEMTのパワーデバイスとしての基本項目の比較では、GaN HEMTの適用範囲は中耐圧、中電力領域となりますが、スイッチング特性は大幅に優れていることがわかると思います。グラフはSi MOSFETとGaN HEMTの損失比較で、スイッチング損失においては65%の低減が可能です。
パワーデバイスは素材・素子構造によって、得意とする電力容量・動作周波数帯が異なる
先ほどのデバイス比較を見ると、Si、SiC、GaNにはそれぞれの守備範囲的な使い分けがあるということでしたが、具体的なアプリケーションだとどうなりますか?
これはこの図を見てもらった方がわかりやすいと思います。

先ほども少し説明したように、パワーデバイス、この場合はトランジスタですが、半導体材料や素子構造によって得意とする領域が異なり、この図は電力容量と動作周波数に対して適用範囲と該当するアプリケーションをマップしたもので、右側には具体的内容を書き出してあります。GaN HEMTは中電力、中電圧、高周波数のアプリケーションに適しています。サーバーや基地局の電源、ACアダプタ、車載OBC(On-Board Charger)、DC-DCなど、いずれも高い電力変換効率が求められるアプリケーションで、これはSiCよりさらに高周波でのスイッチング動作ができることが理由です。
GaNデバイス市場と課題
今回発表した製品についての話に移りたいと思います。開発背景を教えてください。
まず、ロームでは次世代パワーデバイスの開発を推進しており、現状SiCパワーデバイスは順調に推移しています。しかしながら、パワーデバイスの市場全体を考えると、先ほど説明した守備範囲の点でSiCがカバーできない高周波領域を補完するデバイスが必要で、GaNはその候補でした。
一方、GaNパワーデバイス市場は、新鋭の半導体メーカーが製品を出し始め市場も立ち上がってきましたが、いくつかの課題が顕在化してきました。特に改善が必要だったのが、ゲート-ソース間電圧VGSの定格が低いこと、そして使用されているパッケージの扱いにくさです。この状況に対してロームは、これらの課題を解決する技術を開発し、優れた特性を持つGaNパワーデバイスの普及を促進するため、まずはGaN HEMTのGEN10xxTBシリーズの量産体制を確立しました。
150V耐圧GaN HEMT:GNE10xxTBシリーズによる課題解決
GaN HEMTの課題として、VGSの定格が低いことと使用されているパッケージの扱いにくさを挙げていましたが、これらをどのように解決したのでしょうか?
独自構造によりVGS定格電圧を8Vに向上
一般的な200V耐圧以下のGaN HEMTは、その構造上ゲート駆動電圧5Vに対して、ゲート-ソース間電圧VGSの定格は6Vです。つまり、ゲート駆動電圧のマージンは1Vしかありません。定格電圧は本質的に超過してはいけない値であり、超えた場合は動作異常や劣化、最悪は破壊に至る可能性があります。そのため、ゲート駆動電圧がVGS定格を超えないように高度な制御が必要となり、これがGaN HEMT普及のための課題となっていました。
GNE10xxTBシリーズは、この課題に対して独自構造を採用することで、VGS定格を一般的な6Vから業界最高の8Vまで高めることに成功しました。これでゲート駆動電圧のマージンが1Vから3Vに増えて、スイッチング時のオーバーシュート電圧などの抑制条件の緩和が可能になります。

汎用性が高く、大電流対応かつ放熱性にも優れたDFNパッケージを採用
GNE10xxTBシリーズは、信頼性および実装実績が高く、大電流対応かつ放熱性に優れた汎用性の高いDFN5060パッケージを採用しました。なじみのあるパッケージだと思いますので、一般的に使用されているBGA(Ball Grid Array)パッケージなどに比べ、実装や検査工程での扱いが容易になります。
また、銅クリップ接合のパッケージ技術を用いて、寄生インダクタンス値を従来パッケージから55%低減したことで、高周波動作において優れたスイッチング特性が得られます。

GNE10xxTBシリーズ:高周波動作でも96.5%以上の高効率を実現可能
GNE10xxTBシリーズを電源回路に使うと、どのくらいの効率が期待できるのでしょうか?
GNE10xxTBシリーズは、GaN HEMTの特徴である高速スイッチング特性に加えて、VGS定格拡張によるゲート駆動の最適化や低インダクタンスパッケージの採用により、高周波スイッチングでも低損失です。1MHz動作の高周波スイッチング電源において96.5%以上の変換効率を実現可能です。この効率曲線は、ハーフブリッジ回路での48Vから12Vへの降圧の例です。

150V耐圧GaN HEMT:GNE10xxTBシリーズの製品概要とアプリケーション
順が前後してしまったのですが、製品概要をお願いします。
そうですね。簡単にまとめます。特長は今まで説明してきた通りですが、仕様としてはVDS定格が150Vのシリーズであることを確認いただければと思います。現在、GNE1040TBはデータシートをロームwebサイトから入手できます。サンプルなどに関してはお問い合わせください。GNE1015TB、GNE1007TBについては現在開発中です。
<GaN HEMT:GNE10xxTBシリーズ>
- ■耐圧(VDS):150V
- ■ゲート-ソース間定格電圧:8V
- ■専用独自モールドパッケージ:DFN5060
-高い信頼性、実装性
-高放熱
-低寄生インダクタンス - ■高速スイッチング:1MHz以上
- ■ノーマリーオフ動作

| GNE10xxTBシリーズ ラインアップ | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 品名 | VDS[V] | VGS[V] | IDS[A] Tc=25℃ | RDS(on)[mΩ] | Qg[nC] |
| GNE1040TB | 150 | 8 | 10 | 40 | 2.0 |
| *GNE1015TB | 55 | 15 | 4.9 | ||
| *GNE1007TB | 80 | 10.2 | 10.2 | ||
*:開発中
150V耐圧と言うことで、想定するアプリケーションはどうなりますか?
基本的なところは先ほどの適用範囲のところで示した通りですが、具体的には、
- ・データセンターや基地局など48V入力降圧コンバータ回路
- ・基地局パワーアンプ部の昇圧コンバータ回路
- ・産業用LiDAR駆動回路
- ・D級オーディオアンプ
といったようなアプリケーションになると思います。回路イメージがありますので参考にしてください。

省エネ・小型化に寄与するGaNデバイスを「EcoGaN™」としてラインアップ、650V耐圧品も視野に
それでは、最後に全体のまとめをお願いします。
GNE10xxTBシリーズは、一般的なGaN HEMTの課題であった、ゲート-ソース間定格電圧を業界最高となる8Vに高め、パッケージも扱いやすいDFNとした、150V耐圧GaN HEMTです。GaN HEMTはスイッチングが非常に高速で、同じく高速スイッチングを特徴とするSiC MOSFETとの比較においても、スイッチング損失を大幅に削減可能なことから、次世代パワーデバイスの1つとして期待されており、ロームはGaNデバイスの普及を促進すべく、ユーザーニーズを反映したGNE10xxTBシリーズの量産体制を確立しました。
GNE10xxTBシリーズは、中耐圧領域の電源アプリケーション向けで、主に基地局、データセンター他、各種産業機器や通信機器などでの電源の高効率化や小型化に貢献します。
今後の展開は?
ロームでは、省エネ・小型化に寄与するGaNデバイスを「EcoGaN™」としてラインアップして行きます。また、このロードマップにあるように、Nano Pulse Control™をはじめとするアナログ電源技術を生かした制御ICや、それらを組み込んだモジュールの開発も進めており、今回の150V耐圧品に加えて650V耐圧品の開発も計画しています。

* EcoGaN™、Nano Pulse Control™は、ローム株式会社の商標です。
どうもありがとうございました。
関連情報
- ◆ ニュースリリース:業界最高8Vゲート耐圧の150V GaN HEMT量産体制を確立
https://www.rohm.co.jp/news-detail?news-title=2022-03-23_news_gan-hemt&defaultGroupId=false - ◆ ニュースリリース製品紹介資料(PDF 3.1MB)
https://www.rohm.co.jp/documents/11401/10007624/Introduction_NewRelease150VGaNHEMT-GNE10xxTB_j.pdf/3f7b6645-ef9b-1962-84da-04ddc6796542?t=1649643634552
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