2019.02.12
-さて、ここまで、「IoTにはLPWAが1つの解になる」というキーワードに対して、「IoTに必要な無線通信の条件を考える」、「通信距離とネットワークの特徴」、「通信方式は妨害波耐性が鍵」、「通信距離の実力はスペクトル拡散方式の違いに その1」、「通信距離の実力はスペクトル拡散方式の違いに その2」、「標準規格ARIB STD-T108に対する適合性」という6つのテーマでお話を伺ってきました。長きに渡りましたので、まとめをお願いしたいと思います。
了解しました。それでは、前にご覧いただいた資料も使いながらまとめて行きたいと思います。最初の「IoTに必要な無線通信の条件を考える」で話したポイントは、IoTが人々や社会の役に立ち成功するには、高品質のIoT機器が手軽に使えることが鍵になるということです。キーワードは「高品質」と「手軽さ」で、具体的な内容を示した表をご覧いただきました。これは、LPWAを考える上で非常に大事なことだと思いますので、もう一度見ていただこうと思います。
項目 | 項目 | 詳細 |
---|---|---|
高品質 | 高感度(FEC、拡散) | エリア拡大、ネットワーク容易化、設営考慮不要 |
妨害波耐性 | 通信安定性、ロバストネットワーク、ロバスト方式 | |
耐環境性 | 通信安定性、設備マージン考慮不要 | |
高速動作(起動等) | 低電力システムの構築 | |
多様性 | ネットワークトポロジー | |
低消費電力 | 電池駆動、端末小型軽量化 | |
手軽さ | 相互接続性 | 標準化、アライアンス、費用 |
開発容易性 | 各レイヤのベンダ、国内ベンダ | |
横展開容易性 | 免許不要、各国電波法 | |
接続性 | 既存設備(機器)流用可能、インフラ整備 |
高品質と手軽さをこういった項目で定義して、LPWAとしてどの通信方式が適しているかを考えるということです。ここで重要なのは、無線方式に万能はなく用途に合わせて選ぶ必要があるということです。LPWAは基本的にIoTのための無線方式として開発、策定されていまが、無線方式によって異なる特徴を理解し、機器や条件に適したものを選択するアプローチが大事だと思います。
-それらのポイントを念頭において考えると、LPWAの無線方式として、IEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXの3種類が注目されているということでした。
「通信距離とネットワークの特徴」では、LPWAは基本的に通信データレートを犠牲にして長距離通信を追求している無線方式であること、そしてIoTのためのLPWAを考えた場合、通信距離が長いかだけではなくそのIoTアプリケーションに合った使い方ができることが重要だということをポイントとして挙げました。また、LPWAは混雑度合いが高くなることが予想されるので、妨害波に強いことがポイントになることもお話しました。
-そして、IEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXに関して、いくつかの重要ポイントについての詳細を説明いただきました。
そうですね。ここからは以前にお見せした表をまとめたものがあるので、それを使って確認して行こうと思います。
ポイントの1つは、青色でハイライトしてある「長距離化手法」です。IEEE 802.15.4k、LoRaWAN、SIGFOXはみな同等の受信感度、見通し通信距離を実現可能で、このあたりの仕様としてはほとんど違いがありません。ただし、その手法はそれぞれ異なっており、長距離化で重要になる妨害波耐性においては、IEEE 802.15.4kが採用しているDSSSが優位であることを、「通信方式は妨害波耐性が鍵」で説明した通りです。
ここで理解しなければいけないことは、受信感度を上げて長距離化を図ると、実効データレートが反比例して低下することで、LPWAの通信距離とデータレートはトレードオフの関係にあることです。表の赤色ハイライトの受信感度例と実効データレート例がそれを示しています。拡散係数が受信感度のファクターになるIEEE 802.15.4kとLoRaWANの例では、IEEE 802.15.4kの例は拡散係数を64、LoRaWANの例では1024としています。したがって、受信感度はLoRaWANのほうが高い値になっていますが、この拡散係数での実効データレートはかなり遅くなってしまいます。この点においては、妨害波に強いDSSSを採用しているIEEE 802.15.4kがより優位な妥協点を見いだせる可能性があります。
それぞれの長距離化手法となっている拡散方式に関しては、「通信距離の実力はスペクトル拡散方式の違いに その1」および「その2」で詳細を説明しました。
-続いて日本の電波法への対応に関しても説明いただきました。
表の黄色のハイライト部分ですね。無線通信には必ず電波法への適合が必要です。法律は国によって異なり、無線通信に関する標準規格が提示されています。日本でのLPWAに関してはARIB STD-T108が標準規格になり、通信方式によっては適合が容易なものもあれば、少々手間がかかるものがあります。これら3つの方式では、LoRaWANが他より手間を必要としますが、モジュール利用の場合はモジュールベンダが適合モジュールを提供しているわけで特に問題はないと思います。この件に関しては「標準規格ARIB STD-T108に対する適合性」で説明させてもらいました。
-こういったことから、ラピスセミコンダクタはLPWAの中では基幹的なポジションのSIGFOX、末端のネットワークには妨害波に強い特長をもつIEEE 802.15.4kの両方を備えた通信LSIである「ML7404」を市場投入したわけですね。
そうです。ラピスとしては、LPWAとしてまずはSIGFOX+IEEE 802.15.4kのネットワークが有用だと考えています。ただ、表の灰色のハイライトで示した部分になりますが、IEEE 802.15.4kにはまだプロトコルスタックの規定がなく、現状の採用や検討状況に関しては、さらなる推進活動が必要だと考えています。
-何か具体的なアクションは?
エコパートナーを募っており、協業してLPWAプロトコルスタックの開発、標準化推進を進めています。また、パートナーにおけるML7404を使った無線モジュール開発も、リファレンスデザインを提供することで強力にサポートして行きます。こちらがその資料になります。
このリファレンスデザイン、「MK74Q0410」の特長は、ML7404が持つ利点を100%引き出していることで、2つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、2つのLPWA方式を状況に合わせて切り替えることにより、以前のインタビュー、「SIGFOXとIEEE 802.15.4k デュアルモードLPWAによって、つながる安心を得る」でお話した、SIGFOXを基幹ネットワークとする理想のLPWAネットワークを実現するブリッジ機能を搭載していることです。
2つ目のポイントは、LPWAに比べて高データレートのWi-SUNの物理層相当の無線方式を使い、端末のバグ改修やアップデートを手軽にできるFOTA(Firmware update Over The Air)を実装していることです。FOTAはLoRaWANの次期バージョンでも対応が予定されており、FOTAによってLPWA端末の長寿命化、高信頼化が期待できます。これらの特長を持つリファレンスデザインを利用することで、無線モジュール開発や無線機器開発の面倒な作業を減らすことが可能です。
また、このリファレンスデザインは、国内電波法認証も取得済みですので、すぐにフィールドでの電波到達実験が可能です。
-最後に、まとめをお願いします。
最初に申し上げたことの繰り返しになりますが、今回のインタビューの「IoTにはLPWAは1つの解になる」というキーワードがLPWAの通信方式を考える際に重要になってきます。「1つの解」という言葉が意味することは、解は1つではなく条件によっては他の無線方式や、それらの組み合わせが解になるケースがあるということです。何度か申し上げましたが、無線方式に万能はなく、通信距離とデータレートのトレードオフや、無線方式によって異なる特徴を理解し、個々のIoTアプリケーションに適したものを選択するというアプローチが大事だと考えています。
-ありがとうございました。
初心者に向けた無線通信の基礎に関するハンドブックです。 電波の特性と送信・受信の基礎、無線通信と法律および規格などについて、スタートラインにおいて知っておくべきことをまとめてあります。
初心者に向けた無線通信の基礎に関するハンドブックです。 電波の特性と送信・受信の基礎、無線通信と法律および規格などについて、スタートラインにおいて知っておくべきことをまとめてあります。