2017.07.25
-本題に入る前に基本的なことをたくさん聞いてしまいましたが、ここからは第三世代のSiC-SBDについて伺います。SCS3シリーズは第三世代ということですが、まず、世代のヒストリーを教えてください。
基本的なことを説明させてもらえたのは、こちらも助かります。第三世代品の進化や特長は、SiC-SBDの基本的な特性などを知っていただいているとわかりやすいと思います。
第一世代は2010年4月に量産を開始したSCS1シリーズです。これは国内初のSiC-SBDの量産でした。第二世代は2012年6月に発表したSCS2シリーズで、現在多くのお客様に採用いただいているのがこのSCS2シリーズです。パッケージや電流仕様の違いなどを含め、すでに50機種近くが量産供給されています。そして、第三世代は2016年4月に発表したSCS3シリーズです。SCSの後の数字が世代を表しています。
-それでは、第三世代SiC-SBDの特長を説明願います。
第三世代SiC-SBDは、高温時の順方向電圧VFの低減、サージ電流耐量IFSMの向上、逆方向電流(リーク電流)IRの低減がポイントになります。
右のグラフを見ていただきたいのですが、第二世代SiC-SBDでは製造プロセスの工夫により、リーク電流IRやリカバリ特性を第一世代と同等に保ちながら、VFを1.5Vから約0.15V低減し、当時業界最小のVF 1.35Vを達成しました。VF低減は機器の導通損失低減に寄与します。
第三世代SiC-SBDは、サージ電流耐量の向上とリーク
電流IRを改善するために、JBS(Junction Barrier Schottky)構造を採用しました。JBS構造は、基本的に、サージ電流耐量とリーク電流IRの改善に効果がある構造ですが、第二世代SiC-SBDで実現した低VF特性をさらに改善することに成功しました。Tj=25℃時のtyp値は1.35Vと同等ですが、Tj=150℃時では第二世代SiC-SBDより0.11V低い1.44Vを実現しています。これは、高温での導通損失が減少し、高温環境下での動作がさらに有利になることを意味しています。
-サージ電流耐量とリーク電流は、かなり改善されているようですが。
サージ電流耐量は表の定格が示す通り、第二世代SiC-SBDの38Aから倍以上の82Aに向上しています。JBS構造を導入し、サージ耐性を最大限引き出すプロセス・デバイス構造を開発することにより大幅なサージ電流耐量改善を実現しました。
リーク電流IRも同様に大幅に改善することができました。一般的にショットキーバリアダイオードの特性トレードオフとして、順方向電圧の低減を図るとリーク電流は増加する関係にあります。第三世代SiC-SBDでは、低い順方向電圧を保ちつつ、JBS構造導入により大幅なリーク電流低減を実現しました。第二世代SiC-SBDと比較して、定格電圧650V、Tj=150℃時で約1/15にリーク電流を低減しています。
-これらの性能の向上や特性の改善の目的は何ですか?
SiC-SBDは、Siダイオードと比較すると、アプリケーションにおける損失低減を期待されています。それとともに、パワーデバイスは大きな電圧、電流を扱う製品であり、より安心して使いたいという背景もあります。サージ電流耐量の改善はそういったニーズを汲み取ったものとなります。
-どんなアプリケーションが該当しますか?
高効率アプリケーションであれば、特に限定する必要はないのですが、最も適用が期待される用途としては、電源装置、特にPFCになります。例えば、サーバーや高性能PCなどでは、効率の向上に加えて高いサージ電流耐量が求められています。SCS3シリーズは、第二世代の順方向電圧特性を改善したことでさらなる効率の向上が期待できます。そして、サージ電流耐量は2倍以上向上したので、予期しない異常などに対する安全マージンを高めることが可能です。
-SCS3シリーズのラインアップを教えてください。
発表当初のラインアップは、6A~10A、TO-220ACPパッケージで3機種でしたが、現状では5機種を量産中、加えてパッケージ展開を図ることで、合計15機種に拡充中です。スルーホールタイプのTO-220ACPに加えて、TO-220FM、面実装タイプのTO-263ABを用意する予定で、実装方法やスペースに合わせてパッケージを選択可能です。
また、第三世代を発表しましたが、第二世代品も継続的に機種の拡充を行っていますので、使用条件や要求仕様によって選択していただければと思います。
-SiC-SBDの基本も含めて、第三世代品までの進化過程が理解できたと思います。どうもありがとうございました。
パワー製品の小型化、低消費電力化、高効率化に大きな可能性をもったシリコンカーバイド(SiC)の物性の基本、ダイオード、トランジスタとしての使い方と活用事例が示されています。
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