IGBTパワーデバイス|基礎編
IGBTとは
2023.11.01
IGBTとは
IGBT(英語:Insulated Gate Bipolar Transistor、日本語:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、MOSFETとバイポーラトランジスタの組合せであり、それぞれの良い特性を兼ね備えたパワートランジスタです。
IGBTには、Nチャネル型とPチャネル型の2種類が存在しますが、現行の主要な形式であるNチャネル型を例として説明します。次に、Nチャネル型IGBTの回路記号とその等価回路を示します。より詳細な等価回路も存在しますが、理解しやすさのため、ここでは比較的単純な図を提示します。その構造と動作原理は実際にはもう少し複雑ですが、詳細は後述します。

IGBTは、ゲート、コレクタ、エミッタの3つの端子を持ちます。ゲートはMOSFETと同様で、コレクタとエミッタはバイポーラトランジスタと同様です。IGBTはMOSFET同様に電圧制御素子で、Nチャネル型の場合は、エミッタに対するゲートへの正の電圧が印加されると、コレクタとエミッタ間が導通し、コレクタ電流が流れます。動作や駆動方法については、別途詳細な説明を予定しています。
MOSFETとバイポーラトランジスタの特性を活かすIGBTには、それぞれの利点が見られます。MOSFETはゲートが絶縁されており、高い入力インピーダンスと比較的高速なスイッチング速度がありますが、高耐圧化にはオン抵抗が高くなるという課題があります。一方、バイポーラトランジスタは高耐圧でもオン抵抗が低いのですが、入力インピーダンスが低く、スイッチング速度が遅いという欠点があります。IGBTはこれらの欠点を補うことで、高い入力インピーダンス、高速スイッチング(MOSFETよりは遅いがバイポーラトランジスタよりは高速)、高耐圧での低オン抵抗を実現しています。
パワーデバイスとしてのIGBTやMOSFETは、アプリケーションの使用条件や要求に応じて適切に使い分けられます。例えば、高耐圧が必要な場合はIGBT、低耐圧が要求される場合はMOSFETが選ばれることが多いです。IGBTの適用範囲やアプリケーションについての詳細な説明は後述します。
IGBTとその適用範囲
IGBTやパワーMOSFETといったパワーデバイスには、その特徴によって適材適所があります。また、パワーデバイスは素子単位(ディスクリート/個別半導体)で使われる他に、素子と他の基本部品を組み合わせたモジュールも広く利用されています。
以下は、IGBT、Si MOSFET、SiC MOSFET、バイポーラトランジスタの出力容量や動作(スイッチング)周波数の観点からの適用範囲を示しています。また、IGBTのディスクリートとモジュールの分類もしてあります。

出力容量と動作周波数から見た各パワーデバイスの適用範囲のイメージ
IGBTディスクリートは、1kHz~5、60kHzで1kVA以上の範囲をカバーしています。モジュール形式では、他の部品との組み合わせにより、動作周波数は同一ですが出力容量は100MVAを超える範囲まで対応します。出力容量が大きい場合、スイッチング損失などの制限により動作周波数が下がる傾向があります。
これらの情報から、それぞれのデバイス特性と適用範囲を理解し、適切に選択することが可能です。
このように見ていくと、それぞれの特徴と適用範囲がイメージできると思います。
IGBTのアプリケーション
下図は、IGBTのディスクリートとモジュール、Si MOSFETディスクリートの、出力容量と動作周波数の観点からの適用範囲と、適用範囲に該当するアプリケーションの例です。適用範囲は前回示した図の範囲と同じで、それにアプリケーションをマップした図となります。
オーバーラップするアプリケーションもありますが、高電圧高電流を扱う電車やHEV/EVになると、IGBTモジュールでの対応が主流です。IGBTとSi MOSFETのディスクリートは、家電や小型の産業機器などのアプリケーションでの需要が多く、動作周波数によるメリットを考慮して使い分けするイメージになります。

出力容量と動作周波数から見たアプリケーションと各パワーデバイスの適用範囲のイメージ
「IGBTとは」で説明したとおり、IGBTはMOSFETとバイポーラトランジスタの複合化により、それぞれの良い点を兼ね備えたパワートランジスタです。現在主流となっているNチャネル型IGBTを例にして、その基本構造を説明します。以降IGBTとだけの記述は基本的にNチャネル型とします。
IGBTの構造と仕組み
IGBTの半導体としての構造を理解しやすいように、最初に回路図記号と簡易的な等価回路、そして基本動作のおさらいをしておきます。

IGBTは、ゲート、コレクタ、エミッタの3つの端子を有しており、ゲートはMOSFETのゲート同じであり、一方、コレクタとエミッタはバイポーラトランジスタと同じと考えることができます。IGBTは電圧制御素子として、MOSFETと同様の動作を行います。具体的には、Nチャネル型の場合、エミッタに対して正のゲート電圧VGEを印加すると、コレクタ-エミッタ間が導通し、コレクタ電流ICが流れるという仕組みとなります。
次に、IGBTの半導体としての構造を表現した模式図(断面図)とIGBTの等価回路を示します。理解の補助のため、図は若干簡略化されています。青色の矢印はコレクタ電流ICの流れを示しています。等価回路図と比較してご覧ください。

断面構造模式図からみると、Nch MOSFETのドレイン側にP+コレクタ層が形成され、コレクタからエミッタまでP型-N型-P型-N型が並んだ構造になっています。
等価回路のNch MOSFETのドレインとPNPトランジスタのベースは共通で、IGBTのN-ドリフト層になります。ゲートは絶縁膜上の薄膜配線でNch MOSFETのゲート=IGBTのゲートです。IGBTのエミッタはN+層でNch MOSFETのソースが該当します。PNPトランジスタのコレクタはP+でIGBTのエミッタN+層と接合しています。PNPトランジスタのエミッタはP+層でIGBTのコレクタになっています。
IGBTの構造は一見複雑に思えますが、模式的に示すと等価回路のように理解することが可能です。
IGBTの動作原理
以下では等価回路と断面構造図を利用し、IGBTの動作原理について解説いたします。

IGBTの動作原理を示す等価回路と断面構造模式図
IGBTはエミッタに対して正のコレクタ電圧VCEを印加し、同時にエミッタに対して正のゲート電圧VGEを印加すると、オン状態となります。この状態ではコレクタとエミッタ間が導通し、コレクタ電流ICが流れます。
この動作を等価回路に適用すると、正のVGEが印加されるとNチャネルのMOSFETがオン状態となります。これによりPNPトランジスタにベース電流IBが流れ、結果としてPNPトランジスタが導通することでIGBTのコレクタからエミッタへとICが流れることになります。
断面構造図には内部の電子と正孔(ホール)の動きが示しています。ゲートに正のVGEを印加すると、ゲート電極直下のP+層に電子が集まり、チャネルが形成されます。これはMOSFETが導通する原理と基本的に同じです。それにより、IGBTのエミッタから供給される電子はN+層、チャネル、N-ドリフト層、そしてP+コレクタ層へと順に移動します。一方でP+コレクタ層からは正孔(ホール)がN-ドリフト層に供給されます。この層をドリフト層と称するのは、電子と正孔の両方のキャリアが移動することに由来します。したがって、エミッタからコレクタへの電子の移動は、コレクタからエミッタへの電流(IC)が流れることになります。
IGBTの特徴と、MOSFET及びバイポーラトランジスタとの比較
パワートランジスタを必要とするアプリケーションでは、IGBT、MOSFET、バイポーラトランジスタなど、各パワートランジスタの得手不得手を理解して使い分けがなされています。以下に各パワートランジスタの特性をまとめました。
| MOSFET(Nch) | バイポーラトランジスタ(NPN) | IGBT | |
|---|---|---|---|
| 基本構造 |
|
|
|
| 制御 | ゲート電圧 | ベース電流 | ゲート電圧 |
| 許容電流 | △ | ○ | ◎ |
| スイッチング速度 | ◎ | △ | ○ |
| オン抵抗 | △ | ○ | ◎ |
※◎、○、△相対的な比較イメージ
●MOSFET
MOSFETは、電圧駆動で入力インピーダンスが高いので制御に要する消費電力が少なく、キャリアが電子か正孔のいずれかのユニポーラトランジスタなのでスイッチング速度が速いのが利点です。ただし、バイポーラトランジスタのように伝導度変調効果を使えないので、高耐圧になるとオン抵抗が高くなるという欠点を持っています。
●バイポーラトランジスタ
バイポーラトランジスタは高耐圧でもオン抵抗*が低いという利点があります。バイポーラトランジスタは動作時に正孔と電子が共に移動し、正孔がN-層に入り込むことで抵抗が低減される伝導度変調効果により、電圧降下が抑えられる特性を持っています。また、バイポーラトランジスタは電流増幅動作をするので、印加した電流よりも大きな電流を流すことできます。欠点は、入力インピーダンスが低く制御にようする消費電力が大きく、両極性のキャリアを使うことからスイッチング速度が遅いことです。
*パラメータとしては飽和電圧になる。
●IGBT
IGBTは入力部がMOSFET構造、出力部がバイポーラ構造の複合デバイスで、MOSFETとバイポーラトランジスタの利点を備えています。入力インピーダンスが高く小電力で駆動でき、大電流に増幅できます。また、高耐圧でもオン抵抗*は低く抑えられています。スイッチング速度はMOSFETにはおよびませんが、バイポーラトランジスタより速くなっています。
*パラメータとしては飽和電圧になる。
IGBTの特徴:MOSFET、バイポーラトランジスタとの比較 まとめ
MOSFET、バイポーラトランジスタ、IGBTの比較を行いました。IGBTの利点としては高耐圧で低損失、比較的高速であることが挙げられますが、それぞれに利点がありますので基本的にはアプリケーションによって使い分けることになります。各パワートランジスタの守備範囲や使い分けに関しては、「IGBTの適用範囲」や「IGBTを使ったアプリケーション」を参照してください。
モーター用途におけるパワーデバイスの使い分け
下図は、「IGBTの適用範囲」の記事で使用した図と同じもので、動作周波数と出力容量(VA)における、各パワーデバイスの特徴から使用に適した領域を示しています。IGBT、Si-MOSFET、SiC-MOSFETのディスクリートがカバーする領域を比較すると、以下のように言い表すことができます。もちろん、各パワーデバイスともに多種多様なので、一般的な概略的特徴に基づくものです。
- ① IGBTとSi-MOSFETの比較では、IGBTが低周波数よりで出力容量が大きい領域、Si-MOSFETは高周波数よりで低出力容量の領域をカバーする。
- ② IGBTとSiC-MOSFETでは、SiC-MOSFETは高周波数より、かつ大出力容量よりの領域をカバーする。
- ③ Si-MOSFETとSiC-MOSFETでは、周波数帯は同様だが、Si-MOSFETは低出力容量より、SiC-MOSFETは大出力容量よりの領域をカバーする。

これらの特徴をもう少し具体的に、そしてモーター用途での使い分けのヒントを示したのが、次の図になります。使い分けの観点としては、条件による損失の違いが重要になってきます。損失は、導通損失とスイッチング損失に分けて考えていきます。以下、IGBT、SiC-MOSFET、Si-MOSFETはすべてディスクリートで、「+SBD」、「+FRD」は該当のディスクリートダイオードを外付けの意味です。
導通損失では、流す電流がおおよそ5A以下の領域であればSi-MOSFETがIGBTより優位ですが、それ以上ではIGBTが優位です。この電流領域はSiC-MOSFETがカバーする領域ではないので、IGBTかSi-MOSFETの検討になります。家庭用エアコンの室外機のように軽負荷で定常運転する割合が多いアプリケーションなど、小電流で動作するシステムではSi-MOSFETが優位になります。上記①のIGBTとSi-MOSFETのカバレッジの比較にも合致します。
スイッチング損失に関しては、PWM周波数(スイッチング周波数)が速くなるにつれてIGBT+FRD(ファストリカバリダイオード)とSiC-MOSFET+SBD(ショットキーバリアダイオード)の比較では、SiC-MOSFET+SBDの方が優位になり、上記②に該当します。これは、IGBT+FRDの特徴であるターンオン時のリカバリ電流とターンオフ時のテール電流に起因し、SiC-MOSFET+SBDではテール電流が流れないなど、スイッチング損失が大幅に改善されるのが理由です。
しかしながら、モーター用途を考えると、一般的なモーターは通常20kHz以下の比較的低い周波数で使用されること、また、SiC-MOSFETはコスト面では不利なことなどから、特別な用途での使用が多いのが現状です。現在のモーターアプリケーションでは、性能、損失、コスト面のバランスから、IGBTが主流になっています。

このように、パワーデバイスそれぞれの特徴、そしてコストも含めた検討を行い、用途に対して最もバランスの良いものを選択することになります。インバータをはじめとしたモーター駆動用では、上記で例としたIGBTディスクリート+FRDに加えて、モーター用途を前提としたFRD内蔵IGBTディスクリートやIGBT IPM(インテリジェントパワーモジュール)が幅広く使われています。
【資料ダウンロード】 IGBTの基礎
IGBTは代表的なパワーデバイスの1つで、モーター駆動を始めとした幅広いアプリケーションで利用されています。このハンドブックでは、IGBTの基礎的な理解として、IGBTの特徴を基にした適用範囲とアプリケーションのイメージ、構造と動作原理、他のパワーデバイスとの比較および使い分けについて解説します。


