用語集

伝導ノイズとは? 種類と対策を初心者向けに解説

2023.01.26

ノイズという言葉を聞いたことはありますか? 普段、音楽を聞いたり通話したりしているときにザラザラとした音が加わることを、「ノイズが乗る」と表現します。電子回路においてもノイズという概念があり、やっかいな存在となり得ることが多々あります。ノイズを理解することは、電子回路を安定して動作させるために必須です。

今回は、さまざまなノイズのなかから「伝導ノイズ」を取り上げ、その種類と対策を紹介します。用語については都度簡単な解説をいれながら紹介していきます。

ノイズとは

電子回路におけるノイズとは、意図せずに発生する不要な電気信号を指します。例えば、オンラインでストリーミング映像が途切れたり乱れたりすることはありませんか。これも一例です。電話中に、突然音声が途切れたり(いわゆる「ボツ音」)、不明瞭になったりするのもノイズの影響で起こり得ます。

更に、電子レンジやスマートフォンもノイズを発生させています。電子レンジを使い始めた途端にWi-Fi接続が不安定になることはありませんか? これは、電子レンジがWi-Fiと同じ周波数帯の電波を発し、干渉を引き起こすためです。

電子回路のノイズは、内的要因又は外的要因によって発生します。内的要因とは、回路のプリント基板自体や回路上のコンポーネントに起因するもので、高周波リンギングやスパイクがあります。リンギングとは、入力信号が変化したときに一時的に発生するゆらぎのことであり、スパイクとは瞬間的に電圧が高くなることです。外的要因とは回路外で発生する事象に起因するもので、静電気放電や雷サージ、無線電波、電磁波があります。雷サージは、雷によって発生する瞬間的な高電圧のことです。

ノイズは、電磁妨害(EMI)とも呼ばれます。なお、参考までに、ノイズ耐性のことを電磁感受性(EMS)、EMIとEMSを両立させることを電磁両立性(EMC)といいます。

伝導ノイズとは

ノイズは、伝わる経路によって放射ノイズと伝導ノイズに分類されます。放射ノイズは空間を伝わるノイズであり、伝導ノイズは電気回路やケーブルを物理的に伝わるノイズです。本稿では伝導ノイズについて説明します。

DC電源と基板を持つ簡単な回路を考えてみましょう。電流は、電源のプラス極から放出されて基板を経由し電源のマイナス極に返ってきます。例えば基板を動作させるために10ワットの電力が必要な場合、理想的には10ボルトの電圧で1アンペアの電流を流すことになりますが、実際はノイズが加わるために不要な電流が流れたり、電流が失われたりすることがあります。

つまり、理想的な状態で電流を流して、性能を最大限に引き出して安定した動作をさせるためには、ノイズを考慮した状態で必要な電力が得られる回路にする必要があります。ノイズを考慮するためには、どのようなノイズがどこで発生するのかを知る必要があります。

伝導ノイズの種類

伝導ノイズは、ノイズの伝わる方向によってディファレンシャルモードとコモンモードの2種類があります。

・ディファレンシャルモードノイズ
このノイズは、ノーマルモードノイズとも呼ばれ、電源ライン間に発生します。ノイズ電流は回路上の電流が流れる方向と同じ方向に流れ、入力電源のプラス側とマイナス側で流れる向きが異なることから、ディファレンシャルモードと呼ばれます。

・コモンモードノイズ
このノイズは、電源とグラウンド間で発生します。電源のプラス側とマイナス側で流れる電流の向きが同じことから、コモンモードと呼ばれます。

これら2種類のノイズは、一つの回路上で同時に発生することがあります。そのため、それぞれのノイズに対して対策を講じる必要があります。

伝導ノイズの対策

ここまでノイズの種類と性質について解説してきました。これらを理解することで、適切なノイズ対策を講じることが可能となります。

ノイズ対策を実施する際に重要なのは、対策の強度とコストのバランスです。強力な対策を施せばノイズをより効果的に抑制できますが、コストが増加します。したがって、対策の度合いとコストのトレードオフを意識し、最適なバランスを取ることが重要です。

ノイズ対策にはさまざまな手法があり、手法ごとにどの程度ノイズを軽減するかを調整できます。許容できるノイズレベルをユースケースに基づいて検討し、過剰な対策を避けることが大切です。

伝導ノイズ対策として効果的なのは、ノイズをグランドに逃がすように回路を設計すること、更に、ノイズが発生しにくい部品を使用することです。これにより、後から追加の対策が必要になるようなノイズの発生を最小限に抑えられます。適切なグランド設計は、ノイズ対策としてだけでなく、回路の性能や安定性を向上させる効果もあります。

ただし、物理的な制約や部品の制約により、回路設計だけで抑えられるノイズの量には限りがあり、それ以上の対策が必要な場合もあります。その場合、ノイズ低減用のフィルタやバイパスコンデンサなど、効果的な部品を追加することが求められます。重要なのは、ノイズが発生している箇所を事前に特定し、そのすべてに適切な対策を施すことです。

ディファレンシャルモードノイズの対策として一般的なのは、低減フィルタやデカップリングの使用、ループ面積の低減が挙げられます。デカップリングは、直流電流を遮断して交流電流のみを流すことで、デカップリングコンデンサやデカップリングコイルを用いて実装します。

コモンモードノイズへの対策としては、配線を短くしたり、クロストークを軽減したりする他、インピーダンスを上げることでコモンモード経路を遮断する方法が一般的です。クロストークとは、並行する回路の間で発生する信号やノイズの伝搬のことで、配線を短くすることでその発生を抑える効果があります。インピーダンスとは、交流回路における抵抗値のことです。対策を施した後には、それらが有効に働いているかどうかを必ずテストしてください。

ノイズは原理を知れば対策が可能!

いかがでしたか? 今回は伝導ノイズの種類と対策を解説しました。どのような回路にもノイズは発生します。ノイズ対策には、まずグランド設計から検討するのが望ましいでしょう。どのような種類のノイズがどの方向に発生しているのか、ノイズ源はどこか、どのくらいの大きさなのかを把握することが重要です。そのうえで、必要部分に対策用の部品を組み込み、回路が安定して動作することを確認する必要があります。設計段階においては、テストと対策をトライアンドエラーで繰り返して、満足な結果を得られる回路を作成しましょう。

最後に、本稿で記載した用語をおさらいしておきます。

  • ・ノイズ:目的を達成するために発生させた信号以外の電気信号。
  • ・放射ノイズ:空間を経由して伝わるノイズ。
  • ・伝導ノイズ:電気回路上の部品やケーブルを経由して伝わるノイズ。
  • ・ディファレンシャルモードノイズ:伝導ノイズ。電源のプラスからマイナスに向かって同方向に流れる。対策として低減フィルタの設置やデカップリング、ループ面積の低減が挙げられる。
  • ・コモンモードノイズ:伝導ノイズ。電源とグラウンドの間で発生する。対策として、配線を短くする、クロストークを軽減する、インピーダンスを上げる方法が挙げられる。

必要なノイズ対策を施した回路であれば、電子機器デバイスを安定的に稼働して、高品質な製品を開発することができます。その結果、高い技術力があることを証明でき、信頼の向上にもつながります。

ノイズは他にもいろいろな種類が存在し、原因や対策もさまざまです。ノイズについては、以下の情報も参考にしてください。

EMCに関する記事

【資料ダウンロード】 スイッチング電源 EMC の基礎とノイズ対策

EMC(電磁両立性)の基礎とスイッチング電源のノイズ対策に関するハンドブックです。ノイズの基礎の理解を基に、スイッチング電源におけるコンデンサとインダクタを使ったノイズ対策を解説しています。