エンジニアに直接聞く
小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計 技術の相互理解のもとに全体で熱設計に取り組むことが重要
2020.10.27
-「小型化」、「高機能化」、「デザイン性」といった技術トレンドの変化の他に要因はありませんか?
技術トレンドの変化により発熱密度が上がる傾向にあるにもかかわらず、特に車載機器や産業機器では長寿命化が求められています。半導体部品だけではなく他の部品もそうですが、動作寿命は温度と相関関係があり単純に言うと動作時の温度が高いほど寿命は短くなります。半導体部品は部品なりに効率を改善し消費電力を削減し、自己発熱の低減を図っていますが、現実的には今まで以上の放熱対策が必要な状況にあります。
そして、やはり出てくるのはコスト削減が非常に厳しくなっていることです。単純に部材のコストだけではなく、量産に至るまでの再作業を可能な限り減らすために、設計の初期段階で精度の高い熱設計が求められています。そのための情報、技術、知識、ツールが必要になっており、それらを使いこなすことも必要になってきます。量産に至るまで試作評価で都度問題が発覚して試作を2回、3回と繰り返すのと、初期段階でしっかりした熱設計を行い試作評価が1回で済むのとでは、費やすお金、時間、労力が比べ物にならないのは言うまでもないと思います。
また、このような設計コストはもちろんですが、市場クレームやリコールは大きな社会問題に発展することも少なくなく、多大な出費どころか会社が失墜しかねません。実際のところ、電化製品や自動車の分野で熱に関連した市場での事故やリコールは後を絶たない状況にあります。
したがって、熱が増えて条件が厳しくなっているのに、今まで以上に安全性と信頼性を高める熱設計が必要とされています。
-なるほど。まとめると、基本的に必要な熱設計ですが、近年の部品や機器の小型化、高機能化、デザイン性の要求にともなって、従来の熱設計アプローチでは不十分なケースが増え、対応のためにより高度な技術、知識、情報、ツールが必要になり、使いこなしも含めて熱設計は高度化しているので、あらためて大きな課題となっている、ということでしょうか?
その通りです。さらに、コスト削減、市場クレームの回避といった要求にも応えるため、今まで以上に精度のある熱設計が必要になっています。
-これらの課題解決に向けた提案などがありますか?
私は、お客様に伺って熱設計のオンサイトセミナーを行ったり、個別の案件について熱設計のサポートを行ったりしています。現場で設計者の方から実際の課題を聞くと、技術的なこと以外にも考えるべきことがあると感じています。
1つの製品の設計には大まかに言うと、電子回路設計、筐体や構造に関わるメカ設計、プリント基板設計、ソフトウェア設計が必要かと思います。会社によっては、それぞれに技術者が配置されていたり、個別の部門だったり、もしくは1人の技術者が複数を兼任しているなど様々ですが、昨今の熱設計は、これらの設計者全員が、従来とは熱の状況が違っており熱設計のアプローチも変わってきているという共通の認識を持つこと重要だと考えています。そして、技術の相互理解のもとに全体で熱設計に取り組むことで、先に挙げた課題を克服し要求事項を実現できると考えています。

-先ほど、精度の高い熱設計が求められおり、そのための技術、知識、情報、ツールが必要になるというお話がありましたが、実際に何が必要になるのでしょうか?
知識面で挙げるとすれば、伝熱工学と流体力学の両方を知っておくと非常に役に立つと思います。最低限、伝熱工学に触れておくと、いろいろなアプローチができると思います。また、熱抵抗回路網法の理解も必要です。
あと、熱伝導シミュレータや熱流体シミュレータを利用することは非常に有効です。昨今の熱設計にはシミュレータは基本的に必要になると思います。最近は使いやすく優れたものが出ています。シミュレーションに必要な熱シミュレーションモデルは部品メーカーが提供しているものを利用できます。
情報源としては、JEITA(社団法人 電子情報技術産業協会)の半導体パッケージング技術委員会のウェブサイトがあります。熱シミュレーションに必要なモデルがメーカーなどから入手できない場合は、こちらの「半導体パッケージ熱パラメータ予測ツール」を利用することで対処できる場合があります。
-ロームでは、どのような取り組みやサポートをしていますか?
ロームでは、先ほど紹介したJEITAの半導体パッケージング技術委員会に参加しており、当委員会を通じて熱抵抗に関する規格の見直しや追加を検討しています。各種熱抵抗の定義、各種パラメータによる特性変動、利用方法と課題などをガイドライン化し運用しています。
また、熱シミュレーション用モデルを提供可能です。以前から熱抵抗θJAとθJCを提供しており、JEDEC基準、JESD51に準拠した、θJA、ΨJT、θJCtop、θJCbot も提供可能です。あとは、個別対応になりますが、熱シミュレーションのサポート、熱抵抗測定のサポートが可能です。これらは、個別に問い合わせてください。
-最後にまとめてください。
近年の熱設計は技術トレンドの変化によって複雑さを増しています。この状況を理解して、各設計者や部門が相互理解を深め共同で対処して行くことが、コストを削減し製品の信頼性と安全性を高めることにつながります。
Tech Webでも基礎知識のコーナーで熱設計に関する記事を展開していますので、是非参考にしていただければと思います。
-どうもありがとうございました。
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