【第11話】学びと成長!モーターを回すだけではない仕事
2025.02.17
前回までのあらすじ
前回、営業からのメールが理解できず戸惑った一ノ瀬。
スギケン先生に教えてもらい分からないことがあったらすぐに確認することの大切さと疑問を持つにはまずは知識が必要なことを学んだ一ノ瀬。将来のスーパーエンジニアを目指してますます努力する決意を固める。
登場人物紹介
一ノ瀬(主人公) 新人エンジニア。中学生の頃からエンジニアを目指し続けて、遂にロームに入社。寝食を忘れてモータードライバーの勉強をするほどの情熱家。現在、一ノ瀬にしかドラとター子が見えていない。
二宮 一ノ瀬の同期の女の子。成績優秀でいつも1番。強気な性格だが努力家で、一ノ瀬にも一目置いている。スギケンの隠れ大ファンという一面もある。
スギケン ロームに所属するスーパーエンジニア。普段は優しいが、時に熱血。エンジニアの仕事に誇りと情熱を持っている。昔はスギケンにもドラとター子が見えていたが、今は見えない。
ドラ モータードライバーの妖精で、モーターに関わる人、詳しい人が大好き。 ター子に片思いしており、鈍感なター子にいつも振り回されている。
ター子 モーターの妖精で、ドラとは幼馴染。モーターに詳しく、その知識はドラを凌ぐほど。しっかり者のお姉さんでありながら、恋愛となると鈍感で、ドラの想いに気づいていない。
スギケン先生 プロフィール
ロームのモータLSI事業部で、アソシエイトフェロー(スペシャリスト職)として働いており、モータードライバーICの開発における各種技術アドバイスや、モーター特性を向上させるための新規駆動アルゴリズムの開発、社内外のモーター勉強会講師、モーター技術講演会なども開催しています。
モーターの駆動状態と保護動作



モーターを実際に使う場合にはさまざまな状態が想定されます。例えば、モーターは単に回っているだけでなく、停止やブレーキトルクをかけるといった使われ方もされます。また、モーターは外部からの影響を受けながら回ることもあり、そのような状態ではモーター及び回路を保護する動作が必要な場合もあります。
したがって、モータードライバーの開発にはモーターを回す制御だけでなく、それ以外の状態の制御動作の設計も欠かせません。
ここでは、モータードライバーの実際の駆動制御に関わりのある項目について紹介していきます。
第11話目次
制御状態
モータードライバーはモーターを回す通常の動作以外にも目的に応じてさまざまな制御状態をとります。ここではその制御状態の例として、パワートランジスタの全オフ、下オン(若しくは上オン)、固定、3つの状態について説明します。
なお、各状態の図は各制御状態のパワートランジスタのオン/オフの例を示しています。また、モーターが回っていない場合(無回転)と、惰性などで回っている場合(回転中)のそれぞれの巻線電圧と巻線電流のイメージも載せていますので、参考にしてください。

<全オフ>
パワートランジスタをすべてオフしている状態です。開放状態、フリーラン、Hi-Z(ハイインピーダンス、ハイジー)などとも呼ばれます。全オフなので、制御をしていない状態ともいえます。
このとき、巻線に電流は流れないのでトルクは発生せず、ローターは自由な状態となります。ローターが惰性や外力で回っていれば巻線端子には誘起電圧が見えます。この誘起電圧が観測できる状態は、ブラシレスモーターの制御方法の1つであるセンサレス制御などで活用されています。

<下オン(若しくは上オン)>
上側と下側のパワートランジスタのうち、片側のパワートランジスタをすべてオンしている状態です。下ショートや下短絡(若しくは上ショート、上短絡)などとも呼ばれます。
この制御状態では、ローターが回って誘起電圧が発生すると巻線に電流が流れます。この電流はローターが回っている方向とは逆方向のトルクを発生させます。よって、この制御状態をショートブレーキと表現することもあります。回っているモーターを早く止めたいときには、全オフ状態とするより下オン(若しくは上オン)状態とした方が早く止まります。

<固定>
任意の線間に電圧を印加している状態です。下の図ではU相を電源電圧、W相をGndに固定して電流を流しています。もちろん他の線間に印加する場合もあります。ロックなどとも呼ばれます。
巻線磁界の方向が固定されるので、ローターを任意の位置に留(とど)めたいときなどに使用します。

駆動状態
前項では、パワートランジスタのオン/オフに関連したモーターの制御状態について説明しました。次にモータードライバーでモーターを駆動しているときのいくつかの状態について説明します。
ここでの駆動状態とは、モータードライバーがモーターを回そうとしている制御状態において、モーターがどのような状態になっているかを指します。例えば、一定の電圧を印加してモーターがファンを回しているときに外風を受けたとすると、その風の向きや大きさによってモーターの状態が変わってきます。このような場合、主に以下のような状態になります。
<条件説明>
モーターの駆動方式は120度矩形波とし、PWM制御は同期整流型とします。
モーターの通常駆動中のファンの風向きは右から左とします。
外からの力は、吹流しの向きと角度で示します。

<負荷状態> ・・・ 風などの外力が無いか小さい場合
ある印加電圧においてモーターが出せる回転数やトルクの範囲内で回っている状態で、通常の負荷といえる状態です。印加電圧と電流の向きが同じで、正の電源電流が流れます。モーターのS-T特性で示すと下図の範囲の状態です。

<無負荷状態> ・・・ 順方向の外風力と無負荷回転数がつり合った場合
一般に、無負荷状態とはファンなどの負荷がなくモーターが回っている状態のことですが、負荷がついていてもその負荷(ここではファン)が外力で回されれば同等の状態となり得ます。この場合、電流はほぼ流れません。S-T特性では図のポイントです。

<回生状態> ・・・ 順方向の外風力が無負荷状態より強い場合
外力などの影響で、ある印加電圧でモーターが出せる最大回転数(無負荷回転数)以上の回転数で回っている状態です。誘起電圧が印加電圧より大きくなり、電流の向きが逆になっています(下図)。この場合、負の電源電流となり、電流は電源に戻ります。発電の状態といえますが、電源回路が電力を吸収できない構成の場合は回路が故障することがあるので注意が必要です。モーターのトルクは負となり、回転を止める方向に作用します。この回生状態は、主に同期整流型の駆動制御で発生します。S-T特性では図の範囲の状態です。

<逆転状態> ・・・ 逆向きの外風力が起動トルクよりも大きい場合
モーターのトルクが逆向きの外力に勝てず、回したい方向とは逆の方向にモーターが回っている状態です。誘起電圧の向きが逆方向となり(下図参照)、巻線電流が大きくなることでモータートルクと外力がつり合います。ただし、想定外の大きな電流となることがあるので注意が必要です。S-T特性では図の範囲の状態です。

上記のような風を受ける状態以外では、ロック状態(ローターがなんらかの外力で固定されて回っていない状態)があります。その場合、S-T特性上では回転数がゼロの位置となります。
下の図は、それぞれの状態を1つのS-T特性上に示しています。

保護動作
次に、保護動作について説明します。ここでの保護動作とは、故障や危険を避けるためにモータードライバーがおこなう動作のことです。
モーターにおいて故障などの要因となるものはいくつかあります。例えば、モータードライバーに限らずですが、電気回路は電圧、電流、温度の状態によって故障や異常動作をすることがあります。また、モーターそのものは回転体であるため、高速で回ると遠心力がモーターなどの破損の要因となります。よって、モータードライバーはそれらの状態を検知し、故障などに至らないように保護動作(個別の内容は下の表参照)をおこないます。

上記したモータードライバーの保護動作に関して注意すべきことがあります。それは、すべての異常状態を保護することは困難であるという点です。例えば、コントロールICに印加される電源の電圧がコントロールICの耐電圧を超えるような場合、ICの破壊を保護動作で回避するのは困難です。このような場合は、ツェナーダイオードなどの外付けの電子部品で保護する必要があります。
続いて、保護動作の解除についてです。
上記の表の中で、電圧と温度、構造(高速回転)の保護は、それらの異常状態が収まったら解除するのが一般的です。このような保護動作では、異常を検知するしきい値にヒステリシスを設け、動作と解除の繰り返しが頻発することを防ぐようにします。例えば、90度で温度保護を動作させる場合、解除の温度は90度よりある程度低い温度(85度など)に設定します。
過電流の保護は解除に工夫が必要です。過電流を上の回路図に示すシャント抵抗の両端の電圧差で検出している場合、保護動作でパワートランジスタをオフするとシャント抵抗に電流が流れなくなります。これは、保護動作中は巻線に流れている電流値がどう変化しているかの検出ができないことを意味します。よって、図の位置のシャント抵抗を用いた過電流保護動作は、所定の時間後やPWM周期ごとに保護を解除するようにします。
このほかにもホール信号の異常検出や、モーターが意図どおりに回っていないことを検出してモーター駆動制御を停止する動作もあり、これらは異常時の保護動作と扱われることがあります。
<意図どおり回っていない状態の例>
・巻線や銅箔の断線(オープン検知)
・ローターの不回転(ロック検知)
など
保護動作は製品の安全保障に関わる大事な機能です。ここに書いた保護動作だけでなく、必要に応じて適切な保護動作機能をモータードライバーは搭載しています。
この記事のポイント
・モーターは単に回るだけでなく、停止やブレーキをかける状態もある。また、外部からなんらかの影響を受けて回ることもある。したがって、モータードライバーの設計にはモーターを回すこと以外の駆動制御の知識も必要である。
・ここでは、それらの知識を制御状態、駆動状態、保護動作と分けて説明している。
・制御状態は、モーターを回す動作以外に、主にパワートランジスタの全オフ、下オン(若しくは上オン)、固定の状態があり、このパワートランジスタのオン/オフの状態によってモーターの挙動や誘起電圧の見え方などが異なる。目的に応じて制御状態を使い分ける。
・駆動状態は、外力の影響で変化するモーターの状態を示している。外力が順方向か逆方向か、その大きさがどの程度かによって、モーターの状態は負荷状態、無負荷状態、回生状態、逆転状態となる。
・保護動作は、モーターの故障や危険動作を避けるためにモータードライバーがおこなう動作である。保護の対象は、電気回路とモーター構造体の両方であり、電圧や電流、温度、回転数の保護がある。
・保護動作は、解除のタイミングも検討する必要がある。



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